2022年2月5日土曜日

北京オリンピックについてのフランスでの報道

  


 昨年夏の東京オリンピックの際には、開催国以上の盛り上がりを見せていた感じだったフランスは、どうやら、今回の北京オリンピックの開会式は、さほど注目していません。

 もちろん、開会式の模様は、報道されていたものの、その開会式自体よりも、ゼロコロナ政策の中国の厳戒なバブル方式の一般市民とオリンピック関係者を絶対に接触させない感染対策ぶりに時間を割いて報道しています。

 オリンピックのために中国に入国した選手やジャーナリストなどが、空港到着時から宇宙服のような防護服に身を包んだスタッフに誘導され、数度にわたるPCR検査や完全に一般市民とは隔絶された管理下におかれた宿泊施設での食事の供給なども人間ではなく、ロボットがしている様子などが、映し出されています。

 選手はもちろんのこと、ジャーナリストの移動なども、中国政府承認の運転手による車での移動のみが許され、中国政府が報道してほしくない場面などは、容赦なく遮断されている様子などまでもが報道されています。

 また、監禁状態になっているのは、オリンピック関係者だけではなく、現地の2300万人の北京市民自体が半監禁状態になっていると違和感をあらわにしています。

 ル・モンド紙(フランス大手新聞社)などは、「今回のオリンピックは、中国のゼロコロナ政策、習近平国家主席の体制支配、緊迫した外交状況などから、決して人気のあるイベントとは言えない。」と書いており、また、他社からも「複数の要因(パンデミックや政治的な要因)から、緊張要因が絡み合う世界的なイベント」、「健康と政治的な理由から、史上最も閉鎖的な大会になることは間違いない」などなど、かなり否定的な報道が目立ちます。

 夏の東京オリンピックの際は、パリ・トロカデロ広場に巨大スクリーンが設置されて、フランスでは、大熱狂であったことを思えば、今回のオリンピックには、何もないことが、その注目度を物語っています。

 今回のゼロコロナバブル政策の制約の実行は、現在の中国の政治体制を反映しているとも言われています。 

 これは、2008年の北京オリンピックの時と比較されており、「当時、中国が目覚ましい経済成長、国際貿易への解放、住民の生活水準の向上により、徐々にこの国が自由化していくだろうと世界が期待していたとしたら、2022年には、その期待がなくなっている」

 「かつては、自由で創造的かつダイナミックであった国が、習近平は断固として計画的に民主化を抑制し、中国15億人の生活を掌握されることが確実になっている」

 「この北京オリンピックの「鳥の巣」と呼ばれるオリンピック競技場の設計に携わった芸術家は現在、亡命中」。

 「そもそも、今回のパンデミックの起源となった中国は、その起源となった証拠を隠したまま公表していない」と、「中国政府がパンデミックの起源に関する真の調査を妨げようとし続けていることは、科学界と世界中の人々に対する冒涜である」と大会開幕の数時間前に約20人の国際的科学者が中国当局に対し、2019年末に中国で初めて検出されたコロナウィルスの起源について、WHOの合意のもと、真に独立した調査を許可するよう求める声明を発表しています。

 それに追い討ちをかけるように、「この大会で使用される雪が100%人工雪であり、環境を破壊してまでスロープを一から作ったということで物議を醸した」とも取り上げられています。

 競技が始まれば、スポーツごとの盛り上がりは見せるでしょうが、幸先は、あまりよくない雰囲気・・。

 オリンピック選手には、罪はありませんが、スポーツ以外のことで、騒がしすぎるオリンピック、純粋にスポーツを楽しむ気にはなりにくい気がしています。


北京五輪 ゼロコロナバブル


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2022年2月4日金曜日

在外選挙人証 3ヶ月以上かかってやっと受け取れました!

