ラベル ウクライナ の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル ウクライナ の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2022年11月19日土曜日

原子力発電所の生産量低下で、極寒の1月には停電のリスク 

   


 フランスの送電システム運用会社であるRTEは、この冬は、フランスの原子力発電所が歴史的な原子力発電の生産量低下などにより、寒さが厳しくなると見られる1月には、停電のリスクがあることを発表しました。(例年、電力消費のピークは寒波時1月前後に集中)

 RTEと環境エネルギー管理庁(Ademe)は消費者が国内の電力供給量や必要に応じて停電のリスクをリアルタイムで参照できるようにするために「エネルギー天気予報」として考案された「Ecowatt」(エコワット)ツールを共同開発しています。

 ここのところ、なにかといえば、天気予報のようなマップ・・コロナウィルスマップ、ガソリンマップ・・そして、今度はエネルギーマップ・・それだけ、わたしたちの生活がリスクに見舞われているということです。

 このエコワットでは、グリーン「通常の消費」、オレンジ「緊迫した電力システム、エコアクション歓迎」、レッド「非常に緊迫した電力システム、消費を抑えなければ停電必至」の3段階のグラデーションが予定されています。

 RTEは、この停電のリスクを回避するために、「利用可能なすべての生産手段を用いる」と断言し、環境汚染度の高い石炭火力発電所重要な役割を果たすことになると説明しています。

 これまでも、政府は国民や企業に向けての10%の節電目標をかかげ、夜間の電気広告を禁止したり、エッフェル塔のライトアップの時間短縮をしたり、暖房の温度は19℃までなどと呼びかけ、中には、冬の2週間を臨時休校にしたり、マクロン大統領自らタートルネックを着てアピールしたりと、節電を呼びかけてきました。

 私などは、停電のリスク以前に電気・ガス料金の値上げにより、値上がりしている分は、電力消費を抑えなければ・・と細かな努力ですが、こまめにコンセントを抜いたり、冷凍庫の霜取りをしたり(フランスの冷蔵庫は霜取りが必要な場合が多いのです)、暖房はできるだけ使わないようにしたりしていますが、そもそも大した電力消費をしていない我が家にとっては、これ以上、節電のしようがない感じもします。

 これから、12月の冬至までは、日に日に日も短くなり、電気をつける時間も長くなるので、これ以上節電するとしたら、早寝するくらいしかありませんが、残念ながら、朝、明るくなる時間も遅いので、夏に日が長い反面、冬はとても暮らしづらいところです。

 しかし、この停電のリスクは、この冬、電力需給が不均衡になった場合、家庭向け電力削減が行われる場合の具体的な停電対策が発表されていることから、ますますこの危機が現実感をもってきました。

 なお、エコワットシグナルがレッドサインを示した場合でも、病院、警察、研究所、安全上必要不可欠とみなされる公共道路信号および照明設備、特定の産業施設(特に国防関連の施設)は、停電の対象とはなりません。

 また、自宅療養中の生命に危険のある病人のいる世帯に対しては、PHRV登録(資格)を地域保健医療機関(ARS)に申請していれば、停電時の具体的な情報提供通知、停電予定日時の5日前に情報を得ることが可能になり、停電時に機器を動作させるための自律的な電力供給(発電機やバッテリーなど)の手配をすることができるとしています。

 停電といっても、計画的に電力消費負荷分散のために、地域ごとに、時間帯を区切って(朝8時〜13時、夕方18時〜20時)停電させるということで、この計画停電の情報を的確に得るためには、ECOWATTのアプリを入れ、アラートをセットすれば、通知を受け取ることができるので、ある程度は、備えることはできるのかもしれません。

 しかし、ひと月まえくらいまでは、このまま節電していけば、停電は避けられるということだったのに、まさかのこの事態・・。「例外的な状況を除き、夜間は決して行わない」としていますが、混乱は必須です。

 我が家のアパートはガスはなく、オール電化、停電は本当に困るのです。

 

フランス1月停電


<関連記事>

「エネルギー危機が疑問を投げかけるクリスマスのイルミネーションの是非」

「この冬の暖房費節約努力を示すシンボル タートルネック タートルネックは今年のモード?」

「ストラスブール大学 節電のためにこの冬の15日間の臨時休校を決定」 

「電気料金値上げによるエネルギークーポン再び配布」

「ロシア 大手ガスプロム フランスへのガス供給 完全停止の衝撃」


2022年11月17日木曜日

ポーランドに落下したミサイルとNATO条約第5条 よもや第三次世界大戦の危機

  


 ウクライナがロシア軍から激しい砲撃を受ける中、ポーランドにミサイルが直撃し、一昨日は、フランスにも大きな波紋が広がりました。

 NATO加盟国であるポーランドがロシアからの攻撃を受けたとなれば、NATO条約第5条により、集団的自衛権を行使することに繋がる可能性があるのです。

 この第5条には、「NATO加盟国が武力攻撃の被害を受けた場合、他の加盟国はこの暴力行為を全加盟国に対する武力攻撃とみなし、攻撃された国を支援するために必要と認められる措置を講じる」と記されています。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は、まもなく、このポーランドへのミサイル攻撃を「これはロシアの攻撃だ!インドネシアで開催中のG20サミットに対する「ロシアからのメッセージ」だと発言。

 バイデン大統領も、「これはおそらくロシアの攻撃だろう!」と発言していましたが、当のポーランドは、極めて深刻な緊急事態であるとしながらも、早急に真相を追求する必要があると、慎重な態度をとっていました。

 ロシア側はすぐに、これはウクライナの仕業だと声明を発表しましたが、これまでも、自分でしかけては相手のせいにしてきたロシアの発言に信憑性はありません。

 漏れ伝わってくる戦況からすれば、現在のロシアがNATO全体の攻撃の誘因となるような攻撃をすることは、あり得ないとは思っても、そもそも、これまであり得ないことばかりをやってきたロシアが今度は何をやらかすかはわかりません。

 また、NATO、マクロン大統領は、かなり冷静な態度を取り続けていて、不用意な発言はせず、「真相を解明し、慎重な対応をとる」という姿勢を崩すことはありませんでした。

 私は、これまでNATOの集団的自衛権は、戦争を抑止するためのものとの認識で、実際にこれが行使されるかもしれないという局面が訪れる緊迫感を感じたのは、初めてのことで、よもや第三次世界大戦に突入するかもしれないという事態に、NATO加盟国であるフランスにも緊張が走ったのです。

 しかし、一夜が明けて、NATOは、「ポーランドを直撃したミサイルは、どうやらウクライナの迎撃ミサイルが落下したもので、不幸な事故であったとの見方」を発表。しかし、彼はこの声明に加えて、「しかし、これはウクライナが悪いのではなく、もともと非合法の戦争をしかけたロシアの責任である」ことも付け加えて発表しました。

 まだ、このミサイルの発射元については、正確に確定されたわけではありませんが、一先ずロシアのものではなかったらしい・・ということで、NATO第5条の勇み足は中断されることになったようです。

 ウクライナは、当日も、少なくとも85発以上のミサイル攻撃を受けており、同時にインフラ施設への激しい爆撃作戦を受け、広い範囲で停電が起こっており、ゼレンスキー大統領がフライング気味の発言をしてロシアを非難するのもわからないではありませんが、NATOの中でもより大きな力を持っているアメリカの大統領としてのバイデン大統領の不用意な発言には、問題を感じます。

 いずれにしても、あらためてウクライナでの戦争がもしかしたら、第三次世界大戦に発展する危険性はそんなに遠くないところにあるという緊迫感を感じ、「そんなことになったら、やっぱり自国である日本にいた方がいいのだろうか?」などと不安になった夜でした。


ポーランドミサイル落下 NATO第5条 集団的自衛権


<関連記事>

「EUがロシアの核兵器使用に対して警告「ロシアの核攻撃は、ロシア軍が全滅するほど強力な西側の軍事的対応に繋がる」

「マクロン大統領1時間のインタビュー生番組 圧倒的な話すチカラ」

「プーチン大統領のウクライナ領土併合宣言の演説」

「フランス人ジャーナリストの死亡に関するロシア・タス通信の嘘の報道に遺族が公に出したメッセージに感動」

「止まらないロシアの威嚇とマクロン大統領とゼレンスキー大統領の電話会談」


 

2022年10月25日火曜日

ルボンカン leboncoin(フランスのメルカリの拡張バージョン)に潜り込むロシアのスパイ

  


 ルボンカンと言えば、フランス版メルカリのようなサイトで有名なのですが、現在の日本のメルカリのサイトがどこまで手を広げているのかはわかりませんが、ルボンカンの守備範囲は広く、簡単な不用品の売買から、家や車、バカンスや求人まで多岐にわたる一種の幅広い広告掲載サイトとして広く利用されています。

 このルボンカンにロシアのスパイが潜り込み、グランゼコールの数学、エンジニアなど知識レベルの高い人に接触し、核研究や原子物理学、人工知能など、自分たちが興味を持ち、機密性の高い分野でインターネットを通じて名門校の学生や個人レッスンを提供する若い専門家をターゲットにし、情報収集を行っていることが発覚していることから、内務省保安総局(DGSI)が警告を発しています。

 外国のエージェントを追跡する役割を担うフランス国内情報局は、最近、フランスの学生や若い専門家が、専門分野(経済、科学、言語、地政学など)のネット広告で個人レッスンを提供した後、ロシアの外国情報機関SVR(旧KGB)の幹部から接触されたことが判明したとホームページで説明しています。

 パリで、若い人工知能のエンジニアに対して、KGBの専門家がルボンカンで接触を取り、レストランで出会った二人は、数学の授業を受けていた。しかし、ある日、スパイはさらにしつこく、生徒が取り組んでいる科目のノートを要求し、その代わりにお金を渡すと言い出しました。

 しかし、このケースでは、ロシアのスパイは取引の途中で捕まり、ロシアに送り返されていますが、DGSIでは、3年間で12件の同様の事例が確認されています。各サービスはロシアのテクニックとそれを阻止する方法について警告を発しています。

 諜報機関では、スパイの手口について、「偽りの無害な関係を築き、やがてスパイ行為に利用できるようにする」ことを目的としている、と説明しています。

 このロシアのスパイ活動について、DGSIは、疑いを抱かせるような警告サインを列挙しています。

 ロシア以外の国籍を使用する「弟子(スパイ)」は、まずは親しい関係を築くことに注力し、関係が構築されていくうちに、徐々にデリケートなテーマでリクエストをし、電話にはほとんど出ず、自宅ではなくレストランやバーでレッスンを受けることを望み、どんどん多額のお金を現金で支払い、レッスンから次のレッスンまで、常に口頭でスケジュールを組むのが手口だと言われています。

 自分の本当の身元は明かさずに、親しい人間関係を構築して・・というと、どこか、今、日本で話題の宗教の勧誘、霊感商法にも共通する感じがしますが、つまり、これが人を騙す詐欺の手口なわけです。

 しかし、この広告サイト、今回問題になっているのは、この求人広告の部分ですが、正当にこのサイトを利用している人もたくさんいるわけで(というか、それがほとんど)、あらぬ疑いをかけられて、迷惑この上ない話だと驚いています。

 スパイといえば、映画やドラマの中のことのような気もしますが、スパイはロシアだけでなく、どこの国にもいるわけで、以前、主人の同僚の大使館員の中に元スパイ(フランス人)だったという人がいて、びっくりするほどスパイっぽくない人で(私は勝手に映画の中にでてくるスパイのイメージを持っていたため・・)逆に拍子抜けしたくらいですが、考えてみれば、本物のスパイは、その身分が明かされてはいけないので、それらしく見えない方がいいのです。

