2022年6月13日月曜日

パリの治安の悪化再び エッフェル塔近辺で暴力を伴った強盗事件で一晩で12人逮捕

  


 パンデミック前ほどとは言わないまでも、パリに観光客がかなり戻ってきています。以前ほどではなくとも、観光バスもちらほら見かけるようになってきたし、美術館には行列ができるようになってきました。

 しかし、戻ってきたのは観光客だけではなく、観光客を狙う犯罪も戻ってきたようです。パリでは、スリやひったくり、置き引きなどは、珍しいことではないので、たとえ、観光客ではなく、こちらに住んでいる者とて、決して気を緩めることはできません。

 ある程度、パリに長く住んでいれば、少なからず、それなりに日常的に少なくとも、自分自身も含めて、周囲の誰かしらが被害に遭ったという話を耳にしているので、大金は持ち歩かないとか、華美な服装やブランドものを持ち歩かないとか、自ずとかなり警戒する生活を送っています。

 しかし、観光客となれば、やはり話は別で、慣れない国で知らないところを見に来るのが観光ですから、やはり隙ができるのは仕方ない話で、スリやひったくりなどは観光客をターゲットにしようとします。

 スリやひったくりなどは、取り立ててニュースにするほどでもないくらい頻発しているので、特にパンデミックの観光客が少なかった間は、あまり目立った事件を耳にすることもありませんでした。

 ところが、先週、パリ・エッフェル塔近くのトロカデロで強盗を働いた12人の若者が逮捕されたという知らせが入ってきました。

 スリやひったくりなどは、被害に遭ったことにその瞬間は気付かないことも多く、たいていは、事後になってから気付いて、一応、警察に届けたとしても、その後に捜査をしているとは思い難く、たとえ、無理矢理、何かを奪われることがあっても、その場に警察でもいない限り、身の危険も考えると捕まえることはまず不可能です。

 こういった強盗などは、まず単独犯ではないことが多く、たいていは、何かを奪う人とそれを持って逃げる人と役割分担ができているのも特徴です。

 それが先週の事件は、一度に12人も逮捕したというのですから、ちょっと驚きです。

 今回の事件は、夜11時頃、トロカデロの庭園で2人の若者が観光客から金のネックレスを引きちぎるところをパトロール隊が目撃したことから、始まりました。エッフェル塔付近は、言わずと知れたパリの観光客が集まる場所の一つです。2人の若者は、すぐに逮捕され、近くの警察に連行されました。

 その段階で、近くには20人ほどの仲間がいたことが確認されています。

 その数分後に同じ警察に、後頭部と腕に傷を負い、血を流しながら強盗被害に遭った人が訪れてきました。被害者はすぐに救急隊によって手当を受けて、近隣の病院に搬送されました。この男性の証言によると、エッフェル塔付近にいたところ、持っていたバッグを奪おうと数人の若者が襲ってきて、彼が抵抗したため、割れた瓶で殴られたそうです。

 割れた瓶で殴られるなど、怖すぎる話です。

 また、その直後には、2人のアジア人観光客が「iPhone 12 pro Maxをひったくられた」と被害届を提出に警察へ。ここまで、犯行が重なる事態に、警察は大挙して広場に出動、9人の容疑者を確認し、連行。彼らからは、先ほど盗まれたばかりのiPhoneを発見され、若者たちは、即座に逮捕されました。

 そして、さらに午前2時30分頃、庭を歩いていた女性の首から金のネックレスが引きちぎられる事件が発生。女性の証言により、5人組の強盗に襲われたことがわかり、警察官は容疑者を発見し、さらに3人の強盗が逮捕されました。彼らは5人の共犯者とともに、観光客に暴行を加え、シャネルのペンダントがついた3連の金の鎖を奪っていました。

 一晩で、同じ場所でこれだけの犯罪が起こり、その一部が逮捕されているにも関わらず、犯行が止まずに続くということは、警察も全く舐められているわけで、事実、1日で同じ場所でこれだけの逮捕者が出るという話もあまり聞いたことがありません。



 言わせてもらえば、深夜に観光地でシャネルの金のネックレスをつけて歩く方もどうかしていると思いますが、そもそも悪いのは、犯罪者の方です。しかし、それを誘因するような身なりや行動にも注意が必要です。

 ましてや、金品を奪われるだけでなく、割れた瓶で頭を殴られるなどという暴力的な暴漢に遭遇する危険もあるのです。

 以前は、私の職場も比較的、観光客が多い場所にあり、ジプシーと思われるような子供がたむろしているのを道路に座り込んで待機しているのを見かけたことがありましたが、そのような子供には、必ず大人がバックについており、子供の場合は、捕まってもすぐに解放されるために、大人の代わりに仕事?をさせられているようでしたが、最近は、大人がバックについていない未成年のグループの犯罪が増加しているようです。

