2021年9月23日木曜日

締めたり緩めたり・・フランスの感染対策のさじ加減とその背景にある死生観

   


 ワクチン接種の拡大とヘルスパスにより、コロナウィルス感染が鎮静化しつつあるように見えるフランスは、今度は、ヘルスパスによる制限を緩和していくことを検討しつつも、そのさじ加減に慎重な態度を保っています。

 フランスは、9月15日から医療関連就業者に対して、ワクチン接種の義務化を決行し、3,000人にも及ぶ停職処分となった人々までいますが、逆に?ヘルスパスによる行動制限は、地域ごとに緩和させていく方向で検討を進めているようです。

 しかし、また現段階では、ワクチン接種が遅れて開始されたために猶予期間を与えられていた12歳〜17歳の未成年に対して、9月30日から、大人同様にヘルスパスが適用されることが発表されています。

 そして、それとほぼ同時に、10月4日からは、感染発生率が少なくとも5日間で住民10万人あたり50例未満である地域の小学校では、生徒、教師ともにマスク着用の義務を撤廃することを決定しています。

 これに関しては、教職員組合はその措置について意見が分かれており、おそらく保護者側からも賛否両論の意見が上がってくるものと思われます。

 たしかに、12歳以下の小学生が一日中、マスクをしながら学校生活を送ることは、きついことに違いありませんが、12歳以下の小学生については、現在のところ、ワクチン接種ができていない年齢でもあるため、より慎重な対応が求められる気がします。

 こうして、小学校でのマスク義務化を撤廃したり(地域ごとによる条件付きで)、逆にヘルスパスが求められる年齢層を広げたり、制限を緩和しているのか、強めているのか、理解に苦しむところでもあります。

 現在は、ワクチン接種率が81.7%にまで上昇してきたこともあり、街中に設けられたPCR検査場はどこもガラガラで、あまり検査を受けている人を見かけなくなってきたものの、10月16日からは、今まで無料で行われていたPCR検査が有料化されます。

 これだけワクチン接種率が上昇すれば、PCR検査が有料化されても、大勢に影響はない気もしますが、それでも、ヘルスパスによる制限のために、検査を受け続けていた人々(ワクチン接種をしていない場合)は、お金を支払って検査を受け続けて凌ぐか、ワクチン接種をするかに追い込まれていきます。

 結局は、ワクチン接種の義務化に限りなく近い状況が現実化するわけです。

 しかし、ワクチン接種をしているからといって、感染のリスクは減少するとはいえ、感染しないということではないことから、実際の感染者はもっといるとも考えられます。

 けれども、入院患者数、集中治療室の患者数も減少している現状を考えれば、たとえ、感染していても、重症化しなければ良いと考えられているのかもしれません。

 実際にワクチン接種をしても感染しているケースなど、それ以上のことまで考えていては、大きな感染対策への対応は進まないので、一先ず、医療崩壊を起こさない状態を保つことを第一義として考えていることも理解できます。

 過去にこのパンデミックにおいて、深刻な医療崩壊状態を迎えた経験があってこそのフランスの強めの対応なのかもしれません。

 私は、医療に携わっているわけではないので、はっきりとしたことは言えませんが、これは、フランス人の死生観とも関係があるのではないかとも思っています。

 つまり、あくまで、最期まで力を尽くそうとする日本とフランス人が考える「もうこれは、助からない、ダメだ・・」という判断をするラインが違うのではないか?と思うのです。

 今まで、私の周囲(フランスで)で亡くなっていった人(コロナウィルス感染によるものではない)の最期を考えると、ある時点で、医師側が、あっさり死を受け入れるような気がしています。決して早々にさじを投げるというわけではありませんが、もうこれはダメだ・・と判断するラインが日本とは違うような気がしているのです。

 昨年の3月から4月にかけて、フランスが医療崩壊を起こした時期には、それはもう、医療体制が充分であれば、助かったはずの命が多く失われてしまったことは、まさに惨憺たる状況でしたが、その時にやれるだけやって、ダメなら仕方がないと思う境界線が日本とは、違うような気がするのです。

 その違いが、この制限を締めたり緩めたりの、微妙なさじ加減にも影響しているような気がしてならないのです。最初から、全てを完璧には求めずに、ある程度の犠牲を覚悟の上で、事が進められている気がします。

 もちろん、できるだけ犠牲者を出さないために、ワクチン接種を拡大したり、常に国民に対して、理解を求め、説得しようと賢明な努力を続けていますが、感染対策や医療体制とともに、常に生きている人々の生活の質も追求し続けている・・そんな感じでもあります。

 死ぬまで生きるために・・。


フランスのヘルスパス フランス人の死生観

 

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