エリザベス女王の突然の訃報に、その日は1日中、想像以上に大騒ぎだったフランスに、ちょっとビックリしていたら、そのイギリス王室フィーバーはその翌日もまた、さらに続くことになりました。
気がつけば、各テレビ局のメインキャスターは、ほぼ、全てロンドン、あるいはスコットランドに飛び、イギリスから生中継。いくら遠くはないとはいえ、メイン級のキャスターがこぞって翌日には現地入りするとは、ものすごいテンションです。
また、フランス国内でも朝からマクロン大統領がパリのイギリス大使館に弔問に訪れ記帳する様子や在仏イギリス大使の発表を生放送で放送。その後、王位を継承したチャールズ3世がバルモラル城からロンドンに移動する様子を生中継。
また、バッキンガム宮殿に到着して、カミラとともに、国民から送られた花束や手紙を見て歩いたり、弔問に訪れてくる市民と親しく握手しながら、時にはハグをしたりする様子を流しながら、ずっとイギリス王室の模様を実況中継していました。
エリザベス女王が25歳で王位を継承したのとは対照的に、チャールズは73歳にして、ようやく王位を継承したのです。あらためて思うに在位70年の威力というのは、国内外ともに、大変な存在感のあるもので、少なくとも70歳以下の全ての人々にとっては、生まれた時から、イギリスの王はエリザベス女王しか知らないわけで、その間、フランスでは8人の大統領が交代し、本国イギリスではもはや歴史の教科書に登場するようなウィンストンチャーチルという歴史上の人物の時代から15人の首相が交代してきた長期間、彼女は王位に君臨し続けて来たのです。
これまでの世論調査でもチャールズは決して好感度が高くなく、母親のエリザベス女王は81%、息子のウィリアム王子77%にも大きく差をつけられている56%の支持率と王室の中でも最下位に近く、ダイアナ妃が抜群に人気があった分だけ、一連の不倫騒動、離婚、そして結果的にダイアナ妃が悲劇的に亡くなったことによって、彼はダイアナ妃を愛する国民の目の敵になっていた感もあります。
あまりの不人気に、一時は、チャールズをすっ飛ばして、エリザベス女王の後は、ウィリアム王子が王位を継承するのではないか?などと言われていた時期もありました。
フランスでも、エリザベス女王の在位中から、何度となく、彼のこれまでの行状をルポルタージュした番組で「残念な皇太子」のような報道が流され続けて、エリザベス女王が亡くなったら、イギリスはどうなってしまうんだろうか?と思わせられる感じでした。
おそらく、そんな経緯もあって、世界中から敬愛されていたエリザベス女王の後を彼がどのように受け継いでいくのかは、それが上手くいこうといくまいと、逆に上手くいかない可能性も高いと見られていたからこそ余計に注目を集めたのかもしれません。
だからこそ、チャールズ3世が王位に着任して以来、最初のスピーチは、なんとフランスのマスコミまでが、固唾を飲んで見守る感じでした。
その日のチャールズ3世の様子を現場で伝えているリポーターたちは、むしろ前のめり気味で、彼の王としての最初の1日を弔問に訪れた市民と距離を縮めて、スキンシップなども含めて触れ合う様子に、「彼のこれまでのイメージを払拭する第一歩を切った!」と興奮気味に伝えてもいましたが、紙面を見ると、「本来ならば、73歳という引退する年齢にようやく王位についたチャールズ3世は・・ようやく・・」などと初っ端からキツめの見出しをつけている新聞などもあります。
注目された彼のスピーチでは、「エリザベス女王へ女王として、また母親としての生涯への感謝、そして、ハリーやメーガンも含めた彼の家族への期待」を語りました。
誰が書いたスピーチ原稿なのかは不明ではありますが、これはまことに上手くできている原稿で、特に最後の一文には、ダイアナ妃へのメッセージも含まれていたことも話題になっています。
「天使の歌声があなたを安息に導いてくれますように・・」
「May flights of angels sing thee to thy rest」はダイアナ妃の葬儀で演奏された作曲家ジョン・タヴナーの作品『アテネの歌』の歌詞に引用されている一節でもあるのです。
それにしても、イギリス国民はもちろん、フランスまで多くの人が熱狂的に王室の訃報に接して、エリザベス女王の生涯の軌跡を辿って敬意を示したりしているのを見ると、王室、皇室というものを保ち続けているということが尊い財産であることのように思えてきます。
フランス人は、やたらと「歴史的な瞬間」という言い方が好きだなぁ・・と思うことが多いのですが、長い歴史を保ち続けている王室や皇室というものは、それを失ってしまった国にとっては、もう再び作りようのないものでもあるのです。
文化的に異なっているとはいえ、日本の天皇陛下の皇位継承の儀などは、フランスでもかなり高い注目を集め、絶賛されていました。「古式ゆかしい」皇室の行事などは、文化遺産でもあり、一見、意味がわからないようだけど、継承すべき文化なのではないか?と今、あらためて思うのです。
この民主主義の世の中に政治とは関係なく、信仰とはまた別の形で、国の中で圧倒的に尊ばれる国の象徴的な存在としてあり続けるということが、この不安定な世の中で、人々の心の拠り所のようなものの一つでもあり得るのかもしれません。
王族、皇族に生まれついた方々には、自由もなく、誠に生きにくいことかとお気の毒な気もするのですが、だからこそ、その不自由な境遇の中でも、イギリス王室のように、不倫騒動や離婚、さらには王室を離脱してしまう人まで現れる逆に人間っぽいドラマもフランス人を惹きつけているのかもしれないと思ったりもするのです。
チャールズ3世 イギリス王室
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