 この日は、結局、大挙して警察が出動し、27人もの身元確認が行われた結果、このうちの12人が逮捕されるという大捕物になりました。

 パリ検察庁に送致されるこの手の未成年の犯罪者は年間4,000人と言われています。

 ここ2年間、観光客が途絶えていた期間、仕事?ができなかった彼らが観光客の再来とともに急ピッチで仕事を再開し始めたようです。

 アジア人、特に日本人はターゲットになりやすいので、パリを訪れる際は、くれぐれもご注意ください。日中の観光は、決して華美な服装はせずに、なるべく現金は持たず、少しおしゃれしてディナーなどに出かけたい場合は、一度ホテルに戻って着替えて、行き帰りはタクシーにした方が無難です。

 パリは美しい街ですが、残念ながら、日本の雑誌のパリ特集のようなおしゃれな服装をして出歩けるような場所ではないのです。


パリ 観光地 暴漢 強盗


<関連記事>

「パリで犯罪から身を守る方法は、まず、犯罪の手口を知ること」

「12月は犯罪が多いパリ パリのスリの生息地」

「思ってもみなかった娘のクリスマスイブの悲劇」

「パリ17区で日本人が塩酸を顔にかけられる傷害事件発生」

「在宅中でも油断できないパリの治安 偽身分証明書による家宅侵入による盗難事件」

2022年6月12日日曜日

彼女を滅多刺しにして殺した14歳の少年に実刑判決 最高懲役20年

   


 ソーヌ・エ・ロワール(ブルゴーニュ地方)の小さな村クレッセで、地域の住民によって、村役場の裏にある市営競技場で血まみれの13歳の少女の遺体が発見されました。少女が身につけていたとみられるアクセサリーや上着が痛いからさほど遠くない道路で発見され、周囲に血痕があったことから、彼女が傷を受けてから、逃げようとしていたことがわかっています。

 少女には、胴体上部、肩、顔、首に数十ヶ所のナイフで刺された傷跡があり、1本のナイフが首に突き刺さっている状態だったと言います。

 少女の友人の証言から、捜査官はすぐに彼女のボーイフレンドを突き止め、遺体が発見されたその日に、彼女の交際相手だった14歳の少年を学校で身柄を拘束しました。一時は、関係を断ち切っていた二人は、最近、交際を復活させ、夜中に再び会うようになっていました。

 過去にこの少年は、誰かを、特に自分のガールフレンドを殺すという不穏な言葉を口にしたことがあったそうですが、周囲の友人たちは、不穏に感じつつも、これらの発言をブラックユーモアとして受け止めていたそうです。

 そりゃそうです。たとえ、「殺してやる!」などと、嘯く人がいたとしても、「乱暴な言い方をするな・・」と嫌な感じを受けても、まさか本当に殺すとは思いません。

 学校で身柄を拘束されたということは、自分の彼女を殺して、普通に学校に登校していたということで、しかも、遺体を隠すこともなく、自分に疑いがかかることは考えなかったのか? それとも、じきに捕まることは覚悟のうえのことだったのか?まるで理解できませんが、彼はあっさり警察で自分が彼女を殺したことを自供したそうです。

 彼の自供によると、ここ数日は頻繁に夜中に彼女と会う約束をしていたため、彼女には、不審に思われることはないと思っていたが、その日は彼女を殺すつもりで、かねてから、扱いを練習までしたナイフを袖に隠してでかけ、しばらく話して様子を見計っって、首を3回刺したと言います。

 逃げようとした彼女を殴り、再びナイフで切りつけて殺したことを自供しています。しかし、犯行の動機については、語られていません。

 この事件は犯人が14歳の未成年の少年であるということや、その犯行の残虐さや、また、彼自身が父親からDVを受けていたこと、また、未成年の殺人という犯罪の量刑についてなど、様々な見地から波紋を呼んでいます。

 逮捕後に彼自身についての捜査が進むにつれて、彼は子供のころから、暴力にさらされて過ごしてきたことが浮かび上がってきました。両親の別離を背景に、不安定な家庭環境の中で生きてきた上に、数ヶ月前には、彼は頭蓋骨を縫った状態で登校し、父親にハンマーで殴られた結果だと友達に説明していたといいます。

