2021年10月2日土曜日

バイリンガル教育は簡単じゃないけど、頑張れば、その子の一生の財産になる

   


 国際結婚の場合、子供はハーフでバイリンガルになる・・と、簡単に思われがちですが、バイリンガル教育は、考えているほど簡単なことではありません。

 二つの国(あるいはそれ以上)の国籍を持っており(日本の場合は22歳までにどちらかの国籍を選択しなければなりません)、両親の母国語が二カ国語に渡る場合でも、生活の基盤は、どちらかの国(あるいは、それ以外の国)に置くことになるわけで、どうしても生活の基盤のある国の言語に引っ張られます。

 我が家の場合は、主人がフランス人、私が日本人で、フランスで生活しています。普通のフランスの学校に通っている娘にとって、フランスで生活する上では、娘にとって、日本語は全く必要はありません。

 現在はフランスも以前より、少しはマシになりましたが、フランス人は愛国心旺盛なあまりに外国語に対して排他的な感じもあり、娘が小学校入学の面接の時などは、私が日本人と知って、「うちはフランス語だけですよ!」と念を押されたことがあり、「そんなこと!わかってるわい!」とムッとした覚えがあります。

 ですから、余程、親が心して、日本語を教えようとしなければ、容易に日本語は切り捨てられてしまいます。実際に、フランスにいる日仏ハーフの子供でも日本語がほとんどできない子供もたくさんいます。

 しかし、一般的に普通に外国語を習得しようとするよりは、日仏家庭(国際結婚の家庭)やはり恵まれた環境であることは間違いありません。

 私は、娘が生まれた時から、「必ず娘が日本語を理解し、話し、読み書きまでできるようにする!」と強く思っていたので、私は、娘が言葉を覚え始める頃から、娘とは、一切、フランス語は使わず、日本語だけを押し通し、娘はパパとはフランス語、ママとは日本語、三人で話す時には、それに英語も混ざったごちゃごちゃの言語の中で育ってきました。

 もちろん、小さい頃は、彼女は英語は理解できていませんでしたが、パパとママが内緒話をする英語をいつの間にか彼女も理解するようになり、その話にフランス語で参加するようになりました。やはり、彼女は日本語もできるとはいえ、彼女の母国語がフランス語であることを私は、その時に思い知らされることになりました。

 それはバイリンガルとはいえ、どちらかの言語に軸を置くということは、その子のアイデンティティの形成上にも必要なことでもあります。

 しかし、絶対に娘にしっかり習得させると考えていた私は、母が私が子供の頃に英語を教えてくれたように、日本語のカードなどを作って、日本語を教え、毎晩、毎晩、寝る前には、日本語の絵本を読み聞かせることを続けていました。

 そして、日本語の読み書きを億劫に感じ辛くするために、フランスの学校に就学する前に、まず日本語の読み書きを教えようと、娘が2歳になった頃から、公文に通わせ始め、鉛筆の持ち方から、公文の先生に教えて頂きました。それは、私以外の日本人に接する機会を作りたかったこともありました。

 家では、10歳くらいまでは、テレビは日本語のビデオ・DVDのみ(私も仕事をしていたので、家で過ごす時間は限られていたので・・)、娘は、日本のテレビ番組(ドラマやアニメ、バラエティ番組など)で多くの日本語を覚えました。

 少し字がわかるようになってからは、日本のバラエティ番組は、話していることが字幕テロップのように入るので、わかりやすく、これはこんな字を書くのか〜などと勉強になると言っていました。(まあ、それらしいことを言ってテレビをゲラゲラ見ていることを正当化していたのかもしれませんが・・)

 小さい子供のスゴいところは、気に入ったドラマなどは、何回も何回もセリフごと覚えてしまうほど、飽きずに見続けることができることです。

 そして、毎日、毎日、学校が終わり、家に帰ってくると、私は食事の支度をしながら、公文の宿題を毎日5枚ずつ、やらせ続けました。毎年、夏には日本に娘を連れて行っていましたが、娘には、「日本語の勉強をしない子は、日本には行けないよ!」と夏の日本行きを人参のように目の前にチラつかせながら、どうにか、小学生のうちは、それを続けてきました。

 フランスの小学校では、学校の授業が終わった後に、親がお迎えに行く時間まで、エチュードといって、学校の宿題は、その時間に見てもらえるので、ある程度の年齢までは、娘はほとんど学校の勉強は、家ではせず、夜は日本語の時間にあてることができたのです。

 とはいえ、毎日毎日のこと、あまり興味のない題材のこともあれば、面倒になってしまうことも少なくありませんでした。そこは、ひたすら、親の根気です。褒めたり、宥めたりしながら、忍耐の毎日でした。

