2022年2月1日火曜日

歯医者さんの変貌 金の扉と治療室のスクリーン

   

私が一部を支払ったと思われる歯医者さんの金の扉の一つ



 パンデミックが始まってから、今回の治療に通い始めた歯医者さん、ロックダウンのために予約が延長になったり、バカンスのために中断したり、そうでなくとも予約が変更になったりで、なんだかんだでもう1年以上が経過しています。

 そもそも歯医者嫌いで、ぐずぐず放っておいた私が悪いのですが、結局、1本は、インプラントにすることになり、出費もかさみ、時間もかかり、もう今年こそは何とか終わってもらいたい・・と願いつつも、私の方も思わぬ予定が入ったりして、予約が伸び伸びになり、今年に入って初めての歯医者さんへの通院でした。

 もういい加減ウンザリとはいえ、この歯医者さんは、家から歩いて1分のところにあるうえ、現在のところに引っ越してから、もう長い付き合いで、気心も知れていて、多少のわがままは聞いてくれたりもするし(実際に保険の都合で、昨年に全て書類上は、治療済みにしてもらったりしている)、腕は確かなので、結局のところ、ずっと同じ歯医者さんに通い続けているのです。

 昨年の夏のバカンスの後半あたりから、この歯医者さんは、改装工事を始めていて、本当は1ヶ月で終了するはずだった工事が、なんだか、ずっとバタバタ続いていて、治療室だけの場所は先に工事が済まされているものの、落ち着かない感じのまま年末を迎えていました。

 久しぶりに行って、びっくりしたのは、この歯医者さんの診療室のいくつかの扉が全てゴールドになっていたことで、その趣味は別としても、私は、内心「この金ピカのドアの一つぐらいは、私が払ってる・・」と思っていました。

 予約の時間は15時で、時間に遅れるのが嫌いな私は時間ぴったりに間に合うようにきっちり到着。前の患者さんの治療が長引いているのはいつものこと、5分ほどして、ようやく帰ったと思ったら、何だか患者さんではない人が入ってきて、バタバタしている様子・・その間、通りかかる歯医者さんが「マダム・・あと2分待ってね・・」と言いながら通り過ぎていき、また、さらに待たされることに・・(なぜか、フランス人はちょっと待ってて・・という時に「あと2分!」とか「あと1分!」とか言います・・しかし、それは、ちっとも2分でも1分でもないのです)

 時間が経つにつれて、私も携帯を覗きながら、「時間がずれるなら、近いんだから、知らせてくれれば、時間どおりになど来なかったのに・・」と少々イライラし始め、「こんなことでイライラしていては、フランスでは暮らせない・・」と自分に言い聞かせながら、待たされること約30分、ようやく診療室に入ってびっくり!治療のために置かれた、すこぶる座り心地(寝心地)のよい長椅子の斜め上には、大きめのテレビ画面が・・。

 「以前は、待合室にテレビがあったのに、今度は診療室につけたのか・・こんなところにテレビがあっても、治療してもらいながらテレビなんか見れないのに、へんなの・・」と思いながら、長椅子に腰掛けると、眩いばかりのライトがカチッとつけられ、治療が開始。

 ライトの眩しさに目をつぶりつつ、治療を始める歯医者さんとアシスタントの会話に耳を傾けていると・・「これ、ネジのサイズが合わない・・1ヶ月もかかっているのに、こんな不良品が来るわけはない」などと言っているのが聞こえてきます。何やら嫌な予感・・。

 もうまな板の上の鯉状態の私は、とにかく今日の治療が早く無事終わりますようにと祈るのみ・・どうやら、レントゲンの取り直しで、長椅子に寝たまま口内のレントゲン撮影、口の中をいじくり回されている間は、口もきけずにひたすら耐えていると、近くにあるパソコンをパチパチと操作、私がテレビだと思っていた画面には、私の口内のレントゲン写真が映し出され、どうやら、これはテレビではなく、パソコンのスクリーンであったことが判明。

  

