2023年7月28日金曜日

頭蓋骨の一部除去の青年の登場で暴動後、再浮上する警察の暴力行為

  


 警察官の発砲事件による未成年が死亡した事件を機に起こった暴動は、瞬く間に全国に広まり、一時、手がつけられない状況で、全くどうなることかと思いましたが、その後、かなり時間がかかったものの、どうにか鎮静化して、落ち着きを取り戻しています。

 しかし、一方では、今回の暴動を沈静化するために動員されていた警察官による狂暴な行為が露見し始めており、マルセイユで警察官にLBD(Lanceur de balles de défense)(防御ボールランサー)発射隊による襲撃を受けて、重症を負った22歳の青年が脳に損傷を受けて襲撃から数回の手術を受けたのちに、頭蓋骨を一部除去された姿でマスコミの前に登場しました。

 頭の一部が歪な状態になった彼の姿は、衝撃的で、ショッキングでもあり、そのメッセージにもインパクトがあります。

 この事件であらためて注目されたLBDは、「電気パルスピストル」(PIE) や「包囲解除手榴弾」(GMD/DBD/DMP) と同様に、「中間兵器」(AFI) として定義されているものの一つで、暴力的または危険な人物を抑止または無力化するために合法的な武力行使が必要であることが判明した場合に、法律および規制に従い、危険な状況に応じた段階的かつ適切な対応として使われる警察や憲兵隊などが使用している武器と定義されているもので、LBD の使用は短距離に外傷性の影響を与える可能性があり、その重症度は不可逆的または致命的になる可能性のある重篤な損傷を引き起こす要注意の武器だと言われています。

 ところが、この犠牲者となった青年の話によると、彼は暴動には参加していなかったと言い、振り向きざまに急に頭に衝撃を受け、彼はそれが何なのかわからないままに、地面に倒れ込み、立ち上がろうとすると彼らに掴まれて、真っ暗な小路の隅に引きずられ、一人が馬乗りになって彼を抑えつけていたために、かれは動くことができない中、彼は拳や警棒で殴られ続け、彼はそのまま放置されたといいます。


 おそらく、最初に頭(こめかみ)に受けた衝撃がLBD砲であったのだと思われますが、たとえ、暴動の中の混乱状態であったにせよ、その後の警察官の行為は防御というよりもリンチのような暴力で、警察官の任務とはかけ離れています。

 この暴力行為にかかわった数名の警察官は逮捕・拘留されましたが、この警察官の拘留に対して、警察官の組合が猛烈に抗議の意を示し、ニースの警察署の前に100人以上が集結する大騒ぎになりました。

 警察官には、ストライキの権利が認められていないために、休暇を申し出たり、病気休暇を申請したりとただでさえ、不足している警察官の10%は仕事を休んでいる状態であると言われています。

 この大変な情勢の中での警察官の任務は激務であることは間違いないことで、警察官側にも大勢の負傷者が出ていることもたしかで、気持ちはわからないでもありませんが、こういったときの警察官同士の連帯というのもすさまじいもので、今回の暴動のきっかけとなった少年を射殺してしまい逮捕された警察官の家族には、クラウドファンディングで150万ユーロが集まるという(被害者ではなく加害者家族への募金)ちょっと、すんなり飲み込めないようなことも起こっています。

 まだ、暴動の火種がすっかり沈静化しきったかどうかはわからない状態で、さらなる警察官の暴力行為が表沙汰になり、警察官がそれを正当化するような動きを見せている現在の状況は、また暴動を再燃させる危険も孕んでおり、政府はその対応を図りかねている状態で、非常に不安定な状況でもあります。

 どっちもどっち・・というのは、大変、雑な言い方かもしれませんが、暴動行為にしても、それを抑えるはずの警察官の暴力行為も許されるものではなく、今回は特に狂暴であった暴動であったとしても、今回の警察官の暴力は、度を越えているうえに、お門違いであった疑いもあり、双方ともに、裁かれるものはきっちり裁かれなければなりません。

 しかし、政府としても、警察官を怒らせるわけにも行かずに、きっぱりした態度をとりかねているのが正直なところで、現在、ニューカレドニアに滞在中のマクロン大統領もこの件に関するきっぱりしたコメントは控えている状態です。