 小学校に入った頃には、夏の帰国の際には、こちらの学校がお休みになってすぐに日本へ行き、毎年、2週間ほどですが、日本の小学校に編入させていただいてもいました。同年代の日本人の子供と接することや、日本の学校の様子を体験させたかったこともありました。

 中学生になった頃、こちらの(フランスの)学校も忙しくなり、また、他の事情も多少あり、一時、公文はお休みしていた期間がありましたが、その間も、ずっと日本のテレビ番組を見ることだけは続け、変わらず私とは日本語だけの生活をしていました。

 そして、やがて、バカロレア(高校卒業資格試験)が近くなり、オプションの科目に日本語を選択することにした娘は、日本語の勉強を再び再開し、公文ではない他の日本語学校に週一回通い始めました。

 バカロレアのオプションの日本語の試験は、ある程度、日本語の下地のある子供にとっては、満点をとり、点数稼ぎができる絶好の科目でもあるのです。

 その頃になると、親がやいのやいの言わなくても自分で勉強するようになっていましたので、それから先は、彼女自身の点取虫根性が追い風となってくれました。

 そして、そんなこんなで、どうにか娘は、バイリンガルになりました。

 親の私としては、思い返せば、色々工夫したりした楽しい思い出ではありますが、同時になかなか険しい道のりでもあった、大変だったな〜と思うのに、当の本人は、日本語を覚えるために、大した苦労をしたとは全く思っていません。

 実際にある程度の年齢になってから、外国語を習得するのは、大変な努力が必要ですが、物心つく前から覚え始めた言語に関しては、あまり苦にすることなく、習得することができるのです。

 現在進行形でバイリンガル教育を続けていらっしゃる方も多いと思いますが、時には、くじけそうになることもあると思いますが、そんな時は、テレビやYouTubeでも、今はいくらでも日本語に楽しく触れることができるツールがあります。

 とにかく、どんな形でも、たとえ、ほんの少しずつでも、継続することはとても大切です。

 それは、その子にとって、一生の大変な財産になります。

 そして、一つ理解できる言語が増えることで子供の世界は広がります。

 私自身は、バイリンガルと言い切れる程ではありませんが、母が子供の頃から英語を教えてくれていたことで、英語を苦労して覚えたという記憶はありません。そんな母が私にしてくれた英語教育が私が娘に日本語を根気強く教えることを自然に植え付けてくれてくれたのかもしれません。

 いつか娘が子供を持った時、同じように子供に複数言語を教えてくれるようになることを私は、心から祈っています。


バイリンガル教育


<関連記事>

「バイリンガルに育てる方法」

「フランスの教育・学校・バイリンガル教育 ①」

「フランスの教育・学校・バイリンガル教育 ②」

「母の英語教育」

「バイリンガルのスイッチ」

「ハーフだって楽じゃない・・・ハーフの子」

「夏の帰国時の日本の学校への編入体験 バイリンガル教育の生体験」

「海外在住の日本人の子供には優秀な子が多い」

「バイリンガルになった娘の日本語 複数言語を使う生活」

「ハーフの娘の祖国 アイデンティティーの帰属」

2021年10月1日金曜日

フランスのヘルスパス 2022年夏まで延長の可能性

 



 ヘルスパスの導入により、フランスのワクチン接種率は上昇し、それにつれて、感染率も着実に低下し、集中治療室の占拠率も下がり、フランスでは、ほぼ日常に近い生活が戻ってきました。

 このヘルスパスのおかげで、これまで閉鎖されていた映画館や美術館、娯楽施設、レストラン・カフェなどにも行けるようになり、フランス国民は、夏の間のバカンスもしっかりと楽しみました。

 そして、夏のバカンスが終わっても昨年のように感染が悪化するという兆候も現在のところは、見られていません。

 この順調な回復状態に、これまで常に現状の事態に適応していくという形を取ることを約束してきた政府は、つい先日まで、ヘルスパスによる規制を地域ごとに緩和していくことを検討すると言い始めていたのです。

 しかし、それは、結局は、「検討する」と言っただけで、検討の結果、「ヘルスパスは、当分の間、継続していくべきだ」ということになったようで、29日、政府のスポークスマンであるガブリエル・アタルは、「フランスのほぼ全ての地域で感染率の低下が見られるが、だからと言って、再び上昇しないとも限らない。感染率が低下したとはいえ、ウィルスは根絶したわけではない。私たちは、ヘルスパスを2022年夏まで延長することを議会に提案する」と発表しました。


 少し前に、マクロン大統領が年末までにヘルスパスによる制約の緩和を検討していると仄めかし始めて以来、感染症の専門家、疫学者からは、「コロナウィルスの流行は秋には再開する」という警告の声をあげ始めていました。

