クリスマスの夜、パリ近郊セーヌ・エ・マルヌ県(イルドフランス)で女性1人と4人の子供、合計5人の遺体が発見され、翌日、その家族の父親が逮捕されました。
10歳、7歳、4歳、9ヶ月の子供たちとその母親が父親に殺されたのです。しかも、クリスマスイブの夜に・・。
この事件が公になったのは、同じアパートに住む隣人の通報によるもので、彼女は、アパートの建物の踊り場に血痕を発見して、知人を伴って、その血痕を辿ってその家族の住居に安否を確認しに行きました。ドアフォンに応答した父親は、ドアを開けずに「みんな寝ています」と言ったので、彼女は一旦、家に戻りました。
それから少しして、彼女はその母親から、「いとこの家にいる」というメッセージを受け取りましたが、このメッセージが通常、この女性から送られてくるメッセージとは違うと感じ、アパートのブラインドが閉まったままであったことを心配し、再び、その家を訪れると、今度はドアの取っ手に血が付いているのを発見し、警察に通報しました。
駆け付けた警察官は、玄関の鍵がかけられていたため、窓のシャッターを破ってアパート内に突入すると、悲惨な犯行現場のなかに5人の遺体を発見しました。母親と2人の娘には、多数の刺し傷が認められ、4歳の男の子と9ヶ月の赤ちゃんには、外傷は認められず、窒息死、または、溺死が疑われています。
通報した女性はこの母親と親しくしていたといい、大晦日には一家を家に招待していたと話しており、母親はとても陽気な人で、父親は、とても、おとなしくて控え目な人だったと話しています。
近隣住民らは警察に対し、12月24日午後11時から12月25日早朝にかけて悲鳴を聞いたと証言しており、本来ならば、クリスマスイブからクリスマス当日にかけての一家で楽しく過ごしているはずの時間帯に悲鳴とは穏やかではありません。
アパートに設置されている監視カメラの映像から、この父親は25日の夜8時過ぎにアパートを出ていく様子が確認され、翌日、この父親は同地域の彼の実家の前で逮捕されました。
この男性は2017年にうつ病と精神病性障害で精神病院に収容されており、一応、監視下にあったものの、その後、退院してからまもなく、2019年には、妻の肩甲骨をナイフで刺すという事件を起こしていました。
この夫婦、最近、結婚したばかりであったようですが、14年間の長い付き合いで、この事件の際も、妻は事を大ごとにしたくない事件化したくないと、パートナーが長年うつ病に苦しんでいると説明し、精神鑑定の結果、気分変調症(慢性うつ病状態によって定義される気分障害)と精神病的病理が存在し、事件当時の識別能力が失われていたと結論づけられ、その後、事件はそれ以上の措置を講じることなく終了してしまいました。
結果的には、彼の精神病理は改善されることもなかったために、この惨状が展開されてしまったことになったことは、とても悔やまれることです。
この手の精神障害とも思われる夫婦間および家族間の残酷な殺害事件は、時々、事件として浮上しますが、なぜ、ナイフまで持ち出したような事件を起こした加害者を、たとえ、被害者であったパートナーが事件として扱われることを望まなかったとしても、野放しにしてしまうのかは、そのたびに疑問に感じるところでもあります。
この男性は、逮捕後に、「愛している妻に危害を加えたかったのではなく、自分自身に危害を加えたかった・・意図的せずにやってしまったことだ・・」と語っているそうですが、事件後に、妻の携帯から隣人に妻に扮してメッセージを送って犯行をごまかそうとしていたりもしていたことから、どうにも辻褄が合わない気がします。
検察は「15歳の未成年者の故意の殺人」と「配偶者の故意の殺人」でこの事件の司法捜査を開始しました。 一家の父親はこれらの犯罪で終身刑に直面しています。 事件を起こした時点での精神病理の鑑定により、判断力がなかったと認められた場合、彼は懲役30年に処される可能性もあります。
家族5人殺害ともなれば、日本だったら、まずは死刑は免れようもないと思われますが、死刑制度が廃止されているフランスでは、最悪でも終身刑です。精神病により責任能力なしと判断された場合は懲役30年になる可能性もあります。
死刑制度には、問題があるとはいえ、このような人物が刑務所に30年いて、精神状態が改善されるとも考えにくく、また、これ以上悪化した状態で世に放たれるのかと思うと、凍り付くような思いがします。
クリスマス一家5人殺人事件
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