2024年2月28日水曜日

パリのメトロは乗客に病人が出ても停車しない?

  


 イルドフランス交通の規制当局であるIDF(イルドフランス)モビリテスの社長ヴァレリー・ペクレス氏は、「今後は、地下鉄の交通を妨げないよう、今後、車内で病人が出た場合に地下鉄を停車しない」と発表し、またRATP労働組合の反発を呼んでいます。

 一瞬、ギョッとする話ではありますが、停車しないというのは、長時間停車しないという意味で、病人を最寄りの駅でおろして、駅で対応するということです。

 これまでは、例えば、車内で気を失ったりする人が出た場合のために、病人を動かすこと自体がリスクになることがあり得るために、基本、病人には、触れずに救急隊の支持を待つ間、電車を停めて、待機するという方法がとられていたそうです。

 これは、オリンピック期間中に予想される大規模な利用者増加により数多く起こると想定され、パリの公共交通機関の危機、特に地下鉄交通の異常事態に対応するためのプロトコールとして発表されています。

 これに対して、RATP労働組合は、「これは、体調が悪くなった乗客の健康に対するリスクが増大し、倫理的に問題がある」とこの決定を非難しています。「そもそも、駅の職員は、救命処置の訓練を受けていないのだ!」と。

 これがオリンピック期間限定の対応なのか?それとも、今後も継続されるものなのかは、不明ですが、病人をとりあえず、車内から降ろすことがそんなに大騒ぎになることなのか?と思わないでもありません。しかし、通常、パリのメトロのホームには、基本、駅の職員はいません。

 さすがに、ホームにはいなくても駅には職員がいるので、緊急事態が起これば、おりてきてくれるでしょうが、大きな駅ならばともかく、ふつうの駅ならば、あまり大勢の駅員はおらず、大勢のRATPの職員を見かけるのは、キセル乗車のチェックの時くらいです。

 しかし、私は、25年以上、パリのメトロを利用させていただいてきましたが、メトロ内での病人に遭遇したことはありません。むしろ、電車が停まってしまうのは、不審物発見の場合やプロブレム・テクニックなどの事情がよくわからない停車(これは決して少なくない)がほとんどです。

 ただし、オリンピック時の100万人は超えると言われている観光客を想定した場合は、病人だけでなく、怪我人、事故なども充分に考えられる事態にどう対応するか?ということへの一つの指針なのだと思いますが、通常でさえも、やたらと停車することが多いパリのメトロにそれだけの耐性があるかどうかは、甚だ疑問に思うところで、これは、メトロだけでなく、至る場面で想定できるキャパオーバーの問題です。

 さすがに、不審物発見の際には、電車は停車させると言っていますが、不審物を見極めるための約20頭の犬隊やAIを利用し、10分~15分以内に不審物の撤去に役立てるとしていますが、そもそも、パリ市内の道路でさえも、かなりの混乱が予想されるなか、この犬たちは、どうやって不審物のある駅にやってくるのでしょうか? 

 パリは小さな街なのです。全ての競技をパリで行うわけではなくとも、オリンピックの中心になるとなれば、それはそれは大変な混乱に陥ることは確実です。

 そして、以前よりはマシにはなりましたが、一般的には、フランス人はキビキビと働くことに慣れていない人々です。混乱には、すぐにパニックを起こしがちでもあります。

 でも、彼らは心優しく、転んだりすると、ちょっと恥ずかしくなるくらい、どこで見ていたのか?とビックリするほど、「大丈夫?」と駆け寄ってきてくれる人が表れたりする面もあります。

 おそらく、この期間、パリ市内は、日常のパリ市民よりも観光客が大半を占める状態になると思います。具体的な一つ一つのことは、今の段階では想像がつきにくいのですが、その一つ一つ、例えばメトロ、例えばバスなどを考えるとどう考えても異常事態に陥ることは必須です。

 パリ市内を走っているバスなどもオリンピックを見据えてのことなのか、新車に切り替わっている車体が増えているのですが、これがまた、以前よりも狭くなっているものも多く、どういう対応を考えてのことなのか?首を傾げるところでもあります。

 これから、オリンピックが終わるまで、ずっとこういう変化が続き、またその変化を素直に受け入れる国民ではないため、そのたびにストライキやデモが起こるかと思うとそれだけでもウンザリするところでもあります。


パリのメトロの病人


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