 たしかに、現在のフランスは感染が減少傾向にあるとはいえ、1日の新規感染者は5,000人前後、集中治療室の1,609人を含めた7,726人が入院中です。これは、感染率が減少傾向にあるとはいえ、ウィルスは確実に循環し続けていることを意味しています。

 秋から冬になり、さらに気温が低下し、感染が再び上昇傾向に向かうことも十分に考えられ、また新たな変異種が出現しないとも限りません。

 現在、屋外はともかく、パリのメトロやバスの中は、ほぼ全ての人がマスクをしていることを私は、なかなか意外だなぁと思って眺めています。(交通機関内等ではマスク着用は義務化されているので、当然といえば、当然なのですが、それをきっちり守り続けていることがフランスでは驚くべきことなのです。)

 しかし、それは、出かける先々で求められているヘルスパス生活から、ある一定の緊張感が保たれているおかげではないか?と思っているのです。

 ほぼ日常の生活に戻ったとはいえ、それはヘルスパス規制の上で成り立っている以前に近い日常生活であり、まるで無防備でいるのとは違います。

 再び、感染悪化のリスクがある以上、ヘルスパスを解除してリスクを冒し、再び、レストラン・カフェ・店舗が閉鎖になったり、夜間外出禁止になるよりも、多くの人は、このままヘルスパスのシステムを続行することを選ぶでしょう。

 ワクチン接種さえしていれば、ヘルスパスの提示は、さほど煩雑な作業でもなく、それが習慣になりつつある現在では、それほど差し障りがあるものではありません。

 また、マクロン大統領にとっても、7ヶ月後に大統領選挙を控えて、今後の感染対策の失敗は許されません。

 多くの国民でさえも、再び、ロックダウンか?ヘルスパス続行か?と問われたら、ヘルスパス続行の道を選ぶに違いありません。


<関連記事>

「締めたり緩めたり・・フランスの感染対策のさじ加減とその背景にある死生観」

「フランスが秋には第4波を迎えるリスク 政府から送られてきたSMSのメッセージ」

「フランスのヘルスパスは成功したのか?」

「コロナウィルスの感染は、明らかに気温が影響している ドイツの食肉処理工場で1500人感染」


2021年9月30日木曜日

マクドナルドの水が呼び起こす大論争 Eau by McDonald's

 


 フランスでは、マクドナルドが環境問題を理由に年末までにプラスチックボトルの販売を取りやめる代わりに、精製水を販売することで、大論争が起こっています。

 「マクドナルドでは、水道水が利益の源」「今世紀最大の詐欺」大手新聞社の見出しもなかなか辛辣なタイトルを掲げています。

 現在、フランスのマクドナルドでは、コカコーラを始めとするオレンジジュースや清涼飲料水は、紙コップで販売されていますが、同時にそれ以外のミネラルウォーターやスパークリングウォーター(エヴィアンとバドワ)に関しては、その品質保持のためにペットボトルで販売されていました。

 マクドナルド側は、これまでフランスのマクドナルドでは、平均して7500万本のボトルが販売されており、この新しい取り組みにより、1,000トン以上のプラスチックの消費を抑えることができると4月22日のプレスリリースで発表していました。

 しかし、このミネラルウォーター、スパークリングウォーターに代わるものとして、マクドナルドが新たに販売している水 Eau by McDonald's(オー・バイ・マクド)がマスコミによる隠しカメラで撮影したマクドナルドのレストランのマネージャーの証言を含む取材により、マクドナルドで販売されている水が濾過された水道水に他ならないことが発覚し、騒ぎになっているのです。

 このEau by McDonald'sは、紙コップで提供され、25clカップの静水は1.70ユーロ(約220円)、50clで2.30ユーロ(約300円)、ライムフレーバーバージョンでは、2.75ユーロ(約360円)で販売されています。

 通常、フランスのレストランでは、水道水は無料で提供されるものであり、それを濾過しただけのものに金を取るとは何事であるか?と多くの消費者が怒っているのです。

 

 「パリの水道水の値段は、1リットル0.003ユーロ、Eau by McDonald'sは1リットル7ユーロ!」こんなツイートも出回っています。

 「Eau by McDonald's」はマクドナルドの実際の生産コストをはるかに超えている!「理論的には、水道水はメニューに付随している限り、レストランでは無料である必要がある!」

 マクドナルドはすでにプラスチック製のストローの配布を控えることで、地球に大きな一歩を踏み出し、ハッピーミールの子供向けに無料で配布されているおもちゃからもプラスチック製品を取り除くことを約束しています。