スクリーンに映し出される私の歯


 治療中の歯医者さんやアシスタントの女性の手に遮られて見えていなかった画面に気づいて、私は、思わず画面を指差して、「なにこれ!すごいじゃない!」と叫んでいました。

 どうやら、さっきバタバタして、待たされていた間にいた工事の人たちは、このスクリーンのコネクションに来ていた人たちだったらしく、まだ治療室の外にいた彼らに向かって「私の患者さんがとっても感激してくれてるわよ!」と歯医者さんもご満悦の様子。

 私が子供の頃の歯医者さんは、ちょっと治療をするたびに、「はい、ブクブクしてください!」などと言われていたことを思い出し(今ではブクブクする必要もなくなり、口内に入れられたチューブから勝手にプシューっと水が出て、また別のチューブがその水を吸い込んでいく)、その上、今、撮ったばかりのレントゲンがすぐに目の前の大画面に映し出される様子に時代は変わったものだとしみじみ・・、画面といえば、すぐにテレビと勘違いする自分が恥ずかしい気持ちになり、延々待たされたことなど、治療のあとは忘れていたのでした。

 歯医者さんって今は、どこもこんな感じになっているのでしょうか?


フランスの歯医者


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2022年1月31日月曜日

3日に1人の割合で起こっているフランスの警察官の自殺


 24日にマルセイユで、22歳の警察官が自殺したというニュースで、俄にフランスでの警察官の自殺問題が取り上げられています。

 マルセイユ北支部に駐在する22歳の警察官の自殺は、警察長官が前週、組合や協会と面会した数日後に起きたもので、彼は勤務中に携帯していた銃を用いて自殺(警察官の場合は、この勤務中に携帯している武器(銃など)によるものが多い)しています。

 そして、彼の自殺により、フランスでは、24日の段階で、警察官の自殺が今年に入ってから9人目であることが表沙汰になり、警察組合は、「これは、3日に1人の割合で自殺者が出ている計算になり、非常に憂慮すべき問題であり、優先的に取り組む問題である」と声明を発表しています。

 これらの事件は、リール、ストラスブール、ブザンソン、シャロン・シュル・ソーヌ(ソーヌ・エ・ロワール)、ノワジール(セーヌ・エ・マルヌ)、マルセイユと次々に起こっており、この自殺の波は、危機感を持っている同僚に不安を与えており、周囲の警察官からのSNSによる発信なども相次ぎ、問題視されています。

 これまで、自殺は、「個人的な問題」として説明され、特に警察内では、問題を追求するのは、どちらかといえばタブー視され、見過ごされてきた問題を単に個人的な問題だけでなく、多様な原因が関わっていることを公にして、解決すべき問題があることを浮き彫りにしています。

 悪化する治安、度重なる暴力事件や犯罪が絶えることのないフランスで、警察官(少なくとも一般的な警察官に関する限り)は、依然として低賃金であり、たやすくはない勤務体系、頻繁な暴力への対応、時には有害な物の管理などを伴う緊張感が絶えないこの職業においては、自殺と関連すると思われる多くの困難な問題を抱えるものであることは、容易に想像がつきます。

 特にマルセイユの警察官の年齢が22歳であったということにも、メンタルヘルスを含めた警察学校での訓練で十分な武装ができているかどうかが問われています。現場の警察官であれ、捜査官であれ、彼らの肩には大きなプレッシャーがかかっており、現代の社会は、非常に複雑でもあります。

 それに加えて、警察内の上下関係の圧力は、悩める警察官をさらに苦しめています。

 2021年には、35人の警察官が自らの命を絶ったと言われていますが、まだ1月で9人とは、今年は、すごい勢いであることは、言うまでもありません。しかも、警察官の場合は、常に武器を携帯しており、それを自分に向けて使うことも容易で、昨年の警察官の自殺の半分は、この武器が使用されたものでした。



 日頃、フランスの治安の悪さを嘆いてばかりいますが、その治安を守ってくれている警察官には、常にストレスのかかる介入が繰り返されており、彼らの自殺の一因は、事件介入の心的外傷後ストレスでもあると言われています。