  

凱旋門から歩いて5分ほどの場所にあるパリの日本大使館


 私が在外選挙登録をパリの日本大使館に提出したのは、昨年の10月20日頃のことでした。これまで20年以上もパリに住みながら、忙しさと煩わしさにかまけて、海外にいても日本国民ならば選挙に投票する権利がありながら、その権利を放棄し続けてきてしまっていました。

 これまでは、海外にいては、日本のこともよくわからないし、投票しようにも誰に投票したらよいかわからないし・・などと思っていましたが、それにしても、最近の日本政府の様子を見ている限り、どう考えてもおかしいと思うことが増え、わからないなりにも色々調べてでも、投票するべきだと思うようになったのです。

 在外選挙登録というものは、その気になれば、すぐできるものとタカを括っていたこともありますが、在外選挙人証を受け取るまでには、思いのほか時間がかかりました。

 昨年に在仏日本大使館に書類を提出して、在外選挙登録をした時に、その書類は日本の外務省経由で、日本の最終住居地の区役所に送られ、その区役所が在外選挙人証を発行し、また外務省経由でパリの日本大使館に戻ってくるということで、約2ヶ月かかると言われて、仰天しました。

 しかし、2ヶ月経っても何の連絡もないので、「どうしちゃっったんだろう?」と思いながらも、近々に選挙もないし・・とひたすら待っていたのでした。

 それが、昨日、突然、日本大使館から、「在外選挙人証」を書留でお送りしますので、ご住所の確認をさせてください」という電話連絡をいただきました。こちらの郵便事情を今ひとつ信用していない私は、「遠いわけではないので、取りに伺いますが、窓口で受け取ることはできますか?」と聞くと、「今は、感染のリスクもありますし、遠い方には、お送りするようにしているのですが、もちろん、窓口でお渡しすることもできます。開館時間内でしたら、いつでも、おいでください。」と言われ、さっそく日本大使館に在外選挙人証を取りに行ってきました。

 とりあえず、開館時間をチェックすると、パリの日本大使館の開館時間は、9時半から13時、14時半から17時までで、普通の仕事をしている場合、仕事の前や後、昼休みに立ち寄ることは、大変難しい時間設定であることを思い出しました。

 大使館は、現在ビザを申請する人もあまりいないし、とても空いていて、待ちに待った「在外選挙人証」をようやく受け取ることができました。結局、3ヶ月以上かかりました。

 「在外選挙人証」は、8.5cm ×16.5cmの小さい紙で、私の名前と生年月日、性別、登録日、衆議院小選挙区 東京都第6区と書かれており、住所は、フランスの住所が記載されています。

  

在外選挙人証と説明書き


 登録日は令和4年1月7日となっているので、私が大使館に書類を提出してから、2ヶ月以上かかり、それから私の手元に渡るまで約1ヶ月かかっていることになります。うやうやしく○○区選挙管理委員会委員長の判がおされていて、裏面に投票の際に記載される欄が6行、この欄がいっぱいになったら、また再申請しなければならないそうです。

 なんとも、原始的な様相で逆にびっくりしたくらいです。

 この在外選挙人証で、衆議院議員選挙と参議院議員選挙に投票することができます。投票には、在外公館(大使館や領事館)投票、あるいは、郵便投票、また日本に一時帰国の際に選挙が重なった場合は、日本国内で投票することもできます。

 日本国内で選挙期日が公示・告示された日の翌日から、締切日まで、実際の日本での投票日より早い時期の投票になります。

 ただし、誰もが大使館や領事館の近くに住んでいるわけではなく、郵便投票も可能ですが、郵便投票を希望する場合は、在外公館にではなく、日本国内の市区町村の選挙管理委員会に投票用紙を自分で請求し、投票用紙を受け取ってから、再び、投票の際には、自分で送付しなければならないため、かなり時間がかかり、早めに対応しなければ、開票日までに投票が到着しない可能性もあります。これは、なかなかハードルが高そうです。

 この郵便投票もおかしなシステムです。在外公館で投票する人がいるのだから、在外公館でも投票用紙を取り扱っているはずなのに、なぜ日本国内の市区町村に直接、投票用紙を請求しなければならないのでしょうか?

