私たちは、パリに引っ越してくる前は、RER(パリの郊外線)でパリまで一時間ほどの郊外に住んでいました。例えば、日本だったら、通勤圏一時間以内なら、御の字でしょうが、こちらは、交通事情が日本のように、正確でもなく、四六時中、故障だのストライキだのと問題が多いため、一時間の通勤は、長い方ではないかと思います。(電車の連絡が悪かったりすると、最悪です。)
実際、この通勤時間で、小さい子供がいるとなると、職探しにも、なかなか、苦労しました。
それでも、私たちが住んでいた場所自体は、緑も多く、パリより少し、離れているだけで、のどかで、人も少し、ゆったりした感じの方々が多く、娘の行っていた保育園などは、家の近くの巨大な公園の中にある、空気も良い、自然環境抜群の保育園でした。
エコールマテルネル(幼稚園)に入った時も、学校のフェット(お祭りのような催し物)があると、みんなが大きな親戚のように、親しく集まって、みんながお菓子を焼いてきたり、私も巻き寿司を作って持って行ったりしました。
中には、バンドをやっているミュージシャンのお父さんなどがいたりして、フランス人のある程度の年代の人なら誰でもが知っているであろう、ジョルジュ・ブラッサンスの Les copains d'abord (レ・コパン・ダボー)という曲をみんなで大合唱して、とても、暖かく、楽しい時間を過ごしたりした思い出があります。
毎朝、幼稚園に送りに行くと、コートとリュックサックを決まった場所にかけ、室内履きに履き変えたところで、私は、娘をおいて、帰ります。
娘が4歳くらいの時だったでしょうか?
ある朝、私がいつものように、娘を幼稚園に送っていくと、一人の可愛い男の子が私の前に現れ、姿勢をただして、スッと手を出して、握手を求めながら、私に言いました。
”ボンジュール、マダム” と。
いきなり現れた小さな可愛い男の子に、”この子は、多分、娘の同級生なのだろうなぁ〜” と思いながら、私も”ボンジュール ムッシュー” と返しました。
すると、次の瞬間、彼は、スッと背筋を伸ばして、娘の背中にそっと手を回して、一歩前に出て、”Elle est ma copine. 僕の彼女です。”と礼儀正しく、私に挨拶したのでした。
これには、私は、度肝を抜かれました。
フランスの子供ってこういうもんなのか!?って・・・。
あまりのその子の礼儀正しさに、こちらの方が圧倒され、目がまんまるになりました。
それにしても、あの子は、なぜ、私にわざわざ挨拶に来てくれたのでしょうか?
子供っぽい無邪気な感じでもなく、小さいのに、とても紳士的だったのが、凄く印象的でした。
そして、これがまた、すごい美少年だったものですから、そのあと、こちらも何となく、ニンマリしてしまいました。
あれ以来、その子の話題は全く上がらず、いつの間にか忘れかけていました。
今になってみると不思議ですが、その少年が挨拶したのが、ヤキモチ焼きのパパでなく、私で良かった・・と同時に思ったことを鑑みるに、意識的に主人がその話題を避けていたのかもしれません。
それ以来、娘が進級する度に、クラスの集合写真に写る子供を、くまなくチェックするのですが、あの時以来、全くもって、娘のクラスには、美少年が存在していないことを母の私としては、とても残念に思う次第であります。