 フランス全体の治安が悪化していることは、もはや明白なのですが、警察官の増員だけでは片付く問題ではなく、国民の(特に底辺の)怒りがいつ、何をきっかけに爆発するかわからない状況には、すぐには、解決策がみつからないような気がしています。

 しかし、そもそもの今回の暴動のきっかけとなったのも警察官の発砲事件で、さらに今回の警察官のLBD発砲とリンチも警察官が起こしているもので、暴動を抑えるはずの警察がそのもととなり、また、さらなる騒動を引き起こしていることを考えれば、警察の在り方も見直す必要があるのかもしれません。


警察官の暴力 LBD


<関連記事>

「大惨事となっているフランスの暴動とSNSの関係」

「手がつけられなくなっているフランスの暴動に巻き込まれて、しばし、お店に閉じ込められた・・」

「燃え上がる警察への怒り 燃える炎は全国に飛び火」

「服従拒否で警察官発砲 17歳の青年死亡の後、警察官のウソがばれた・・」

「未成年を射殺した警察官の家族へのクラウドファンディングに150万ユーロ」


2023年7月27日木曜日

アラン・ドロンの子供たちが同居している日本人女性に告訴状提出のゴタゴタ劇

  


 アラン・ドロンといえば、かつてはイケメンの代名詞のような存在で、映画にあまり詳しくない私でさえも、その名前は知っていたし、昔の映画の面影をなんとなく、記憶していました。

 私がフランスに来たばかりの頃なので、おそらく20年くらい前のことだと思いますが、そのころはあまりテレビを見ない生活ではありましたが、年末の番組にアラン・ドロンが出演していて、「えっ?アラン・ドロンってこんな風になっちゃったの??」と思った記憶がありました。

 美しさを全面にして、出ていた人ほど、ギャップは激しいし、また映画などでしか彼を見たことがなかった私にとっては、その番組がトーク番組だったために、なんだか余計にイメージが壊れた気がしたのかもしれません。

 そんなアラン・ドロンについて、今月の初旬頃だったか、彼の子供たちがアラン・ドロンと同居している女性に対して、告訴状を提出したという話が世間を賑わせていました。現在、彼が同居している女性は日本人の女性らしいという噂は聞いていましたが、数日にわたっての報道で、その女性について、いちいち「オリジン・ジャポネーズ」をつけるので、なんとなく、余計に気になる気がしていました。

 彼の子供たちの告訴状は、「モラルハラスメント」と「彼の飼っていた犬に対する虐待」というなんだか、抽象的なものではありますが、要は、彼女(アランドロンと同居していた女性)と子供たちの関係が上手くいっておらず、子供たち曰く、父を家族、親戚、友人たちから孤立させようとし、電話やメッセージ、郵便物などを彼女がコントロールし、彼らが会いにくるのを妨げようとしている。彼女の態度は、高圧的で脅迫的である・・」などと言うもので、なんだか、家族内のゴタゴタでそんなに世間が騒がなければいけないことかな?と思っていました。

 父親に会いたいならば、その旨を話し合って、その機会を作るようにすればよいものをその話し合いさえできないほど、子供たちとその女性の関係性が悪化しているということなのでしょうか?

 実際のところは、わかりませんが、どのようなことであるにせよ、アランドロン本人が一喝して、話し合えばいいことで、それができずにこんなことになるということは、彼自身がかなり、弱っているということに他ならないのだと思います。

 この女性は、彼のスタッフとしても長く働いてきた女性であり、長い間、友人関係にあったようですが、その関係性が徐々にパートナーのような形に変化していったものと言われており、また、彼が脳卒中で倒れた後は、彼の介護をして、支え続けてきたようで、特に脳卒中を患ったのちは、彼のメッセージやスケジュールを管理したりすることは、必然であったような気もします。

 実際に彼の世話をしてきたのは、彼女で、子供たちが何を口を挟むことがあるのか?二人の関係性に彼自身が不都合や不快さを感じているならば、同居関係を解消すればよい話なのに、子供たちが口を出すのも、おかしな話で、結果的に彼自身も子供たちの告訴状に名前を連ねることになっているのが、彼自身の弱さの表れでもあるのか?不可解でもあります。