 しかし、私も利用しているルボンカン(私は不用品の売買だけですが)にロシアの魔の手が迫っていたとは、本当にビックリしました。


ルボンカン ロシアのスパイ   leboncoin


<関連記事>

「メルカリとルボンカン(フランス版メルカリ)に見る、やたら礼儀正しい日本人とめんどくさいフランス人」

「フランス版メルカリ ヴィンテッド Vintedの急成長」

「フランス語力ほぼゼロだった私のフランス人外交官の夫とのアフリカ生活」

「プーチン大統領のウクライナ領土併合宣言の演説」

「日本の統一教会問題の一部始終は海外でも報道されている」


 

2022年10月14日金曜日

EUがロシアの核兵器使用に対して警告「ロシアの核攻撃は、ロシア軍が全滅するほど強力な西側の軍事的対応に繋がる」

  


 最近のロシアのウクライナへの侵攻に関しては、ぼちぼちフランスでも、「プーチンは負けたのか?」という内容にシフトしつつあります。10月に入って以来のキエフへのミサイル空爆などに関しても、「この調子でミサイルを使い続ければ、ロシアの武器は枯渇し始める・・」とか、プーチンによる部分的動員でほぼ強制的に動員されている人々はほぼ素人で、何の訓練も受けずにすぐに白旗を揚げているとか・・もはやロシアに勝ち目はない・・という見方に変わっています。

 しかし、ロシア勢が劣勢になればなるほどプーチン大統領が核兵器を使用するリスクは上がっているということでもあるものの、ロシアが核兵器を使用する決断をすることは、そう簡単なことではなく、プーチン大統領の健康状態や精神状態などを併せながら語っています。

 先日もマクロン大統領が核兵器使用については、話題にし過ぎることは、信憑性がなくなることになるので、あまり多くを語らないと言っていたばかり。

 その翌日に、EUの外報部長は、ブルージュでの講演の中で、「ロシアによるウクライナへの核攻撃は、ロシア軍が全滅するほど強力な西側の軍事的対応につながる」と警告しています。

 彼は「プーチン大統領は、核の脅威に対してハッタリではないと言っています。そして、ウクライナを支援する国、EUとその加盟国、米国、NATOもハッタリではないことを理解する必要がある」と述べています。

 これではますます「ハッタリではない」と言い合う脅迫合戦ですが、言われるまでもなく、どんな種類の核兵器であろうと一度たりとも使用することがあれば、EUやNATO、アメリカなどのウクライナを支援している国々が軍事行動を起こし、紛争の性質を根本的に変えることになることは、ロシアもわかっているからこそ、さんざんの脅しをかけながらも踏み切れずにいるのです。

 「核兵器の使用は、たとえ小さなものであっても大変な結果をもたらすものであり、ロシアもそれを承知している」としながらも、「NATOが核兵器を使用しなければならないような状況は極めて稀である」とNATO事務総長は述べていいます。

 NATOが核兵器を使用するには、NATOの同盟国に対する攻撃が行われた場合で、ウクライナに関する限り、当事者ではない。NATOの核抑止力は、同盟国への攻撃を抑止するためのものだ」と述べ、NATOによる核兵器の使用を暗に否定しています。

 EU、NATOなどの国々は核兵器を保ちつつも核兵器を使うことなくロシア軍を全滅させるほどの軍事対応をするということになります。

 また、 米国防長官は、「彼らは非常に危険で無責任だ」と警告し、「ロシアが核態勢を変えたという兆候は今のところないが、我々は365日24時間監視している」と述べています。

 核兵器の使用をチラつかせながらハッタリではないと脅し続ける一方で、占領した地域をどんどん奪還され始め、軍事的に劣勢になってきているロシアは、軍事力ではなく、わけのわからない選挙という茶番劇で無理矢理、領土を併合しようとしたり、そんなことあり得ないでしょ!という非常に子供じみた方法を取ったり、やはりどう考えても勝ち目はありません。

 ロシアが攻撃すればするほど、ウクライナは諦めるどころか、さらに強力に対抗し、EUやNATO、アメリカ、G7などの国々との連帯を強め、「北風と太陽」の話を彷彿とさせます。

 しかし、そもそもあり得ない形で始まった、このロシアのウクライナ侵攻は何をしでかすかわからないロシアの現在の状態で、そのうえ最初の数週間で占領できなかった時点で、もはやロシアには勝ち目がないにもかかわらず、多くの自国民でさえも犠牲にしながら侵攻を続ける建設的な意味はまるでなく、たとえ自国が滅びようとも、このやぶれかぶれに何をするかわからないロシアがハッタリではなく、本当に脅迫どおり、パリ、ロンドン、ベルリンを攻撃するようなことだって、ありえないとは言えないのです。


ロシア核兵器使用の場合はロシア軍全滅 EU警告



<関連記事>

「言論統制・報道規制の恐怖 プーチン大統領を止められるのは誰か?」

「ヨウ素剤の服用法が話題にあがり始めている物騒な世の中」

「ロシアとオウム真理教 独裁者の暴走」

「プーチン大統領のウクライナ領土併合宣言の演説」

「止まらないロシアの威嚇とマクロン大統領とゼレンスキー大統領の電話会談」

 

2022年10月1日土曜日

プーチン大統領のウクライナ領土併合宣言の演説

  


 クレムリンの神々しい大きな黄金の扉から、二人の兵士が大きなアクションで扉を開ける派手な演出の中、プーチン大統領が行った演説は再び世界中を騒がせ、フランスでも大騒ぎしています。

 プーチン大統領は、その荘厳な演出とはうらはらに何やらせかせかと壇上にあがり、せっかく、こんな派手な演出をするならば、堂々と威厳のある感じで登場してもよさそうなものに・・と思いながら、私は演説の中継を見ていました。

 今回の彼の演説は、投票が行われる前から多くの国々がパロディだとか、とんだ茶番劇だと言っているドネツク、ルハンスク、ケルソン、ザポリージャでのロシアへの統合に関する住民投票が行われた時点で予想されていたシナリオどおりで、最初にウクライナに侵攻を始めると発表した時のような驚きはありませんでしたが、この演説が再び、周囲の国々からの制裁を強くし、連帯させ、ウクライナへの援助が追加されることになることは、予想がつくはずのことでした。

 プーチン大統領は、この投票の結果を圧倒的多数でこの4地域をロシアに併合することになったと語り、併合地域の4人の代表者と共に、これらの地域がロシアに加盟することを正式に表明する加盟協定に署名した。彼は「国民投票により、何百万人もの人々の意思に疑いの余地がない選択がなされた」と述べ、「ドネツク、ルハンスク、ケルソン、ザポリージアの住民は我々の市民であり、永遠に我々の市民だ ロシアはあらゆる手段で国土を守る」と宣言しました。

 このウクライナ領土4地域併合の公式発表直後、プーチン大統領はウクライナに対して「すべての軍事行動を停止」し、「交渉のテーブルにつく」ことを要求し「キエフは今日、国民の自由な選択を尊重して考慮しなければならない」とウクライナに「停戦」を求める一方で、プーチン大統領は、南部と東部の4地域の併合問題を今後の交渉で取り上げることを拒否するとも断言し、それが「平和に向かう」道への「基礎段階」であると主張しました。

 相変わらず、身勝手自分本位の主張のみです。

 しかし、ウクライナへの停戦呼びかけについて以外は、演説のほとんどは、欧米、特にアメリカを非難する内容のもので、あらためて、この戦争の根源がプーチン大統領の欧米を敵対視する過去のソ連への幻想に取り憑かれているものであることを感じさせました。

 「ワシントンはロシアに対して、「全世界を略奪」し、ロシアを「植民地」にするという「新植民地主義的なドルの独裁を維持」するために戦いを挑んでいる」、ウクライナの同盟国である欧州連合やバルト諸国は、米国の金で動く「奴隷」である」という過激で極端な論法は、逆に欧米を煽っているような気さえしてしまいますが、これは、ウクライナや欧米に向けられたもの以上にロシア国民に向けた、はったりや洗脳である気もしています。

 また、ロシアのガスをヨーロッパに輸送するために建設されたガスパイプライン、ノルドストリーム1および2に大規模な漏れを引き起こした爆発の背後に欧米がいると非難しました。ウクライナ侵攻の最初からの言い逃れと同じ方法で自分でやっておいて、相手の仕業にする戦法?です。

 「あらゆる手段で国土を守る」と述べることで核兵器使用を匂わせつつ、「アメリカは広島と長崎に原爆を落とし、核兵器使用の前例を作った」と自国の領土を守るために核兵器を使用する正当性を持たせるような発言に、アメリカも大激怒。

 これに対して、バイデン大統領は、プーチン大統領演説の直後に「アメリカと同盟国はNATOの領土を隅々まで守る用意がある」「アメリカと同盟国は脅かされることはない」と警告に加え、この派手な式典はクレムリンの指導者の強さを示すための「見せかけ」であり、逆に「彼が窮地に立たされている」ことを物語っている、と述べています。

 一時は、プーチン大統領とも、ほぼ毎日のように電話会談を行っていたマクロン大統領もEUの議長国の任期が切れたこともあるのか、最近はパッタリと彼との電話会談も減りました。しかし、この演説には、他国同様、「ロシアによるウクライナのドネツク、ルハンスク、ザポリジャ、ケルソンの各州の違法な併合を強く非難する。これは国際法およびウクライナの主権に対する重大な侵害である。フランスはこれに反対し、ロシアの侵略に立ち向かい、全領土に対する完全な主権を回復するためにウクライナの側に立つ」と声明を発表しています。

 ウクライナだけでなく、アメリカ、欧州連合、G7、NATOと全てを敵に回し、ロシアが困っている状況なのは、明白で、30万人を部分的動員にと発表したとたんに、国民からも再び反発をくらって、ロシアから出国しようとする人が20万人を超えていると言われる中、必死の抵抗なのかもしれません。

 しかし、プーチン大統領が「いかなる手段を持ってしても守る」のは、ロシアの領土であり、国民ではないことは、突然、動員されて戦禍の盾に使われようとしている国民にも伝わり始め、その国民の士気を高めるため、そして、ウクライナの攻撃を停止させるのが、一番の目的なのだと思います。

 まことに理解し難い言動ばかりのプーチン大統領ですが、この先のシナリオをどう考えているのか?全然、読めませんが、この戦争がこのまま歳を越してしまうのは必須な感じがしてきました。


プーチン大統領演説 ウクライナ領土併合


<関連記事>

「ロシア・ウクライナ問題 パンデミックの次は、本当の戦争の危機」

「プーチン大統領の演説にフランスの大統領選挙報道が吹っ飛んだ!」

「在ウクライナ フランス大使館250万人分のヨウ素剤の用意とウクライナからの国民退避についての国の対応」

「ヨウ素剤の服用法が話題にあがり始めている物騒な世の中」

「止まらないロシアの威嚇とマクロン大統領とゼレンスキー大統領の電話会談」


 

2022年9月3日土曜日

エネルギー危機が招くデュラレックスなどの工場での冬の間の時短勤務と部分的失業手当

  


 特にエネルギーを大量に消費することを避けられない金属やガラスメーカーは、エネルギー価格の高騰のために、この冬に向けて、工場の閉鎖、縮小、時短操業などの措置に踏み切ることを決定しています。