 在外公館では、選挙期間中は、土日も投票を受け付けているそうです。

 しかし、大使館からは、特に投票日が近づいてきたからといって、特にお知らせがあるわけでもないようなので、選挙が近くなったら、自分で注意して情報を集めなければならないようなので、気をつけていないとせっかく手に入れた在外選挙人証を使い損ねてしまいそうです。

 今年は参議院議員選挙があるそうなので、在仏23年にして、初めて投票ができます。

 今の時代にもう少し合理的なやり方がありそうだと思いますが、そんなことも含めて、その時が来たら、期待を込めて、投票したいと思っています。

 私の1票は、ささやかな1票ですが、何もしないではいられない、そんな気持ちなのです。


在外選挙登録 在外選挙人証


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2022年2月3日木曜日

日本の雑誌のパリ特集と電気・ガス料金・高速料金値上げ(2022年から変わること)

  


 日本の「家庭画報」という雑誌の新刊の「パリ特集」の記事がパリ在住の人に、かなり衝撃的であったというツイートが舞っています。私は、その雑誌の記事を見てはいないので、多くを語ることはできませんが、「あれは、もはやSFに近い・・」「プチ贅沢どころではなく、あまりに特別な世界・・」「私の住むパリじゃない・・」などのツイートから、なんとなく、内容は想像がつきます。

 それを100%否定するつもりはありませんが、きっとそれは、あまり現実的なものではありません。

 しかし、日本でこういう記事が出続けることで、フランスに興味や憧れを持ってくれる人がいて、フランスに良いイメージを抱いてくださる方がいることは、フランスにとっては有難いことに違いありません。

 たまに旅行で来るならば、その夢の世界に近い世界での時間を過ごすこともできるかもしれませんが、おそらく、恐ろしく高額な旅となることと思います。

 フランスのインフレ率は、エネルギー価格の高騰を背景に2021年全体では1.6%に加速し、2018年以降で最も高い水準となりました。昨年の12月、1ヶ月だけで、消費者物価は前年比2.8%上昇したと言われ、多くの人が物価の高騰に喘いでいるのが現実です。

 そして、2月からは、電気・ガス料金、高速道路料金、タバコなどが値上げになります。

 電気料金は、1.6%(一般家庭用)、2.6%(商業用)の値上げ、ガス料金は平均3.5%値上げ、高速道路(有料道路)料金は、約2%値上げされます。これらの基本料金が値上げされることにより、そこから派生する商品やサービス全てが値上げされつつあります。

 昨年末の段階で、フランス政府は、所得の少ない人に対して、(月収2,000ユーロ以下のフランス人3,800万人)「インフレ・ボーナス」の支給を発表し、すでに配布され始めていますが、これは、恒久的に継続されるわけではなく、一時凌ぎになるだけで、その先は、このインフレの煽りをもろに食い、生活が締め付けられていく人が増えていくのは、明白です。

 一方、非課税貯蓄預金(Livret A)の利率は、これまでの0.5%から1%に引き上げられ、所得の少ない人のための預金(Livret d'épargne populaire (LEP))は、現行の1%から、2%に上げられます。

 しかし、この預金(Livret A)は、2011年には、2.25%であったものが、その後グングン下降し続け、昨年までは、過去最低の0.50%にまで下がっていたものが、少し盛り返しただけで、物価の上昇には、はるか及ばず、多くの人は、いくら預金の利率が上昇したところで、預金に回せなくなるのが現実です。(しかし、日本の銀行の利率から比べればまだ、マシかもしれませんが・・)

 その他、2月から変わることの中には、全く違う内容のものも含まれています。新生児の保護者に産科病棟では、おくるみ、アルバム、ベビーソープ、保湿剤、育児解説書などが入っている「ベビーボックス」(実際には箱ではなく、ショルダーバッグに入っている)の配布が開始されます。

 また、物価の上昇とは無関係ですが、オートバイの事故率が増加していることから、自動車が走る2車線の間をオートバイが移動することが禁止されます。

 たまたま、昨日、近所のコマーシャルセンターの近くを通りかかった時に、かなり高齢のホームレスと思われる女性が近くに座り込んでいて、物乞いをするわけでもなく、ただうなだれて寝ているのか、目を閉じているだけなのか、じっとしている様子を見かけて、投げ出している足に履いている運動靴は破れて穴があいているのを見て、声をかけるのもなんとなく躊躇われたものの、家に戻っても、なんだか気になり、家にあった使用していなかった運動靴を持って、「もしよかったら、これに履き替えませんか?」と言いに行ったのですが、彼女は、「ご親切にありがとう。でも、結構です。」と言いながら、放心した表情で、どこから手に入れたのか、パンを黙々と食べていました。