 日常では、人生を思い切り楽しみ、やっぱりこの人たち、ラテン系だ・・と思わされる場面が多いフランス人も警察官だけではなく、自殺は決して少なくなく、むしろ、一般的には、孤独に絶えられず、メンタル弱めの人も多く、特にこのパンデミック禍中、ストレスに絶えかねている人は少なくないのです。

 フランスでは、今年に入ってから、すでに778人が自らの命を絶っています。毎日29人が自殺し、550人が自殺を試みているという数字も出ています。これは、毎年10,500人の自殺と200,000人の自殺未遂に相当します。フランスの自殺率は人口10万人あたり14.7人で、欧州平均を大きく上回っています。


フランスの警察官の自殺問題


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2022年1月30日日曜日

クラック(CRACK)ドラッグ常用者溜まり場 パリ12区への移転計画

   


 ヨーロッパ最大の大麻消費国であるフランスにとって、最近、頻繁に問題視されているのは、クラック(CRACK)と呼ばれるコカインの一種のドラッグ(比較的安価なことから、貧乏人の薬などと呼ばれています)の急速な拡大で、当初はパリ北部(19区近辺)のスターリング広場がいつの間にか、クラックの聖地となり、クラックの売人や常習者の溜まり場になり、スターリンクラックなどと呼ばれるようになっていました。

 これらのドラッグ常用者は、暴力行為・破壊行為を起こしたりして、近隣住民との摩擦が絶えず、フランス政府は、この状況を打開しようと、200人の警察官を動員し、この場所(エオール庭園やスターリングラード庭園)のクラック常用者を別の場所へ強制的に移動させました。

 しかし、彼らを別の場所へ移動させただけでは、何の解決にもなっておらず、移動先でも再び問題となり、再度、移動を繰り返していましたが、今月25日、パリ警察は突如、プレスリリースで、ジェラルド・ダルマナン内務大臣の要請により、クラックの溜まり場をパリ12区にあるSNCF(フランス国鉄)所有の場所に移動させることを発表し、大騒動になりました。

 この9ヶ月間で3回目の引越しとなるクラック常用者の移転は、「安全なフェンスを設置するための作業が行われた後」に行われるとされていたものの、この発表は、地元の政治家や住民を驚かせました。「事前に何の相談も通告もない決定に愕然とした!この一方的な決定は、断じて受け入れることはできない!」とパリ12区や12区に隣接するベルシー・シャロントン市も大反発。

 この政府の決定は、国が地域の議員・議会を蔑ろにしていることも露呈した結果となりました。

 同時にパリ市長であるアンヌ・イダルゴが「パリ北東部からベルシーにある鉄道用地へ麻薬使用者を移動させるという警察庁長官の計画に対し、欧州人権裁判所(ECHR)に提訴する意向である」と発表。

 また、彼女は同時に、「これはクラック常用者の苦しみを解決するものではなく、パリにはいかなる居住地からも隔離された場所は存在しません。これは、近隣地域全体の平和と安全を乱すことになります。このプロジェクトには大きな問題がある。不安定な人々を鉄条網の後ろに移すことは、公衆衛生対策にはならず、何の効果もなく、何より非人道的です。」と述べています。

 この大反発の結果、パリ警察は、28日のプレスリリースで、このクラック常用者の移動を断念したことを発表しました。

 12区に近隣するベルシー・シャロントン市からは、ことさら反発が強く、パリ警察の発表から72時間、市議会総動員での激しい抗議活動の結果、断念という決断を得たことに安堵、満足していると発表しています。

 しかし、計画がはっきり中断したとの確証が得られず、不安が残る中、市民の署名活動が続いています。昨日、出かけた際に、我が家からもそう遠くない場所で「クラック移転反対」のビラ配りをしながら、署名を求めている人々に遭遇しました。


クラック常用者移転反対のビラ

  

 結局、解決策は、移転ではなく、必要なのは、薬物のケア施設で、それをせずにただ、彼らを移転させ、たらい回しを続けるだけでは、なにも改善しないのです。

 長引くパンデミックで新型コロナウィルスの感染蔓延がおさまらないだけでなく、蔓延するクラックというドラッグ問題、もはやドラッグの蔓延する場所では、ウィルスの感染などとは、別世界のようでもありますが、しかし、同じパリの住民でもあります。