 強化ガラスの食器の製造のパイオニアと言われるフランスの大手ガラスメーカー・デュラレックス社は、ロワレ地区(パリから160㎞ほどのフランス中心部にある地域)にあるガラス工場で働く約250名を11月から時短勤務にすることを発表しました。

 デュラレックス社は、このエネルギー危機の前(1年前)までは、エネルギーにかかる費用は売上高の5〜7%だったものが、現在では40%を超えているため、このまま通常の工場の操業を続けることは困難だと判断したのです。

 とはいえ、ガラス炉は、完全に停めてしまうと冬場は凍結の恐れがあり、火を落とし続けることはできないため、炉の凍結を防ぐために必要な最低限の時間は操業しなければならないのです。

 この時短操業に伴う、その削減された時間分の従業員の給与は国が負担することになります。パンデミックの際にも適用された部分的失業手当というものです。

 デュラレックスのガラスのコップは、割れにくく、丈夫なことで有名で、フランスの多くの学校のキャンティーンで使用されているもので、日本にも多く輸出されていますが、皮肉なことに昨年から今年にかけての売り上げは30%も上昇しており、デュラレックス社は、この冬の間の生産は減少するものの、商業活動は今後数ヶ月の間のための充分な品質の在庫があるとして、「お客さまには引き続きサービスを提供することができる」また、「この緊迫した時期にエネルギー消費を抑えることで、事業と雇用を維持するとともに、産業界の消費者としての責任について政府の期待に直接応えることができる」としています。 

 政府が、この部分的失業手当を支払うことで、デュラレックス社がエネルギー消費を削減し、かつ会社の存続に希望を繋いだをことで、多くの同業他社や金属・鉄鋼メーカーなどもこの例に続く模様です。

 フランスの鉄鋼グループAscometalも、ブッシュ・ドゥ・ローヌとモゼル県の工場敷地を縮小することを選択し、経営陣は労働組合に対し、11月と12月にそれぞれ3週間の生産中断を発表しました。

 この工場縮小や時短操業でなんとか冬の間のエネルギー価格高騰と消費の対策に努めながら、会社を存続させていく方針を固めたと思われますが、これとて、永久に続けられるものでもありません。

 フランスのエネルギー消費部門全体が、今後も電気やガスを別の価格で購入するための解決策や仕組みを見つける必要があるということです。現在も仕組みはあるものの、今回の値上げの速度を鑑みると、全く不十分であり、この解決策には、政府が大きく関わっていかなければならない問題でもあります。

 エネルギー多消費型企業だけでなく、すべての産業が危険にさらされています。全く大変な時代になっていきます。


デュラレックス時短操業 


<関連記事>

「「私たちは豊かさの終焉の時を生きている」マクロン大統領閣僚理事会での厳しめのスピーチ」


「ロシア 大手ガスプロム フランスへのガス供給 完全停止の衝撃」

「フランスの物価上昇と年度始まりの100ユーロのインフレ手当」

「フランス発の航空運賃 1年間で 43.5%上昇」

「スーパーマーケットの日用必需品以外のコーナー閉鎖による部分的な失業手当申請の悪循環」


2022年9月1日木曜日

ロシア 大手ガスプロム フランスへのガス供給 完全停止の衝撃

  


 ロシアの大手ガスプロム社は、9月1日からフランスへのガス供給を停止すると発表しました。同社は、「エンジー(Engie)(フランスの電気・ガス供給会社)グループが7月分の請求書を支払っていない」とこのガス供給停止を正当化しています。

 フランスは戦争が始まる前までは、17%のガスをロシアから輸入していましたが、現在は9%にまで落としています。最近ではフランスにガスを供給しているのは、ノルウェー(36%)や、アルジェリア、アメリカなど、供給源の多様化が進んでいます。

 ウクライナ紛争が始まって以来、エンジーへのロシアからのガス供給はすでに大幅に減少しており、最近では1ヶ月あたりわずか1.5TWhにまで落ち込んでいるとエンジー社はすぐに反応しています。

 つまり、契約時の量のガスが供給されていないために、エンジー社は実際に受け取っている分だけ支払いをしていると言っているのです。

 ロシア ガスプロム側は、ガス供給量の減少をメンテナンスのためと説明していますが、これが(メンテナンス)本当かどうかは別問題としても、受け取っていない分を支払わないのは、至極当然の道理です。

 しかし、エンジー社にとっては、これは、ある程度、予想していたことだと述べており、ガスプロムのフローが途絶えた場合でも、顧客に供給できるような対策をすでに講じているとし、逆にガスプロムに違約金を求めることを発表しています。

 もともと、ロシアのウクライナへの侵攻も、まともな理屈が通らない中、ロシア側が言い出す理屈や難癖には、世界中が閉口しているところ・・。現在のロシアとの商談、約束は成り立たないと考えるのが妥当なのかもしれません。

 先週の段階で、欧州のプラットフォームAgregated Gas Storage Inventory(AGSI)は、「フランスのガス在庫は冬に向けて90%の基準を超え、フランスは11月までに100%の目標を達成する見込みである」 と述べていることから、すでにロシア側がこのような難癖をつけて、武器を使わない攻撃を欧州向けに行おうとしていることを見通していたものであったと言えます。

 しかし、一方で、政府スポークスマンのオリヴィエ・ベランは、報道インタビューで「夏の終わりまでに、ガスの在庫目標を達成することを確認したが、これは、ロシアがガスを切断し、その多くが消費された場合に、フランスが冬を越すのに十分なガスを蓄えたということではない」と警告しています。

 それで、ここのところ、エリザベス・ボルヌ首相が国民に対してのみならず、各企業に対して具体的に10%の節電計画を10月までに作成するように呼びかけたりしていることの裏付けが表面化してきた気がしています。

 エリザベス・ボルヌ首相は、エンジーの顧客を安心させるために、「フランスのガスグループは他の供給源を見つけた」と述べていますが、具体的な供給源は明示していません。(日本政府が国葬の費用を明示しないのとは、わけが違うなどとチラと頭をかすめました)

 とりわけ、2021年の冬から禁止されると言われていたのに、結局は延期されていたカフェなどのテラス席の暖房は、今年こそは、本当に禁止になるかもしれません。

 しかし、このような現実の報道は何よりも国民への節電への求心力になるとも考えられ、現在、ロシアから供給されているガスがすでに4%まで落ちていたとしたら、4%の節電、省エネを考えることも方策の一つなのだ・・と、これから、私も省エネに努めようと思います。


ガスプロム フランスへのガス供給停止


<関連記事>

「2021年冬からのテラス席の暖房を禁止するフランス」 


「エネルギー価格の高騰に伴うエネルギークーポンの配布」

「日本の雑誌のパリ特集と電気・ガス料金・高速料金値上げ(2022年から変わること)」


「「電気料金滞納しても、電気は止められなくなる」措置は電気料金値上げのための布石か?」


「フランスの政治外交の舞台裏 ドキュメンタリー番組」



2022年7月15日金曜日

パリ祭のシャンゼリゼの軍事パレード 完全復活とウクライナへのメッセージ

 


 毎年、フランスの革命記念日に行われるパリ祭のシャンゼリゼで行われる軍事パレードは、ここ数年、パンデミックのために中止はされなかったまでも、縮小されたり、観客なしで行われたり、いつもの規模ではありませんでした。

 今年のシャンゼリゼはすっかり通常モードの規模に戻っていました。

 シャンゼリゼの沿道の緑の樹々はフランス国旗に彩られ、凱旋門からコンコルド広場までを華やかな制服に身を包んだ兵士や各高等教育機関の学生など、今年は6,300人、64機の航空機、25機のヘリコプター、200頭の騎馬隊、181台の機動車両が2時間近くかけてパレードを行いました。




 パレードの比較的前半には、トリコロールの噴煙を流しながら飛行機がシャンゼリゼ上空を飛び、我が家の窓からもトリコロールの噴煙がパリの空を舞っていく様子が見えます。

 この数日前にたまたまパリの街を歩いていたら、突如、爆音が聞こえて、驚いて空を眺めたら、このデフィレ(パレード)の予行演習で、結構な低空飛行でその音のもの凄さに驚かされました。



  

 中でも私が最も美しいと思うのは、終盤に登場する騎馬隊で、奥に見える凱旋門を背景にトリコロールのフランス国旗に彩られた沿道の緑の樹々に茶色い馬と紺と赤、ゴールドに光る騎馬隊の調和のとれた洗練された美しさには、いつ見ても感動させられます。

        


 その年によって、登場する戦車、軍用車両(時には警察、消防車両など)は少しずつ違いますが、今年は、遠隔操縦機「リーパー」(空軍機)、陸軍は、新型装甲車「グリフォン」(装甲前面車(VAB)の後継車)と偵察車「ジャガー」を登場させています。

 中には、こんな可愛いワンちゃんまで登場しています。

 


 

 今年のパレードのテーマは「Partager la flamme」(炎の共有)と名付けられ、軍隊と国家のつながり、また現在進行形のウクライナでの戦争におけるヨーロッパの連帯のメッセージも込められ、ポーランド、チェコ、スロバキア、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリーの軍隊もパレードを行い、東欧の国々に敬意を表しています。

 パレードの最後には、東京オリンピック・パラリンピックのメダリストが登場し、オリンピックの炎を2024年のパリオリンピックへ繋げるという「炎の共有」のオチ?のようなシーンもありました。

 華やかで美しい、このパリ祭の軍事パレードはフランス人ではない私にとっても、毎年、楽しみな行事で、ひたすら、その美しさに感動し、これを見るたびに、フランスにいてよかった・・などと思うほどなので、フランス人にとっては、何よりもフランスを誇らしく感じる最も華やかな1日なのではないかと思います。

 


 しかし、今年、ウクライナで戦争が始まって、毎日のように悲惨な戦禍の映像が流され、実戦に使われている戦車や大砲などを目にして、これらの軍事装備は本来は華やかにシャンゼリゼをパレードするものではなく、本来は、悲惨な戦場で使われるものであることを複雑な気持ちで見つめていました。

 そもそも、フランスという国の強さをアピールする軍事パレードというものをこの圧倒的な美しさとともに国の誇りとして晴れやかに披露し、多くの人が愛国心を募らせるフランスという国の文化をあらためて、日本とは全く違うものなのだ・・と、これまでと違う見方をした今年のパリ祭でした。

 ウクライナ戦争を機に多くの国で国防費を拡大し、軍事力を強化する方向に進んでいます。自分の国は自分の国で守る体制を作らなければならない状況であることはわかりますが、どうか、これが軍事パレードに留まり、実戦に使われることがないように・・と祈りながら見つめたシャンゼリゼのパリ祭の軍事パレードでした。

    


 夜にはエッフェル塔での花火も完全復活、ウクライナカラーになる瞬間もありました。

   



パリ祭 シャンゼリゼ軍事パレード


<関連記事>

「2021年のパリ祭のシャンゼリゼの軍事パレードが復活した!」

「2020年 フランス革命記念日・パリ祭の光と影」

「フランス国旗の色が変えられた理由」

「5月8日のフランスでの戦勝記念日とG7の会議」

「ロシアの戦勝記念日とマクロン大統領の「欧州政治共同体」提案」

2022年6月24日金曜日

EU27カ国 ウクライナとモルドヴァのEU加盟申請を承認

  


