この間、スーパーマーケットに買い物に行ったら、レジで私の前に5歳くらいの男の子が並んでいて、気がつけば、彼は一人でレジに並んでいました。彼がレジのベルトコンベアーの前に置いているのは、数個のパンが入った袋だけでしたが、手にはゴールドカードを1枚、握りしめていました。
スーパーマーケットのレジの近くには、つい追加してしまいそうになるガムやキャンディ、チョコレートなどが置かれているのは、どこの国も一緒で彼もまた、その中のチョコレートバーに魅了され、手にとって、それをしばらく見つめていました。
パリで小さな子供が一人で買い物に来ているということは、非常に稀なことで、そもそも一人で外出させるということはあまりないのです。
家庭によっても多少は差があるとは思いますが、小学校卒業までは、学校の送り迎えをするのが普通で、我が家の場合、朝学校に送って行って、仕事が終わって学校に迎えに行って帰ってくると、もう夜7時過ぎくらいにはなってしまうので、学校が終わって友達と遊ぶということもなく、学校がお休みの日はお稽古事などに追われているわけで、それも全て送り迎えが必要で、一人で出歩くということはまずなかったのです。
たまにお友達のお誕生日会などに呼ばれてお友達の家に行く時も、必ずお友達の家まで送って行って、また終わる頃にまた迎えに行く、もしくは、招待してくれたおうちの人が家までおくってくれるという感じなので、一人で買い物に行くとか、寄り道をするとかいうことは、少なくとも小学生のうちは、ありませんでした。
なので、買い物に行くことはあっても、必ず家族の誰かと一緒なわけで、一人で買い物をするという、日本でいう「はじめてのおつかい」のような体験はありません。
しかし、娘が小さい頃に、一度、お店で何か一人で買い物をするということをさせてみたくて、一緒にパン屋さんに行った時に、1ユーロのコインを娘に渡して(あの頃は1ユーロでバゲット1本買ってもお釣りがきた・・)、「バゲット1本買ってきて!焼けすぎていないやつ(「Une baguette pas trop cuit s'il vous plait」)ってちゃんと言うのよ!」と言って、ちょっと離れたところで見守っていたことがありました。
娘は最初は躊躇っていましたが、意を決してパンを手に入れ、どこか満足そうにしていた記憶があります。
私の前にレジに並んでいた男の子に、「ん??一人??」と思っていた私は、次の瞬間、彼がチョコレートバーをつかんで「これ買ってもいい?」と控えめな声で少し離れたところにいるお母さんに尋ねているのに気がつきました。
一人で買い物に来ていたのかと思いきや、いつかの私のように、少し離れたところでお母さんがしっかり見守っていたのです。
お母さんは、しっかり口を結んで、「ダメダメ・・」と首を横にふると、彼は「これ、90セントだよ!」とさらにもう一声、それでも、ママは毅然として、「ダムダメ・・」と・・。彼は諦めてチョコレートバーを棚に戻していましたが、そんな光景を見て、なんだか、懐かしいような、微笑ましいような、そんな気持ちになりました。
しかし、今は子供に買い物をさせるにもゴールドカード、しかもサインも暗証番号も必要ないし、軽くカードをかざすだけで決済が済んでしまうので、おつりの計算も心配もいりません。
なるほど、昔はお金を預かって「お釣りを間違わないようにね・・」などと言っていた子供のおつかいも、今はひどく簡単になりました。
一方、カードなら、余計なものがいくらでも買えてしまうので、頼んだもの以外は頑として買わせないというのは、現代のこどもの「はじめてのおつかい」には、必要な訓練なのかもしれません。
私も最近は、すっかり現金は使わなくなり、現金を使って買い物をするということは、1年に1〜2回あればいいほどで、何かの時のために少額の現金は持っているものの、そういえば、お釣りのことなど考えることもなくなりました。
しかし、こうして「子供のおつかい」などを見ていると、お金を握りしめて、お釣りの計算をしたりする・・そんなアナログな時代も、それはそれでよかったな・・という郷愁のようなものを感じるのです。
はじめてのおつかい ゴールドカード
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