 パンデミックという抑鬱された状況がさらにクラックを蔓延させたという見方もできないではありませんが、これはウィルスのように目に見えない感染ではありませんが、同じ土地に蔓延する社会問題のひとつです。

 この移転プロジェクトには、それ相応の資金が費やされているにもかかわらず、何の解決にもなっていないことや、これらの計画が当該地域の市に何の打診も相談もなく行われようとしたことに薬物だけではない不安を感じた出来事でもありました。

 また、警察の弁明もお粗末で、この現在のところやり場のない移転計画の断念で、今後も現在の場所でのクラック常用者による占拠状態が長引くことに対して、遺憾の意を示し、パリ市長であるアンヌ・アンヌ・イダルゴを避難することで責任転嫁しようとしているのも情けないことです。

 フランスは、ワクチンセンターだけでなく、薬物治療センターを作らなくてはならないのです。


クラック CRACK ドラッグ


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2022年1月29日土曜日

日本の水際対策 海外からの入国・隔離期間7日間に短縮も外国人入国は停止のまま

  


 日本の「水際対策に係る新たな措置について」という文面をパンデミック以来、一体、どれだけ見たかわかりません。

 今回のお知らせは、「1月29日午前0時より、水際対策強化に係る新たな措置に基づき、オミクロン株が支配的となっている国・地域(現時点では全ての国・地域)から帰国・入国する全ての方について、入国後の自宅等待機、健康フォローアップ、公共交通機関不使用の期間が10日間から7日間に変更されます。既に入国済みの方に対しても同時刻から適用されます」という内容のものでした。

厚生労働省 水際対策に係る新たな措置について

 これだけなら、若干、隔離期間が短縮されるのですから、日本への一時帰国を希望する海外に在住する日本人にとっては、朗報といえば、朗報ですが、問題なのは、相も変わらず、「外国人の新規入国は停止」という部分です。

 いい加減、いつまでも外国人であるというだけで入国を制限する日本のやり方は、全く理解ができません。私は日本人ですが、「日本人だけ・・」という日本人さえよければいいだろうというやり方は、実は日本人の首を絞めていることにも繋がっていると思うのです。

 今や蔓延するウィルスの性質も変化し、世界中が対策を変更している中、なぜ?日本は、2月末までの鎖国延長を緩和しないのでしょうか?

 日本に住む多くの日本人にとっては、鎖国状態の日本は、現在の自分たちの生活には、直接関係のないことかもしれませんが、外から見れば、異常な対応です。パンデミックが終息しない段階で、リスクを冒しながら、多くの国が規制を緩和し始めているには、理由があるからです。

 多くの企業がいつまでも鎖国している日本に業を煮やして、他国に乗り換えることを考え始めています。それも当然でしょう。こんなにいつまでも鎖国をされていては、仕事がやりにくくて仕方ありません。他の国は、そんなことしていないのですから、他をあたるのは、当然です。

 留学生とて、いつまでも入国させてくれない日本に見切りをつけ、日本留学は断念するか、他の国に留学先を変更し始めています。

 このままでは、本当に日本は世界から、取り残された状態になります。

 先日、「日本が鎖国状態を2月末まで延長する」と発表した際に、フランス紙に「グローバル化しながらも内向きな国、日本」「このパンデミックは、この列島がいまだに孤立主義を培い、外国人を統合しようとしないことを明らかにした。」などと書かれたとおりのことを日本は続けようとしているのです。

 日本のように資源のない国は、世界と関われなければ、どうにも立ち行かなくなることは、明白です。

 長引くパンデミックに、いつまでも、「今は、とにかく感染を抑えることが最重要課題」などとは、言ってはいられない状況です。広い視野で、同時にいくつもの対策を次々に対応させていかなければなりません。

 いつまでも、「外国人は入国させない」と言い続ける国に、いつまでも、他の国々が辛抱強く待ってくれるわけはありません。他の国々は、ものすごい勢いで動き始めているのです。