 EU・欧州理事会議長は、EU27カ国の首脳会議で、ウクライナとモルドバをEU加盟候補国として承認したと発表しました。かなり興奮気味に、「ロシアによる侵攻が続く中、これは歴史的な瞬間である」と言及しましたが、キエフが待ち望んでいたこの決定は、加盟のための長く複雑なプロセスのほんの始まりです。

 このEU加盟申請の承認ということは、加盟の可能性に関する交渉を正式に開始するという意味であり、数十年かかるかもしれないプロセスの始まりです。ウクライナ戦争がもたらした政治的圧力によって、ウクライナのEU加盟申請は記録的な速さで承認されたものの、今後の審査の過程が短縮されるとは限らないのです。

 ゼレンスキー大統領は、ロシア連邦による領土侵犯から4日後、自国のEU加盟を可能にする「特別手続き」の恩恵を受けるよう要請、その数週間後の3月、正式に加盟申請書を提出しました。 しかし、現実には、EU加盟のための迅速な手続きは存在しません。

 ちなみに、2009年に申請したセルビアは、候補国として認められるまで2012年交渉開始まで待たねばならなりませんでした。バルカン半島のいくつかの国々と同様、セルビアもEUの門を叩いたままです。アルバニア、北マケドニア、モンテネグロと同様に、まだ加盟が有効でなく、交渉中。このEU加盟申請に時間を要する最も象徴的な例は、トルコで、トルコは1987年に申請し、1999年に候補となり、2005年に交渉を開始しましたが、現在は行き詰っている状態です。

 これらの前例を鑑みれば、申請から3カ月後の6月に、欧州理事会がウクライナのEU加盟候補国としての地位の付与を承認したことは、異例中の異例です。

 しかし、これからウクライナはEUの正式な加盟のために、欧州の法体系を統合するために必要な行政、政治、経済の改革を実施できるためにコミットしていかなければなりません。これに加えて、リスボン条約と政治的・経済的安定を前提としたコペンハーゲン基準を適用する必要があります。また、ウクライナはヨーロッパの基準を既存の国内法に取り入れることができなければなりません。

 EU加盟のためには、単にヨーロッパの法律をコピー&ペーストすればいいというものではなく、実際にその法律が機能していくために、汚職システムが根付いているウクライナには、マネーロンダリング防止法などの導入も求められており、EUの一員として、市場経済を動かすことができる自由民主主義国家であることを承認される必要があります。

 現在、ロシアの一方的な侵攻と民主的な団結を見せて戦っているウクライナは概ね好意的に受け入れられ、「ウクライナはすでにヨーロッパのルール、規範、基準の約70%を採用している」「非常に強固な大統領制と議会制の民主主義」「非常によく機能する行政、この戦争中に国を機能させている」「分権改革の成功」「完全に機能する市場経済」などと評価する声もありますが、一方では、急速すぎる加盟は、ブルガリアやルーマニアのような汚職が蔓延したままのEU加盟国となる恐れがあるとの指摘も挙げられています。

 ヨーロッパ、EUと簡単にひとくちに言っても、似ているところはあっても、実は全然違う国の集まり、新しい加盟国を受け入れていくことで、ヨーロッパ全体の色が変わっていく可能性もあるのです。

 要は、「ウクライナが欧州のルールを遵守する能力」、また一方で「EUが制度的バランスを保ちながら新しい国を吸収する能力」を図らなければならないとともに、双方ともにとって、有益であるかどうかということを細部にわたり、検討、審査しなければならない、ちょっと保険の審査にも似た側面があるのかもしれません。

 いずれにせよ、EU(欧州連合)加盟というのは、恐ろしく時間がかかるものらしく、これを見越して、マクロン大統領は、5月初旬の欧州の将来に関する会議でEUとは別に、一連の価値観を信奉する民主的な欧州諸国が、政治協力、安全、協力のための新しい「欧州政治共同体」というまた別の組織を提案していましたが、その後、この話は聞こえてきません。

 しかし、いくら、これからさらに時間がかかるとはいえ、今回のこの決定は、ゼレンスキー大統領が待ち望んでいたものであり、彼にとってこの決定がヨーロッパの同盟国からの強い支持の証となることに間違いありません。


ウクライナEU加盟申請承認


<関連記事>

「マクロン大統領ドイツ首相とイタリア首相とともにキエフへ」

「ロシアの戦勝記念日とマクロン大統領の「欧州政治共同体」提案」

「美しすぎるベルサイユ宮殿でのEU首脳会議」

「国連(国際連合)は何のためにあるのか?」

「世界中の共通の敵への制裁という団結とフランスの大統領選挙」










 

2022年6月17日金曜日

マクロン大統領ドイツ首相とイタリア首相とともにキエフへ

  


 ウクライナでの戦争が始まって以来、ウクライナのゼレンスキー大統領とは、おそらく誰よりも頻繁に連絡取り続けてきたマクロン大統領がついにウクライナ・キエフを訪問しました。

 マクロン大統領は、ルーマニアとモルドバを公式訪問中で、数日前から、この後、彼がウクライナを訪問するのではないか?という噂が飛び交っていました。

 これまで再度にわたるゼレンスキー大統領から「キエフに来て!」というラブコール?にもかかわらず、比較的、つれない態度で「必要と判断できたら、行く」と言い続けてきたマクロン大統領でしたが、ようやくキエフ訪問に踏み切ったようです。

 しかも、一人ではなく、ドイツのショルツ首相とイタリアのドラギ首相とともにという変化球バージョンで・・。

 この戦時下で、3カ国の首脳が一緒にキエフを訪問するということは、前もってかなり準備された日程であったことは明白ですが、セキュリティー上、彼らのウクライナ訪問は伏せられ、綿密な準備が進められていました。

 ウクライナ領空は閉鎖されているために飛行機という選択肢はなく、マクロン大統領は水曜日の夜にドイツ、イタリアの首相とともにウクライナ鉄道の寝台列車に乗車。国境から約100キロ離れたポーランドの都市ルツェズフを深夜に出発し、午前8時半にウクライナの首都に到着しました。

  


 列車は夜間に走行し、橋や駅に沿って警備隊を配置して保護され、車両に危険物や盗聴器等がないかなどが厳密にチェックされていました。

 列車を降りた欧州の3首脳は、イルピンに向かい、別行動をしていたルーマニアのクラウス・イオハニス大統領と合流しました。朽ち果てた建物や弾丸で破壊された車を目の当たりにして、彼らはこの戦争犯罪の「野蛮さ」を完全に把握したのです。



 ショルツ首相は、「イルピンはブチャと同様、ロシア戦争の想像を絶する残酷さの象徴となった」と言い、マクロンはイルピンを「戦争犯罪の野蛮さが際立つ英雄的都市」と表現し、ドラギ首相は「すべてを再建する」と約束しました。

 これらの訪問や会見の様子は、フランスやウクライナの大統領に敵対する軍事集団が、爆撃の可能性がある国家元首の位置を明確に特定することはできないようにするため、どれも生放送ではなく、数十分程度の少し遅れたバージョンで放送されていました。

 マクロン大統領は、ここに立ち会った4カ国(フランス、ドイツ、イタリア、ルーマニア)はウクライナのEU加盟の「即時」公式候補資格の付与を支持すると発表しています。

 これまで、ウクライナ訪問のタイミングを測っていたマクロン大統領ですが、キエフを訪問するかぎり、手ぶらというわけにはいかないのだろうと思っていましたが、フランスは、ウクライナに「シーザー」兵器システム6台を追加納入(すでに納入した12台は納入済み)すると発表しました。この自走砲は精度と機動性に優れていることで知られています。そして、この兵器供与とともに6月23〜24日に行われる欧州サミットを前に、欧州の連帯を示す強力で明確なメッセージとして、ドイツやイタリア、ルーマニアとともにキエフを訪れ、この訪問にさらなるインパクトを与えたのです。

 折しも、アメリカが、ウクライナの黒海沿岸の防衛のために、榴弾砲18基とその輸送車、砲弾3万6000発、ハープーン対艦ミサイルランチャー2基など10億ドルの援助を発表したばかり、ヨーロッパの結束をアピールするためには、欧州サミットの1週間前という日程が選ばれたのです。

 フランス国内では、このマクロン大統領のキエフ訪問について、訪問そのものは肯定しているものの、なぜ、このタイミングだったのか?(現在、議会選挙の最終投票を控えている)というこのタイミングを非難する声も上がっていますが、このキエフ訪問をより効果的にするためには、ドイツやイタリアの首脳とともに欧州サミットの直前に訪問することで、兵器だけでなく、別のものをウクライナに送ることができると考えたに違いありません。


 それにしても、マクロン大統領とゼレンスキー大統領の再会の際の笑みや抱擁、硬く手を握り合う様子はロマンチックだなどと描写するジャーナリストもいて、兄弟のような熱い絆が感じられるのでした。


マクロン大統領キエフ訪問


<関連記事>

「ウクライナに招待されているマクロン大統領 ジェノサイドという言葉」

「マクロン大統領のゼレンスキールック」

「フランス共和国大統領のアジャンダ(議事日程)L'agenda du Président de la République」

「止まらないロシアの威嚇とマクロン大統領とゼレンスキー大統領の電話会談」

「マクロン大統領の「ロシアに恥をかかせるな」発言と山積みのひまわりオイル」

 






 


2022年6月15日水曜日

ガソリン、電気、食用オイルの次は、トイレットペーパーの価格が爆上がり

  


 そもそもパンデミックの影響で始まったインフレはガソリン、電気などの価格が高騰し始めたことで、昨年の段階から騒がれ始め、フランスでは、インフレ手当やエネルギーチケットなどが配られたりして、なんとなく、ちょっと得した気分にさえなっていたボーッとしている私ですが、その頂いたはずのものも、あっという間に知らないうちに、すっかり消費してしまっていることを考えれば、やはり確実に全ての価格は上昇しているようです。

 そもそも私は、日常的に頻繁に買い物する野菜や肉などの生鮮食料品に関しては、だいたい、このくらいの値段なら安いかな?高いかな?とかいう漠然とした感覚はあるものの、ストックがなくなれば、補充しておくような、食用オイルや洗剤、トイレットペーパーなどは、ごくごくたまにしか買わないので、正直、あまり値段は把握していません。

 しかも、通常なら、セールになっている時に、安くなっているなら買っておこうか・・くらいの適当さなので、価格が高騰したと言われても、騒がれ始めてから、なるほど・・と思い、実際に買い物に行っても、スーパーマーケットで色々なものをまとめて支払うので、支払いの時になって、「えっ?これしか買ってないのにこんなになっちゃった??」とちょっと反省したりするのですが、もともと、そんなに無駄なものを買っているわけでもないので、気をつけようもありません。

 だいたい食料品や日用品などは、特に贅沢品でもないかぎり、ひとつひとつの値段は大したことがなくても、積み重なっていくと、さすがに私のようにボーッと暮らしている者にとっても、だんだんヤバい感じになってきます。

 ついこの間まで、食用オイルや小麦粉、パスタなどの価格上昇について騒いでいたと思ったら、今度はトイレットペーパー価格が爆上がりのニュース。なんでも、製紙業界では、原料の紙パルプがここ1年で50%値上がりしたとかで、ペーパータオルが10%、トイレットペーパーが7%値上がりしているそうです。

 しかも、パルプの輸送はほとんどが海上輸送で、ウクライナ紛争が始まってからはさらに、アジアとヨーロッパを結ぶ陸上輸送が水域にシフトしています。現在の港湾の混雑やコンテナの価格は、輸送コストを増幅させるだけです。

