2020年11月18日水曜日

保健総局長が訴えかけるロックダウン下の精神的サポートの必要性


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 昨夜、保健総局長のジェローム・サロモンが会見をするというので、「今のタイミングで彼は何を話すのだろうか?」と 思っていました。彼は、今やフランスでは、ムッシュ・コンフィヌマン Monsieur Confinement=ロックダウンおじさん と呼ばれており、1回目のロックダウンの時には、毎晩、毎晩、現れては、その日の感染状況、一日の死亡者数、ICU病床の患者数、入院患者数などを発表していたために、彼の存在そのものがロックダウンの象徴のようになってしまっているのです。

 とはいえ、当初に登場した時に比べると、彼は、ひと回り引き締まって、顔つきも厳しくなり、随分と印象も変わりました。このコロナウィルスが登場してから9カ月間に彼が直面してきた多くの厳しい状況が彼の顔に刻まれているかのような変化です。

 彼は、もともと感染症専門医で、政治家ではなく、彼がこれまで開いてきた会見も、科学的なデータと医学的見地からの発言で、ロックダウンなどの制限の詳細について発言するわけではありません。

 彼が昨夜、発表したのは、ロックダウンの効果が現れ始め、新規感染者が減少してきたこと、しかし、依然として病院のICUは、ほぼ満床状態で、地域によっては、患者の移送が必要な状況であるので、引き続き、気を引き締めて生活しなければならないということでした。

 要は、「ロックダウンをよく頑張っているね・・おかげで、ずいぶん感染のスピードが下がってきたよ・・でも、まだまだ、大変な状態だから、もう少し頑張ってね・・」ということなのです。

 ひたすらロックダウンに耐えている?国民に対して、成果が出始めたことを報告し、そのことを褒めてあげることがフランス人にはとても大切なことなのだと多くの人は言います。

 そして、彼は、感染状況に伴い、フランス人の多くが心理的苦痛を訴えていることに触れました。コロナウィルスの感染拡大により、ストレスがたまり、不安を引き起こし抑鬱状態になっている人が9月末から11月初めの間に2倍になっています。

 もちろん、経済的な問題等も大きいですが、家族や友人に自由に会えない、人と触れ合えない、ストレスを発散できないことができないことが抑鬱状態を生んでいます。個人主義と言われることも多いフランス人ですし、実際に個人主義的な考え方も強くはあるものの、その個人主義は、あくまでも人との繋がりありきの状態の上に成り立っていることが今回のコロナウィルスの危機で浮き彫りになっているような気がします。

 むしろ、個人主義と言われる彼らの方が、日常から人との会話も接触も多く、彼らのマインドを支えていたのです。

 私などは、海外生活も長くなって、自分の家族とは滅多に会えないことに慣れてしまっているし、会えないままに、もう両親も亡くなってしまったので、きっと私がロックダウンで感じているストレスは、彼らとは違うものかもしれません。

 どちらが正しいとか、どちらが良いというわけではありません。彼らの日常が彼ら自身を形成していることをあらためて、この状況が映し出しているような気がしているのです。

 ロックダウンおじさんは、他の人と連絡を取り合うこと、話すことを躊躇しないこと、一日中ニュースに繋がることを避けることなどを勧めています。

 そして「しっかり眠れていますか?」「ストレス、イライラ、不安を感じていませんか?」「集中力が低下していませんか?」「食欲はありますか?」「アルコールやタバコの量が増えていませんか?」などと、うつ病の特徴的な兆候をあげ、「これらの症状が現れたら、専門家に相談することを躊躇しないでください」と述べ、精神的なサポートを行う24時間、年中無休の専用ヘルプラインが開設されたこと(0800130000)を公表しました。

 彼の話を総合して考えるに、彼は、国民の精神的なサポートのために会見に臨んだのだということがわかります。

 ロックダウンの成果が現れてきて、頑張ってきた国民を褒め称えなければならないなど、子供じみているとか、あくまでも人と群れたがるのも、理解し難いことでもありますが、精神的に病んでしまう状況などを目の当たりにすると、それらが彼らの日常で、彼らの生活を支えている重要な部分であることを考えると、あながち冷たく否定できない気もしてくるのです。

 しかし、この感染症が蔓延している世界では、ことごとく彼らの日常は、適さないものが多すぎるのです。


<関連>

「フランスでコロナウィルスが広まる理由」

https://rikakaigaiseikatsu.blogspot.com/2020/03/blog-post_19.html


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