科学技術評議会によれば、現在、フランスの公立病院の病床は医療介護者・看護士の不足から、その20%あまりが閉鎖状態に追い込まれていると言われ、このことに対する早急な対応が求められています。
これは、もちろん今回のパンデミックにより極端に労働条件が悪化したことが引き金を引いてはいますが、そもそもこの問題はコロナ以前からの長期にわたる問題であったことが問題を根深くしています。
そもそも、医療介護士・看護士の仕事は、「きつい」「汚い」「危険」の3Kと言われる職業でもあり、敬遠されがちな上に、フランスの医療介護士(看護士)の給与は他のヨーロッパ諸国と比較してもかなり低水準。
EU・OECD加盟国の看護士給与比較 |
その上、介護士・看護士という仕事は、30年後もキャリアアップが望みにくい職業であることも将来を見据えた時に、理想と現実とはかけ離れていき、厳しい労働環境下での精神的、肉体的なストレス、疲労が蓄積されていくと、離職、転職に繋がっていってしまうことが少なくないのです。
2020年10月の時点で全国看護士団は、看護士の10人に4人が、5年後、この職業に止まっているかどうかわからないと述べたことを明らかにしています。実際に今年に入ってからは、1,300人の看護師の辞職が確認されています。
それに加えて、介護士・看護師を目指す学生の中途退学もこのパンデミック下に急増し、フランスが医療崩壊を起こした時点で看護学生が大量に動員されたことから、実際の職務につく以前に、あまりに厳しい病院の現場を目の当たりにしてトラウマ化してしまったことも大きく影響していると言われています。
パンデミック以前からすでに人員不足だった医療現場において、大きな志を持って看護の勉強をしていた学生にとって、最初の現場があまりにショッキングなものであったことは間違いありません。
人を救いたいという高い志を持ち、社会に不可欠な大切な仕事をしている、しようとしている人々が安い賃金と劣悪な労働環境で耐えられなくなり、報われない状態が長く続いていれば、バーンアウトしていくのも当然です。
昨年の今頃は、感染者が急増して、再度、夜間外出制限や外出距離の制限のロックダウンが行われていた時期です。
あの頃に比べれば、感染状況はかなり改善してはいるものの、それでも辞職する人が後を経たないのは、問題がパンデミックだけに起因しているわけではないということです。
フランスでは、医者を志して医学部に進学したものの、医学部途中で医者になることを断念した人が看護士になっているケースも少なくないため、看護師になって、実際の現場での仕事に臨んで余計に焦燥感を感じてしまうという事態にも陥りがちになります。ツイッターなどのSNSでも看護士が辞職を告げているメッセージが広く伝えられています。
転職ということがあまりマイナスにとらわれていないこともこの状態をさらに悪化させています。
この医療介護者・看護士不足への中期的な解決策として、「とにかく学生の数を増やすこと、より多くのトレーニングを行う必要がある」と語っている人もいますが、仕事同様にプライベートを大事にする人々が、この現在の介護者や看護師が耐えきれずに辞職していく現状を踏まえて、そのような職業に着くための学校を選択するとは考えづらく、学生の数を増やすためには、現場の労働環境・待遇の改善が先なのではないかと思います。
昨年から比べると改善しているコロナの感染状況ではありますが、ここ1週間ほどで、コロナウィルスによる入院患者は14%ほど上昇しています。
マルセイユの病院では、市内にある2,700床の病床のうち、16%の448床が閉鎖されており、感染が再び増加し始めている現在から冬にかけて、どうやって過ごすのかわからない、絶望の危機に瀕していると語っています。
コロナウィルスのピーク時には、集中治療室の占拠率が〇〇%などということがしきりに報道されていましたが、現在では閉鎖されている病床が〇〇%などと言われるようになり、また、別の意味での不安材料が生じてきました。
労働者の権利の主張が激しいフランスで、なぜ、このセクターはいつまでも改善されないのか?
医療現場という社会にとって、必要不可欠な場所で、一生懸命働いている人々が報われない・・そんな状況は改善してもらわなければ困ります。
医療介護者・看護士不足 病床閉鎖
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