週明けにウクライナの戦場を取材中に撃たれて死亡したフランス人ジャーナリストをロシアのタス通信社(ロシア公式通信社)は、記者死亡発表のわずか数分後に、ルガンスク人民共和国の分離主義者の指導者の発言として、「フレデリック・ルクレール・イムホフ(死亡したフランス人ジャーナリスト)はウクライナ軍への武器搬入に従事する傭兵(雇兵)だった」と断言した放送を流しました。
これは、ロシア国内向けの彼の殺害を正当化しようとする全く根拠のない嘘ですが、これに対して、亡くなったジャーナリストの母親はこれを黙殺せずに、この嘘の報道をしたロシア・タス通信社とLPR(ルガンスク人民共和国)関係者に向けて、公にメッセージを発表しました。
「私は、あなたが昨日殺した若いジャーナリストの母親です。あなた方の発言、報道を聞いていると、言いようのない不快感を感じます。あなた方は卑怯にも自分の疑い、過ちを晴らそうとしていますが、彼の記憶・記録を汚すことは決してできません。民主主義、人間尊重、そして何よりも自由、公平、正直な情報という、あなたを突き動かすものとはかけ離れた概念に、彼がプロとして、また個人として取り組んできたことは、誰もが知っています」
「今、私は自分の子供のために泣いているすべてのウクライナの母親、両親のために泣いているすべてのウクライナの子供、そして、あまりにも早く逝ってしまったロシアの若い兵士たちの母親と思いを共にしています。二度と彼らに会うことができず、なぜ、死ななければならなかったのか? 何のために死ななければならなかったのか?皆、その理由を考えています」
「私は、苦しみながらも、少なくとも、息子がなぜ死んだかを知っています。いつか、この犯罪の本当の責任者が責任を取らされる日が来るでしょう」
自分の息子を殺されたばかりで、悲しみに打ちひしがれているはずの母親が、このような毅然としたメッセージを発表できる毅然とした強さには、感服させられるばかりですが、同時に、このお粗末な嘘に対する怒りが息子を亡くした彼女自身を奮い立たせているとも思います。
このメッセージの中では、同時に、ウクライナの人々にも、ロシアの人々にも心を寄せて、この戦争全体を非難しています。
彼女のメッセージでは、自分自身の悲しみはもちろんのこと、むしろ、意味がわからないままに戦争に駆り出されて命を落としている人々、そして、その母親たちの無念さまで訴えている懐深いメッセージとなっていることは、さすがにジャーナリストだった彼の母、息子の仕事を引き継いで行っているようにも思えます。
それにしても、これに始まったことではありませんが、ロシアのつく嘘の本当にお粗末なこと。彼がジャーナリストであったことは、彼のジャーナリストとしての取材時の映像が彼の死の直前まで収録され、放送されているのですから、あまりにもナンセンスな嘘。
しかし、報道規制が行われているロシアでは、そんなお粗末な嘘にも騙される国民も少なくないのでしょう。
彼が命を落としたことは、本当に悲劇ではありますが、彼の母親の言うように、意味もわからず戦場に行かされて命を落としているロシア兵やその家族の悲痛はさらに収拾のつかないものかもしれません。
プーチン大統領にとって、人の命は、自国の国民の命でさえ、軽すぎる気がしてなりません。
フランス人ジャーナリスト死亡 ウクライナ ロシア タス通信
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