巨額の財政赤字を抱えるフランスで主に社会保障・医療制度の公平性、公正性をめぐる議論(2025年末の社会保障赤字は230億ユーロ)の中で、昨今、浮上しているのが「ブークリエ・サニテール(Bouclier sanitaire)」です。
これは誰もが負担過多にならずに医療を受けられる仕組みをめぐって行われている議論で、直近では、フランスの公共財政専門の経済学者フランソワ・エカル氏が提案しているもので、同氏によれば、「この制度は現行の制度よりも再分配効果が高く、不平等性が少ないものだ」と訴えています。
現行の制度は国民が支払う医療費は、国民健康保険でカバーされる部分と国民健康保険ではカバーできない部分を補足健康保険(任意)が補う形になっており、この補足健康保険(通称ミューチュエル)はもちろん別に支払うのですが、その金額によってもちろんカバーされる範囲は異なります。
以前は、このミューチュエルに加入している人が大半という印象でしたが、この保険料も値上げされ、これに加入していない(特に若者)も増加しているようです。
私がフランスに来たばかりの頃は、このミューチュエルは当然、加入するものと教えられて、また、娘がまだ小さくて、医者にかかることも多かったので、何の疑問もなく加入していました。
しかし、この補足健康保険に加入しているにせよ、していないにせよ、どちらにもひっかからずに自己負担せざるを得ない医療費に関しては、(最)貧因世帯の家計にとって、(最)富裕世帯よりも大きな負担となっている・・つまり、これらの自己負担額は最低所得層10%の家庭では、生活水準の2.76%に達するのに対し、再考所得層10%の世帯にとってはわずか0.59%にしかならないということです。
この不均衡を解消するために、医療費の年間支出上限額を所得比例型で設け、上限に達すると、それ以上の負担が発生しなくなるというシステムです。
考えてみれば、これは非常に合理的な考え方で、多くの補助金・援助金、他の多くの社会保障については、この所得比例に応じた金額設定になっていることが多いフランス(日本のように一律いくら・・とかいう補助や援助はあまりありません)で、逆に、なんで、今までこうなってなかったんだろう?と不思議にさえ思います。
ただ、現在、大きなネックの一つは、補助健康保険の意味が薄れることで、この大手の補助健康保険会社とこの種の類の企業と結びつきの強い政治家が反対しているそうですが、これは、主客転倒というか、そもそも何のための保険?何のための政治?という話でもあります。
この制度は2007年に当時、貧因対策高等弁務官を務めていたマーティン・ヒルシュが提案し、技術的な実現可能性を示していたと言われていますが、実現しないままに放置され続け、最近になって、ふたたび、それを焼き直した感じでフランソワ・エカル氏が再提案しているものです。
国民の生活を改善するためのはずである政治が有効な制度をストップしているという例はけっこうあるものです。
高齢化問題を抱える日本にも参考になることではないか思ったので、話題に挙げさせていただきました。
所得比例型医療費上限制度「ブークリエ・サニテール(Bouclier sanitaire)」
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