すったもんだの挙句に開催されたパリのサロン・ド・アグリカルチャー(国際農業見本市)の初日、大反発する農民たちに一人で立ち向かって話し合いの場を設けたマクロン大統領がその場で農民たちに約束した内容の一つに「農産物の下限価格設定」があります。
この模様は、全国放送で生中継されていたため、これは、全国民に向けて大統領が約束、公言したことになります。
この下限価格設定の概念は、もう長い間、農業団体が要求していることで、13年間にわたり、俎上(そじょう)に上っては、却下され続けているものであるようです。
この下限価格の設定は、農業収入を保護し、農民たちに不利益を与えずに保護するためのものであり、農業生産コストの指標に基づいてその下限価格を設定することは、当然のことだと思うのですが、それがなぜこんなに長い間、却下され続けてきたのかは、大きな社会の仕組みの問題でもあります。
農業組合によれば、これらの指標は、ある程度、存在はしているものの、実際の生産物の商業交渉ではこれが尊重されていないのが現状であると言います。これらの下限価格は、「農民たちの収入を保証するものであり、彼らが平均生産コストを下回って販売する義務はない」とされていますが、販売する義務はないといったところで、生産物は、販売できなければ、無駄になるだけで、買い叩かれても販売せざるを得ないのが現状なのです。
この問題に一番に名前が挙がるのは酪農農家とラクタリス(乳製品を主に扱うフランスの巨大食品メーカー)の問題です。ラクタリスは、フランスの食品メーカーとしては、首位の座を勝ち取っている大企業でありながら、非上場企業であり、また社名は製品には表示されていないため、業績や規模のわりには、一般消費者の間での認知度は比較的低い会社でもあります。
しかし、実のところは、プレジデント(バターやチーズ、クリームなどなど)、ラクテル(ミルク)、ブリデルを始め、この会社の多岐にわたる製品を見ると、誰もが知っている、どれもあたりまえのようにフランス人の食卓に上っているものばかりです。
ラクタリスは、この下限価格設定に最も否定的な会社の一つであると言われており、彼らの言い分によれば、「下限価格が上がれば、フランス製品は、競争力を失い、国際市場を失うことになる」と述べており、また、経済学者の見立てによれば、「大手流通業者などは、下限価格の設定があれば、それ以下の価格での海外からの物資の調達を躊躇いはしないため、意味のないことになるであろう」という見方もしています。
しかし、ラクタリスの繁栄は、ひとえにフランスの酪農家の犠牲のうえに成り立っていると思うと、苦々しい思いしかありません。
また、欧州委員会の一部のメンバーによれば、「この下限価格の設定は、欧州の法律や単一市場の概念とは全く相容れない、他の加盟国は望まないことだろう」との見方をしている者もいます。
そもそも生産コストは地域、国によって大きく異なることは現実であり、ユーロという同じ通貨とはいえ、その通貨の価値(物価)は、国によって全く異なることからもその問題は明白でもあります。
マクロン大統領があの国際農業見本市開催を盾にとられたカタチで農民たちに約束した「下限価格設定」の約束が、早くも空約束になるのではないか?との声も上がっています。
農産物の下限価格設定
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