 そのうち、日本が開国した頃には、誰も見向きもしなくなっているかもしれません。

 先日、マクロン大統領が、APCEでの講演で「私たちは 歴史に対する責任と同時に、未来に対する責任も負っています。」と話しましたが、実に日本の現在の対応は、未来に対する責任をどう考えているのか?と、絶望的な気持ちになります。

 日本人に対する海外からの入国隔離期間を短縮したタイミングは、鎖国を解除、あるいは、緩和するタイミングでもあったはずです。そもそも、入国に際して、国籍によって区別するなどナンセンス。そんなことをしている国は、ありません。

 私は、日本人の日本入国の隔離期間の短縮よりも、いつまでも鎖国を解除しないことの方がよほどショッキングです。

 長期的に、本当にグローバルな対応を考えなければ、日本は、国を守っているつもりが自分の首をしめている状態です。

 今、私は、海外にいて、外から日本を見て、政府が国を滅ぼしていく様子を地団駄を踏みながら見ている気分です。


日本の水際対策 鎖国 隔離期間短縮


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「日本の鎖国延長についてのフランスの報道の中で気になったこと」

「WHO(世界保健機構)「海外渡航制限の解除・緩和」の勧告に日本はどう対応するのか?」

「1月24日ワクチンパススタートと感染対策規制緩和の日程」

「日本はなぜ、ブースター接種を急がないのか?」

「WHO日本の鎖国対応批判と留学生への思い」

「オミクロン株対策の日本の鎖国についてのフランスでの報道」


2022年1月28日金曜日

パリのメトロのプロブレム・テクニック

   

メトロのトンネルを歩くハメになった・・動揺していたためブレブレ


 フランスに来てから、20年以上が経ちますが、パリのメトロの不通は、日常茶飯事のことで、最近は、パンデミックの影響もあり、以前と比べれば、めっきりメトロに乗ることも減ったので、そんな不具合を感じる機会からも遠のいていました。

 しかも、フランスに来たばかりの頃は、パリ近郊の郊外にしばらく住んでいたので、通勤には、郊外線から、パリ市内のメトロに乗り換え、45分程度かかっていたので、通勤距離が長いほど、問題に直面することは、多く、たびたび起こるストライキは、問題外としても、何かといえば、止まって、「プロブレム・テクニック」という説明のみで、延々と待たされたり、急に乗り換えなければいけないことが、かなり頻繁にありました。

 45分という通勤時間は、東京では、それほど長い範疇には入らない通勤時間であると思いますが、フランスでは、常にいつ起こるかわからないロスタイムを考えると、遅刻が嫌いな私としては、そのためにかなり早めに家を出ていました。

 今の住まいに引っ越してからは、14番線という運転手のいないメトロを利用することが多くなったために、まず、ストライキはなく、いわゆる「プロブレム・テクニック」でさえも少なくなり、たまに止まっても、少し待っていれば済むし、「当分、動きませんから、違う線に乗り換えてください」などというアナウンスがあったとしても、少し待っていれば、動き出したりするので、よっぽど、待たされた場合は、渋々、他の線に乗り換える程度で、かなり問題は、少なくなりました。

 このパリのメトロを使っていれば、非常に頻繁に耳にする「プロブレム・テクニック」には、フランス人も慣れきっていて、大して怒る様子もなく、さっさと職場に連絡をしたり、黙って、ぞろぞろと、乗り換えホームにおとなしく歩いて行くのも、あれほどデモで怒りまくっていたりする人々の「プロブレム・テクニックへの寛容さ?」は、ちょっと意外な景色でもあります。

 まあ、怒ったところで、仕方はないのですが・・。

 不通、大抵は、「プロブレム・テクニック」と言っても、駅で止まってしまうことがほとんどなので、そのまま他の線やバスに乗り換えることができるのですが、先日は、なんと、初めて、メトロがトンネルの途中で延々と止まってしまいました。