 また、この業界では、木の皮のチップを数時間煮込んだ化学薬品の混合物を使用しているため、加工コストは1年で30%上昇しています。

 加えて、製紙はガスや電気を大量に消費しているため、このエネルギーは製品の30%を占めているとのこと。

 ロシアのガスが禁輸された場合、状況はさらに悪化する可能性があり、十分なエネルギーがなければ、一部の工場は操業停止に追い込まれる可能性さえあると言います。

 製紙業界といえば、トイレットペーパーだけではなく、9月からの新学期に備えてのノート類や、現在、アマゾンなどの配送に使われている大量の段ボールなどもあります。

 少し前までは、環境問題(廃棄物問題)から、プラスチック包装は禁止されたり、プラスチックのストローではなく紙のストローなどに移行し始めたばかりです。むしろ、「紙ならばエコ」くらいに感じていたのも、この製造過程を考えれば、そこまでエコでもないのかもしれません。

 ウクライナの小麦やオイルなどが輸出できない状態やロシアへの経済制裁から、食糧危機だと言っていますが、この全ての価格が上昇する経済危機は、止まらないようです。

 食糧危機に関しては、昨日、ウクライナでの戦争以来、初めてウクライナ産のトウモロコシがスペイン北西部の港に到着したそうです。ロシアが封鎖している黒海での航路を回避するための新しい海上航路を見出し、成功したことでこれからのウクライナからの海上輸出航路として期待されています。

 これも、ロシア上空を飛べない飛行機が迂回航路を使っているようなもので、ますます輸送費が加算されそうな気がしますが、食糧難回避のためとなれば、それも致し方ないのかもしれません。

 今回運ばれたトウモロコシなどは飼料用のトウモロコシだそうで、この高価そうなトウモロコシを食べたブタなどの値段がさらにまた、高騰しそうです。

 フランスはこれまで輸入していたひまわりオイルなどを自分で生産しようと、ひまわりなどの栽培にも手を広げ始めたと言われていますが、今度は異常気象で、フランスは今週も猛暑(今週はまだ6月だというのに軒並み30℃超え、パリでさえ、今週末は38℃まで気温が上昇すると言われています)、雨が降らなければ、農作物も育たないというもうにっちもさっちもいかない状態です。


トイレットペーパー爆上がり


<関連記事>

「燃料費の急激な高騰のためにフランス政府が緊急に支払う100ユーロのインフレ補償手当」

「「電気料金滞納しても、電気は止められなくなる」措置は電気料金値上げのための布石か?」

「フランス2022年1月から野菜や果物のプラスチック包装禁止」

「日本の雑誌のパリ特集と電気・ガス料金・高速料金値上げ(2022年から変わること)」

「エネルギー価格の高騰に伴うエネルギークーポンの配布」

「加速するインフレ 食用オイルが棚から消えた」

「フードバウチャーは2段階の施行 9月初めには低所得者向けにインフレ手当の支援金直接銀行振込」



2022年6月14日火曜日

日本の外国人観光客受け入れと燃油サーチャージ値上げ

  


 フランス人の友人が今年は日本も外国人観光客を受け入れるようになったからと、今年の夏は姪っ子を連れて日本へ行く予定にしていました。これは、日本の岸田首相がロンドンを訪問した際の講演で、「日本は6月には、主要7ヶ国(G7)並みに水際対策を緩和する」と宣言したため、本当にG7並みに日本が水際対策を緩和すると思っていたからです。

 ところが、蓋を開けてみれば、これは全くG7とは異なったもので、「旅行代理店を通してグループで旅行する観光客のみ」プラス「外国人観光客には民間医療保険加入を要請」という条件つきでした。

 国際的な場で、あれだけ堂々と宣言したにもかかわらず、全くG7並みではありません。フランス(G7の国々)など、国の地域によっては、制限をかけているところはありますが、入国時のワクチン証明書のランダムなチェックとなっていますが、実際は、ほぼほぼノーチェックです。ましてやまた、旅行代理店を介したグループ旅行のみなどなどあり得ない話です。

 昨日、パリの街中を歩いていたら、あ〜これ、絶対イギリス人の英語だ・・と思うような英語やスペイン語なども聞こえてきて、観光客が増えたことを実感しています。

 ただ、「日本は6月から水際対策を緩和する」とだけ言っておけばよかったものを、彼の発言を間に受けて、日本に行こうと思っていた外国人にとっては、甚だ肩透かしを食った感じで、日本に行きたいと思っていた外国人は思いっきり裏切られた気持ちになっています。はっきり言って、外国人には大変評判が悪いです。

 私の友人について言えば、彼女はすでに何回も日本に行ったことがあり、「グループで旅行するなんて、絶対に嫌、もういい!日本には行かない!」と憤慨して、旅行先を変更してしまいました。

 そもそも、今、パリに来る日本人観光客でさえも、団体旅行というものは、極端に減り、ましてやフランス人は、団体旅行など、個人では行き辛いよほどの辺境の地でもないかぎり、利用しません。好きな時間に好きなところを自分の足で歩いて、自分なりの旅行をアレンジしたいと思うのが普通です。

 コロナのための対策とはいえ、日本がまた、こんな時代に逆行するようなことを言い出しているのは、なんかモヤモヤします。

 せっかく、水際措置を緩和して、「外国人観光客受け入れ再開!」などと、言いつつ、「グループ旅行オンリー」などと条件をつけたために、全くG7並みとはほど遠く、また、外国人観光客を逃しています。

 本来ならば、これだけの円安です。外国人観光客がもっと日本に行けば、どれだけお金を使ってくれるか期待できるところでしたが、またこれで、日本は旅行先候補から外されます。

 そのうえ、ANAから、8月からの発券分は、北米、欧州、中東、オセアニア往復で98,000円に値上げというニュースに絶句しました。

 だいたい、パリ⇄羽田便の直行便に関しては、ANAはほとんど欠航だと聞いていましたが、ANAのサイトを見ると7月1日から8月31日は水、金、日は運行とあり、しかし、よく見てみると、(ただし8月24〜31日までのみの期間、ただし7月7日、9日、28日、8月21日は運行)となっています。

 念の為、値段を確認しようと7月7日に予約を入れてみようとすると、予約のサイトでは、7月7日の便は欠航になっています。もうこの時点で、一体、飛行機が運行されるのか、欠航なのか、情報でさえもあやふやで、怪しくなってきて、この様子では、またキャンセル、変更の繰り返しになるのでは・・とうんざりしました。

 それではJALは?と思って見てみると、JALの方は、パリ⇄羽田便は毎日運行しているようです。それでは念の為、同じ7月7日で予約を入れて値段を確認すると、なんとエコノミークラスで、航空券 1164ユーロ(162,960円)、プラス燃料サーチャージ 724.97ユーロ(約101,495円)で合計1888.97ユーロ(264,455円)という衝撃の価格です。特に燃料サーチャージに関しては、すでに10万円を超えています。

 まあ、そもそも、夏に日本に行くつもりはないのですが、あまりにこの98,000円に値上げというニュースにビックリして、実際に日付を入れてみて値段を確認してみただけなので、構わないと言えば、構わないのですが、それにしても、この値段はあまりにショックです。

 エコノミークラスで航空券が16万円で、燃油サーチャージが10万円って、ちょっと理解できない(これだけガソリン価格が高騰しているのでわかるといえばわかるけど)というか、受け入れられない感じです。

 戦争が終わらないかぎり、長距離フライトプラスこの燃料サーチャージの高騰は続くのでしょうか? そして、戦争が終わってガソリン価格が元に戻ったら、本当に航空券、特にこの燃料サーチャージも元に戻るのでしょうか?

 こんなに値上げされては、そうそう気軽に日本には、もう帰れません。


日本外国人観光客受け入れ 燃油サーチャージ値上げ


<関連記事>

「6月からの日本入国水際措置緩和について 外国人観光客受け入れ再開」

「まだまだハードルが高い日本行き JALは運行なのに、ANAは欠航のパリー羽田便」

「パリに日本人観光客が戻る日は遠い 燃油サーチャージ大幅値上げ」

「日本帰国時、帰仏時のダブル時差ボケの苦しみ 超長距離フライトの後遺症」

「ちょっとひと段落と思ったら、もう帰国の心配 帰国便欠航」

「パリーロンドン経由日本行きの超長距離フライトの今」


 

2022年6月11日土曜日

パリ レピュブリック広場で行われたウクライナで殺害されたジャーナリストの追悼集会に参加しました

   


 5月末にウクライナの戦場で取材中に殺されたフランス人ジャーナリストの追悼集会がパリ・レピュブリック広場で行われました。

 彼の死亡についての報道はテレビやネットで目にしていましたが、32歳という若さで命懸けで真摯に仕事に取り組んでいたジャーナリストの死亡は一視聴者としても、やるせない気持ちで、パリで行われるならば、ぜひ立ち会いたいと参加してきました。

 当日は、午後6時半とはいえ、まだ陽も高く、1人の若者の追悼集会には、悲しいほど晴天で新緑がきれいなレピュブリック広場には、多くの人々が集まっていました。



 この亡くなったジャーナリストがBFMTVの社員であったことから、BFMTVの進行で行われましたが、彼のボルドーでのジャーナリストの学生時代の同級生、BFMTVの幹部、同僚、彼の母親、彼女、そして、ウクライナで彼と共に取材を続けてきた男性などが、次々と彼の人となりや仕事への向き合い方など彼のこれまでの軌跡、また報道の自由やジャーナリズムのあり方についてなどを語り続けました。

 パリのレピュブリック広場に集まっている大勢の人々は、彼らの話を聴きながら、涙する人も少なくありませんでした。

 パリで追悼集会というものに初めて参加しましたが、いつものデモなどの集会のような暴力的な感じや人を押し退けるような感じは微塵もなく、亡くなってしまった彼に寄り添う優しい人が多い印象でした。こうした気持ちを同じ場所に集って共有するというのは、不思議な連帯感が生まれるものです。心の中のフツフツとした感情を呼び起こしてくれるような感じです。

 中でもやはり印象的だったのは、彼の母親の話で、彼がこのジャーナリスト(カメラマン)の道に進んだ経緯や、その後の仕事への向き合い方、そして、今回のウクライナの戦場への取材に向かう前に長い時間、話し合ったことなどを冷静に語っていたことでした。

 彼はウクライナに発つ前に、あらためて、これが自分の職業へのコミットの意味であり、これが自分がこの職業を選んだ理由であると話していたようです。こんなに自分の息子の仕事への信念を理解している母親が一体、どれだけいるだろうか?と、私は自分を省みて、恥ずかしい思いでした。

 彼の母親の話を聴いて、彼の死亡直後にこの母親がロシアのタス通信が報道した内容に対して、毅然と公に反論を表明した意味や理由がわかるような気がしました。

 この日に話をした全ての人は、「彼は、控えめで目立つことを好まない人でしたが、楽しく、面白く、優しい人でもあり、いつも仲間に寄り添い、利他的で繊細で、声なき人々、「マイクを与えられない人々」に声を与えるという使命に真剣に取り組んでいた」と証言しています。

 そして、涙を誘ったのは、彼の最期の瞬間まで一緒に仕事をしていたウクライナから帰国したばかりの同僚の話でした。ウクライナの最前線の戦地で34日間、彼と寝起きを共にして、一緒に食事をし、一緒に仕事をしてきた彼の話はやはり真に迫るものがありました。

