今回の事件が起こるまでは、私はエリゼ宮(大統領官邸)の職員には組合がないことを知りませんでした。とかく、組合が強すぎる傾向のあるフランスで、エリゼ宮というフランスの象徴的な場所に組合がないとは、びっくりです。
逆に私の中のイメージとしては、エリゼ宮など、どこよりも組合が強いような気がしていたくらいです。
一般人は容易に足を踏み入れることはできないエリゼ宮は、大統領をはじめ、政府の首脳や外国からの要人が招かれるたびに、しばしば、その中の様子をテレビなどで映し出され、その煌びやかな様子や、そこで供される食事や軽食などをチラッと垣間見ることはできますが、なんと300人の憲兵を含む825人がフルタイムで働いているのだそうです。
組合がないとはいえ、民間企業がエリゼ宮の管理を行っているはずはないのですが、場所が場所だけに、常に緊張を強いられ、時間的にも不規則になることも多い、しかし、職員にとっては、大統領をはじめ、フランスの中枢にある宮殿のようなところにお仕えするという厳しさと誇りを持っているに違いなく、かなり特別な場所であることには違いありません。
そのエリゼ宮で、23年間、銀食器の管理を担当していた50代の男性が突然、解雇を言い渡され(解雇といっても、管轄の文化省に戻されるという話)、そのうえ、エリゼ宮の従業員としての住居を取り上げられるという通告を受けたショックでRER(パリ郊外線)の線路に身を投げるという悲惨な事故がおこっています。
この男性が解雇された理由は報道されていませんが、解雇や異動などに関して、組合があれば、組合に訴えれば、ここぞとばかりに組合が掛け合ってくれるであろうところですが、文化省への異動としても、23年間のキャリアを持つ職員に対しては、突然の事実上の解雇の宣告、しかも、住居まで取り上げられるなど、フランスの・・しかもエリゼ宮で起こるとは、ちょっと信じがたい話です。
長年エリゼ宮で銀食器を担当していた彼には、おそらく、その仕事に対する特別なプライドがあったに違いありません。
それに追い打ちをかけるように、住居まで召し上げるなどということは、嫌がらせ以外のなにものでもないような気がします。
この男性の自殺は未遂に終わったようですが、彼は深刻な容態のまま入院中ということで痛ましい限りですし、彼の一件で、エリゼ宮内の他の職員も心穏やかではないでしょう。
ここまで人を追い詰めるには、その通告の仕方などにもハラスメント的な側面があったとも思われますが、この事件に対するエリゼ宮の声明は発表されていません。
このような解雇がまかりとおるということは、エリゼ宮という職場はかなり封建的な場所なのではないか?という疑惑が沸き起こりますが、現在の年金改革問題・49.3条問題で思いっきり国民の反感を買っている政府の本拠地で起こった事件としては、まさに、国民の意見を無視する政府をさらに非難する材料が増えたような気もします。
この事件を受けて、マスコミは、「大統領府が社会対話を維持できていないのは、年金改革だけではないようだ・・」と書き立てています。
幸いにも彼は一命をとりとめましたが、彼のおかげでエリゼ宮の過酷な現実が公になりました。彼が線路に飛び込んだ時、彼はエリゼ宮のバッジの他には、何の身分証明書も持っていなかったそうです。
エリゼ宮の職員
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