 我が家の近所で、彼女のような人を見かけるのは、珍しいことなのですが、これもパリの現実でもあるのです。インフレ以外にも理由はあるのでしょうが、悲しい光景です。

 2月からのさらなる物価の上昇で、パリの現実は、日本の雑誌のイメージから、さらにかけ離れた部分が広がるかもしれません。

 先日のドラッグ問題にしても、貧困の問題にしても、実際に生活していると、どうにも負のイメージが強くなりがちで、日本の雑誌の内容が、逆にパリに住む人間としては、衝撃的に感じてしまうのかもしれません。


インフレ 電気料金値上げ ガス料金値上げ 家庭画報 パリ特集


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2022年2月2日水曜日

今年の夏、マルセイユにオープンする刑務所内のレストラン「ボーメ」Les Beaux Mets

  


 フランスでは、この夏、マルセイユに一風変わったレストランがオープンすることが話題になっています。

 そのレストランは、なんとマルセイユにあるボメット刑務所内にあり、一般客向けにも公開される予定になっています。

 マルセイユの「ラ・ターブル・デ・カナ」は、3年前から(2019年から)、保護観察中の囚人がさまざまなケータリング業務(コック、ウェイター、ウェイトレス、キッチンアシスタントなど)への従事、厨房での訓練と職業的統合を通じて再犯を防止し、社会復帰の準備をすることを目的として、このプロジェクトに取り組み始めています。

 本来ならば、2020年末にオープンする予定であったこのレストランは、パンデミックの影響なども受け、予定が延期されてきましたが、とうとう今年の夏オープンする見込みがたったということです。

 刑務所内でレストランをオープンして、一般客向けに公開されるのは、フランスでは始めての試みで、レストラン内の一般客のサービスには、主に刑期を終えた囚人が担当する予定になっています。

 刑務所内の希望者は、このためのトレーニング(特に飲食業に特化した研修)を受け、シェフ指導のもと、レストランのメニューに取り組むことになります。

 「ラ・ターブル・デ・カナ」では、すでに2019年にボメット刑務所の受刑者8名を対象に6カ月間の料理実習の実験コースを実施、マルセイユの下町にあるココ・ベルテンのレストランで接客のテストケースを実施しています。

 2021年12月に、すで工事が開始され、普通のレストランと同じように厨房と40人収容のダイニングルームが設置される予定になっています。

  刑務所内から直接アクセスできる場所で、一般客は予約後、身分証明書を送り、犯罪歴等が確認された後にレストランのテーブルに着席することができます。携帯電話は、受刑者、職員、刑務所関係者の安全上の理由から、必ず受付に預けなければなりません。

 やや特殊な手続きが必要になりますが、刑務所に対する偏見や閉鎖的なイメージを払拭することも目的の一つとされています。

 また、地域社会・連帯経済会議所(Cress Paca)も刑務所側に働きかけ、プロジェクトに参加しています。

 一流シェフがサインしたメニューを、シェフ監督のもとに受刑者が腕を振るい、セミガストロノミーのラインと新鮮な旬の食材を使ったメニューが開発されます。

 「ボーメ・ Les Beaux Mets」は2022年夏に開業予定で、月曜から金曜のランチタイムのみ営業されます。

 ガストロノミーを通じて、社会的・職業的に排除されている人々や雇用から遠ざかっている人々を統合し出所前の支援体制の一躍を担う、この大胆なプロジェクトにちょっと期待するとともに、少々、不安も感じないことはありません。

 私は、フランスの刑務所というところを訪れたことはありませんが(日本でもありませんが・・)、フランスでは、生半可なことでは、刑務所に入るということはない印象・・一般客のレストラン予約には、身分証明書の提示やチェック、携帯預かりなどの厳しい制約はあるとはいえ、外部の人とアクセスできることのプラスとマイナスの面をしっかり管理できるのか?と少々、不安でもあります。

 しかし、フランス発の試みとして、その実際はまだ見えないものの、マルセイユに行くことがあったら、このレストラン・・ちょっと行ってみたい気もしています。


フランスの刑務所 レストラン ボーメ


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2022年2月1日火曜日

歯医者さんの変貌 金の扉と治療室のスクリーン

   

私が一部を支払ったと思われる歯医者さんの金の扉の一つ



 パンデミックが始まってから、今回の治療に通い始めた歯医者さん、ロックダウンのために予約が延長になったり、バカンスのために中断したり、そうでなくとも予約が変更になったりで、なんだかんだでもう1年以上が経過しています。