 なぜ、恋人であるはずの彼女を殺さなければならなかったのか? 殺すほど憎い人ならば、関わらなければよさそうなものを交際を復活させてまで殺人に及んでしまった、しかも計画的に殺そうとしていたことなど、彼自身が父親から暴力を受けていたことから、身近な誰かを傷つけたかっただけなのか? その真相については語られていません。

 この異常な犯行に少年は、精神鑑定を受けましたが、彼の犯行は詳細にわたって計画されているもので、本人もその犯行の一部始終を細かく記憶していて、説明しているため、責任能力は問える状態であると判断され、すでに起訴、裁判所は、実刑(懲役刑)を求刑しています。これにより、彼はすでに少年刑務所に収監され、最高で20年の懲役が課されることになります。

 殺された13歳の少女は、中学2年生、前日の夜、寝る前に彼女を見たのが最期になってしまった両親は、遺体が発見された朝は、彼女がまだ寝ていると思っていたそうです。

 しかし、度々、夜中に13歳の少女が家を抜け出しているのに気がつかないのもどうかと思いますが、彼女の両親にとっては、前の日の夜の彼女は幸せそうで、このような凄惨な事件が起こるなど、微塵も思っていなかったということです。

 以前にも、14歳の恋愛感情のもつれから、暴力を受けた後に、セーヌ川に投げ捨てられた少女の事件がありましたが、あの時は、被害者の親も加害者の親もインタビューに答えたりして、フランスは、当事者の親までマスコミで堂々と証言をするんだ・・と驚いたことがありましたが、今回の事件に関しては、被害者、加害者の両親ともに公には口を閉ざしています。

 この事件が起こったのは、ソーヌ・エ・ロワール(ブルゴーニュ地方)のクレッセという人口850人といわれる小さな村での出来事で、パリ近郊の大都市圏とは、地元の住民の捉え方も違うのかもしれません。

 未成年の殺人事件というのは、さすがにそんなに起こることではありませんが、なぜか、目にする機会が多いように感じる14歳という年齢。

 今回の場合は、犯人の少年もかなり陰惨な家庭環境でDVを受けながら育ってきた様子で、彼自身も被害者でもあったとも言えるかもしれません。

 しかし、13歳〜14歳という年齢、背伸びしたい年頃とはいえ、まだまだ子供。娘がその年齢の頃を考えれば、夜中に出かけるなどもってのほか、親の責任がまだまだ大きい年齢です。

 こんな陰惨な事件の被害者には、申し訳ないし、不謹慎でもありますが、つくづく娘が無事に育ってよかった・・子供が無事に育つのって奇跡的かも?などと思ってしまうのです。


フランスの14歳の殺人事件


<関連記事>

「嫉妬による嫌がらせから起こった14歳の殺人事件 セーヌ川に捨てられた少女」

「パリ15区での14歳の少年への集団襲撃事件」

「グループ抗争による2件の乱闘事件で、中学生2名死亡 14歳は危険な年齢か?」

「フランスの家庭内性暴力の犠牲者が起こした殺人事件 ヴァレリー・バコの裁判」

「恐ろしく物騒になってきたフランス」


2022年6月11日土曜日

パリ レピュブリック広場で行われたウクライナで殺害されたジャーナリストの追悼集会に参加しました

   


 5月末にウクライナの戦場で取材中に殺されたフランス人ジャーナリストの追悼集会がパリ・レピュブリック広場で行われました。

 彼の死亡についての報道はテレビやネットで目にしていましたが、32歳という若さで命懸けで真摯に仕事に取り組んでいたジャーナリストの死亡は一視聴者としても、やるせない気持ちで、パリで行われるならば、ぜひ立ち会いたいと参加してきました。

 当日は、午後6時半とはいえ、まだ陽も高く、1人の若者の追悼集会には、悲しいほど晴天で新緑がきれいなレピュブリック広場には、多くの人々が集まっていました。



 この亡くなったジャーナリストがBFMTVの社員であったことから、BFMTVの進行で行われましたが、彼のボルドーでのジャーナリストの学生時代の同級生、BFMTVの幹部、同僚、彼の母親、彼女、そして、ウクライナで彼と共に取材を続けてきた男性などが、次々と彼の人となりや仕事への向き合い方など彼のこれまでの軌跡、また報道の自由やジャーナリズムのあり方についてなどを語り続けました。

 パリのレピュブリック広場に集まっている大勢の人々は、彼らの話を聴きながら、涙する人も少なくありませんでした。

 パリで追悼集会というものに初めて参加しましたが、いつものデモなどの集会のような暴力的な感じや人を押し退けるような感じは微塵もなく、亡くなってしまった彼に寄り添う優しい人が多い印象でした。こうした気持ちを同じ場所に集って共有するというのは、不思議な連帯感が生まれるものです。心の中のフツフツとした感情を呼び起こしてくれるような感じです。