 しかし、この「Eau by McDonald's」がプラスチックの使用を減らすという生態学的な試みに代替するもののに、実際のクォリティーを超える価格設定がなされ、過剰な経済的利益と結びついていることが大論争の的になっています。

 「マクドナルドでは、間違いなく濾過され、炭酸と風味が付けられた水道水が売られている!」などという内部告発も相次ぎ、火に油を注いでいます。

 しかし、この情報を知った上で、嫌なら(不当だと思うなら)、買わなければ良いだけの話ですが、逆に、フランスでのエビアンとバドワのブランドの所有者こそが大きなクライアントを失ったことで大打撃を受けることは確実です。

 しかし、文句があれば黙って引き下がらないフランス人。1967年に制定された法令では、レストラン経営者が食事のサービスで無料で水道水のデカンタを提供することを規定していることを引っ張り出し、競争総消費詐欺管理局(DGCCRF)は、「食事の価格には、パン、水道水、スパイス、食器、ナプキンなどが食事中に顧客が利用できる料金が含まれていることになっている」と主張しています。

 ワクチンパスポートのシステムが浸透し、ようやく外食が普通に楽しめるようになった途端に、このマクドナルドの水問題。

 今後、このような環境問題を配慮する上で、プラスチック製品を排除していこうとする中、マクドナルドだけでなく、他の場面でも摩擦が生まれてくるかもしれません。


<関連記事>

「食品廃棄物防止・減少へのフランスの取り組み スーパーマーケットの食品廃棄物防止のラベル」

「ゴミの捨て方に見るフランス人のモラル フランス人には、箱を潰して捨てようとか、そういう観念はない」

「フランスのスーパーマーケットからレシートが消える」

「2021年冬からのテラス席の暖房を禁止するフランス」










2021年9月29日水曜日

シャンゼリゼのアップルストア Apple Store Champs-Elysées

 



 先日、期間限定で幻想的なアートでラッピングされているという凱旋門を見に、久しぶりにシャンゼリゼに出かけた時に、たまたまアップルストアがあるのに気がついて、「そういえば、私の壊れているパソコン・・放ったらかしにしたままだった・・」ことを思い出しました。

 私のパソコンが壊れたのは、よりにもよって、ロックダウンのさなかのことで、お茶を飲みながら、パソコンのそばに置いたままにしていたお茶のカップを猫が見事にこぼしてくれたのでした。

 パソコンに液体は大敵だと知りながら、置き去りにした私が悪かったのですが、今さらながら、パソコンがないと、こんなにも困ることなのかと私は、呆然としたのでした。 

 誰かと連絡を取るのも、何かを申告するのも、お金の振り込みなどの銀行の手続き、買い物、映画を見たり、YouTubeを見たり、何から何まで私はパソコンに頼って生活するようになっていたことを思い知らされたのでした。

 しかも、それがロックダウンという家から出られないという前代未聞の状況の時に、携帯電話はあるものの、パソコンの大きな画面とキーボードについつい頼ってしまう私には、絶望的な状況でした。

 すぐに電源を切って、乾かしてみたりしたのですが、結局パソコンは復旧せず、慌てて、古いパソコンを引っ張り出してきて、なんとか代用し、新しいパソコンをネットで注文して買ったのでした。

 新しいパソコンを使い始めてしまえば、壊れたパソコンは、急いで修理に出す必要もなく、そのまま置き去りにしたまま、ずっと忘れていました。

 それをシャンゼリゼでアップルストアを見つけて、「そういえば・・」と思い出し、「修理できるかどうか、聞いてみよう!」と足を踏み入れたのでした。

 大体、そのパソコンは、日本に行った時に購入したもので、それがいつのことだったかも私は覚えておらず、保証書もどこにしまったのか見当たらない状況でしたが、聞くだけ聞いてみよう!と思ったのです。

 だいたい、パソコンを買うのにふつう、アップルストアには行かないので、考えてみれば、大多数が観光客のこの場所に、なぜ、こんなところにアップルストアがあるのかとも思いましたが、事情を話すと、予約をとって、壊れたパソコンを持って出直してくださいとのことで、その場で予約を取ろうとすると、1週間は、予約が満杯とのことで、一週間後に入れた予約の日にパソコン持参で出かけてきたのです。

 娘には、なんで?わざわざシャンゼリゼ??と呆れられましたが、「どうせ散歩がてらに出かけるなら、歩いていて気分のいいところがいいもん!」と出かけてきたのです。

 店内、1階(地上階)には、多くの店内を案内する人員が配置され、最新のアップルウォッチやiPhoneなどがゆったりと展示され、そこそこのお客さんが入っていました。

 