 彼らが無謀な取材をしていたのでは?という問いも投げかけられることもありました。しかし、そもそも危険な戦地です。取材に出発前にも可能な限りの安全状況を確認して、当日も安全の確認のために、当初の予定時間から2時間近くも遅れて出発したのだそうです。

 彼によれば、フレデリック(亡くなったジャーナリスト)とは、その都度、とことん話をして取材に臨んでいたが、彼ほど静かに、熱く語る人を今まで自分は知らなかったと話しています。

 「フレデリックは忠実で、人に対して優しく、常に慎重で、時間に遅れがちでした・・しかし、彼が時間に遅れがちなのは、決して彼がだらしないからではなく、彼が全ての準備を念入りにする完璧主義者だったからです」彼は爆撃を受けた直後、ただただ呆然とトラックの前に立ち尽くして彼の名前を呼び続けただけだった自分を振り返っています。

 彼は皆の前で、5分近くしっかり話をしましたが、その後は、呆然と大きく掲げられているフレデリックの写真を見つめて硬い表情を崩すことはありませんでした。彼は自分の話の中でも、現在、戦場で冗談のようにフレデリックと話していたとおりに、自分はPTSDの状態にあると語っていましたが、まさに、側から彼のたたずまいを見るだけでも、彼が深く傷ついていることがわかる様子でした。



  

 私たちは、現在、あたりまえのように戦地の映像を溢れかえるほどに毎日、目にしていますが、映像だけでも心が痛むところを実際に現場で取材に臨んでいる人々がどんなに大変な思いをしていることか、ましてや、目の前でその数分前まで必死に共に取材をしていた仲間が亡くなってしまったら・・そのショックや彼が負ってしまった心の傷は計り知れません。

 強い信念と深い志に溢れ、真剣に仕事に取り組んできた健康な若い青年の死は本当に残念なことです。

 それでもフレデリックの母親は、「ここに集まってくれた人々は、直接に彼を知らなかった人々も私の、そして彼の友人だと思っています。プーチンよ!これが、あなたが殺した美しい人だ!」と強く語りました。


ウクライナで死亡したフランス人ジャーナリストの追悼集会 レピュブリック広場


<関連記事>

「フランス人ジャーナリスト ウクライナの戦地で取材中に撃たれて死亡」

「フランス人ジャーナリストの死亡に関するロシア・タス通信の嘘の報道に遺族が公に出したメッセージに感動」

「ロシア人でもあり、ウクライナ人でもあった元同僚の話」

「言論統制・報道規制の恐怖 プーチン大統領を止められるのは誰か?」

「ロシアとオウム真理教 独裁者の暴走」

 

2022年6月9日木曜日

フードバウチャーは2段階の施行 9月初めには低所得者向けにインフレ手当の支援金直接銀行振込

   


 パンデミック以来、加速しているインフレに対応して、フランス政府は昨年から、低所得の人々に対して、インフレ手当や、エネルギーチケットなどを配布してきました。

 また、ガソリン価格の高騰により、政府は1リットルあたり18セントの補助(店頭表示価格からの値引き)を提供してきましたが、ガソリン価格の高騰は止まるところを知らず、現在フランスのガソリン価格は軽々と2ユーロ(ℓ)(約280円)を突破し、「フランスでこれほどガソリンが高くなったことはない」とまで言われています。

 やはり、ガソリン価格の高騰は輸送費があがることで、全ての商品に波及する深刻な問題で、自家用車を使う人にはもちろんのこと、そうでない人にも多大な影響を及ぼします。

 インフレが猛スピードで進んでいく中、マクロン大統領の選挙公約にあった「フードバウチャー」についての発表が期待されていましたが、先日、ようやくエリザベット・ボルヌ首相から、その概要について発表されました。

 昨年末に取り上げられ始めた「フードバウチャー」については、もともとは、単にインフレ対策だけではなく、環境問題や国内製品需要を考慮するものでもあり、低所得者層が新鮮な地場産品を購入できるよう支援することを目的とした資金援助とされていました。

 しかし、インフレのスピードは、止まるところを知らず、4月の段階ですでに5%近くも上昇し、この食料品、しかも地場産にこだわっての複雑な対応を待っていては間に合わず、正直、地場製品とかビオの製品どころか、価格が上昇する分、品質を落とした低価格のものを購入せざるを得なくなっている現状に、当初の「フードバウチャー」の計画は、2段階のシステムをとって行うことを確認し、緊急措置として、低所得者や学生に向けて、ひとまず、9月の新年度の始まりに、現金で直接銀行に振り込まれることになりました。

 この援助の金額は、「家族の中の子供の数」を考慮して計算されるとのことで、100ユーロ〜150ユーロと見込まれています。

 これで一息ついたところで、政府は第2段階の「すべてのフランス国民が質の高い製品、有機製品を入手できるようにするための対象システムの検討」を開始すると発表しています。

 また、ガソリン価格支援の18セント(1ℓあたり)の割引も当初予定の7月31日までから8月31日までに延長されます。(1ヶ月だけ??とも思ったけど・・)

 そして、同時に、ボルヌ首相は、インフレの影響を受けない製品の価格上昇について、警告を発しました。特定の人々が、この一般的なインフレ環境を利用して、値上げする理由がないのに値上げする(いわゆる便乗値上げ)」ことを防ぐために、DGCCRF(競争・消費者問題・不正防止総局)を含む適切なサービスによるチェックが開始されると明言しました。

 現在のこの状況で、値上げする理由がない商品がどこにあるのか?とも思いますが、便乗値上げは往々にしてあり得ることで、公正にチェックしてくれる機関があれば(それがどの程度機能するのかは疑問ではある)、ありがたいことです。

 経済産業相は、昨日のインタビューで、2023年にはこのインフレも落ち着き始めるだろうと語ってはいましたが、一度値上げしたものが値下げになることは、あんまりないような気もするので、物価の上昇が落ち着いたとしても、これが下がり始めた時の適正価格の監視をしてもらわなければ、現在は政府が少しでも援助をしてくれるうちはまだよいですが、そうでなければ、物価の上昇が止まった時点で価格だけが留まり、そのままその価格が定着することになれば、援助が打ち切りになり、梯子を外されることになります。

 私は現在、日本で生活をしていないので、日本のインフレについては実感がありませんが、日本とて、インフレは例外ではないはずです。先日、日銀総裁が物価高をめぐり、「家計が値上げを受け入れている」と発言したことが大炎上し、その後に「誤解を招く表現だった」と謝罪していましたが、日銀総裁という立場の人間が公の場で、自分の発言がどのように受け取られるかということもわからないで発言するということ自体が全く理解ができません。

 コロナの時も、日本の援助金は、なにかと一律で不公平な感じで、本当に弱い立場の人を守ろうという姿勢は感じらませんでした。今回の日銀総裁の言葉は、いみじくも日本政府の姿勢そのもので、「国民が我慢して耐えていること」を「国民が受け入れている」と解釈する政府の都合のよさを表しているような気がします。

 フランス人は黙って我慢しないので、政府は急いで国民の納得のいく対応を取ろうと対策を取ります。日銀総裁のような発言などもってのほかで、そんな発言がなくとも、このインフレという現実だけで、ぐずぐずしていれば、デモや暴動が起こります。

 外から日本を見ていると、ひたすら国民が耐えていることで、成り立っているように見えて仕方がありません。


フードバウチャー インフレ支援金


<関連記事>

「燃料費の急激な高騰のためにフランス政府が緊急に支払う100ユーロのインフレ補償手当」

「「電気料金滞納しても、電気は止められなくなる」措置は電気料金値上げのための布石か?」

「エネルギー価格の高騰に伴うエネルギークーポンの配布」

「日本の雑誌のパリ特集と電気・ガス料金・高速料金値上げ(2022年から変わること)」

「インフレも何も全然関係ないエルメスの絶好調」


 





2022年6月5日日曜日

マクロン大統領の「ロシアに恥をかかせるな」発言と山積みのひまわりオイル

  


 マクロン大統領がフランス地方紙のインタビューで、「私は、ロシアがウクライナ侵攻を開始したことで、プーチン大統領は、ロシア国民にとっても、自分自身にとっても、歴史的かつ根本的な間違いを犯したと思うし、本人にもそう伝えた」、さらに、「彼は孤立してしまったし、孤立も問題だが、そこから抜け出すことは、困難な道で、停戦に至り次第、外交的解決する道を残しておくために、ロシアに屈辱を与えてはいけない」と語りました。

 この発言は、「ロシアのウクライナ侵攻が歴史的な過ちである」というかなり明解な発言とともに、「侵略者に恥をかかせてはいけない」という現状況では、ともすると理解し難い発言が波紋を呼んでいます。

 マクロン大統領は、戦争開始前後から、おそらくどこの国の首脳よりもプーチン大統領と話をしてきたであろう人物で、これまで両者の会談の内容は、エリゼ宮や彼自身(マクロン大統領)、クレムリンからそれぞれに発表されてきましたが、それぞれの発表には、ところどころ食い違いがあり、また、具体的な詳細については報じられてきませんでした。

 マクロン大統領が彼を怒らせずに、自分自身も怒らずに会談を続けてきたのは、並々ならないストレスであったと思われますが、今回の「ロシアに屈辱を与えてはいけない」という発言は、プーチン大統領に対してのアピールだったような気がしています。

 しかしながら、このアピールは所詮はアピールでしかなく、プーチン大統領にとっては、この侵攻に失敗していることはとうにわかっていることにもかかわらず、落とし所が見つからず、中途半端に停戦することは、そのこと事態が屈辱で、両者の会談は、残念ながら、結局、噛み合っていないことがわかるような気がします。

 また、この発言に対して、ウクライナのドミトロー・クレバ外相は、「ロシアに恥をかかせないという声は、フランスや他の国に恥をかかせることにしかならない」「ロシアに恥をかかせることに集中したほうがいい」と猛反発しています。

 しかし、マクロン大統領は、このインタビューの中では、「ウクライナへの財政・軍事支援を強化する」、「ウクライナから穀物を輸出するためにあらゆることを行う」とも述べており、ウクライナへの支援は引き続き強化していくことを表明しているので、ウクライナとて、真っ向からフランスを否定することは不可能です。

 ウクライナからの輸出が滞っていることによる、この食糧危機問題は、私の身近なところでも目の当たりにしています。

 昨日、スーパーマーケットに買い物に行ったら、ここのところ、ガラガラだったオイル(特にひまわりオイル)と小麦粉が売り場の中央に「どうだ!」と言わんばかりに山積みにされていました。

 


 

 「えっ?」と思って、手に取ってみると、いつもは見かけないパッケージのひまわりオイルでウクライナ産のものでした。毎日のように戦場と化し、廃墟のようになっている「あのウクライナで作られたものなんだ・・」と思うだけで、なんとなく複雑な思いにかられたのですが、同時に驚いたのは、その値段、先週、申し訳程度に棚に並んでいた同じサイズのオイルが一週間で30セント値上がりしています。

 隣に山積みにされていた小麦粉は、これまた普段、見かけないパッケージのもので、こちらは、ルーマニア産でした。

 こんな勢いで物価が高騰していくのは堪りませんが、この戦争が続く限り、このインフレが止まらないのは、明白です。

 自らが蒔いた種とはいえ、ロシアも屈辱的な撤退は絶対しないであろうし、ウクライナ側もこれまで多くの犠牲者を出してきてしまったからこそ、「すべての武器を受け取っていない限り、陣地を強化していない限り、ロシア軍をウクライナの国境からできる限り押し戻していない限り、停戦交渉する理由はない」とますます強硬な態度です。

