2019年6月14日金曜日

バイリンガルのスイッチ




 娘が二歳から十歳までは、毎年、夏休みには、日本に行っていました。そして、日本でいう小学校就学の年齢からは、ほんの1〜2週間でしたが、実家の近くの公立の小学校に通わせていただいておりました。

 やはり、どんなに絵本を読み聞かせようと、ビデオを見せようと、テキストをやらせようと、実際の日本語社会に浸ることには叶いません。

実際の生の日本語の世界に2〜3週間浸ることで、娘の日本語は、格段に上達しました。

 短期間の日本滞在にもかかわらず、娘の日本語は、みるみる上達し、私の日頃の努力がバカバカしく感じられ、母に嘆いたこともありました。母は、”あなたが頑張ってきた下地があるからこそよ・・”と励ましてくれましたが、やはり、見るもの聞くもの全て日本語という世界は、スポンジのような吸収力を持った年頃の子供には、多大な効果をもたらしたと思います。

 私の両親をはじめ、親戚から私の友人まで、それはそれは、娘のことを可愛がってくれたので、娘も日本にいるのが楽しくて仕方ないようでしたし、”ちょっとフランス語、喋ってみてよ!”などと言われても、娘は日本では、決して、人前でフランス語を話すことはありませんでした。

 それでも、時々、トイレやお風呂に一人で入っているときに、ブツブツとフランス語で独り言が聞こえてくることがありました。やはり、日本語だけの世界というのもそれなりのストレスが彼女なりにあったのだと思います。それが、トイレとお風呂って、何だか笑えちゃいますよね。

 そして、楽しい日本滞在もあっという間に終わって、パリに戻ると、空港には、パパがウキウキと迎えに来てくれていました。しかし、娘は、まるで、”お前のせいで、フランスに帰らなくちゃいけなかったんだ!”と言わんばかりの仏頂面で、帰りの車の中では、時差ボケもあるのか、パパが話しかけても、一言も口をききませんでした。

 困ったもんだと呆れていると、家に着いて、アパートのドアを開けた途端にペラペラとフランス語を話し始めたのです。普段、生活しているアパートの中の風景が彼女のフランス語のスイッチを入れたような感じでした。

 まだ、幼かった彼女は、彼女なりに車の中の時間は日本語とフランス語のスイッチの切り替えに必要な時間だったのかもしれません。

バイリンガル

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