2021年9月8日水曜日

フランスでのヘルスパスの浸透状況

   


 フランスのヘルスパスについて取材してほしいというご依頼を頂いて、パリの街で、ヘルスパスがどんな風に使用されているのかを改めて、見て歩いてきました。

 7月12日のマクロン大統領のヘルスパス起用の発表は、夏のバカンスを前に、ワクチン接種は義務化しないとしながらも、事実上、ワクチン接種に追い込む内容は、かなり衝撃的でもありましたが、一部の反感も買ってはいますが、結果的にこれをきっかけに多くの国民がワクチン接種を急ぎ始める大きな転換の機会となりました。

 あえて、それをワクチンパスポートとはせずに、ヘルスパス(Pass Sanitaire)とすることで、ワクチン接種だけを強要する形ではなく、その許容範囲に72時間以内のPCR検査の陰性証明書や、6ヶ月以内にコロナウィルスに感染した証明書でも、ヘルスパスとして通用するという猶予を設けたのも、いきなり「ワクチン接種を義務化」というよりは、若干ではありますが、ソフトにする役割を果たしたかもしれません。

 実際にヘルスパスが起用され始めたのは、7月21日からで、それから、徐々にヘルスパスが必要となる場所を拡大していきましたが、バカンス期間中ということもあり、「バカンス先でもワクチン接種を!」などと呼びかけながら、ワクチン接種率は上昇してきました。

 それでもヘルスパス反対のデモは、8週連続で続いていますが、これがもし、72時間以内のPCR検査などで代用できるという緩さが含まれていなければ、フランス国民の反発は、もっともっと大変なものになっていたのではないか?と思っています。

 なんといっても、フランス人は大人しく、ハイ!と従う人ばかりではありませんから・・。

 私自身、ヘルスパスのシステムが発表された時点で、すでにワクチン接種が2回終了していたので、PCR検査を受けたこともなく、今でも人の集まる場所には、ところどころ見られるPCR検査場(簡単なテントが張られて囲いがしてある場所)や薬局で、どの程度、検査をしている人がいるのかは、あまり気にも止めていませんでした。

 しかし、昨日、「ワクチン接種をできない(していない)人がどんな風にPCR検査を受けているのでしょうか?」とのお問い合わせを頂いて、あらためて、検査場の様子を見て歩くと、意外にも?検査をしている人がおらず、既に、フランスでは、ヘルスパスをワクチン接種をする代わりにPCR検査で凌いでいる人が少なく、ある一定の通過点を過ぎたという印象を受けました。

 一時は、パリで行列ができる場所といえば、検査場という感じの時もあったので、そんな時はもう過ぎたのだということを実感しました。

 現在、街中にあるPCR検査場に行列はなく、行列どころか誰もいなく中で待機している人が暇そうに携帯をいじっていたり、下手をすると、既に待機しているはずの人も居なかったりして、検査キットが取り残されたまま、もぬけの殻のところもありました。

 たまに検査に来ている人に「ワクチン接種をしていないのですか?」と聞いてみたら、「まだ、ワクチン接種が1回しか済んでいないので・・」という答えが帰ってきて、なるほど・・と思わされたり、1回の接種が終わって2回目の接種を行うまでのしばらくは、期間をあけなければならないわけで、この検査をしにきている人もじきに検査はいらなくなるわけで、これからますます検査場は、人が少なくなっていくものと思われます。

 しかし、検査場に入って聞いてみると、ワクチン接種をしている人でも検査は同様にできるということでしたが、渡航の際などは必要な場合があるものの、日常生活を送る分には、ワクチン接種をしていれば、まずPCR検査は必要ないわけで、感染して症状が出ている場合を除いては、そうそう検査を受けに来る人はいないのです。

 それでも、現在のところ、フランスでは、国民健康保険加入者は、全て無料で検査を受けることができ、検査場にあるQRコードを読み込んで、健康保険ナンバーを入力して登録すれば、検査結果が携帯に15分程度で送られてくるようになっています。(10月半ばからは医師の処方箋がない限り有料化することが決定しています)

 逆に考えれば、たとえ、感染していても、ワクチン接種さえしていれば、どこへでも行くことができ、普通の日常生活が送れるわけで、その点に関しては、少々疑問も残るところではありますが、一般的にワクチン接種をしていれば、感染率も重症化率も低くなり、何よりも、ヘルスパス起用の一番の目的がワクチン接種の拡大であることを考えれば、そこまで窮屈にするのは不可能、むしろ反感を買って、逆効果になるかもしれません。

 現在のフランスのワクチン接種率は、79.2 %(少なくとも1回は接種済み)で、これが、世間的にどの程度なものかが、検査場の様子を見ることで、具体的に実感することができました。

 それでも、まだヘルスパス反対のデモを続けている人は、一定数いるわけで、どうしてヘルスパスに反対するのか?は、もちろん、ワクチン自体に懐疑的な人(副反応が怖い、ワクチンの必要性を理解できないなど・・)もいますが、必ずしもワクチン接種に反対というよりも、政府の強行的なやり方が気に入らない・・嫌なこと(ワクチン接種)はできるだけ先延ばしにしたいと考えている人も多く、強制されること、縛られることが嫌いなフランス人の国民性によるものであるとも言えます。

 いずれにせよ、フランスでのヘルスパスは、概ねスムーズに運んでおり、レストランやコマーシャルセンターなどでのヘルスパスチェックも携帯でQRコードを読み込むだけでスイスイ進み、大した時間も手間もかからずに、大多数の人がこれによって、ほぼ日常と同じ生活を取り戻していることに満足しています。

 いつまでも、自粛自粛だけを繰り返すことは賢明な解決策ではなく、日本もある程度、ワクチン接種率が上がってきたタイミングでワクチン接種をした人が日常生活を取り戻すことができるというメリットがあれば、さらにワクチン接種率は加速度的に上がっていくのではないかと思っています。


フランスのヘルスパス


<関連記事>

「フランスは、ヘルスパスがないと身動きが取れなくなる! 義務化という言葉を使わない事実上の義務化」

「日本のワクチンパスポートの不思議」

「フランスのアンチワクチン・アンチヘルスパス論者の言い分」

「日本のワクチンパスポートはフランス入国後、そのままヘルスパスにはならない」

「パラリンピック閉会式に見る日本とフランスの温度差」

0 コメント: