常にヨーロッパをリードしてきたドイツのメルケル首相の政界引退が近づき、フランスのマクロン大統領は、メルケル首相をコートドールのボーヌに招待し、フランスへの卓越した功績を残した者に送られる「レジオン・ドヌール勲章」を贈呈しましした。
「レジオン・ドヌール勲章」は、5等級に分類されていますが、彼女に送られたのは、その中でも最高位にあたる「グランクロワ」でした。
16年間もの長期政権を担ってきたメルケル首相はフランスにとって、とても重要な存在であったことは言うまでもなく、この間、フランスの大統領は、シラク大統領、サルコジ大統領、オランド大統領、そしてマクロン大統領と4回政権が変わっています。
彼女の存在はフランスにとって、かけがえのないものであったことは間違いなく、大統領が変わるたびに上手く適応し、それぞれの大統領と良好な関係を保ち続けて下さったメルケル首相とそれぞれの大統領の映像が、私でさえも今でも思い浮かべることができる場面がいくつもあることは、彼女の存在感がどれほどであったものかということを物語っています。
シラク大統領は、すでに他界していますが、それ以降の大統領とは、彼女は女性でありながら、年長であることや彼女の懐の深さからか、フランスの大統領たちにとっては、きっとどこか母のような存在でもあり、サルコジ首相が可愛がられている感じや、オランド大統領の際には、パリで起こった同時多発テロの直後に、近隣諸国の首脳が集まり、オランド大統領とメルケル首相が列の中心に構えて、手を繋いでテロに抗議するメッセージを叫びながら行進した時の様子、また、パンデミック以来、感染爆発の中心となってしまったヨーロッパの感染対策や医療の相互協力の模様など、彼女は単にドイツの首相だけでなく、ヨーロッパ全体のリーダーでもありました。
10月下旬にブリュッセルで開かれたEU首脳会議では、議長が「アンゲラのいないEUはエッフェル塔のないパリのようだ」と述べたことが話題になりましたが、まさにそのくらい彼女の存在は、フランスだけでなくヨーロッパ全体にとっても大きなものでした。
ですから、レジオン・ドヌール勲章のグランドクロワが贈られることにはフランス国民の誰にとっても何の異存のないところで、彼女が最後に訪れたコートドールのボーヌの地方の人々も彼女の訪問を大歓迎していました。
16年間の長期政権など、普通ならロクなことにはならないところ、彼女は常に公正で慈愛に満ち、厳しいところは厳しい凛とした姿勢を崩すことはありませんでした。
今回のメルケル首相のフランス訪問とレジオン・ドヌール勲章の贈呈の場面でも、マクロン大統領は、この勲章を「アンゲラ・メルケルによって維持されたフランスとドイツの友情の強さを体現する装飾である」と説明し、「あなたが首相に就任して以来、フランスはあなたと言う人を知り、愛することを学びました」と述べ、彼女の並外れたキャリアを称えながら、「全てを揺るがしたいと思っていたこの若い大統領を受け入れてくれ、たくさんのことを教えて頂きありがとうございました。私に対する忍耐と、耽溺に感謝します」と短いスピーチを送りました。
この場面はなかなか印象的でもあり、メルケル首相にも感慨深さが表れていましたし、日頃は、やたらと口の上手い印象があるマクロン大統領も彼自身が感情を揺さぶられていることが感じられる場面でした。
彼女の今回のフランス訪問は、G20とCOP26の首脳会談の厳粛な様子とは対照的に温かい抱擁で挨拶を交わし、始終、とても穏やかで友好的な雰囲気に包まれていました。
フランス人ピアニスト・アレクサンドル・カントロフによるピアノリサイタルの後、マクロン大統領夫妻はメルケル首相夫妻を100%ブルゴーニュのディナーに招待、その食卓はワイン好きの彼女のために彼女の好物を取り揃えたメニューが並びました。
ディナーはシャトー・デュ・クロ・ド・ヴージョにて、トゥールニュ(ソーヌ・エ・ロワール)にあるミシュランの星を獲得したレストラン「Greuze」のシェフが腕を振るいました。
スターターには卵のムーレット・ブルゴーニュワインソース、テリーヌのパイ包み、ブルゴーニュ産トリュフと葡萄、メインコースにはシャロレービーフのテンダーロインの煮込みとポテト、シャンベルタンソース、デザートにはチョコレート、ブラックカラントにサラザンのナゲット添え。
ワインは、2015年のサントーバン1erクリュと、2014年のニュイサンジョルジュ1erクリュがチョイスされました。
長い間、メルケル首相に支えられてきたフランスは、これまでメルケル首相が次々と表れるフランスの大統領に適応してきたように、新たなドイツの首相と新しい関係を築いていかなければなりません。
アメリカにせよ、イギリスにせよ、最近、とかく摩擦が生じているフランスですが、このタイミングでのメルケル首相の引退はフランスにとっても少なからず大きな節目となるに違いありません。
メルケル首相
<関連記事>
「ヨーロッパのコロナウィルス感染拡大 国の対策の取り方で明暗を分けた理由」
「コロナウィルス第2波 制限を緩和していくフランスと手綱を緩めないドイツ」