先週末にパリ18区で警察官の検問を拒否して逃走しようとした車に乗っていた乗客が射殺された事件について、少しずつその時の状況が浮上してきているとともに、事件以来、身柄を拘束されていたこの事件に関与していた3人の警察官が釈放されたという驚きのニュースが入ってきました。
土曜日の午前10時45分頃、モンマルトルの丘のふもと、クリニャンクール通りとカスティーヌ通りの交差点で、シートベルト付着用で警察の取締中、車(プジョー207)に乗っていた4人が逃走。車はその後、警察官の乗っていた自転車に衝突、警察官1名が車にはねられ左手に傷を負い、右膝が腫れる程度の負傷を負いました。
さらに車を止めるために警察官2人が車に向けて9発を発砲しています。
運転手と助手席の女性は警察の銃撃で重症を負い、救急搬送されましたが、頭を撃たれた助手席の女性は死亡、背中を撃たれた運転手は重症を負いましたが、事故の翌日には集中治療室を出て、命に別状はない状態で容体は安定しているそうです。
この車を運転していた男性は38歳、数々の違反行為によって運転免許が失効になり、新しい免許の取得も禁止されていたとのこと、また、5年間は武器の保持・携帯を禁止されている警察のマーク対象人物であったようです。
この発砲事件の際には、車の後部には他に21歳の若い女性と37歳の男性が同乗していましたが、彼らに怪我はありませんでした。彼らの証言によると、この車を運転していた男性は、免許を持っていないため、警察の検問で止まることを拒否したと話しています。
運転手同様、この2人のうち、少なくとも1人は警察がマークしている人物で、アルコールと大麻を摂取していたようです。
こんな車に乗車していた人々の背景が見えてきたこともあってか、今後も捜査は続行するという前置きつきではありますが、警察官が現段階では起訴されることなく釈放されたのですが、当然、そのことに対して、「服従拒否を理由の射殺を正当化するのか! 警察は射殺を容認する集団アライアンスだ!」と反対の声があがっています。
また、その反対の声に対して、警察を侮辱したとして、警察組合はこの発言をした政治家を告訴すると息巻いており、法務大臣も「警察や憲兵隊は尊敬に値します。彼らは勇敢で困難な仕事をし、どんな時も命をかけているのです。彼らを侮辱することは、統治を望む人たちの名誉を傷つけることになる。選挙戦の人質として利用することなく、調査を行わせてください!」と反論しています。
たしかに、選挙を前にして、何か起こるごとに政治家の足の引っ張り合いのように、こきおろそうとするような発言が目立つ気来はあるのですが、圧倒的な公的権力を持つ警察の行き過ぎた行動を問題視することは、必要なことでもあり、逆に選挙戦の人質として、その発言を過小評価する逃げ口上のような気がしないでもありません。
警察側の発表によれば、暴力のために負傷している警察官は1日あたり110人だそうで、治安の悪化、凶悪化とともに、「命を張って仕事をしている警察官にとっては、警察側も攻撃されることから身を守る術を取らざるを得ない場面もある」としています。
「ここはアメリカではない!拳銃の発砲は、慎重にすべきである」という意見は捨ておけない気がしますが、そこでアメリカを引き合いに出して語るのも、なかなかフランスっぽいな・・などと思います。
しかし、私は、この事件で初めて知ったのですが、4月24日にもパリのポンヌフ通りで検問を強行突破した車の運転手と助手席の同乗者を銃撃して殺害するという同様の事件が起こっており、警察官は、「任意過失致死罪」で起訴されています。それから約1ヶ月半後にまた、同様のこの事件が起こっているのは、本当に嘆かわしいことです。
治安が悪くなり、犯罪も凶悪化するから、警察の対応も強硬化し、過激になる悪循環です。しかし、過失とはいえ、逃走した運転手本人ではなく、同乗者の命が奪われている事実は深刻に受け止めるべきです。警察官が危険な任務に携わっていることは理解していますが、警察官の発砲を容認するようには、なってほしくありません。
パリ警察官発砲事件
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