 彼が最後に公の場に姿を現したのは、2019年のカンヌ国際映画祭での、長年の彼の功績をたたえた「名誉パルムドール」受賞の際で、この時の彼のスピーチなどは、かなり自分の人生の締めくくりを意識したものであったことは印象的でもありました。

 このアランドロンの子供たちからの告訴状を受け、この女性は弁護士を介して39ページにもわたる反論と説明を提出しており、「彼の子供たちとは複雑な関係にあったことは認めたうえで、子供たちは父親の恋愛関係の存在は決して受け入れなかった。子供たちの心配は、彼の財産に関わることであり、年老いた父親の世話を全くしてこなかった彼らとは異なる特別の立場で自分は存在している」と説明しています。

 また、彼女のこの訴えに対して、子供たちは、別の告訴状を準備中で、まさに金銭的な話で、「アランドロンの口座から数万ユーロが引き出されている件について」と言われており、話がまた複雑なことになっています。

 フランスでは、婚姻関係とは別の事実婚のような関係も認められているものの、この公的に曖昧な関係がどのように扱われるのか?財産や介護など、色々な問題も孕んでおり、泥沼化している感じではありますが、どちらにせよ、この子供たち、それぞれに独立していながら、どうして、そんなに親の生活に口を出すのか?父親の華麗な経歴を汚してしまうことを考えないのだろうか?と思ってしまいます。

 現在、87歳の彼がどのような状態でいるのかはわかりませんが、結局は、子供たちの告訴により、彼はより孤独な老後を送ることになりそうで、まさに映画になりそうな話です。しかし、最後の映画にしては、寂しい話でもあります。


アランドロン 告訴状


<関連記事>

「日本に帰っていった娘 親離れ・子離れ」

「フランスの高齢者施設オルペア Orpéa の実態暴露の大スキャンダル」

「フランス人は、意外と長生き」

「日本にいる親の介護問題」

「死ぬ覚悟と死なせる覚悟」








2023年7月26日水曜日

いろいろなバカンスの過ごし方

  


 ある世論調査によると、今年はフランス人の60%はバカンスに行かないという話も聞こえてきたりして、これが、インフレの影響を受けてのものであるとか、年金改革問題で、各所、けっこうなボリュームでストライキをしていたために、結果的にその家庭の財政をひっ迫させ(ストライキをしている日数の分は、給料が支払われない)、バカンスの予算が削られる、または予算が取れないなどというケースもあるのだとかいう話が聞こえてきています。

 そのわりには、肌感として、やっぱりパリの人口は、バカンス期間中は減っているような感じがするのですが、その代わりに、いつもは見かけない組み合わせの家族連れをあちこちで、見かけます。

 今日、バス停でバスを待っていたら、小学生くらいの女の子から、小さい子は、まだバギーに乗せられている子まで含めた見事に女の子ばっかりの4人の孫を連れたパピーとマミー(おじいちゃんとおばあちゃん)がいて、どうやら、彼女たちを連れて、これから動物園にでかける様子。

 マミーの方は、カジュアルではあるけど、ストライプの襟付きシャツにソフトニットを合わせた、ちょっと、小洒落た格好をしていて、女の子たちもおそらく普段、学校に行く服装とは違う、いかにも年配の女性が好みそうな上品な服装をしていて、そういえば、実家の母もワンピースにエナメルの靴、髪型はルノワールの絵に出てくる女の子のような前髪だけを束ねてリボンをつける・・感じの服装をうちの娘にもさせたがっていたなぁ・・などと思い出しながら、どこか遠くにバカンスにでかけなくても、こういうパピーやマミーとのお出かけも、そんな服装も含めて、きっと良い思い出になるんだろうな・・と、なんだかあったかい気持ちで眺めていました。