地上階中央・吹き抜けのスペースでのアップルウォッチのプレゼン

 案内係の人を捕まえて、パソコンの修理のための予約を入れていることを告げると、修理は上の階ですと言われ、中央の階段を何段上がったでしょうか? 店内中央は大きく吹き抜けになっているため、上の階へ行くためには、旧建の階段を延々と登っていかなければなりません。

  

アップルストア店内 吹き抜け部分の天井はガラスで外の光が入る

 しかし、建物自体が歴史ある建築で、それが美しく改装されているため、長い階段もあまり苦になりません。

 上の階に上がり、予約が入っていることを伝えると、ここでお待ちくださいと言われて、待つこと15分程度、名前を呼ばれて案内された先は、長いテーブルと等間隔に置かれた椅子の置いてある開放的なスペースで、個々が個室に入ることはありません。まことに合理的なシステムです。


こんな感じで相談が進んでいきます


 案内してくれる人々も、相談に乗ってくれる人も年齢層が比較的低く、手際良く、質問に対する回答も明快でスピーディーで、ここが本当にフランスなのか?と思うほどでした。

 「パソコンにお茶をこぼして、起動しなくなってしまったこと。それがロックダウン中のことで、新しいパソコンを買ったためにそのまま放ってあったこと。このパソコンは日本で買ったもので、だいたいそれがいつだったのかも覚えておらず、保証書も失くしてしまったこと」などを私がざっと話すと、「あなたのパソコンは、2016年12月16日に最初に起動されています」と言われて、びっくり!

 そして、「私が知りたいのは、このパソコンを修理することが可能なのかどうか?そして、可能だとしたら、費用はいくらぐらいかかるのか?ということなのです。」というと、「はっきりと修理可能かどうかはやってみないとわかりません。しかし、後になってから、悪い形であなたを驚かせたくないので、修理した場合に、最高に高かった場合の金額をお伝えします」と・・。

  

応対してくれた親切なイケメンのお兄さん 全てipadで進めていく

 私が壊してしまったパソコンは現在は既に製造されていないとのことで、最悪の場合は、879ユーロかかると伝えられました。せいぜい200〜300ユーロ程度だとたかをくくっていた私は、まだ払ってもいない段階で既にびっくり!

 「念のため、一番安く済んだ場合はどの程度ですか?」と聞くと、500ユーロ程度とのこと。

 これなら、少し足して、新しいパソコンを買った方が良さそうだと思い、即刻、私は、「それなら、もう諦めます」と伝えました。

 すると、親切に、「パソコンの中のハードディスクのメモリーで保存しておきたいものはありますか?」との申し出をしてくれて、ハードディスクの取り出しだけなら無料でやってくれるとのこと、「そのディスクからメモリーを他のパソコンに取り込むことは、ここではできないから、このサイトをみて、必要なものを用意して、自分でやってみてください」とそのためのサイトまで教えてくれました。

 ということで、結局、修理は叶わなかったものの、メモリーだけは、なんとか復旧できるかもしれない・・という少しの希望だけ持って、私は、お店を後にしたのでした。

 お店を出て、改めて、周囲を眺めて、その立地を考えると、それはシャンゼリゼの中腹の一等地中の一等地。向かいには、ルイ・ヴィトンのビルが聳え立ち、その隣には、この間、びっくりしたばかりの改装中のディオールの大きな建物があるところです。

 アップルストアの中では、一般大衆向けに新しい製品のプレゼンなどもやっていたりしましたが、観光客が中心のこのシャンゼリゼという通りで彼らがアップルの製品をわざわざパリで買い物するということも考えづらいのにも関わらず、こんな場所に存在しているということは、マウンティングの一種なのだろうか? とお店を出て、あらためて通りからお店を振り返って思ったりもしたのでした。

 もっとも、たまたま通りかかった?私のような修理目的の客からも1台900ユーロ近い修理代が取れるのですから、そんな悪い商売でもないかもしれません。念のため、とても親切に相談に応じてくれた店員さんに、1日、どのくらい修理の依頼があるのですか?と聞いてみると、1日300件程度とのことでした。

 修理とはイメージが程遠いシャンゼリゼではありますが、さすがに地の利の良い場所だけのことはあります。転んでないけど、ただでは起きない・・そんな感じです。


シャンゼリゼ アップルストア

 

<関連記事>

「シャンゼリゼ・ラッピングされた凱旋門とディオールの躍進」

「フランスの未来は若者が変える」

「コロナウィルス・ロックダウン中のインターネットのない世界」

「シャンゼリゼで起きていたマカロン戦争」

 

2021年9月28日火曜日

2021年バゲットコンクール優勝・グランプリ獲得のバゲット Le Grand Prix de la baguette de tradition française 2021

