ストラスブールで開催された欧州議会は、EUの気候変動対策計画の一部である自動車のCO2排出規制に関する文書を339票(反対249票、棄権24票)で承認しました。この投票は、妥協案をまとめるための加盟国との交渉に先立って、欧州議会議員の立場を示すものとなります。
これにより、ヨーロッパでは、2035年以降、内燃機関自動車(ガソリン、ディーゼルエンジンに代表されるピストンエンジンで機動するエンジン内でガソリン等の燃料を燃やして生じる燃焼生成物から動力を得る車)が廃止され、欧州では電気自動車のみが販売されることになります。
現在、ヨーロッパのCO2排出量のうち、自動車は少なくとも12%を占めています。この欧州議会の決定には、2025年までに自動車排出量を15%削減し、2030年までに55%削減するという中間目標も盛り込まれています。
しかし、現段階では、欧州議会での決定という第一段階に過ぎず、この計画が順当に進んでいくには、いくつものハードルがあります。今後、登場するであろう水素などの他の方法にも門戸は開かれているものの、ヨーロッパにとっては、自動車市場において競合他社と比較して、劣勢に陥る危険も孕んでいます。
また、フランス、ドイツ、スペイン、イタリアなど、いずれの国でも、自動車産業は、現在脅かされている産業界の雇用の大きな割合を占めており、生産体制が電気自動車に移行していけば、電気自動車の製造は内燃機関より少ない労働力で済むため、バッテリー工場の設立にもかかわらず、エネルギー転換により多くの雇用が失われる可能性があります。
例えばフランスでは、自動車プラットフォーム(PFA)によると、電気自動車への切り替えにより、同業界で20万人ある雇用のうち6万5千人が失われる可能性があると言われています。これにより起こる人員削減のためのデモの様子が目に浮かぶような気がします。
消費者側にとっては、補助金などの政府の援助もあり、ハイブリッド車や電気自動車は、ある程度、普及し始めてはいますが、一方では、ガソリン車は部品不足の影響を受け、衰退の一途をたどっているにも関わらず、買い手があきらめずに納車を待ったりする現象も起こっています。何よりガソリン車と電気自動車の維持費も含めた価格差が大きな隔たりとなっているのです。
そもそも、中古車好きのフランス人にとって、新車に固執する層はそんなに多いとも思われず、車を買うといっても中古車から探すようなところもあるので、2035年以前に販売されたガソリン車は、その後も、低排出ガス地帯(LEZ)ですでに行われている都市中心部へのアクセス制限を受けながらも、走り続けることができるので、中古車にしがみつくことが可能です。
また、フランスでは、その中古車でさえも壊れたガラスにプラスチックのシートを貼り付けたり、折れたバックミラーをガムテープで貼って、そのまま平気で乗っていたりするので、新車、しかも電気自動車ばかりになる時代というのは、現段階では、ちょっと想像しにくい感じがします。
また、当然のことながら、電気自動車には電力が必要なわけで、電力生産そのものにも、また一つハードルがあります。フランスは電力生産の多くを原子力発電に頼っているので、その面では、石炭を使うドイツやポーランドよりも、有利であるとは、考えられますが、ケチなフランス人が高価な電気自動車を買うかと言われれば、何か抜本的な打開策でもない限り、今後はより一層、中古車にしがみつく傾向に進んでいくようになると思われます。
しかし、このニュースが、フランスでもあんまり騒ぎにはなっていないのは、これはあくまで欧州議会の決定であり、施行されるのは、2035年というまだまだ先の話で、とりあえずは、13年も先の話よりも現在のガソリン価格の高騰やインフレの方が差し迫った問題であり、「そんな先のこと考えてる場合じゃない!」というのが正直なところかもしれません。
2035年電気自動車 欧州議会
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