 中でもやはり印象的だったのは、彼の母親の話で、彼がこのジャーナリスト(カメラマン)の道に進んだ経緯や、その後の仕事への向き合い方、そして、今回のウクライナの戦場への取材に向かう前に長い時間、話し合ったことなどを冷静に語っていたことでした。

 彼はウクライナに発つ前に、あらためて、これが自分の職業へのコミットの意味であり、これが自分がこの職業を選んだ理由であると話していたようです。こんなに自分の息子の仕事への信念を理解している母親が一体、どれだけいるだろうか?と、私は自分を省みて、恥ずかしい思いでした。

 彼の母親の話を聴いて、彼の死亡直後にこの母親がロシアのタス通信が報道した内容に対して、毅然と公に反論を表明した意味や理由がわかるような気がしました。

 この日に話をした全ての人は、「彼は、控えめで目立つことを好まない人でしたが、楽しく、面白く、優しい人でもあり、いつも仲間に寄り添い、利他的で繊細で、声なき人々、「マイクを与えられない人々」に声を与えるという使命に真剣に取り組んでいた」と証言しています。

 そして、涙を誘ったのは、彼の最期の瞬間まで一緒に仕事をしていたウクライナから帰国したばかりの同僚の話でした。ウクライナの最前線の戦地で34日間、彼と寝起きを共にして、一緒に食事をし、一緒に仕事をしてきた彼の話はやはり真に迫るものがありました。

 彼らが無謀な取材をしていたのでは?という問いも投げかけられることもありました。しかし、そもそも危険な戦地です。取材に出発前にも可能な限りの安全状況を確認して、当日も安全の確認のために、当初の予定時間から2時間近くも遅れて出発したのだそうです。

 彼によれば、フレデリック(亡くなったジャーナリスト)とは、その都度、とことん話をして取材に臨んでいたが、彼ほど静かに、熱く語る人を今まで自分は知らなかったと話しています。

 「フレデリックは忠実で、人に対して優しく、常に慎重で、時間に遅れがちでした・・しかし、彼が時間に遅れがちなのは、決して彼がだらしないからではなく、彼が全ての準備を念入りにする完璧主義者だったからです」彼は爆撃を受けた直後、ただただ呆然とトラックの前に立ち尽くして彼の名前を呼び続けただけだった自分を振り返っています。

 彼は皆の前で、5分近くしっかり話をしましたが、その後は、呆然と大きく掲げられているフレデリックの写真を見つめて硬い表情を崩すことはありませんでした。彼は自分の話の中でも、現在、戦場で冗談のようにフレデリックと話していたとおりに、自分はPTSDの状態にあると語っていましたが、まさに、側から彼のたたずまいを見るだけでも、彼が深く傷ついていることがわかる様子でした。



  

 私たちは、現在、あたりまえのように戦地の映像を溢れかえるほどに毎日、目にしていますが、映像だけでも心が痛むところを実際に現場で取材に臨んでいる人々がどんなに大変な思いをしていることか、ましてや、目の前でその数分前まで必死に共に取材をしていた仲間が亡くなってしまったら・・そのショックや彼が負ってしまった心の傷は計り知れません。

 強い信念と深い志に溢れ、真剣に仕事に取り組んできた健康な若い青年の死は本当に残念なことです。

 それでもフレデリックの母親は、「ここに集まってくれた人々は、直接に彼を知らなかった人々も私の、そして彼の友人だと思っています。プーチンよ!これが、あなたが殺した美しい人だ!」と強く語りました。


ウクライナで死亡したフランス人ジャーナリストの追悼集会 レピュブリック広場


<関連記事>

「フランス人ジャーナリスト ウクライナの戦地で取材中に撃たれて死亡」

「フランス人ジャーナリストの死亡に関するロシア・タス通信の嘘の報道に遺族が公に出したメッセージに感動」

「ロシア人でもあり、ウクライナ人でもあった元同僚の話」

「言論統制・報道規制の恐怖 プーチン大統領を止められるのは誰か?」

「ロシアとオウム真理教 独裁者の暴走」

 

2022年6月10日金曜日

2035年にはヨーロッパは電気自動車だけになる

   


 ストラスブールで開催された欧州議会は、EUの気候変動対策計画の一部である自動車のCO2排出規制に関する文書を339票(反対249票、棄権24票)で承認しました。この投票は、妥協案をまとめるための加盟国との交渉に先立って、欧州議会議員の立場を示すものとなります。