  

バゲットコンクール・グランプリを獲得したお店はいたって普通のパン屋さん


 毎年、パリでは、バゲットコンクール(Le Grand Prix de la baguette de tradition française)が開催され、その年の最高のバゲットが選ばれ、グランプリ・優勝したバゲットを作るパン屋さんは、賞金4,000ユーロを獲得し、その年、一年間、そのバゲットはエリゼ宮御用達のバゲットとなります。

 パリ市によって行われるこのバゲットコンクールは今年で28回目を迎えます。


 このコンクールに出品されるバゲットは、サイズは55〜70 cm、重さは250〜300グラム、塩分は小麦粉1キロあたり18グラムという厳しい規定をクリアしていなければならず、その上で、味、香り、焼き上がりの外観など総合的に判断されます。

 厳しい審査のために、今年は、測定、計量、塩分チェックの段階で、54本のバゲットが審査から省かれてしまったそうです。

 そして、今年、出品された173点のバゲットの中から、見事、グランプリを勝ち取ったのは、パリ12区で Les boulangers de Reuillyを営む42歳のパン職人でした。

 彼は、審査の結果の報告を受けて、「最初は、冗談かと思った・・信じられなかった・・しかし、父も私もずっとパン作りをしてきた。この結果を非常に誇りに思っている」と語っています。

 これまでにコンクールでグランプリを獲得したパン屋さんには、「〇〇年のバゲットコンクールグランプリ獲得」というパネルが掲げられ、その店舗の栄誉をその後、何年にもわたって、誇りにしています。

 パリに来て以来、さすがにパンを食べる機会が格段に増え、その中でもバゲットは、フランス人の主食と言って良いほどの存在で、さすがに美味しいものも多く、フランスで、一番簡単で、手軽で、美味しいものは、パンとバター、チーズ・・だと思っている私にとって、その年のグランプリを取ったバゲットを見過ごすわけにはいきません。

 昨日、グランプリを取り立てホヤホヤのそのパン屋さんに、さっそく、そのバゲットを買いに行ってきました。

 近くまで行って、「あれ?たしか、この近所に数年前にバゲットコンクールでグランプリを取ったパン屋さんがあったはず・・」と思いつつ、今年のグランプリを取ったお店を見つけましたが、それは、あまりに普通のお店で、まだコンクールでグランプリを取ったことも何も表示されておらず、ごくごく普通の風情で逆にそのことに驚いたくらいでした。

  


 お昼時だったためか、特にグランプリを取ったからと言って私のように野次馬根性で訪れている感じの人も見当たらず、周囲のお客さんたちは、普通にサンドイッチやパン・オ・ショコラなどを買っているので、なんだか、「ホントにここ??」と何度もお店の名前を確認してしまったほどです。



 しかし、それが特別きらびやかなお店でもなく、ごくごく普通のどこにでもありそうなパン屋さんであったことは、逆に好印象で、その、今年のフランスのバゲット界の栄誉に輝いたバゲットを買うときも、「これが、グランプリを取ったバゲットなの?」と確認すると、「ちょっと恥ずかしそうに、「そうですよ!」と微笑むお姉さんに、「まぁ、おめでとうございます!」と言うと、嬉しそうに「ありがとうございます!」と顔を赤らめて答えるあたり、その素朴な感じがますます微笑ましい感じでした。

 グランプリを獲得したそのお店のバゲット・トラディショナルは、1本1.2ユーロ(約150円)で、わりと大ぶりで、何よりも、受け取った時から、その香りの良さは、家に帰るまで食べるのを我慢するのが苦しい感じでした。

  

見事、今年のグランプリに輝いたバゲット・トラディショナル

 焼きたてのバゲットの程よく焼けた部分と適度に空気を含み、中は絶妙なしっとり具合とモチっとした感じは、さすがに絶品のバゲットでした。

  

あえてナイフを使わずちぎったバゲットの断面

 個人的には、塩分がもう少しあっても良いかとも思いましたが、とりあえず、今年最高のバゲットをさっそく食べることができて、大満足でした。

 日本ではフランスパンとまで呼ばれるバゲットは、フランスの伝統的な食文化の代表選手でもあり、その文化を競い合わせ、毎年毎年、最高のバゲットに称号を与えることは、フランスの伝統文化の継承に大きく寄与しています。

 日本にもしも、このようなコンクールがあったなら、マスコミが囃し立てて、大変な騒ぎになっていそうなところ、静かにいつもどおりに営業しているパン屋さんに、かえって地に足がついた奥深さをしみじみと感じたお店の雰囲気と同じの素朴な味のバゲットでした。


