2024年11月21日木曜日

EUメルコスール(南米南部共同市場)自由貿易協定にフランス人は反対している

  


 フランスでは、年初の農民たちの怒りのデモから半年以上が経って、再び、この農民のデモ行動が再燃し、EUメルコスール(南米南部共同市場)自由貿易協定についての議論が高まっています。

 一つには、農民たちのデモの要求の大きな一つは、このEUメルコスール(南米南部共同市場)自由貿易協定(ラテンアメリカ・アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ、ボリビア)への強い反対です。

 これは、フランスだけでなく、欧州全体としての協定とされているため、欧州全体の意思統一が求められるのですが、現段階で、このメルコスール自由貿易協定に正面から反対を唱えているのは、フランスだけで、フランスはこの件に関するEUの中での同盟国を捉えるのに苦労しているようです。

 しかし、メルコスール自由貿易協定に関しては、大多数のフランス人が異議を唱えており、フランス人の76%が反対しています。また、これは、政界においても、こんなに意見が一致するのは珍しいと言われるほど右派も左派も政府内でも満場一致で反対しています。

 マクロン大統領もまた、欧州選挙前には、このメルコスール自由貿易協定に関して、「ミラー条項(フランスやヨーロッパの農家に求められているのと同じ環境基準を第三国に課すこと)の実施なしには、決して協定にサインしない」と約束しています。

 このメルコスール自由貿易協定は、農業に関する貿易だけではなく、自動車や高級ブランド品などの他の産業にも関わることであり、この協定が合意に達すれば、メルコスールと欧州の間の関税が90%削減されるというメリットが大きいものではあり、時に、「自動車のための肉」などと風刺されることもあります。

 特にこのメルコスール問題を語る際に例に挙げられるのは、「肉」なのですが、すでに、ウクライナとの間の関税が撤廃されていることもあったりして、国内の畜産農家は大きな痛手を負っています。

 また、農産物に関しても、フランスでは、環境問題や健康問題対策のために厳しく規制されている農薬や飼料などの基準が高いために、とても、その基準は無視されて育てられている農産物(畜産物も)の低価格には、到底、太刀打ちできずにいるのです。

 しかし、この協定を受け入れることは、競争力のある産業にとっては、ありがたい話なわけで、それが「自動車のための肉」などと言われる所以です。

 なにしろ、このメルコスール市場は、2億8,000万人の消費者を抱える巨大市場、この市場がどのように管理されるかは、大きな問題でもあります。

 また、タイミング的にアメリカではトランプ大統領が当選したことから、アメリカとの貿易のハードルが上がる気配に、欧州全体としては、これに代わる市場としての期待がより高まっているようです。

 こんな欧州全体の流れにもかかわらず、フランスが反対を唱え続けている理由としては、前述したように、圧倒的な民意を得ていることもあります。また、必ず敗者が出る自由貿易に疑問を投げかけているということもあります。

 この民意に関してはフランス人の国民性が根底にあるとも思われ、「フランス人はフランスの農業と食料に対する愛着があり、誇りを持っており、そんな農業が危機に瀕している・・フランス人は極めて困難に直面している人々への強い共感を抱く」というところにあるように思います。

 また、環境問題、食料の安全問題を保護してきたフランス国内にエストロゲン入りの鶏肉などの、これまで危険因子から守ろうとしてきたフランスの国策を破壊するような低価格の農産物や産業材料などがなだれ込むことになる危険もあります。

 しかし、同時にフランス人は現実的にも見ていて、この反対あるいは、フランスの農業を守るミラー条項に関する交渉をマクロン大統領が成し遂げることは難しいと考えている人が66%で3人に2人は、あまり結果は期待していません。

 実際に、これに反対するには、フランスは欧州内で少なくともEUの人口の35%にあたる4ヵ国の同意を集める必要があるのですが、見通しは暗いようです。

 こうなると、弱い者にシワ寄せがいくことに歯止めが効かなくなりそうで、人気が低迷しているマクロン大統領に怒りの矛先が向きそうな気がしてきます。

 多くの案件について、欧州の中でリーダー的立場を取ろうとしてきたマクロン大統領ですが、今回のメルコスール問題については、苦戦しているようです。


EUメルコスール(南米南部共同市場)自由貿易協定


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