 メトロの中でも家族連れと思われる人たちをけっこう見かけ、パリにバカンスに来ている家族というのもいるんだな・・と思ったり、ランチを食べに入れば、どこか、ちょっとよそよそしい感じの中高生くらいの娘2人とパパとか、お年頃のこのくらいの女の子はダイエットを気にしてか?フライドポテトは残すんだな・・と思ったり、息子と2人連れで、お昼から、ゆったりワインなんか飲んじゃってるパパとかの子連れとはいえ、どことなく、男同士の感じとか・・いつもは見かけない感じの組みあわせの人々を見かけて、やっぱり、みんな、いつもとはちょっと違うことしてるんだな・・と思います。



 かと思うと、パパもママも働いている人のためにある サントル・ドゥ・ロワジール(Centre de loisir(夏の間、日中、子供を預かってくれる機関)の子供たちが移動のためなのか、黄色いベストを着せられて街中を移動していて、娘もサントル・ドゥ・ロワジールに行かせてたことあったなぁ~と思ったり・・。

 バカンスに出かけた人の話だと、現在、ギリシャとか、南欧はうだるような暑さでものすごい人だとか・・。どういうわけか、5月から6月初旬にけっこう暑かったパリは7月はあんまり暑くなくて、今のところ楽勝の夏。

 昨夜などは、ちょっと肌寒い気がしたりもするくらいでしたが、これで夏が過ぎるわけはない・・といつくるかわからない猛暑に怯えつつも、やっぱり、どっか行きたい悔しい気持ちはちょっとよぎりますが、子供の学校のバカンス期間が関係なければ、バカンスは7月・8月は避けるべし・・などと、世間のバカンスの光景を眺めつつ、少し空いてきたパリを楽しんでいます。

 今年は5月から6月にかけてイタリアに行けたので、また、イタリアに行きたい病にかかり、人に会うごとに、「イタリア行くんだったら、どこがいい?」と聞き歩いていますが、皆、口を揃えて言うのは、イタリアは7月8月は避けた方が良いよ!・・と。

 ともあれ、この時期、スタンダードなバカンスではなくとも、いつもと違ったそれぞれのバカンスをみんなが過ごしているようなのも、それはそれで、よいバカンスなのではないのかな?と思えるのでした。


バカンスいろいろ


<関連記事>

「夏休み・夏のバカンス短縮で不公平は是正できるか?」

「ヨーロッパの地球温暖化は世界の他の地域の2倍の速さで進んでいる」

「子どもの学校のバカンスの多さに追いまくられるフランスでの子育て」

「海外生活を送る日本人ママは頑張り屋さんが多い」

「フランス人の金銭感覚 フランス人は、何にお金を使うのか?」

2023年7月25日火曜日

夏の間だけアルバイトしている若い子は素直で可愛い

  


 パリは、今、夏のバカンスシーズンまっさかりで、バスやメトロなどは、バカンス仕様のタイムテーブルになっているうえ、どこもかしこも工事中がやたらと多く、メトロやトラムなども一部区間は閉鎖・・とかになっている場所も多く、夏の間はちょっと街がすいてくるのは、まずまず嬉しいのですが、少々、動きにくくなる感もあります。

 特に8月半ば頃になると、閉まってしまうお店などもあるため、少々、寂しくもあるのですが、この期間のよいところは、皆がバカンスに出ている間に学生などの若い子がアルバイトで働いていて、その様子がほんとに一生懸命で素直で可愛いところです。

 フランスでは、日本のように、通年を通して学生がアルバイトできる場所がそんなにあるわけではなく、一般的には、学生アルバイトは夏の長いバカンス期間、大人たちがバカンスで人出不足になる時期の補充要員のような感じが多いのです。

 このあいだ、試着もせずに衝動買いした洋服が、着て着れないことはないけど、もうワンサイズ大きい方がいいかも・・?と思って、サイズを取り換えてもらいに行ったら、レジで学生アルバイトの女の子がどうやら、商品の交換がレジの手続き上、どうやったらよいか、わからなかったみたいで、ちょっと手間取って、焦りながらも、「ごめんなさい、ちょっとどうするのかわからないので、聞いてみますから・・」と言ってくれて、待たされるのは、普通のことゆえ、「全然、問題ないよ・・」と、むしろ、まごついてしまったことをていねいに謝る彼女に感激して、「若い子ってやっぱり素直で可愛い~!」と余裕の笑みを浮かべて、まるで母のように暖かく見守ってしまったのでした。