⭐️Les Boulangers de Reuilly

 54 Boulvard de Reuilly 75012 Paris 月〜土 6:00~21:00 日曜休み 

 メトロ6号線 Bel-Air または、Dugommier

 

       


パリ 2021年バゲットコンクール


<関連記事>

「フランスに来てからの食生活の変化」

「チーズとバゲットが好き過ぎるフランス人の夫」

「娘の初めてのおつかい 近所のパン屋さんの超絶美味しいバゲット」

「フランスでの日常の食料品の買い物 ② フランスのチーズ等 料理せずに簡単に食べられる食品」

「パンの国フランス・パリで大成功した日本のパン屋さん・ブーランジェリー AKI(アキ) Boulangerie AKI」

「パリの日本の食パンブームの波 Carré Pain de Mie カレ・パン・ドゥ・ミの日本の食パン」

2021年9月27日月曜日

ヘルスパスのQRコードのオンライン上の盗難と偽造QRコードへの警告

  


 ヘルスパスにより、日常を取り戻しつつあるフランスですが、ヘルスパスの登場とともに出現したのは、偽造ヘルスパスの販売や、ヘルスパスQRコードのオンライン上での盗難事件です。

 そもそも、偽のワクチン接種証明書(QRコード付き)がSNSで出回り始めたのは、ヘルスパスが起用されるよりもずっと前からの話で、ワクチン接種が広まり始めた6月の時点で、すでに大問題になり、実際にそれにパリの病院の看護師が加担していたことなどが発覚したりしていました。

 SNS上では400〜500ユーロで販売されていると言われている偽造ワクチン証明書に加えて、ワクチン証明書(ヘルスパス)QRコードがオンライン上で盗まれるというケースまで登場し、フランス国民健康保険機構は、現在までのこの不正なヘルスパスの数は、約36,000件にも上っていると見積もっています。

 先日もマクロン大統領とカステックス首相のヘルスパスのQRコードがSNSに流出し、二人のヘルスパスが新しく作り直されたという話が物議を醸していましたが、このケースは、実際にそれを使用するためには、あまりに有名人すぎて、多分に嫌がらせや挑発的な意味があったように思われますが、実際に一般人も知らないうちに、オンライン上で自分のQRコードが盗まれているということは、充分にあり得ることなのです。

 そもそもヘルスパスのチェックは、(例えばレストランなどの入店の際などでも)非常に簡単なもので、自分の携帯に保存したQRコードをかざして、お店の人が同様に携帯で、ピッピッと読み込むだけで、詳しい内容などは、チェックしていません。

 ヘルスパスのQRコードには、名前と生年月日、接種したワクチンの種類と2回目のワクチン接種の終了日が記載されているだけのものなので、本人確認も行われない(IDカードとの照合など)ため、正直、私のヘルスパスを誰か別の人が使用しても、全くわからないのです。

 まあ、せいぜい、性別、年齢などで、明らかに違いがある場合は、気がつかれる可能性もないではありませんが、これまで私がヘルスパスを提示した際には、ヘルスパスの内容を詳しく見られたケースなどは一度もなく、盗まれたヘルスパスを使用していてもほとんど発覚しないのではないかと思ってしまいます。

 マクロン大統領やカステックス首相のように、盗まれたヘルスパスがSNS上で出回ったりすれば、すぐに発覚しますが、一般市民の場合は、盗難にあったことさえも気づかない可能性があります。

 しかし、マクロン大統領のヘルスパスを盗んだ犯人はすでに確定されているようで、追跡をすれば、犯人特定は可能なことのようです。

 とはいえ、不正に使用されたヘルスパスは、無効になるため、その場合は、新しいヘルスパスを作り直す必要があります。


 フランス政府は、この偽造ヘルスパスやヘルスパスの盗難に際して、盗難にあった可能性のあるヘルスパス所持者に向けて、その事例を報告し、現在のヘルスパスを一旦無効にしてから、新しいヘルスパスを作り直すように呼びかけています。

 I Tの進歩で私たちの生活は格段に便利になり、現在フランスで行われているヘルスパスのチェックなども非常に簡単にできるようになりましたが、技術が進歩すればしたで、必ず登場する裏で不正を行う存在は、家に押し入られて何かを盗まれるような盗難とは別のタイプのもので、盗難に遭っているかどうかもよくわからない気味悪いものでもあります。

 フランスでの予防接種証明書(ヘルスパス)の不正使用は、45,000ユーロ(約585万円)の罰金と3年の懲役で罰せられます。


ヘルスパス盗難 オンライン上盗難


<関連記事>

「ネット上で広まる偽のワクチン接種証明書・QRコード販売に、パリの病院の看護師が加担していた!」

「日本のワクチンパスポートはフランス入国後、そのままヘルスパスにはならない」

「日本のワクチンパスポートの不思議」

「フランスでのヘルスパスの浸透状況」

2021年9月26日日曜日

11週目のヘルスパス反対デモ・動員数大幅減少 

   