 これにより、ヨーロッパでは、2035年以降、内燃機関自動車(ガソリン、ディーゼルエンジンに代表されるピストンエンジンで機動するエンジン内でガソリン等の燃料を燃やして生じる燃焼生成物から動力を得る車)が廃止され、欧州では電気自動車のみが販売されることになります。

 現在、ヨーロッパのCO2排出量のうち、自動車は少なくとも12%を占めています。この欧州議会の決定には、2025年までに自動車排出量を15%削減し、2030年までに55%削減するという中間目標も盛り込まれています。

 しかし、現段階では、欧州議会での決定という第一段階に過ぎず、この計画が順当に進んでいくには、いくつものハードルがあります。今後、登場するであろう水素などの他の方法にも門戸は開かれているものの、ヨーロッパにとっては、自動車市場において競合他社と比較して、劣勢に陥る危険も孕んでいます。

 また、フランス、ドイツ、スペイン、イタリアなど、いずれの国でも、自動車産業は、現在脅かされている産業界の雇用の大きな割合を占めており、生産体制が電気自動車に移行していけば、電気自動車の製造は内燃機関より少ない労働力で済むため、バッテリー工場の設立にもかかわらず、エネルギー転換により多くの雇用が失われる可能性があります。

 例えばフランスでは、自動車プラットフォーム(PFA)によると、電気自動車への切り替えにより、同業界で20万人ある雇用のうち6万5千人が失われる可能性があると言われています。これにより起こる人員削減のためのデモの様子が目に浮かぶような気がします。

 消費者側にとっては、補助金などの政府の援助もあり、ハイブリッド車や電気自動車は、ある程度、普及し始めてはいますが、一方では、ガソリン車は部品不足の影響を受け、衰退の一途をたどっているにも関わらず、買い手があきらめずに納車を待ったりする現象も起こっています。何よりガソリン車と電気自動車の維持費も含めた価格差が大きな隔たりとなっているのです。

 そもそも、中古車好きのフランス人にとって、新車に固執する層はそんなに多いとも思われず、車を買うといっても中古車から探すようなところもあるので、2035年以前に販売されたガソリン車は、その後も、低排出ガス地帯(LEZ)ですでに行われている都市中心部へのアクセス制限を受けながらも、走り続けることができるので、中古車にしがみつくことが可能です。

 また、フランスでは、その中古車でさえも壊れたガラスにプラスチックのシートを貼り付けたり、折れたバックミラーをガムテープで貼って、そのまま平気で乗っていたりするので、新車、しかも電気自動車ばかりになる時代というのは、現段階では、ちょっと想像しにくい感じがします。

 また、当然のことながら、電気自動車には電力が必要なわけで、電力生産そのものにも、また一つハードルがあります。フランスは電力生産の多くを原子力発電に頼っているので、その面では、石炭を使うドイツやポーランドよりも、有利であるとは、考えられますが、ケチなフランス人が高価な電気自動車を買うかと言われれば、何か抜本的な打開策でもない限り、今後はより一層、中古車にしがみつく傾向に進んでいくようになると思われます。

 しかし、このニュースが、フランスでもあんまり騒ぎにはなっていないのは、これはあくまで欧州議会の決定であり、施行されるのは、2035年というまだまだ先の話で、とりあえずは、13年も先の話よりも現在のガソリン価格の高騰やインフレの方が差し迫った問題であり、「そんな先のこと考えてる場合じゃない!」というのが正直なところかもしれません。


2035年電気自動車 欧州議会


<関連記事>

「フランス人の金銭感覚 フランス人は、何にお金を使うのか?」

「フランス人と車」

「花火は禁止でも車は燃えるフランスの年越し」

「2024年に延期されたパリ中心部の自動車交通規制」

「パリ18区で検問を拒否した車に警察官が発砲 1名死亡、1名重症 原因はシートベルト未着用」



2022年6月9日木曜日

フードバウチャーは2段階の施行 9月初めには低所得者向けにインフレ手当の支援金直接銀行振込

   


 パンデミック以来、加速しているインフレに対応して、フランス政府は昨年から、低所得の人々に対して、インフレ手当や、エネルギーチケットなどを配布してきました。

 また、ガソリン価格の高騰により、政府は1リットルあたり18セントの補助(店頭表示価格からの値引き)を提供してきましたが、ガソリン価格の高騰は止まるところを知らず、現在フランスのガソリン価格は軽々と2ユーロ(ℓ)(約280円)を突破し、「フランスでこれほどガソリンが高くなったことはない」とまで言われています。