 しばらく、待っていましたが、問題が深刻であったのか、なんと、駅でもないにもかかわらず、メトロを降りてくださいとのアナウンス・・これは、12番線だったので、未だにがっちゃんとハンドルを手動で扉を開けるタイプの扉、勝手に扉をあけて、メトロから線路に飛び降りて行く人もいれば、飛び降りるのを躊躇して、車内に残る人と、多少、ざわついてはいるものの、パニック状態にならないのも不思議な感じでした。

 そのうち、運転手さんが近くの車両の扉の開いているところにハシゴをかけに来て、まだ若い運転手さんは、「さすがに毎日、運転していても、こんなことは初めてです・・」と言いながら、汗だくでハシゴをかけてくれていました。

 しかし、近くにいた乗客は、「私は、これで2度目です・・」と言っていたのには、笑えました。

 結局、その「テクニカル・プロブレム」がどんなものであったのかは、わかりませんが、その後、ぞろぞろと乗客がトンネル内の線路上を歩いて、駅に移動したわけですから、相当な時間、その線は、不通になっていたものと思われます。

 何の問題かわかりませんが、一般乗客に線路上を歩かせるということなど、よほどの事情がない限り、日本だったらあり得ないことだし、もしあったら、大ニュースになりそうなことだろうと思います。もちろん、パリでは、全く報道はされていません。

 この近くに居合わせた乗客が「これで2回目・・」と笑っているということは、「そんなに珍しくもないのか・・」と、これまでの自分の幸運さを思い知らされたのでした。


パリのメトロ プロブレムテクニック


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2022年1月27日木曜日

フランスの高齢者施設オルペア Orpéa の実態暴露の大スキャンダル

  


 ビクトール・カスタネというフリーのジャーナリストが出版した、『Les Fossoyeurs』(墓掘り人という辛辣な風刺をこめたタイトル)というフランスの高齢者施設「オルペア(Orpéa)」の惨状の暴露本が今、フランスで大スキャンダルとして取り上げられています。

 この本の著者は3年間、関係者250人にインタビューを行い、あらゆる圧力に耐え、信じられないような調査の糸を手繰り寄せながら、ようやくこの出版に漕ぎ着けたと説明しています。

 世界23カ国に65,500人の従業員を擁するオルペアグループは、フランス国内に372の事業所を有し、そのほとんどが高齢者施設です。中には、ヌイイ・シュル・セーヌ(オー・ド・セーヌ県)にあるレジデンス「レ・ボルド・ド・セーヌ」のような「超高額」なものもあります。

 今回の大スキャンダルには、作家で女優のフランソワーズ・ドランが2018年にひどい褥瘡(じょくそう)(一般的には床ずれと言われるもの)で亡くなったのも、この施設だったことが大きくマスコミで取り上げられています。

 証言者の中には、「月額7,000ユーロもかかるこの施設は、医療機関ではなく、利益を追求する企業だ!」と怒りを顕にする者もいます。

 フランスは、少子化は避けられているため、日本のような高齢化社会にはなっていないために、あまり目立ちませんが、なかなかの長寿国、高齢者が多い国でもあります。

 現に、私の周囲のフランス人なども、親の介護問題は、なかなか切実で、100歳を超えた親を家に引き取って介護をしていたり、90歳を過ぎた両親が2人で暮らしているために、毎週のように、週末には、両親のもとに買い物や身の回りの世話をするために通っていたり、父親が亡くなってしまったために、母親1人では、生活ができないために、高齢者施設を探していたりなど、私の周囲にいる人がすでに結構な年齢のために親の年齢も90歳以上と聞いて、ちょっとびっくりしたりすることもあります。

 幸か不幸か、我が家は主人もろとも高齢者は全滅しており、高齢者施設を探したことはないのですが、現在の我が家の住まいの周辺には、なかなか高齢者施設も多いようで、昼間など、近所のバスに乗ったりしていると、その高齢者施設の住民で、比較的、自分で出歩けるような状態の人々は、昼間は街中で買い物などのお出かけに遭遇することもあり。うっかり席に座っていると、向こうから、「席、譲ってちょうだい!」などと言われるので、「フランスの老人恐るべし!」と仰天したりすることもあります。