 最近はそれでもずいぶん、マシになってきたと思いますが、フランスの接客態度は、お世辞にも良いとは言えず(場所にもよりますが、一般的には・・の話)、レジなどで人を待たせても全然、平気・・、間違えても決して謝らず、お店の人がなにかレジやデータ管理などのやり方などが、わからなくても適当にすまされ、挙句の果てに逆ギレされるという目にもこれまで、ずいぶん遭ってきました。

 先日、普段、通っている市民プールのカードのクレジットの残りが少なくなってきたので、それをチャージしようと思ったら、受け付けてくれた若い女性が、「どうして、あなたのファイル、2つもあるんでしょう?」というので、私は、「???」、「私が自分でやっているわけではないので、わかりませんけど・・」と答えながら、内心、「きっと、あのおばさんだ・・」と思っていました。

 その前にカードをチャージした時にも、受け付けてくれた若い女性が私の顔をまじまじと眺めて不思議そうな顔をして、「あなた、73歳じゃないですよね・・」と言われて、苦笑してしまったことがあって、「今回の2重ファイルもきっと、私を73歳にしたおばさんの仕業だ・・」と思っていました。

 やり方がわからないなら、若い子だろうと、おばさんだろうと、周囲の人に聞けばいいものを適当に済ませてしまうから、こんなおかしいことになるわけで、そのうえ、そういうおばさんに限って、横柄で、威張っていて、すごく気分屋で、ずっと感じ悪いかと思うと、えらくごきげんに声をかけてくれたりもするのですが、全く困ったおばさんです。

 最近は、それでもフランス人の若い子(アルバイトじゃなくても)は接客も感じのよい子が増えたので、何か頼むときには、できるだけ若い子を選んで頼むようにするのが、トラブルを避ける秘訣だ・・とこっそり思っているのですが、昔、日本で流行った「オバタリアン」のような図々しさは、世界共通なのだな・・などと思うかたわら、私自身もすっかりおばさんの年齢になっているので、「自分も気をつけなきゃな・・」と、初々しい若いアルバイトの女の子を見ながら、思うのでした。


若い子 オバタリアン


<関連記事>

「フランスの未来は若者が変える」

「やたら謝る日本人と謝らないフランス人に見る厳しい日本社会と緩いフランス」

「銀行乗り換えで久々に遭遇した典型的な嫌なフランス人」

「フランス人が日常のトラブルには寛容な不思議」

「絶対に謝らないフランス人と謝ってばかりいる日本人」

2023年7月24日月曜日

亡き夫の誕生日 夫の思い出

  


 そういえば、昨日は亡き夫のお誕生日でした。もう彼が亡くなって、ずいぶん経つので、お祝いをすることもありませんが、なぜか、命日よりも、お誕生日を思い出すのはなんだか不思議なことです。

 しかし、正直、だんだん年齢を重ねていくと、見送った人も増えてきたので、誕生日に加えて、どんどん、命日が増えてきて、そういえば、〇月だったな・・くらいで、命日の方はあんまり正確には覚えていません。

 それに比べて、お誕生日の方は、両親や家族、友人なども、若い頃に覚えたことだからなのか、いつまでも、わりとちゃんと覚えています。

 これが、もしも日本にいたら、何周忌とかいう法要があったりして、記憶として植え付けられていくこともあるのでしょうが、なにせ、そういった法事なども海外にいると、否応なしに、義理を欠き続けているし、両親に関しても、母が亡くなった1年後に「偲ぶ会」なるものを父と弟が開いてくれたのですが、母の命日は9月で、フランスでは新年度が始まったばかりのタイミングで、私は参加することができなかったし、父の時に至っては、葬儀以降、父の兄弟姉妹は全滅していたこともあり、何もやりませんでした。

 夫に関しても、葬儀のあとは、別に何の行事もやっておらず、だいたいそういうことをやる習慣もなく(少なくとも私の周りでは・・)、正直、娘をかかえて仕事しながら生きていくのが精一杯で、それどころではありませんでした。

