先日のナントで起こったカトリックの私立高校でのナイフ襲撃事件について、当日の夜の予定だった検察の記者会見が延期され、翌日、行われ、詳細な事件の概要が明らかになってきました。
検察官によれば、死亡した女子高生が一番のターゲットであったようで、彼女の遺体の検死が行われた結果、彼女が負った刺し傷は57ヶ所にも及んでおり、現場にいた生徒たちの証言から、その現場の一部始終を説明しています。
この加害者の少年は予めトイレで犯行の準備を整え、変装(黒づくめの服装に顔と目を隠すためにサングラス)をし、額に傷をつけた後に、全生徒に向けての13ページにも及ぶマニフェスト(今回の犯行とは直接には関係ないと本人も述べているが、彼の思想や社会の問題点などについて詳細に書き綴った独特な論文のようなもの)を送信し、最初に襲撃する教室にナイフを持って入っていきます。
その最初のターゲットになった少女というのが、非常に孤独であった彼が学校内で質の高い対話ができる唯一の人物だったという少女で、彼は全生徒が見ている前で、彼女を攻撃し、ナイフで主に上半身、特に頭部、喉などを刺し続け、彼女が床に倒れたのちもさし続けたと言います。クラス中の生徒が凍り付いてしまうであろう想像するだに恐ろしい光景です。
単に彼女を殺害する目的ならば、こんなにさし続ける必要はないわけで、明らかに常軌を逸しています。
教室では英語の授業中であったそうで、担当教員は、数人の生徒とともに、教室から逃げ、加害者の少年は、次の襲撃のために向かいの教室に移動。向かいの教室では、無差別に対象を選び、男子生徒2名、女生徒1名を狙って攻撃を続けていました。
そこを、下の階にいたIT技術者が悲鳴を聞きつけ、現場に向かい、2つ目の教室で暴れている加害者の少年を椅子で殴りつけ、犯行を止めようとし、今度は、この助けに入ったIT技術者が彼に追いかけられますが、彼は、これ以上、被害が他の生徒に及ばないように廊下の先にあった扉を閉じ、犯人との対話を試み、その後、彼は持っていたナイフをさしだすことに同意したと言います。
このIT技術者というのが、学校でのどんな立場の人なのかはわかりませんが、今回の惨劇における、まことに勇気のあるヒーロー的な存在です。
検察官は、「彼は学校内で非常に孤独な存在ではあったが、いじめや嫌がらせの対象であったことは全くない」と断言していますが、非常に孤独であったということは、ほとんど多くの人々からは無視されたような状況ということで、このことが無関係であるとは考え難いことです。
彼の両親は離婚しており、彼は母親と二人暮らしで、母子関係は良好であったと言われているものの、彼の言動、特にヒトラーへの異常な感心や自殺願望などを母親は大変心配しており、母親の要請により、ロワール・アトランティック青少年協会の教育者らとも6回にわたる面会を続けていました。
この面会で、何が行われていたかは明らかにされていませんが、このような凶行が行われた後になってみれば、明らかに彼に必要だったのは、精神科の専門的な治療で、また、身柄拘束後、本人も、「自分の病気が無視されてきたことを残念に思っていた」と話しているそうです。
彼の周囲にいたクラスメイトたちは、皆、彼は非常に静かで、控え目で、おとなしい人だったと語ってるようですが、実は、静かに見える彼の内側には、なにかのきっかけで爆発するようななにか、煮えたぎるようなものが潜んでいたようです。
彼は逮捕、拘留後、ほぼほぼ、まともに話ができる状態ではないと伝えられていましたが、その日の夜には、拘留を解かれ、精神病院に入院させられたそうです。
このような事件が起こった場合、もし娘が被害者だったら・・とか、もし、加害者だったら・・などと様々なことを考えさせられます。
今回の被害者遺族は、被害者の苗字や写真を公表してほしくないと強く懇願しているそうです。
フランスの場合、この種の事件があっても被害者の家族、加害者の家族などもがマスコミに登場する場合も見られるのには、驚かされますが、今回は、少なくとも被害者の写真や苗字が公表されることはなさそうです。
彼が正常な精神状態でなかったことは明らかではありますが、この犯行に対する罪が精神障害のために軽減されるのかどうかは、同時に彼がとった非常に計画的な犯行の準備から、どのように判断されるのかは、殺人罪が適用される可能性もあると言われています。
つい最近、15歳の誕生日を迎えたばかりという被害者の少女、と15歳の加害者の少年。
私の勝手な印象ですが、未成年の犯罪には、この15歳という年齢が多すぎる気がしています。
ナントカトリック高校ナイフ襲撃事件
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