 日本では、母が他界した後、父が1人残され、一軒家に1人で暮らしていましたが、最後の最後には、どうにもならなくなり、私も弟も海外暮らしのために、なんとか、父を説得して、介護付きの高齢者施設を探し回ったことがありましたが、なかなかな高額なのにもかかわらず、どこも満員でビックリしました。

 フランスでも、高齢者施設探しは、なかなか大変なうえに、高額なところが多いようで、今回の大スキャンダルを巻き起こした高齢者施設もフランスで最も高額な高齢者施設の一つで、月額6,500ユーロ(約85万円)から、最高12,000ユーロ(約156万円)もかかるそうで、ちょっと一般人には、不可能な高額の高齢者施設でもあります。

 価格が高ければ、それなりのサービスが期待されるのは、当然のことですが、そこでの衛生管理、医療ケア、介護体制、食事までの事情の実態は、信じ難い内容のもので、実際に、あまりの人員不足のための過剰な労働や営利優先の経営に耐えかねて転職した元従業員の証言などは、絶句するような内容のものでした。 

 この施設は、民間の高齢者施設ですが、たとえ、それが民間運営のものとはいえ、国や各省庁の審議会から多額の資金援助を受けているため、国費が正常に利用されていないことについても、問題視する声があがっています。

 この施設の元介護助手は、「おむつは1日3枚までという配給制で、入居者が病気であろうが、腹痛であろうが、流行病があろうが関係なかった」と証言しており、この本の著者は、「同グループ内での機能不全が高齢者を虐待するシステムを構築している」と言及しています。

 今回のパンデミックが始まった、ごくごく初期には、高齢者施設での老人の大量の犠牲者が出て、大問題になり、一時は、高齢者施設は、家族でさえも面会が許されない隔離された状況に置かれていましたが、そもそも、いくら高齢者の集まりであるとはいえ、ことさら日常から衛生管理には、通常の場所よりも数段上のレベルの衛生管理がされているはずの場所なはずであるにもかかわらず、あれだけの犠牲者を出したのには、別の理由もあったのだと思い知らされています。

 しかも、家族からしたら、これだけ高額の入居料を支払っていながら、この有様には、怒り心頭に発するのも当然のことと思われます。

 また、この本の中には、2005年から2007年、2010年から2012年までニコラ・サルコジ政権に厚生大臣を務めたグザビエ・ベルトランとオルペアとの関係も明らかにされています。

 著者は、グループの元医務部長とのやりとりの中で「わかっただろう、なぜ我々がオルペアで全権を握っていると感じたか?我々は、当時の厚生大臣を懐柔していたのだ」と言われたことを記しています。

 オルペアのスキャンダルは政治規模のものになり、現在の厚生大臣オリヴィエ・ヴェランは、「オルペアの経営陣を早急に召喚し、説明を求め、独立した調査を行うことを検討する」と発表。

 政府のスポークスマンであるガブリエル・アタル氏も「このような行為が我が国で許容されるのは問題外。これが事実であることが証明されれば、最も厳しい制裁を求める」と政府の声明を発表しています。

 フランス大手新聞社・ル・モンド紙がこの本を取り上げたことで、現在の大スキャンダルに発展し、同社の株価は急落、その後、グループの要請により上場が停止される事態にまで陥っています。

 オルペアの経営陣は、「我々は、これらの非難はすべて虚偽であり、非道であり、偏見に満ちていると考えており、正式に異議を申し立てる」と声明を発表していますが、長年にわたる調査と多くの勇気ある証言者によって作成された調査書とも言えるような内容に、今や世論をさえも味方につけたと思われる一冊の本に、どう太刀打ちできるのかは疑問です。

 これまで、私は、フランス人が何かにつけて「物申す」ことに、「ちゃんとやることやってから言えっつうの!」などと、思う事が多かったのですが、時には、デモにしろ、マスコミにしろ、ジャーナリストにしろ、時には、この「物申す人々のチカラ」が社会には、必要なのではないか?と思うようになりました。

 日本も「物申すべきこと」が山積みのような気がしています。


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2022年1月26日水曜日

フランスの1日の新規感染者数50万人突破とオミクロンBA2

 


