新型コロナウィルスにより停滞した文化事業推進・支援と若者への文化と芸術への好奇心を喚起させるために、マクロン大統領は、5月半ば過ぎに、現在、18歳(2003年生まれ)の若者、約80万人に対して、300ユーロのカルチャーパスを付与することを発表しました。
マクロン大統領は、同時に、彼のTikTokアカウントでも、申請書のアカウントに名前を登録するだけで使うことができるカルチャーパスは、「映画、小説、マンガ、ビデオゲーム、劇場、ラップ、メタルなどなど・・あらゆる文化的な目的に使用することができます」と若者向けに拡散しています。
若い世代には、若者の通信手段に向けて、自らのアカウントから直に発信するあたり、しっかりと時代を把握している感があります。
このカルチャーパスの実現には2年以上の月日が費やされており、劇場、映画館、美術館、音楽、ショーのチケット、映画のサブスクリプション、芸術・美術材料、楽器のコースまでも提供しています。
しかし、それには、ある程度の制限がかかっており、書籍は、書店からの購入に限られ、Amazonから配送することはできません。また、音楽の面では、SpotifyではなくDeezer、映画等の配信サービスは、Netflix、Amazon Prime、DisneyではなくCanal +、Madelenなど、フランスの産業を盛り立て、活性化するように意図されています。
また、2022年1月には、このカルチャーパスは、中学生に年間25ユーロ、高校生にそれそれ50ユーロが割り当てられます。これは、一人当たり合計200ユーロで、若者が18歳になった時の300ユーロを加えると、500ユーロになります。
この時点で、カルチャーパスは、中学生以上、400万人が該当する特大案件に膨れ上がります。18歳のカルチャーパスに関しては年間1億6000万から1億8000万ユーロが見積もられています。
しかし、もともとフランスでは、ルーブルなどの主要国立美術館などに関しては、26歳以下は無料で、このカルチャーパスを使うまでもありません。
そして、いざ、蓋が開いてみると、これは、意外な?方向に偏り始めたのです。
このカルチャーパスでは、本を購入することができるのですが、このうち、4分の3はMANGA(マンガ)で、日本の漫画コミックが爆発的に売れているのです。若者たちが、10 冊、20 冊、さらには 50 冊のマンガを抱えて店を出てきます。
マンガを扱う書店におけるコミックの売上高トップ 40は、ほぼすべて日本語のタイトルで構成されています。書店においては、今や、「カルチャーパス=マンガパス」と呼ばれているほどです。
「大多数は、普段は購入する余裕のない大規模なシリーズものを購入する」のだそうで、一人で10冊、20冊、50冊のマンガを抱えて店から出てくるのも頷けます。
カルチャーパス運用のベストセラーマンガは、すでにトップセラーとなっているマンガです。フランスで2年間で200万部以上を売り上げた「鬼滅の刃」は、記録を塗り替え続けています。これは、先日、映画館の再開とともに、封切りになった映画「鬼滅の刃」の大ヒットも後押ししています。
また、「進撃の巨人」の最終巻は10月13日に発売予定になっていますが、すでに、シリーズのすべての巻で在庫が落ちしています。
フランスのカルチャーパスがまさかのマンガパスになるとは、フランスの文化継承に貢献することを見積もっていた政府の意向をよそに日本のマンガという文化がこれほど、フランスの若者に根付いていたことに驚きを隠せません。
数年前から、フランスでは、普通の書店に行っても、当たり前のようにマンガが置いてあるようになり、メトロの中でもマンガを読んでいる若者を見かけたりすることに意外な驚きを持って眺めていましたが、このカルチャーパスにより、そのフランスの若者文化のほとんどをマンガが占めているということがさらにはっきりと浮き彫りになった形です。
フランスで広まった日本食ブームの一旦は、マンガが担っていたとも言われており、日本のマンガの中に登場する日本のラーメン・餃子などの食べ物を食べてみたい・・と思って、最初は、パリにある日本食屋を訪れた・・という人も少なくありません。
以前、家に遊びに来た女の子が「日本のラーメンを食べてみたい・・」というので、パリのラーメン屋さんに連れて行ったことがありましたが、「なぜ?ラーメン?」と聞くと、その子も日本のマンガが好きで、「マンガに出てきたラーメンを食べてみたかったから・・」とのことで、とても満足そうにしていました。
日本のマンガを読んで、日本に行ってみたい!と、思う若者も少なくありません。コロナ前までは、日本行きの飛行機は、いつ乗っても、フランス人でいっぱいでした。
残念ながら、現在は、日本へは簡単には、行ける状態ではありませんが、このカルチャーパス=マンガパスで、さらに日本を知る人が増え、パンデミックが終息したら、また多くのフランス人に日本を訪れて欲しいものです。
それにしても、フランス文化の継承を目論んでいた政府が目の当たりにしたのは、「フランスの若者の文化=日本のマンガ」というフランスにしたら、ちょっと残念、でも日本人の私としては、フランスの若者から日本が愛されているような、ちょっと嬉しい現実でした。
カルチャーパス
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