こういう事件があると、自動車というものは、ほんとに凶器になり得るものだ・・とあらためて恐ろしくなります。
パリでは、パンデミックの前後から自転車利用者が急増し、道幅の広い大通りなどの車線には、ふつうの自動車道(バスレーンが別にあるところもある)に加えて、自転車用のレーンが設けられているところが増えました。
私がパリに来たばかりの頃は自転車というものは、あくまでもスポーツというかレジャーのひとつで、車に自転車を積んで、自転車は郊外で乗るもの・・というような存在でしたが、現在は移動手段の一つになっています。
以前は街中で、日本のように自転車で気楽に買い物などができたらいいのに・・とずいぶん思いましたが、自転車はかなりしっかりした鍵をかけておかなければ、あっという間に盗まれるので、その鍵を持ち運ぶのが重くて億劫で、自転車はずっと諦めていました。
しかし、環境問題や感染症の問題等をきっかけに自転車利用者が急増し、パリ市内にもVelibというレンタルサイクル(ポイントポイントで乗り捨て可能)が急速に拡大してどこに行ってもみかけるようになり、それだけ自転車事故も増えているようです。
今回の事件は、自転車道を自転車で走行中、車に割り込まれて転倒したところから始まります。本来ならば、そこで、割り込んだ車の運転手が車から降り、転倒した被害者の容態を確認し、容態に応じて対応するのでしょうが、ここでこの2人は口論になり、腹を立てた被害者が車のボンネットを叩いたのをきっかけに、加害者側がヒートアップして、自動車に乗り込み、車を再スタートさせ、あっという間にこの被害者を轢き殺したというのですから、恐ろしいことです。
しかも、さらに驚くことに、この車を運転していた男は、17歳の娘をどこかに送っていく途中で娘を車に乗せていたというのですから、さらに驚きです。
事件が起こったのは、平日の午後5時45分頃、パリ8区のマルゼルブ大通りですから、当然、その場に居合わせた目撃証言は多数あるわけです。
しかも、この被害者の男性は、よりにもよって、都市を自転車に優しいものにする協会など、多くの都市計画プロジェクトに参加していた意欲ある善良な27歳の若者とのことで、彼が守ろうとしていたものが原因で命を落とすことになってしまったことは、あまりにも皮肉です。
一時、パリには、自動車、自転車に加えて、キックボードというものが激増し、あまりの危険にパリ市民投票を行った結果、レンタルキックボードは追放され、あっという間に姿を消しました。
しかし、依然として残る自動車、自転車、歩行者の安全な共存については、未だ問題が残されています。
パリ市内は、車も多く、渋滞も多いため、そんなに高速で走ることはできないために、ふつうに走行していれば、そこそこの接触事故はあったとしても、そんなに深刻な事故には至らないのがふつうだと思いますが、これが、自動車と自転車と歩行者とが同時に存在するとなると、また話は別で、そもそもルールはあっても守らないのがふつうのフランス人。歩行者とて、信号が赤でも車が来なければ、平気で車道を渡るし、今回のように自動車が自転車レーンに割り込むようなことがあっても、不思議ではない気がします。
今回の問題は、口論の末、逆ギレした自動車を運転していた男が車を凶器にして、殺人事件を起こしたことで、この男は、ただちに逮捕されています。
週末、パリ・レピュブリック広場では、数百人がデモを行い、「自動車による暴力」の停止を要求し、自転車運転者と自動車運転者の間の同居を平穏にする措置を要求しています。
しかし、最近はひたすら歩いている歩行者の私としては、この自転車レーンを走っている自転車もけっこう危険な場合もあり、自転車に乗っている人も気を付けてもらいたいなと思っています。
自動車と自転車の接触事故からの殺人事件
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