 やはり、ガソリン価格の高騰は輸送費があがることで、全ての商品に波及する深刻な問題で、自家用車を使う人にはもちろんのこと、そうでない人にも多大な影響を及ぼします。

 インフレが猛スピードで進んでいく中、マクロン大統領の選挙公約にあった「フードバウチャー」についての発表が期待されていましたが、先日、ようやくエリザベット・ボルヌ首相から、その概要について発表されました。

 昨年末に取り上げられ始めた「フードバウチャー」については、もともとは、単にインフレ対策だけではなく、環境問題や国内製品需要を考慮するものでもあり、低所得者層が新鮮な地場産品を購入できるよう支援することを目的とした資金援助とされていました。

 しかし、インフレのスピードは、止まるところを知らず、4月の段階ですでに5%近くも上昇し、この食料品、しかも地場産にこだわっての複雑な対応を待っていては間に合わず、正直、地場製品とかビオの製品どころか、価格が上昇する分、品質を落とした低価格のものを購入せざるを得なくなっている現状に、当初の「フードバウチャー」の計画は、2段階のシステムをとって行うことを確認し、緊急措置として、低所得者や学生に向けて、ひとまず、9月の新年度の始まりに、現金で直接銀行に振り込まれることになりました。

 この援助の金額は、「家族の中の子供の数」を考慮して計算されるとのことで、100ユーロ〜150ユーロと見込まれています。

 これで一息ついたところで、政府は第2段階の「すべてのフランス国民が質の高い製品、有機製品を入手できるようにするための対象システムの検討」を開始すると発表しています。

 また、ガソリン価格支援の18セント(1ℓあたり)の割引も当初予定の7月31日までから8月31日までに延長されます。(1ヶ月だけ??とも思ったけど・・)

 そして、同時に、ボルヌ首相は、インフレの影響を受けない製品の価格上昇について、警告を発しました。特定の人々が、この一般的なインフレ環境を利用して、値上げする理由がないのに値上げする(いわゆる便乗値上げ)」ことを防ぐために、DGCCRF(競争・消費者問題・不正防止総局)を含む適切なサービスによるチェックが開始されると明言しました。

 現在のこの状況で、値上げする理由がない商品がどこにあるのか?とも思いますが、便乗値上げは往々にしてあり得ることで、公正にチェックしてくれる機関があれば(それがどの程度機能するのかは疑問ではある)、ありがたいことです。

 経済産業相は、昨日のインタビューで、2023年にはこのインフレも落ち着き始めるだろうと語ってはいましたが、一度値上げしたものが値下げになることは、あんまりないような気もするので、物価の上昇が落ち着いたとしても、これが下がり始めた時の適正価格の監視をしてもらわなければ、現在は政府が少しでも援助をしてくれるうちはまだよいですが、そうでなければ、物価の上昇が止まった時点で価格だけが留まり、そのままその価格が定着することになれば、援助が打ち切りになり、梯子を外されることになります。

 私は現在、日本で生活をしていないので、日本のインフレについては実感がありませんが、日本とて、インフレは例外ではないはずです。先日、日銀総裁が物価高をめぐり、「家計が値上げを受け入れている」と発言したことが大炎上し、その後に「誤解を招く表現だった」と謝罪していましたが、日銀総裁という立場の人間が公の場で、自分の発言がどのように受け取られるかということもわからないで発言するということ自体が全く理解ができません。

 コロナの時も、日本の援助金は、なにかと一律で不公平な感じで、本当に弱い立場の人を守ろうという姿勢は感じらませんでした。今回の日銀総裁の言葉は、いみじくも日本政府の姿勢そのもので、「国民が我慢して耐えていること」を「国民が受け入れている」と解釈する政府の都合のよさを表しているような気がします。

 フランス人は黙って我慢しないので、政府は急いで国民の納得のいく対応を取ろうと対策を取ります。日銀総裁のような発言などもってのほかで、そんな発言がなくとも、このインフレという現実だけで、ぐずぐずしていれば、デモや暴動が起こります。

 外から日本を見ていると、ひたすら国民が耐えていることで、成り立っているように見えて仕方がありません。


フードバウチャー インフレ支援金


<関連記事>

「燃料費の急激な高騰のためにフランス政府が緊急に支払う100ユーロのインフレ補償手当」

「「電気料金滞納しても、電気は止められなくなる」措置は電気料金値上げのための布石か?」

「エネルギー価格の高騰に伴うエネルギークーポンの配布」

「日本の雑誌のパリ特集と電気・ガス料金・高速料金値上げ(2022年から変わること)」

「インフレも何も全然関係ないエルメスの絶好調」


 