 そもそも歯医者嫌いで、ぐずぐず放っておいた私が悪いのですが、結局、1本は、インプラントにすることになり、出費もかさみ、時間もかかり、もう今年こそは何とか終わってもらいたい・・と願いつつも、私の方も思わぬ予定が入ったりして、予約が伸び伸びになり、今年に入って初めての歯医者さんへの通院でした。

 もういい加減ウンザリとはいえ、この歯医者さんは、家から歩いて1分のところにあるうえ、現在のところに引っ越してから、もう長い付き合いで、気心も知れていて、多少のわがままは聞いてくれたりもするし(実際に保険の都合で、昨年に全て書類上は、治療済みにしてもらったりしている)、腕は確かなので、結局のところ、ずっと同じ歯医者さんに通い続けているのです。

 昨年の夏のバカンスの後半あたりから、この歯医者さんは、改装工事を始めていて、本当は1ヶ月で終了するはずだった工事が、なんだか、ずっとバタバタ続いていて、治療室だけの場所は先に工事が済まされているものの、落ち着かない感じのまま年末を迎えていました。

 久しぶりに行って、びっくりしたのは、この歯医者さんの診療室のいくつかの扉が全てゴールドになっていたことで、その趣味は別としても、私は、内心「この金ピカのドアの一つぐらいは、私が払ってる・・」と思っていました。

 予約の時間は15時で、時間に遅れるのが嫌いな私は時間ぴったりに間に合うようにきっちり到着。前の患者さんの治療が長引いているのはいつものこと、5分ほどして、ようやく帰ったと思ったら、何だか患者さんではない人が入ってきて、バタバタしている様子・・その間、通りかかる歯医者さんが「マダム・・あと2分待ってね・・」と言いながら通り過ぎていき、また、さらに待たされることに・・(なぜか、フランス人はちょっと待ってて・・という時に「あと2分!」とか「あと1分!」とか言います・・しかし、それは、ちっとも2分でも1分でもないのです)

 時間が経つにつれて、私も携帯を覗きながら、「時間がずれるなら、近いんだから、知らせてくれれば、時間どおりになど来なかったのに・・」と少々イライラし始め、「こんなことでイライラしていては、フランスでは暮らせない・・」と自分に言い聞かせながら、待たされること約30分、ようやく診療室に入ってびっくり!治療のために置かれた、すこぶる座り心地(寝心地)のよい長椅子の斜め上には、大きめのテレビ画面が・・。

 「以前は、待合室にテレビがあったのに、今度は診療室につけたのか・・こんなところにテレビがあっても、治療してもらいながらテレビなんか見れないのに、へんなの・・」と思いながら、長椅子に腰掛けると、眩いばかりのライトがカチッとつけられ、治療が開始。

 ライトの眩しさに目をつぶりつつ、治療を始める歯医者さんとアシスタントの会話に耳を傾けていると・・「これ、ネジのサイズが合わない・・1ヶ月もかかっているのに、こんな不良品が来るわけはない」などと言っているのが聞こえてきます。何やら嫌な予感・・。

 もうまな板の上の鯉状態の私は、とにかく今日の治療が早く無事終わりますようにと祈るのみ・・どうやら、レントゲンの取り直しで、長椅子に寝たまま口内のレントゲン撮影、口の中をいじくり回されている間は、口もきけずにひたすら耐えていると、近くにあるパソコンをパチパチと操作、私がテレビだと思っていた画面には、私の口内のレントゲン写真が映し出され、どうやら、これはテレビではなく、パソコンのスクリーンであったことが判明。

  

スクリーンに映し出される私の歯


 治療中の歯医者さんやアシスタントの女性の手に遮られて見えていなかった画面に気づいて、私は、思わず画面を指差して、「なにこれ!すごいじゃない!」と叫んでいました。

 どうやら、さっきバタバタして、待たされていた間にいた工事の人たちは、このスクリーンのコネクションに来ていた人たちだったらしく、まだ治療室の外にいた彼らに向かって「私の患者さんがとっても感激してくれてるわよ!」と歯医者さんもご満悦の様子。

 私が子供の頃の歯医者さんは、ちょっと治療をするたびに、「はい、ブクブクしてください!」などと言われていたことを思い出し(今ではブクブクする必要もなくなり、口内に入れられたチューブから勝手にプシューっと水が出て、また別のチューブがその水を吸い込んでいく)、その上、今、撮ったばかりのレントゲンがすぐに目の前の大画面に映し出される様子に時代は変わったものだとしみじみ・・、画面といえば、すぐにテレビと勘違いする自分が恥ずかしい気持ちになり、延々待たされたことなど、治療のあとは忘れていたのでした。

 歯医者さんって今は、どこもこんな感じになっているのでしょうか?