 夫が逝ってしまってから、時間が経って思い出すのは、圧倒的にお誕生日の時のことで、たしか、最後のお誕生日は、家からわりと近所にある夫がお気に入りのフレンチのレストランに家族3人で行ったような気がします。

 今から思い返してみると、海外生活が長かった彼は、フランス人にしては、外国語が堪能(失礼!私の偏見です)で、けっこう、フランスに対しても辛口のことを言い、外国の人やものに対して鷹揚で、娘には、何が何でも日本語をきっちり習得させたいという私の執念に近い思いも、「それはとても大切なことだよ・・」と理解してくれていたのですが、よくよく考えてみると、やっぱり、基本的にはフランスを愛している、古いタイプのフランス人だったな・・と、あらためて思い当たることも多いのです。

 例えば、彼の最後のお誕生日に行ったレストランも、フランスの有名な声優さんだか俳優さんだかが経営しているお店ということもあったのですが、基本的に彼が好きなレストランは、白いテーブルクロスがかかった銀食器がきれいに並んでいるようなレストランで、そういうレストランには、きちんとネクタイをして行く・・というような、今の世代から考えたら、「いつの時代の人?」と言われそうな人だったのです。

 また、外国のものに対して鷹揚とはいうものの、ハンバーガーやポップコーンなどを目の敵にして、見下すようなところがあり、要は、アメリカのものを毛嫌いするようなところもありました。

 本当は、ハンバーガーもポップコーンも大好きなくせに、なんで、そんなに目の敵にするんだろうか?と思っていましたが、これは、フランス人のかなり年配の人にある傾向で、おじいちゃんになる前から(というか、おじいちゃんになる前に亡くなってしまいましたが・・)、おじいちゃんみたいな・・そんなところがある人でした。

 また、議論好きなところも、フランス人らしいところで、話出したら止まらず、結構、長電話、きれいに手紙をわざわざ手書きしたり、まめにカードを送ったり、けっこうおせっかいとも思うくらいに困っている人に手を差し伸べ、黙っていないところも、フランス人あるあるだったな・・と今になって思います。

 また、良い言い方をすれば、感情表現が豊かというか、喜ぶときも、怒るときも派手で、かと思うと怒りもあまりひきずることはなく、妙に涙もろいところもあり、最後のお誕生日も、まさか、あれが最後の誕生日になるとは、誰も思っていませんでしたが、お店の人がサプライズで出してくれたお誕生日のケーキにうるうるしたかと思うと、お店のオーナーと意気投合して、仲良くなったり・・。

 まだ、50代という若さで亡くなってしまって、本当だったら、あれから何度、お誕生日のお祝いができたかと思うと残念ですが、喧嘩もたくさんしたけど、今はもう、嫌なところは、あんまり思い出さなくて、楽しかったこと、良い思い出ばかりを思い出す、そんな彼のお誕生日です。


お誕生日と命日


<関連記事>

「国際結婚の家事・育児の分担ーフィフティフィフティ」

「国際結婚の夫婦喧嘩」

「フランス語力ほぼゼロだった私のフランス人外交官の夫とのアフリカ生活」

「川の字になって寝ないフランスの親子 フランス人の親子の距離」

「フランス人の夫のヤキモチ」

「下町のお節介おじさんのようなフランス人の夫」

「アメリカのものが嫌いなフランス人の夫」



 

2023年7月23日日曜日

スリやひったくりや置き引きだけじゃない!パリのメトロに出没するおじいちゃん詐欺師

  


 残念なことにパリのメトロは安全ではありません。スリやひったくりなどは、日常的なことで、置き引きに至っては、もう自分から、荷物から手を放してしまったのですから、もうこれは、彼らからすると、どうぞ持って行ってくださいと言っているようなもので、自分で手離してしまった方が悪いといわざるを得ないようなところがあります。

 ましてや落とし物や忘れ物などをしても、まず、見つかることはなく、以前に知人のフランス人が日本に旅行した際にタクシーにお財布を忘れたら、お財布が見つかっただけでなく、ご丁寧にタクシーの運転手さんがホテルまで届けてくれたと「日本というのは、なんという国(よい意味で)だ? どうなってるの?この国は?」と仰天していたことがありました。