2022年6月8日水曜日

パリ18区警察官発砲事件が呼ぶ波紋 警察官発砲事件は今年2件目だった・・

   


 先週末にパリ18区で警察官の検問を拒否して逃走しようとした車に乗っていた乗客が射殺された事件について、少しずつその時の状況が浮上してきているとともに、事件以来、身柄を拘束されていたこの事件に関与していた3人の警察官が釈放されたという驚きのニュースが入ってきました。

 土曜日の午前10時45分頃、モンマルトルの丘のふもと、クリニャンクール通りとカスティーヌ通りの交差点で、シートベルト付着用で警察の取締中、車(プジョー207)に乗っていた4人が逃走。車はその後、警察官の乗っていた自転車に衝突、警察官1名が車にはねられ左手に傷を負い、右膝が腫れる程度の負傷を負いました。

 さらに車を止めるために警察官2人が車に向けて9発を発砲しています。

 運転手と助手席の女性は警察の銃撃で重症を負い、救急搬送されましたが、頭を撃たれた助手席の女性は死亡、背中を撃たれた運転手は重症を負いましたが、事故の翌日には集中治療室を出て、命に別状はない状態で容体は安定しているそうです。

 この車を運転していた男性は38歳、数々の違反行為によって運転免許が失効になり、新しい免許の取得も禁止されていたとのこと、また、5年間は武器の保持・携帯を禁止されている警察のマーク対象人物であったようです。

 この発砲事件の際には、車の後部には他に21歳の若い女性と37歳の男性が同乗していましたが、彼らに怪我はありませんでした。彼らの証言によると、この車を運転していた男性は、免許を持っていないため、警察の検問で止まることを拒否したと話しています。

 運転手同様、この2人のうち、少なくとも1人は警察がマークしている人物で、アルコールと大麻を摂取していたようです。

 こんな車に乗車していた人々の背景が見えてきたこともあってか、今後も捜査は続行するという前置きつきではありますが、警察官が現段階では起訴されることなく釈放されたのですが、当然、そのことに対して、「服従拒否を理由の射殺を正当化するのか! 警察は射殺を容認する集団アライアンスだ!」と反対の声があがっています。

 また、その反対の声に対して、警察を侮辱したとして、警察組合はこの発言をした政治家を告訴すると息巻いており、法務大臣も「警察や憲兵隊は尊敬に値します。彼らは勇敢で困難な仕事をし、どんな時も命をかけているのです。彼らを侮辱することは、統治を望む人たちの名誉を傷つけることになる。選挙戦の人質として利用することなく、調査を行わせてください!」と反論しています。

 たしかに、選挙を前にして、何か起こるごとに政治家の足の引っ張り合いのように、こきおろそうとするような発言が目立つ気来はあるのですが、圧倒的な公的権力を持つ警察の行き過ぎた行動を問題視することは、必要なことでもあり、逆に選挙戦の人質として、その発言を過小評価する逃げ口上のような気がしないでもありません。

 警察側の発表によれば、暴力のために負傷している警察官は1日あたり110人だそうで、治安の悪化、凶悪化とともに、「命を張って仕事をしている警察官にとっては、警察側も攻撃されることから身を守る術を取らざるを得ない場面もある」としています。

「ここはアメリカではない!拳銃の発砲は、慎重にすべきである」という意見は捨ておけない気がしますが、そこでアメリカを引き合いに出して語るのも、なかなかフランスっぽいな・・などと思います。

 しかし、私は、この事件で初めて知ったのですが、4月24日にもパリのポンヌフ通りで検問を強行突破した車の運転手と助手席の同乗者を銃撃して殺害するという同様の事件が起こっており、警察官は、「任意過失致死罪」で起訴されています。それから約1ヶ月半後にまた、同様のこの事件が起こっているのは、本当に嘆かわしいことです。

 治安が悪くなり、犯罪も凶悪化するから、警察の対応も強硬化し、過激になる悪循環です。しかし、過失とはいえ、逃走した運転手本人ではなく、同乗者の命が奪われている事実は深刻に受け止めるべきです。警察官が危険な任務に携わっていることは理解していますが、警察官の発砲を容認するようには、なってほしくありません。