フランスの歯医者


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2022年1月31日月曜日

3日に1人の割合で起こっているフランスの警察官の自殺


 24日にマルセイユで、22歳の警察官が自殺したというニュースで、俄にフランスでの警察官の自殺問題が取り上げられています。

 マルセイユ北支部に駐在する22歳の警察官の自殺は、警察長官が前週、組合や協会と面会した数日後に起きたもので、彼は勤務中に携帯していた銃を用いて自殺(警察官の場合は、この勤務中に携帯している武器(銃など)によるものが多い)しています。

 そして、彼の自殺により、フランスでは、24日の段階で、警察官の自殺が今年に入ってから9人目であることが表沙汰になり、警察組合は、「これは、3日に1人の割合で自殺者が出ている計算になり、非常に憂慮すべき問題であり、優先的に取り組む問題である」と声明を発表しています。

 これらの事件は、リール、ストラスブール、ブザンソン、シャロン・シュル・ソーヌ(ソーヌ・エ・ロワール)、ノワジール(セーヌ・エ・マルヌ)、マルセイユと次々に起こっており、この自殺の波は、危機感を持っている同僚に不安を与えており、周囲の警察官からのSNSによる発信なども相次ぎ、問題視されています。

 これまで、自殺は、「個人的な問題」として説明され、特に警察内では、問題を追求するのは、どちらかといえばタブー視され、見過ごされてきた問題を単に個人的な問題だけでなく、多様な原因が関わっていることを公にして、解決すべき問題があることを浮き彫りにしています。

 悪化する治安、度重なる暴力事件や犯罪が絶えることのないフランスで、警察官(少なくとも一般的な警察官に関する限り)は、依然として低賃金であり、たやすくはない勤務体系、頻繁な暴力への対応、時には有害な物の管理などを伴う緊張感が絶えないこの職業においては、自殺と関連すると思われる多くの困難な問題を抱えるものであることは、容易に想像がつきます。

 特にマルセイユの警察官の年齢が22歳であったということにも、メンタルヘルスを含めた警察学校での訓練で十分な武装ができているかどうかが問われています。現場の警察官であれ、捜査官であれ、彼らの肩には大きなプレッシャーがかかっており、現代の社会は、非常に複雑でもあります。

 それに加えて、警察内の上下関係の圧力は、悩める警察官をさらに苦しめています。

 2021年には、35人の警察官が自らの命を絶ったと言われていますが、まだ1月で9人とは、今年は、すごい勢いであることは、言うまでもありません。しかも、警察官の場合は、常に武器を携帯しており、それを自分に向けて使うことも容易で、昨年の警察官の自殺の半分は、この武器が使用されたものでした。



 日頃、フランスの治安の悪さを嘆いてばかりいますが、その治安を守ってくれている警察官には、常にストレスのかかる介入が繰り返されており、彼らの自殺の一因は、事件介入の心的外傷後ストレスでもあると言われています。

 日常では、人生を思い切り楽しみ、やっぱりこの人たち、ラテン系だ・・と思わされる場面が多いフランス人も警察官だけではなく、自殺は決して少なくなく、むしろ、一般的には、孤独に絶えられず、メンタル弱めの人も多く、特にこのパンデミック禍中、ストレスに絶えかねている人は少なくないのです。

 フランスでは、今年に入ってから、すでに778人が自らの命を絶っています。毎日29人が自殺し、550人が自殺を試みているという数字も出ています。これは、毎年10,500人の自殺と200,000人の自殺未遂に相当します。フランスの自殺率は人口10万人あたり14.7人で、欧州平均を大きく上回っています。


フランスの警察官の自殺問題


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2022年1月30日日曜日

クラック(CRACK)ドラッグ常用者溜まり場 パリ12区への移転計画

   