 ご丁寧にといえば、パリのメトロでは、路線にもよりますが、スリがいますので、注意してくださいというアナウンスがご丁寧にも入る路線もあります。

 なので、私も普段は、充分に警戒して、大金は決して持ち歩かないだけでなく、お財布は大きなバッグの底の方に沈ませて持っています。

 ところが、最近、パリのメトロには、スリやひったくりだけでなく、詐欺師が登場しているというので、驚いています。

 これは主に20代から30代くらいの若い女性を狙った詐欺師のようなのですが、一見、人のよさそうな、ちょっと小太りで、メガネをかけ、口ひげをはやしたおじいちゃんだそうで、彼は、地方からパリに出てきて、お財布も携帯も盗られてしまった被害者を装って近づいてきます。

 多数の被害者女性がネット上で被害を訴えていることから、このおじいちゃん詐欺が一人であるのか?または、複数人存在しているのかは不明ですが、このおじいちゃん詐欺のシナリオは、最初は被害者を装って若い女性に近付くという点で共通しています。

 最初は、メトロの切符を失くしてしまったので、一緒に改札を通らせてほしいなどと近付き、様子をうかがって、身の上話を始めて、自分が困っている状況であると懇々と説明していきます。

 彼女たちが共通して言っているのは、とてもほっこりしてしまうような、誠実そうなおじいちゃんで、いつもなら、立ち止まりもしないのに、どこか安心させられてしまう雰囲気を持っている人なのだそうです。

 また、彼は、他のパリジャンに話しても、彼らは冷たいとパリジャン叩きも付け加えます。地方にある家に帰るためのチケット代として、250ユーロを貸してほしい、家に帰ったら、すぐに返すから・・。連絡できずに家族が心配している・・あなたにも家族がいるなら、家族を心配する気持ちはわかるだろう・・と言葉巧みに説得を続けます。

 今どきの若い子たちは、現金をあまり持ち歩かないので、わざわざお金をおろさせるのですが、また、彼は誠実そうな様子を崩すことなく、彼女がお金をおろしている暗証番号を打つ様子などはのぞき込まず、最後の最後まで「私が信用できないなら、お金は渡さないでください」とまで言います。

 そして、彼は、自分はちゃんと仕事をしていて月6000ユーロは稼いでいる人間なので、すぐにお金を返すことができると言い、彼女の連絡先を聞き出し、また、自分の偽の名前と連絡先を渡します。

 こうして、やり取りを振り返れば、つっこみどころ満載なのですが、言葉巧みにこの詐欺師は、彼女たちから、現金を奪っています。

 相手はプロなので、それは騙しやすそうな女の子を物色して声をかけているのでしょうが、それにしても、こんなに騙される人が多いのかと逆にびっくりもします。

 パリのメトロでのこのような詐欺被害がネット上で報告されはじめ、我も我もと被害を訴える人がでてきて、このおじいちゃん詐欺師は有名になりつつありますが、どうやら、この手口は、最近だけでなく、以前から存在していたものでもあるようです。

 そして、もう一つの驚きは、この被害届を警察に提出しようとしても、「自分の自由意思でお金を渡したのだから・・」と受け付けてもらえない場合が多いということで、「警察はこのような事件を把握しているにも関わらず、真剣には受け止めてもらえない」と、被害にあった女性たちはこの顛末を含めてネット上で訴えています。

 現在、話題に上っている人物と同一人物かどうかは不明ですが、この手口で詐欺行為を続けている者の中には、20年間もこの商売?を続けている人物がおり、彼はギャンブル依存症の年金生活者だそうで、過去に逮捕され、懲役2年の判決を受けているものの、再審の結果、この行為が詐欺ではなく、投資?として再認定され釈放されています。

 この行為が詐欺ではなく投資とは?これでは裁判所が詐欺に遭っているようなものです。彼は一応、司法監督下におかれているそうですが、彼は活動を停止してはいないようで、ここのところの騒ぎによって、再び、捜査が再開されたようです。