パリ警察官発砲事件


<関連記事>

「パリ18区で検問を拒否した車に警察官が発砲 1名死亡、1名重症 原因はシートベルト未着用」

「サッカー ヨーロッパチャンピオンリーグ決勝戦 試合よりも話題沸騰のスキャンダル」

「3日に1人の割合で起こっているフランスの警察官の自殺」

「防犯カメラで警察官の暴力が暴露されるフランス」

「グローバルセキュリティ法・全面書き直しとブラックブロック」


2022年6月7日火曜日

最近のフランスのケンタッキーフライドチキンはちょっと残念

  


 

 私は日本でも、フランスでも、あまりファストフードに行く習慣はありませんが、特に毛嫌いしているというわけでもなく、たまには、なんとなく食べたくなることもあります。

 フランスには、日本ほどアメリカのレストランチェーンのファストフードが多くはありませんが、それでもマクドナルドやスターバックスは、まあまあ、ふつうにあります。しかし、ケンタッキーフライドチキンやバーガーキングになると、その数はグッと少ない気がします。(どちらかというと郊外にあるイメージ)

 最近は、パリでもドーナツが流行し始めたと言われてはいますが、ダンキンドーナツやミスタードーナツはなく、セブンイレブン(これはファストフードというよりコンビニですが・・)やファミリーレストランもありません。

 一部には、フランスは自国の食文化を守るために、あまり外国の大規模なチェーン展開のレストランを入れないという話を聞いたことがありますが、実際のところ、理由は不明です。

 日本に一時帰国した際もあまり、ファストフードには行かない(他に食べたいものが多過ぎて、そこまで手が回らない)ので、現在の日本のマクドナルドやケンタッキーがどんなものなのかはわかりませんが、次から次へと日本ならではの新製品が出て、広告やツイッター、YouTubeなどで見ているだけですが、うわぁ〜美味しそう・・と海外から、羨ましく眺めています。

 しかし、マクドナルドにしても、ごくごく定番のハンバーガーやポテト、ビッグマックなどは、入れ替わる新製品とならんで、いつでも存在し、おそらくどこの国で食べても、それぞれの国の物価によって値段は違っても、ビッグマックはおおよそ同じものなはずです。

 ファストフードの中で、たまに食べたいと思うもののひとつは、私にとっては、ケンタッキーフライドチキンで、フランスに来たばかりの頃、まだパリ郊外の義姉夫婦の家の近所に住んでいた頃は、しょっちゅう、義姉の家に顔を出していて、その家の娘(夫の姪っ子)がKFC(カーエフセー)(フランスでは、ケンタッキーをカーエフセーと呼びます(KFC(ケーエフシー)のアルファベットのフランス語読み)でアルバイトをしており、彼女が時々、持ち帰ってきてくれるフライドチキンをご馳走になっては、なんだか、懐かしい気がしたものです。

 パリに引っ越してきてからは、近所にはKFCがないので、数少ないKFCの近くに行けば、滅多に買えないすぐに食べられるものとして、時々、買ってきてみたりしていたこともありました。その頃までは、たしかに、日本でも食べたことのあるケンタッキーフライドチキンだったのです。

 しかし、そんな機会もなく、しばらくケンタッキーフライドチキンを食べる機会もなく、数年が過ぎ、ある時、ひょんなところで、KFCを見かけて、喜んで入ってみたところ、なんとすっかりメニューが変わっており、いわゆる元祖ケンタッキーのオリジナルチキンが姿を消していたのです。

 あのケンタッキー独特のフレーバーも変わっていて、いわゆる、ドラムやリブ(あばら)、キール(胸肉)やサイ(おしり)の骨つきのチキンはなくなり、テンダーと呼ばれるささみの部分と、かろうじて骨つきは、ホットウィングというチキンだけになっています。

  


 とにかく、あのケンタッキーのフレーバーでもなく、衣ばかりがやたらとぶ厚い、全くの別物・・日本では、マニアの人の間では、あのケンタッキーの味を自分で再現しようとしている人もいるというのに、オリジナルに近付けようとしているとも思えない全くの別物がオリジナルメニューとして、君臨しています。

 フランス人には、骨つき肉が食べにくいので嫌われたのかどうかは、わかりませんが、最近のフランスのケンタッキーフライドチキンには、ちょっと残念に思っているのです。


ケンタッキーフライドチキン KFCフランス


<関連記事>

「コマーシャルセンターの衰退」

「ファラフェル激戦区 パリ・マレ地区の美味しいファラフェルのレストラン2選」

「パンの国フランス・パリで大成功した日本のパン屋さん・ブーランジェリー AKI(アキ) Boulangerie AKI」

「フレンチパラドックス 先進国で意外と肥満の少ないフランス」

「フランスの貧乏大学生の質素な生活」