 フランスの1日の新規感染者数は、18日に 46万人を突破して以来、若干ではありますが、減少傾向にあり、1週間のうちには、40万人台を切る日もあったので、ヤレヤレ、ようやく下がり始めたか・・と思っていたら、週明けには、再びリバウンド?で、「なんと50万人を突破(501,635人)」、集中治療室の患者数も少しずつ減少していたものの、どうやら、3,700人前後で下げ止まりの状態です。

 本当に、身近なところにも、あっちもこっちも感染者、もう私も、いつ感染しても、何の不思議もないと思い始めています。

 入院患者数は着々と上昇を続け、同日、3万人を突破(30,189人)、1日のコロナウィルスによる死亡者数も393人(病院での死亡のみ)と、高齢者施設での死亡者等を併せれば400人超え、2021年4月以来の高い数字に達しています。

 毎日のようにピークはいつか?ピークは過ぎた!などとの報道がされていただけに、さすがにこの1日の新規感染者数50万人突破や入院患者数3万人突破のニュースは、ショックでもありました。

 現在、フランスでのこの感染爆発は、ほぼオミクロン株によるもので、これまでのデルタ株のようなリスクは低いものの、高齢者や虚弱体質の人、また、ワクチン未接種者、そして、ブースター接種をしていない人には、リスクが常に存在し続けており、追加のブースター接種を必死に呼びかけています。

 オリヴィエ・ヴェラン保健相は、中でも、オミクロンBA2という、オミクロン株のいとこのような存在と言われているウィルスについて、従来のオミクロン株より、さらに感染力が強く、先週のデータでは、1万件のうち、60件だったものの、数日後、数週間後には数千件になる可能性があると警告しています。

 また、このBA2の変異は、スパイクタンパク質に生じたもので、リスクは従来のオミクロン株と同様と言われているものの、この変異種に対する身体の免疫反応に疑問が持たれている、つまり、再感染の可能性があるということも懸念されています。

 フランスでは、今週から、ワクチンパスポートが正式にスタートしましたが、その効果を期待するには、あまりに早い段階でのさらなる感染悪化。

 まさに、あまりの感染者の多さに、国民は、感染しても、「あ〜ついにやっぱり来たか・・」くらいの感覚になっていますが、後遺症などについては、未知のままです。

 このフランスの感染爆発については、新学期が始まったことが非常に大きな影響を与えたと考えられるとも言われています。この説は、学術会議のメンバーなどからも支持されており、「流行の再開/継続」は、「小学校、幼稚園、保育園でのウイルスの循環が非常に活発なことと一部関係がある」と考えられています。

 検査と隔離の連続で、あまりに煩雑な学校でのチェック作業に、ストライキやデモまで起こる騒ぎになっているというのに、結局のところ、学校での感染拡大は、止められていないようです。

 そのために、子供のワクチン接種に関しては、これまで両親の承諾が必要だったものが、厚生省は、保護者どちらか1人の同意でワクチン接種が可能になることを発表し、子供たちのワクチン接種を促進しようとしています。

 子供のワクチン接種には、慎重になる保護者の気持ちもわかりますが、米疾病対策センター(CDC)は、新型コロナウイルスに感染した子供は、1型もしくは、2型の糖尿病の発症リスクが高く、感染した子どもは感染していない子どもに比べ、感染から30日後以降に糖尿病と診断される率が2.66倍になっているという研究を発表しています。

 ワクチンも長期的な影響が心配、しかし、感染しても後遺症が心配。すぐに重症化するリスクが低いとはいえ、安易に「感染したら、免疫ができる」などと、楽観的にばかりは、なっていられません。

 ワクチンパスポートのスタートとともに、続々と規制を緩和していくのも、再び心配になってきました。

 それにしても、グラフを見てもわかるとおり、フランスだけがぶっちぎりの爆走中、オミクロンBA2は、現在のところ、感染者の一部ですが、4〜5週間の間に現在のオミクロンを上回ると見られています。ピークは、まだまだ先のようです。


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