 ヨーロッパ最大の大麻消費国であるフランスにとって、最近、頻繁に問題視されているのは、クラック(CRACK)と呼ばれるコカインの一種のドラッグ(比較的安価なことから、貧乏人の薬などと呼ばれています)の急速な拡大で、当初はパリ北部(19区近辺)のスターリング広場がいつの間にか、クラックの聖地となり、クラックの売人や常習者の溜まり場になり、スターリンクラックなどと呼ばれるようになっていました。

 これらのドラッグ常用者は、暴力行為・破壊行為を起こしたりして、近隣住民との摩擦が絶えず、フランス政府は、この状況を打開しようと、200人の警察官を動員し、この場所(エオール庭園やスターリングラード庭園)のクラック常用者を別の場所へ強制的に移動させました。

 しかし、彼らを別の場所へ移動させただけでは、何の解決にもなっておらず、移動先でも再び問題となり、再度、移動を繰り返していましたが、今月25日、パリ警察は突如、プレスリリースで、ジェラルド・ダルマナン内務大臣の要請により、クラックの溜まり場をパリ12区にあるSNCF(フランス国鉄)所有の場所に移動させることを発表し、大騒動になりました。

 この9ヶ月間で3回目の引越しとなるクラック常用者の移転は、「安全なフェンスを設置するための作業が行われた後」に行われるとされていたものの、この発表は、地元の政治家や住民を驚かせました。「事前に何の相談も通告もない決定に愕然とした!この一方的な決定は、断じて受け入れることはできない!」とパリ12区や12区に隣接するベルシー・シャロントン市も大反発。

 この政府の決定は、国が地域の議員・議会を蔑ろにしていることも露呈した結果となりました。

 同時にパリ市長であるアンヌ・イダルゴが「パリ北東部からベルシーにある鉄道用地へ麻薬使用者を移動させるという警察庁長官の計画に対し、欧州人権裁判所(ECHR)に提訴する意向である」と発表。

 また、彼女は同時に、「これはクラック常用者の苦しみを解決するものではなく、パリにはいかなる居住地からも隔離された場所は存在しません。これは、近隣地域全体の平和と安全を乱すことになります。このプロジェクトには大きな問題がある。不安定な人々を鉄条網の後ろに移すことは、公衆衛生対策にはならず、何の効果もなく、何より非人道的です。」と述べています。

 この大反発の結果、パリ警察は、28日のプレスリリースで、このクラック常用者の移動を断念したことを発表しました。

 12区に近隣するベルシー・シャロントン市からは、ことさら反発が強く、パリ警察の発表から72時間、市議会総動員での激しい抗議活動の結果、断念という決断を得たことに安堵、満足していると発表しています。

 しかし、計画がはっきり中断したとの確証が得られず、不安が残る中、市民の署名活動が続いています。昨日、出かけた際に、我が家からもそう遠くない場所で「クラック移転反対」のビラ配りをしながら、署名を求めている人々に遭遇しました。


クラック常用者移転反対のビラ

  

 結局、解決策は、移転ではなく、必要なのは、薬物のケア施設で、それをせずにただ、彼らを移転させ、たらい回しを続けるだけでは、なにも改善しないのです。

 長引くパンデミックで新型コロナウィルスの感染蔓延がおさまらないだけでなく、蔓延するクラックというドラッグ問題、もはやドラッグの蔓延する場所では、ウィルスの感染などとは、別世界のようでもありますが、しかし、同じパリの住民でもあります。

 パンデミックという抑鬱された状況がさらにクラックを蔓延させたという見方もできないではありませんが、これはウィルスのように目に見えない感染ではありませんが、同じ土地に蔓延する社会問題のひとつです。

 この移転プロジェクトには、それ相応の資金が費やされているにもかかわらず、何の解決にもなっていないことや、これらの計画が当該地域の市に何の打診も相談もなく行われようとしたことに薬物だけではない不安を感じた出来事でもありました。

 また、警察の弁明もお粗末で、この現在のところやり場のない移転計画の断念で、今後も現在の場所でのクラック常用者による占拠状態が長引くことに対して、遺憾の意を示し、パリ市長であるアンヌ・アンヌ・イダルゴを避難することで責任転嫁しようとしているのも情けないことです。

 フランスは、ワクチンセンターだけでなく、薬物治療センターを作らなくてはならないのです。


クラック CRACK ドラッグ


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