2024年2月1日木曜日

農民たちの怒りが巻き起こす波紋

  


 いくつかの欧州の国で巻き起こっている農民の怒りがフランスの農民の間でも一大ムーブメントになり、フランス全土の農民たちが怒りの抗議行動を開始しはじめてから、2週間以上が経っています。

 農民たちは、全国各地で結集を続け、トラクターや藁の束や土などを使って、全土の主要高速道路をブロックしています。

 これまで、あまり注目されなかった農民たちの悲惨な訴え、農業に対する厳しい規制や環境問題対応やインフレ、フランスの基準を満たしていない輸入品の増加などなどにフランス国民も概ね、彼らの怒りを理解し、支持する声が多いようです。

 フランスでのデモ行動は珍しいことではないし、それが暴動に繋がったりすることも珍しくないので、それに比べて、今回の農民たちのデモ、結集は比較的、おとなしいと思っていました。

 しかし、この動きも長引くにしたがって、彼らの中にはやはり暴挙に及ぶものもあらわれはじめ、ランジス国際市場に結集していた一部?の農民たちが市場内に押し入り、そのうち79人が器物損壊で逮捕されたという話が上がってきました。

 農民たちが「パリへ!」「空港やランジス市場をブロックする!」と宣言し始めて以来、ランジス市場には、物々しく装甲車が待機、農民たちをブロックしていましたが、あくまでも、破壊や負傷がない限りは介入しない姿勢をとっていました。

 また、果物や野菜などの外国製品(輸入品)を積んだトラックもデモ参加者によって、積み荷を道路に捨てられたりすることも起こり、暴力的な行動も増えつつあるようです。

 政府はこの農民の怒りを理解し、対応しようと「非道路用ディーゼルエンジンの増税の廃止」や「農家に対する規制に対する当面の簡素化」や「有機農家に対する5,000万ユーロの緊急援助基金」、「不正な輸入品に対する取り締まり、罰則の強化」などの回答を示していますが、農民はこれでは、まったく充分ではないと、この抗議行動を続行しています。

 基本的には、農民の怒りを支持する人が多いとはいえ、これだけ長くなってくると、あちこちに影響が表れ始め、スーパーマーケットでは、輸送のための交通網が麻痺しているために欠品が少しずつ出てきているとのことで、また、ブロックされている高速道路のガソリンスタンドなどは、当然、車が通れないために、顧客が来なくなり、開店休業状態になっています。

 農民たちとて、こんなに長期間、農場を放って、高速道路で寝泊まりしているわけですから、畑や動物たちは、大丈夫なのかな?とも思いますが、追いつめられた生活をしている彼らにとっては、このままでは、農業は続けられない!という命がけの覚悟でもあり、また、せっかく世論まで味方についている今、引くに引けない状況なのかもしれません。

 しかし、農民たちの間でも意見の相違はあるようで、このデモ行動に有機農家は参加していないようです。彼らはデモを行っている農民たちの要求の多くの部分を共有しているものの、全く同じではないため、それを混同されるリスクは冒すことはできないとしています。

 彼らは有機農業確立のためのよりよい援助を求めており、これは、欧州連合の新しい共通農業政策(CAP)と農業のグリーン化というその目標にかなったことであり、環境に優しい農業を行っている農家に対する援助の確立も含まれています。

 一応、先週の段階で政府は有機農家に対する5,000万ユーロの緊急基金を提示していましたが、彼らによると、一農家あたりにして、833ユーロにしかならないということで、「これではタイヤの値段にもならない・・」とこの金額が全く不十分であると主張しています。

 農業のグリーン化などときれいごとを言っても、実際には、早々簡単にいく話ではなく、また、このインフレから、消費者のオーガニック製品離れが起こっており、売り上げは減少傾向にあるとのこと、厳しいことには変わりありません。

 有機農家は、「私たちは、古い自由主義的で輸出モデルを支持するか、水、気候、生物多様性、健康を守る製品をフランス人に食べさせることを目的とした新しいモデルを支持するか、選択を迫られる時期にある!」と語っており、たしかに、一般的な農民たちとは、また別のステージに立つ部分もあるのかもしれません。

 いずれにせよ、一大農業国であったはずのフランスの農業は、たしかに上手く回っていないことだけはたしかなようで、これを機に、フランスの農業が再構築されていくための方策を政府がしっかりとってくれたらいいなと思います。


フランス農民の怒り


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