 ヘルスパス反対のデモは、11週目を迎え、未だ続いているものの、動員数は、内務省の発表によれば、63,700人と大幅に減少しています。

 ヘルスパスの起用が発表されたのが7月12日、ヘルスパス(ワクチン接種2回摂取済証明書、72時間以内のPCR検査の陰性証明書、6ヶ月以内のコロナウィルス感染証明書)がないと身動きが取れなくなるような、限りなくワクチン接種義務化に近いような内容に、国民は、慌ててワクチン接種に走り、また政府の強制的なやり方に反発を感じた人々は、バカンス期間中にも関わらず、異例のデモが始まりました。

 一時は、21万人を超える全国的な規模の(8月7日がピークだった・・)デモの拡大に、これは、皆がバカンスから戻ってきたら、デモは一体、どれほどのものになってしまうのかと思いきや、8月中にワクチン接種率が急激に上がり、それにつれてウィルスの感染率もみるみる低下を始め、ヘルスパスの結果が表れ始めるにつれ、デモは毎週、続いているものの、動員数は、少しずつ減少していきました。

 結果的に、当初、反対していた人々も「背に腹はかえられない」というのが正直なところで、実際に結果が出始め、ほぼ日常の生活を取り戻し始めると、ヘルスパスに反対する理由がなくなってしまったのです。

 結果として、人々が望んでいたのは、ヘルスパス云々以上に、コロナ前の日常を感染者を増やすことなく取り戻すことで、それが達成されつつある以上、このヘルスパスを認めざるを得ないことになったのです。

 2回のワクチン接種の間には、一定期間をおかなければならないので、その間は、PCR検査を受けることで、なんとかヘルスパスを保持することも可能だったわけですが、現時点では、国民の83.2%がワクチン接種済みで、それさえも必要なくなってきたわけです。

 このヘルスパスが実際に起用されてからは、年齢による猶予期間を設けることや職域にわたるヘルスパスの義務化に猶予期間が設けられ、また、9月半ばには、医療従事者のワクチン接種の義務化という、いくつかのハードルがあったわけですが、その度に、「もしかしたら、デモがヒートアップするかもしれない・・」という心配をよそに、それでも、ワクチン接種率は順調に上昇し、逆にデモは、縮小していく結果となりました。

 この後、10月半ばには、PCR検査の有料化というハードルが待っていますが、今となっては、ほぼヘルスパスのためにPCR検査を受け続けている人はごく少数で、しかも事情があってワクチン接種を受けること(アレルギー等で)ができない人や、実際に自覚症状が見られる人などに対しては、医者の処方箋があれば、これまでどおり検査は無料で受けることができるため、大した反発を生むとは考え難い状況です。

 フランスでのヘルスパスは、国民をワクチン接種に向かわせるためのものであったと同時に、実際に人の集まる場所や飲食店等での感染回避の役割も果たしていたわけで、この一筋縄ではいかないフランス国民をよくもここまで導き、結果を出したと感心するばかりです。

 ヘルスパスの制度は、スタートしてから、その適用範囲の増減など若干の修正を加えながら進められてきましたが、今後は、さらにコロナ前の日常に近づける方向に向けて、修正されていくものと思われます。

 ワクチン接種率が8割を超えた現在は、大規模なワクチン接種場も閉鎖されていく見通しです。

 今後の問題は、2回のワクチンの有効性が下がり始めるという時期の見定めと3回目のワクチン接種に関してですが、悲観的に考えれば、6ヶ月間程度と見られているワクチン接種の有効性が下がり始める時期が、大多数の人がワクチン接種を受けた7月〜8月の半年後、真冬のウィルスが一番活発化する時期と重なることです。

 しかし、これまでの、時には、かなり強引でもあった経験を踏まえて、臨機応変に対応していってくれるのではないかと思っています。


フランス ヘルスパス反対デモ


<関連記事>

「締めたり緩めたり・・フランスの感染対策のさじ加減とその背景にある死生観」

「フランスのヘルスパスは成功したのか?」

「10週連続のヘルスパス反対デモと3,000人の医療従事者の停職処分と戻ってきた日常」

「パリの成人のワクチン接種率98% フランス全土でトップ」

「フランス政府の何があっても押し通すチカラ」

「フランスは、ヘルスパスがないと身動きが取れなくなる! 義務化という言葉を使わない事実上の義務化」