 残念ながら、現時点では停戦協議にさえ進まない状況、パンデミック以来、来年には・・と思い続けてきたのが、まだまだ続きそうで、コロナも戦争もなかった平和だった時期が遠い昔のような気がしてきました。


ロシアに屈辱を与えるな マクロン大統領発言 ひまわりオイル


<関連記事>

「マクロン大統領、今度はドイツのショルツ首相と共にプーチン大統領との電話会談」

「カンヌ国際映画祭開幕セレモニー サプライズゲストはウクライナのゼレンスキー大統領」

「ロシアの戦勝記念日とマクロン大統領の「欧州政治共同体」提案」

「ロシアとオウム真理教 独裁者の暴走」

「約1ヶ月ぶりのマクロン大統領とプーチン大統領の電話会談」

「ウクライナに招待されているマクロン大統領 ジェノサイドという言葉」

「フランス共和国大統領のアジャンダ(議事日程)L'agenda du Président de la République」


 

 

2022年6月3日金曜日

まだまだハードルが高い日本行き JALは運行なのに、ANAは欠航のパリー羽田便

  


 在仏の友人が日本行きの飛行機が急にキャンセルになったと、慌てています。日本に行くとなったら、それなりの期間の休暇もとらなくてはならないし、平常時でさえ、航空券以外にもいろいろと準備することがあるのに、急なキャンセルには、本当に面食らいます。

 私も今年の3月に日本に一時帰国していたので、その際にも再三、予約していたチケットがキャンセルになったり、変更になったり、その上、サイトのアクセスができなくなったりしていて、電話するしかなく、電話が繋がるまでうんざりするほど、電話をし続けたことを思い出します。

 調べてみると、いつの間にか、ANAのパリからの直行便はとりあえず6月30日まで欠航となっていて、しかも、欧州路線の欠航はパリだけではなく、ミュンヘン、デュッセルドルフ、ウィーンが全て欠航になっています。その上、なぜか、デュッセルドルフ便は、なぜか欠航の予定が2022年10月29日までとなっています。

 しかし、欧州路線全てが欠航というわけではなく、ロンドン便は週3日、フランクフルト便は週5日、ブリュッセル便は週2日運行しているようです。

 ですから、パリからの直行便がキャンセルになったとしても、経由便に変更することは可能なのでしょうが、そこは黙っていれば、バッサリキャンセルのままになってしまいます。

 これだけの欧州路線が欠航になれば、欠航になった分の予約をその他の欧州路線と組み合わせて経由便の予約を入れていくのは、大変なことです。

 前回の私の一時帰国の際も行きに2回、帰りに1回キャンセルになり、特に日本からの帰りの便を取り直すのが本当に大変でした。電話を何回、かけ続けたかもわかりませんが、それでも私はまだ運が良かったようで、帰りの羽田→ロンドン→パリの経由便は、私は、ロンドンでの待ち時間が2時間程度で済みましたが、偶然、隣に乗り合わせた日本人の女性は、同じパリまで行くのに、ロンドンでの待ち時間が8時間近くだということで、仰天してしまいました。

 日本の水際対策が少し緩和されて、日本到着後の空港でのPCR検査はなくなりましたが、依然として、出発前72時間前の検査の陰性証明書は義務付けられたままで、飛行機がとれていても、もし、この検査で陽性になれば、問答無用に日本行きは不可能になってしまいます。

 その場合は、自らチケットはキャンセル、または変更しなければなりません。

 今回のANAの欧州路線の欠航はウクライナの戦争の影響のようですが、同じところに行くのに、JAL(パリ⇄羽田便)は6月中は週5日、今のところ、7月からは毎日運行の予定になっています。同じ場所に行くのにANAは欠航、JALは運行なのは、どうしてなのでしょうか?

 どちらにしても、現在の状況を考えると、予約したチケットがキャンセル・変更になることは、十分に考えられるので、旅行会社のサイトなどを通さずに直接、航空会社からチケットを購入した方が無難です。

 変更、返金などの場合は、旅行会社などを通すと返金にも時間がかかり、余計に話がややこしくなります。

 これらの変更・返金などの手続きは、本来ならば、サイトでも可能なはずなのですが、私の場合は、変更された便にロンドン→パリの分が抜けており、結局、電話をするハメになりました。前回の私のチケットは、JALでしたが、延々と電話をかけ続け(延々とお話中になる)、ようやく繋がって、ロンドンからの便を探してもらい、待ち時間があまり長くないものを探してくださいと粘りに粘り、ようやく、なんとか納得できる経由便に変更してもらいました。

 先方からすれば、忙しいところ、さぞかし、しつこくて嫌な客だと思われたかもしれませんが、ここで引き下がらないのは、フランスでの暮らしから培った「言うことは言う」「簡単には引き下がらない」精神。ただでさえ、迂回ルートで長距離フライトでキツいのに、これ以上、異常な待ち時間を過ごすのは、耐え難い苦痛です。

 しかし、まあ、無事に変更できたところで、私はひと安心したのですが、娘に直行便が経由便になったのに、料金は一緒なの?(普通なら経由便の方が安い)と言われて、あ〜そうだった・・さすが、フランスで育っただけのことはある娘には、まだまだ敵わないことを思い知らされたのでした。

 いずれにせよ、チケットがキャンセルになったり、変更になったりするリスクもなかなか高く、そのうえ、72時間前の検査で陽性になるリスク・・まだまだ、日本行きはハードルが高いのです。


航空券キャンセル 変更 パリー羽田便欠航


<関連記事>

「パリから日本行きの直行便キャンセル 国際郵便も届かない」

「ちょっとひと段落と思ったら、もう帰国の心配 帰国便欠航」

「パリーロンドン経由日本行きの超長距離フライトの今」

「コロナ禍と戦時下の一時帰国 長いフライトの後の羽田空港での書類チェックとコロナ検査」

「機内模様から垣間見えた国民性と感染対策・衛生観念」



2022年6月1日水曜日

フランス人ジャーナリストの死亡に関するロシア・タス通信の嘘の報道に遺族が公に出したメッセージに感動

  


 週明けにウクライナの戦場を取材中に撃たれて死亡したフランス人ジャーナリストをロシアのタス通信社(ロシア公式通信社)は、記者死亡発表のわずか数分後に、ルガンスク人民共和国の分離主義者の指導者の発言として、「フレデリック・ルクレール・イムホフ(死亡したフランス人ジャーナリスト)はウクライナ軍への武器搬入に従事する傭兵(雇兵)だった」と断言した放送を流しました。

 これは、ロシア国内向けの彼の殺害を正当化しようとする全く根拠のない嘘ですが、これに対して、亡くなったジャーナリストの母親はこれを黙殺せずに、この嘘の報道をしたロシア・タス通信社とLPR(ルガンスク人民共和国)関係者に向けて、公にメッセージを発表しました。

 「私は、あなたが昨日殺した若いジャーナリストの母親です。あなた方の発言、報道を聞いていると、言いようのない不快感を感じます。あなた方は卑怯にも自分の疑い、過ちを晴らそうとしていますが、彼の記憶・記録を汚すことは決してできません。民主主義、人間尊重、そして何よりも自由、公平、正直な情報という、あなたを突き動かすものとはかけ離れた概念に、彼がプロとして、また個人として取り組んできたことは、誰もが知っています」

 「今、私は自分の子供のために泣いているすべてのウクライナの母親、両親のために泣いているすべてのウクライナの子供、そして、あまりにも早く逝ってしまったロシアの若い兵士たちの母親と思いを共にしています。二度と彼らに会うことができず、なぜ、死ななければならなかったのか? 何のために死ななければならなかったのか?皆、その理由を考えています」

 「私は、苦しみながらも、少なくとも、息子がなぜ死んだかを知っています。いつか、この犯罪の本当の責任者が責任を取らされる日が来るでしょう」

 自分の息子を殺されたばかりで、悲しみに打ちひしがれているはずの母親が、このような毅然としたメッセージを発表できる毅然とした強さには、感服させられるばかりですが、同時に、このお粗末な嘘に対する怒りが息子を亡くした彼女自身を奮い立たせているとも思います。

 このメッセージの中では、同時に、ウクライナの人々にも、ロシアの人々にも心を寄せて、この戦争全体を非難しています。

 彼女のメッセージでは、自分自身の悲しみはもちろんのこと、むしろ、意味がわからないままに戦争に駆り出されて命を落としている人々、そして、その母親たちの無念さまで訴えている懐深いメッセージとなっていることは、さすがにジャーナリストだった彼の母、息子の仕事を引き継いで行っているようにも思えます。

 それにしても、これに始まったことではありませんが、ロシアのつく嘘の本当にお粗末なこと。彼がジャーナリストであったことは、彼のジャーナリストとしての取材時の映像が彼の死の直前まで収録され、放送されているのですから、あまりにもナンセンスな嘘。

 しかし、報道規制が行われているロシアでは、そんなお粗末な嘘にも騙される国民も少なくないのでしょう。

 彼が命を落としたことは、本当に悲劇ではありますが、彼の母親の言うように、意味もわからず戦場に行かされて命を落としているロシア兵やその家族の悲痛はさらに収拾のつかないものかもしれません。

 プーチン大統領にとって、人の命は、自国の国民の命でさえ、軽すぎる気がしてなりません。



フランス人ジャーナリスト死亡 ウクライナ ロシア タス通信


<関連記事>

「フランス人ジャーナリスト ウクライナの戦地で取材中に撃たれて死亡」

「ロシアとオウム真理教 独裁者の暴走」

「言論統制・報道規制の恐怖 プーチン大統領を止められるのは誰か?」

「時々、見かけるパリにいる、虚言癖の人」

「フランスでの児童保護、親権などに関する怖い話」

 


2022年5月31日火曜日

フランス人ジャーナリスト ウクライナの戦地で取材中に撃たれて死亡

  


 週明けの月曜日、フランスBFMTV(フランスのニュース専門チャンネル)のジャーナリストがウクライナ東部のセベロドネツクでBFMTVの取材中に榴散弾に当たって死亡しました。彼はBFMTVに入社して6年目の32歳のフランス人フォトジャーナリスト、ウクライナ戦争勃発以来、ロシアの侵攻を取材するためウクライナに赴き、2回目の任務で走行中の車両がロシアの爆撃の標的になり、首を撃たれて致命的な傷を負って死亡したということです。

 彼はパートナーのマキシム・ブランドシュテッターとともに、できるだけ前線に近い東部での紛争を取材していました。当日も彼は民間人の避難を記録中にロシアの榴散弾で首を撃たれたとのこと。

 BFMTVの局長によると、「彼は熱血漢ではなく、冷静着実に勤務を遂行してきた人で、この戦場という危険な取材において、彼は任務の一分一秒を秤にかけて行ってきた」と彼の行動が決して無謀な行動ではなかったことを語っています。

 彼に同行していた同僚も脚を負傷して、すぐにフランスに送還されることになっています。



 このフランス人ジャーナリストの死亡の報せに、マクロン大統領は、自身のツイッターを通じて、「人道的救助のバスに乗り、ロシアの爆撃から逃れるために逃げざるを得なかった市民と並んで、彼は致命的な傷を負った」と説明。「フレデリック・ルクレール・イムホフ氏は、戦争の現実を伝えるためにウクライナに滞在していた」「戦地で情報提供という困難な任務を遂行する人々に対して、フランスの無条件の支援を改めて表明したい」と記し、「ルクレール・イムホフの家族、友人、同僚の悲しみを共有する」と追悼の意を表明しました。 

 他の報道には、載っていませんでしたが、マクロン大統領のツイートによると、彼が取材していたのは、ウクライナ民間人の人道的救助のバスでの出来事。民間人の人道的救助に使用されているバスがなぜ、標的になっているのか?

