2021年6月26日土曜日

フランスの家庭内性暴力の犠牲者が起こした殺人事件 ヴァレリー・バコの裁判

 


 フランスでは、今、2016年3月に起こった殺人事件の裁判が大きな話題を呼んでいます。

 この殺人事件を簡単に言えば、夫を銃で撃ち殺して、子供にも遺体を埋めるのを手伝わせたという陰惨な事件でしたが、この殺人に及ぶに至った、それまでの彼女の生い立ちに、世間は震撼とさせられています。

 彼女が殺害した夫というのは、もともと彼女の義父であり、彼女が14歳の時から、この義父による暴力的なレイプが始まり、この事件により、義父は2年半投獄されます。

 しかし、2年半後に釈放されると、この義父は、再び家に戻り、また同じことが繰り返され、彼女が17歳で義父の子供を妊娠、子供ができた時点から、彼の支配的な関係はさらにエスカレートし、彼女は彼の子供を合計4人産んでいます。

 もともとは母親のパートナーであったはずの義父とどのような経緯で彼女が義父と婚姻に至ったのか? 母親は何をしていたのか? その間の確執は明らかにはされていませんが、この性的倒錯者による支配的な家族関係が全ての原因であったと思われます。

 彼女は、夫との婚姻に関して、振り返って、子供には父親が必要だと思ったと語っています。

 それから四半世紀にわたって、彼女は、暴力、レイプに加えて、武器で脅されながら、アルコール依存症で暴力的な夫が用意したライトバンの中で、売春を強要され続け、この夫の食指が彼女の娘に及び始めようとしていたのを察し、この恐ろしい連鎖が永久に続くことを恐れて、犯行(夫を殺害すること)を決意したと語っています。

 彼女の弁護側は、「被害者は、彼女の方だ!」と彼女が約25年間にわたって、性暴力の被害を受け続けてきた経緯を説明し、情状酌量を求めました。

 結果的に、裁判所は、「明らかに彼女は犠牲者である」ことを認め、彼女が危険人物ではないこと、これまでの彼女が受けてきた連続的な暴力などを鑑み、5年の禁固刑、執行猶予4年を求刑、実際には、すでに1年を刑務所で過ごしている彼女は、自由の身となりました。

 自由の身となった彼女は、とにかく虚脱感しかないと語っていました。

 どんなに寛大な判決が下りたとしても、彼女の25年間は、戻ってこないだけでなく、彼女が多感な少女の頃から受けた心身ともに及ぶ傷は消えることはありません。

 最初にこの男が投獄され、2年半後に釈放された後に家に戻ることが可能であったことが何よりも問題です。

 先日、起こったDV男が一度は投獄されたものの、釈放後に元妻を何度となく訪れ、終いには彼女を起きかけまわし、路上で焼き殺したという陰惨な事件が起こっています。

 なぜ、このような危険な人物を釈放し、野に放ち、第2の悲劇を生むことになるのか?フランスの司法は、問題を抱えています。

 DVや性的倒錯者などは、投獄されたからといって、過ちを悔い改めるケースは少なく、たとえ釈放されても、長い間の監察が必要ですが、実際には、フランスにある犯罪者追跡のためのブレスレットは、ほとんど使用されていません。

 フランスでは、毎年13万人の少女がレイプの被害に遭い、そのうちの1万人以上が妊娠しているという調査結果が出ています。

 その中でも、なかなか表面化しにくくもありますが、家庭内のレイプも決して少なくないのです。DV(性的被害も含めて)は、心的外傷を受けた子供が大人になって同じことを行うという連鎖も悲しい事実です。


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