 パリ・・ほんとに、油断なりません・・・。


パリメトロ おじいちゃん詐欺


<関連記事>

「パリのメトロ6号線でコートがドアに挟まって死亡事故」

「パリ市内観光の新しい移動手段 トゥクトゥクには、ご注意ください」

「観光客が戻ってきたパリ 今年のスリ、ひったくりなどの犯罪のトレンド「観光客なりすまし」」

「パリの治安の悪化再び エッフェル塔近辺で暴力を伴った強盗事件で一晩で12人逮捕」

「在宅中でも油断できないパリの治安 偽身分証明書による家宅侵入による盗難事件」




2023年7月22日土曜日

97歳 視覚障害女性の家賃滞納のための立ち退き問題

 


 フランスにおける居住権というものは、まことに厄介なもので、スクワット(空き家などに勝手に侵入して居すわるのっとりのような行為・不法占拠)などの問題もしばしば耳にしますが、この行為自体は、不法であるというのに、彼らを追い出すのは、生易しいことではありません。

 今回の話は、賃貸の話ですが、シャラント・マリティーム県(ヌーベル・アキテーヌ地域圏(フランス西部)で、2017年以来、家賃未納のために家主が法に訴える手段をとりはじめ、2019年3月にラ・ロシェル裁判所、その後2020年11月にポワティエ控訴裁判所での裁判を経て、裁判所は所有者に有利な判決を下していました。

 裁判に時間がかかるのは、珍しい話ではありませんが、それから、さらに3年の年月をかけて、この居住者は、いよいよ住居からの追放の危機に直面していました。

 しかし、問題なのは、この女性が97歳という高齢であるうえに、視覚障がい者(盲目)であるということで、こういうケースに必ず集まる人道的な面を問題視するような声が高まり、彼女の弁護士は、この陳情書を裁判所に提出していました。

 「彼女は80年前に難民としてフランスにやってきて以来、この家に60年以上住んでおり、解決策なく彼女を追放することは、彼女にとっての死刑を意味する!」とまあ、こんな感じの強烈な言葉を使っての意見です。

 結局、シャラント・マリティーヌ県は、「裁判所の判決は履行されなければならないが、「彼女の同意を得て」「適切な宿泊施設」が見つかるまで自宅に留まることができる」とし、県のサービスは、「彼女の年齢、運動能力、障害に適応する宿泊施設を見つけるために取り組んでいる」と発表しています。

 しかし、これまでに彼女に対しては、2ヶ所の宿泊施設が提案されてきていますが、彼女はこれらを拒否してきており、彼女がごね続ければ、このままの状態が続くということでもあります。

 人道的に彼女を追放するのはどうかという意見もわからないではありませんが、そもそも否があるのは、家賃を滞納している借主の方で、この間の、滞納された家賃は積載されていくだけで、これが今後、支払われる可能性は限りなく低く、結局、家主が泣き寝入りを続けることになります。

 長きにわたり、居住している場所をこの高齢者に、出ていけというのは忍びないのはわかりますが、だからといって、家賃を払わずに居座り続けるのが許されるというのは、妙な話です。

 フランスで家やアパートを貸すというのは、リスクが多いことで、家主は日本人の借主を好んで探しているというような話を聞くことがありますが、これは、日本人の場合、取りっぱぐれる可能性が低く、しかも、お行儀よく、きれいに住んでくれるという評判が高いことからくるわけで、家賃が払えなければ、そこには住めないという当然の理屈がフランスでは必ずしも通用しないということでもあるのです。

 

97歳視覚障害女性の家賃滞納による立ち退き問題


<関連記事>

「トゥールーズ スクワット(アパート乗っ取られ)事件 フランスの居住権」

「「電気料金滞納しても、電気は止められなくなる」措置は電気料金値上げのための布石か?」

「フランス人はどんな権利も主張する 驚愕の「失踪する権利」」

「コロナ禍中でも続くフランス人の権利の主張」

「フランスの国会を騒がせる「フランス人のクリスマスを迎える権利」」

「権利を主張するわりには、義務をちゃんと果たさないフランス人」