 献身的に真摯に仕事に取り組んでいた若者の死は衝撃的で、この悲劇は、3ヶ月以上前からこの紛争を命がけで報道しているすべてのジャーナリストが直面している危険をあらためて再確認させられます。

 彼が2014年にボルドー・アキテーヌ・ジャーナリズム学院(IJBA)を卒業したのは、そんなに昔の話ではありません。同時に卒業したジャーナリスト仲間からも悲しみの声があがっています。


 添付したツイートの写真は、5月21日、ミコライフの町で周囲で「大爆発」が起こっている中、廊下でレポートを編集している姿です。彼の仕事に向きあう真摯な姿勢がみえる貴重な写真です。

 彼の親の立場からしたら、なぜ、そんなに危険な仕事に就く学校に進ませてしまったのか?と後悔の念にかられそうなところですが、彼の母親は、BFMTVに対して、「彼は確かにとても献身的で、私は彼の選択を誇りに思います」と短いメッセージを送っています。

 BFMTV報道局長は、記者が2回目のウクライナ訪問をしたのは「本人の希望によるもの」、「これは、私たちの汚名を晴らすためではなく、彼の決意を表明するために発表したのです」と述べ、フレデリック・ルクレール・イムホフの母親と電話で話をした模様を「彼女は明らかに涙を流していた。彼女は明らかに、私たちBFMTVと同じようにプライドを持って、息子の仕事が何であるかを知っていたのです」と静かに語っています。

 この戦争は、報道戦などとも言われていますが、私たちは、彼らのような使命感をもったジャーナリストのおかげで、この悲惨で卑劣な戦争という状況を知り、考えることができるのです。

 ウクライナ戦争開始以来、ジャーナリストの死亡はこれで8人目です。NGOが発表した数字によると、他に9人のジャーナリストが負傷し、13人が拉致または恣意的に拘束され、そのうち4人が拷問や虐待の犠牲になっています。

 キエフに滞在しているフランスの外務大臣は、彼の死は「深く、衝撃的であり、透明性のある調査を要求する」と述べました。

 今日は、彼の取材した映像がBFMTVで流れ続けています。


フランス人ジャーナリスト死亡


<関連記事>

「言論統制・報道規制の恐怖 プーチン大統領を止められるのは誰か?」

「国連(国際連合)は何のためにあるのか?」

「在ウクライナ フランス大使館250万人分のヨウ素剤の用意とウクライナからの国民退避についての国の対応」

「ウクライナに招待されているマクロン大統領 ジェノサイドという言葉」

「ロシアとオウム真理教 独裁者の暴走」

2022年5月29日日曜日

マクロン大統領、今度はドイツのショルツ首相と共にプーチン大統領との電話会談

  


 これまで、ウクライナ戦争の危機が起こって以来、定期的に粘り強く一人でプーチン大統領との会談に臨んできたマクロン大統領は、昨日は、ドイツのショルツ首相とともに、プーチン大統領との80分にわたる電話会談を行ったことをエリゼ宮が伝えています。

 マクロン大統領とショルツ首相は、プーチン大統領に対して、「できるだけ早く、ウクライナのゼレンスキー大統領と真剣に直接交渉し、紛争の外交的解決策を見出し、「戦争のいかなる解決策も、ウクライナの主権と領土の一体性を尊重しつつ、モスクワとキエフの間で交渉されなければならない」と強調したと伝えています。



 そして、ウクライナとロシアの話し合いのためにも、ロシアのウクライナに対する攻撃を停止し、ロシア軍を撤退させることを求めています。

 同時に、フランス・ドイツ両首脳は、世界の食糧危機を回避するために、黒海経由でウクライナの穀物輸出を可能にするために、オデッサの封鎖解除の緊急性を主張しました。

 この提案に対し、プーチン大統領は、「黒海の港からウクライナの穀物を含む、妨げのない穀物輸出のオプションを見つけるのを助ける準備ができている」と述べたとされており、フランス・ドイツ側は、ロシア大統領が、「同港の地雷除去を行えば、ロシアに軍事利用されることなく穀物輸出のための船舶アクセスを認めると約束した」と発表していますが、一方では、プーチン大統領は、「世界の食糧危機は、「西側諸国の誤った経済・金融政策と、これらの国々によって課せられた反ロシア制裁」によって引き起こされたこと」でもあるとし、ロシアの肥料や農産物の納入が増えれば、国際農産物市場の緊張が緩和される可能性があり、モスクワに対する「もちろん、適切な制裁の解除も必要だ」と強調しています。

 マクロン・ショルツ両首脳は、このプーチン大統領との約束を国連を介して早急に進めるとしていますが、プーチン大統領の言っている「ロシアに対する適切な制裁の解除が必要」という部分については、言及されていません。

 もともと、今やロシアとの間に約束というものが成り立つものなのかどうかすら、疑問ではありますが、こうして何らかの話し合いの場がもたれることは、重要なことだと思われます。

 しかし、これまで1対1で行われてきたプーチン大統領との電話会談が2対1と客観的に見ても、対等ではない話し合いが、どの程度、プーチン大統領を圧迫するかという危険も孕んでいるとは思いますが、1対1では、どうにも埒が明かないことに業を煮やしたのか、長く続いてきたマクロン対プーチンの電話会談には、ついにショルツ首相が参戦し始めました。

 もっとも、プーチン大統領は、フランスもドイツも西側諸国の一括りに考えていると思われるところもありますが、戦争の中心はあくまでも「ロシアとウクライナ」でありながら、ロシアは一体、どこの国と戦争しているのか?と思われる節もあります。

 また、この会談では、マクロン・ショルツ両首脳は、ロシア軍によって捕虜となった約2,500人のアゾフスタル防衛隊員の解放も要求しています。

 まさかの戦争が始まって、すでに3ヶ月が経過していますが、問題は世界中を巻き込んで大きくなるばかり。とりあえず、プーチン大統領が約束したと言われている経由でのウクライナの穀物の輸出も「ロシアへの制裁の適切な解除」が行われないなら、プーチン大統領がそれを呑むとは考えづらく、結局、うまく進むとは考え難いような気がしています。

 マクロン大統領とショルツ首相は今後もこの件で緊密な連絡を取り続けるとしていますが、2対1の電話会談の方が良いのか悪いのか? 依然としても、まだまだ終結への道のりは長そうな気がしています。


マクロン大統領 ショルツ首相 プーチン大統領 3首脳電話会談


<関連記事>

「ロシア・ウクライナ問題 パンデミックの次は、本当の戦争の危機」

「フランス共和国大統領のアジャンダ(議事日程)L'agenda du Président de la République」 

「ロシア人でもあり、ウクライナ人でもあった元同僚の話」

「止まらないロシアの威嚇とマクロン大統領とゼレンスキー大統領の電話会談」

「ドイツ・ポルトガル・スペイン首脳が異例の声明発表 フランス大統領選挙はもはやフランスだけの問題に留まらない」

2022年5月23日月曜日

全仏オープンテニス ローランギャロス平常モードで開幕 ロシア選手は出場するか?

   



 フランスで毎年、行われる国際的なイベントの一つとして、毎年5月に開催される全仏オープンテニス・ローランギャロスがあります。

 パンデミックのために2020年には、5月開催を延期し、さらに感染状況が悪化した9月に開催したり、昨年は、感染対策が厳しくとられる中、例年どおりの5月に開催されました。

 今年の全仏オープンは、マスクの義務化もワクチンパスも撤廃された例年どおりの大会を取り戻しています。観客も100%入ります。2年間のパンデミックの規制がこの大会では全て、取り払われ、まだ、始まったばかりというのに行列ができています。

 ローランギャロス観戦は、もともと感染対策以外の警備も厳しいことで知られており、荷物のチェックもうるさく、持ち込めるバッグの大きさ(15ℓ以下)から、禁止項目は、アルコール飲料やヘルメット、応援用の旗のサイズや楽器類から、セルフィースティックまで詳細にわたっています。

 さんざん、感染対策用の規制ばかりを見慣れてきた身としては、逆にこのようなセキュリティーのための規制が新鮮に感じてしまうのは不思議です。




 感染対策への規制が撤廃され、ほぼほぼ平常が戻ってきている雰囲気の中、今年は、新たな問題が登場しています。それは、ロシア、ベラルーシからの選手の出場可否についての問題です。

 これについては、世界中でロシアに対する様々な経済措置がとられる中、大会開催前から、物議を醸してきましたが、今回の2022年の全仏オープンテニス大会では、今年3月9日の時点で欧州連合をはじめとする36カ国のスポーツ大臣の共同宣言の署名文書に沿ったものとして、ロシア・ベラルーシの選手が中立的な旗の下で競技に参加することを認めています。

 この共同声明によると、ロシア・ベラルーシの選手に関しては、出身国に関するいかなる表示もしないという厳しい中立性制度を尊重しなければならないとされています。このため、ロシア・ベラルーシの選手は出場は許可されているものの、国旗、国歌の掲揚は禁止されています。

 実際にローランギャロスの出場選手のリストを見ると、世界ランキング2位のダニール・メドベージェフ選手や、世界ランキング7位のアンドレイ・ルブレフ、同8位のアリナ・サバレンカはロシアの国旗を掲げることが許されず、各選手の国旗が記されているスペースはブランクになっています。

  



 出身国に関するいかなる表示もしないという厳しい中立性制度を尊重しなければならないというのは、こういうことなのか・・と思わせられます。

 この大会ディレクターのアメリー・モーレスモは、「これは非常にデリケートな問題で、正しい判断が何かはわからない。しかし、国としての代表選手の場合は出場できないが、個人として中立な立場をとる者の出場は制限しない。しかし、これらの選手がメディアを通して、プーチン寄りの発言をした場合には、必ず制裁をとる」としています。

 また、FFT(フランステニス連盟)会長のジル・モレトン氏も「すべては進化している」とし、ロシア人選手のプーチンに対する立場について、「我々は、一人ひとりの家庭の事情に余計に左右されることを知っているので、個々の個人的な状況の詳細に踏み込むつもりはない」と語っています。

 これに対して、6月に開催が予定されているイギリスのウィンブルドン大会では、すでに「ロシアが自らの利益のためにイベントの成功を利用しないように、また選手や家族の安全のためにロシア・ベラルーシからの選手を排除する」決定をしているようです。

 全仏オープンとウィンブルドン、2つの大きなテニスの国際大会で、異なる選択をしたフランスとイギリス。

 本当にこの状況で何が正解なのかは、わかりませんが、とりあえず、私は、全仏オープンに関しては、フランスらしい選択をしたような気がしています。


全仏オープンテニス2022  ローランギャロス2022


<関連記事>

「フランスで継続するアンチワクチンパスデモとジョコビッチの全豪オープンからの強制退去」

 「大坂なおみ 全仏オープン(ローランギャロス)トーナメント撤退発表」

「公共交通機関でのマスク義務化も解除へ フランスのコロナウィルスに対する規制撤廃」

「世界中の共通の敵への制裁という団結とフランスの大統領選挙」

「新規感染者1万6千人超えのフランス 全仏オープン・ローランギャロス2020は継続されるか?」