2023年9月20日水曜日

日本の失われた30年に思うこと

  


 最近、よく日本のメディアでは「失われた30年」という言葉をよく目にするようになった気がしますが、正直、この30年は、はからずも、私が日本を出て、海外生活を始めて現在に至るまでの期間とまるかぶりしていることに、複雑な思いがしています。

 フランスで暮らすようになって、30年は経っていませんが、その前にアフリカにいた期間などを加えると、ほぼほぼそれに近い年月が経っているわけで、海外にいるからこそ、外から見ている日本、たまに一時帰国する日本、フランスで見る日本のものなどが移り変っていることを感じることもあります。

 それでも、実際にこの間を私は日本で暮らしていたわけではないので、実感として感じているわけではないのですが、たまに見かけるニュースなどでも、よい意味でも悪い意味でも、ついついフランスと比べてしまう癖がついている気がします。

 そう考えてみれば、フランスに来たばかりの頃は、なんでフランスはこうなんだろう?と日本と比べて、腹立たしく怒ることが多く、「まあ、ここはフランスなんだから、仕方ない・・」と思っていたのですが、この30年近くの間に、日本のニュースなどを見るにつけ、また、フランスの様々な社会システムなどの変化に接するにつけ、「フランス人にできて、なぜ?日本人にできない?」と、逆に日本をもどかしく思うことが増えてきた気もします。

 何よりも、私自身がフランスの生活に順応してきたこともあるとは思うのですが、それにしても、最近は、日本の「失われた30年」などという話題に触れて、残念ながら、やっぱりそうだよな・・と思ってしまうのです。

 フランスに来たばかりの頃は、一年に一度、日本に帰るたびに、一年留守にするだけで、まるっきり、日本は景色が変わってしまう・・と驚かされるほど、新しいビルが建ったりしているのに比べて、パリって本当にいつまでたってもちっとも変わらない・・などと思ったりもしていたのですが、ある時期から、日本に一時帰国した折に、「えっ?こんなに年配の方が警備員とか、道路の交通整理などの仕事するようになったの?」などと驚かされるようになったのです。

 また、かつては、電気屋さんなどに行けば、日本人として、ちょっと誇らしくなるほどに日本製品が高価な値段でずら~っと並び、日本製品は、絶対的な信頼を勝ち得ているような感じがあったのですが、いつのまにか、電気屋さんで日本製品を見かけるのは、珍しいことになってしまったし、日本のものでフランスで注目されるのは、日本食か、マンガやアニメ、そしてユニクロくらいでしょうか? 

 日本で物議を醸しているマイナンバーカードや保険証などに関しても、フランスでは、いつの間にか、スムーズにIT化が進み、問題なく進化しています。まさにフランスにできることが、なんで日本では、そんなに揉めているのだろうか?と思ってしまいます。

 正直、フランスでは、日本のことは、よほどのことがない限り、細かいことはニュースにはならないし、そんなに真剣に話題にのぼることはありません。フランスにとっては、周囲のヨーロッパ諸国や、アメリカやロシアなどの方が差し迫った問題なのです。

 それでも、昨日もこちらのニュースで見かけたのは、日本の少子高齢化の問題で、日本は人口の29%が65歳以上で、10人に1人が80歳以上、経済を支え切れずに、900万人の高齢者が働いているなどと伝えています。

 政府に関しては、フランスだって、色々な問題はあるし、暴動にまで発展する事態も少なくありません。しかし、少なくとも、フランス政府には、フランスの将来のためにはどうしていくべきなのか? 特に教育や若者に対しての支援などを模索し、様々な試みをしていることが感じられるし、ある程度の信念が感じられます。

 それに比べて、現在の日本政府は、行き当たりばったりで、その場その場で周囲にいい顔をしつつ、すでに、ある程度、上り詰めた人々が利権を守るためにやっているとしか思えないことが多いような気がします。

 もう外から見ていても、ため息しか出ない感じで、以前は、老後は日本に帰ろうと言っていた日本人カップルなども、やっぱりやめた・・などと言っている人が増えているという話も聞きます。

 月日が経つのは早く、あっという間に時は過ぎていきますが、とはいえ、30年といえば、決して短くない時間です。

 しかし、今の日本の状態を見ていて、私は、母の病気のことを思い出します。母は、拡張型心筋症という病気で、発症から10年ほどで、亡くなりましたが、その後、母が亡くなった病院で後学のために、解剖を求められました。心臓病は遺伝という要因も多いに考えられるために、お母さまの病気について、深く解明することは家族にとっても必要だと言われて、解剖をお願いして、その結果を聞いて驚いたときのことを思い出すのです。

 心臓病は、わかりやすい病気ではないので、その辛さは周囲にはわかりにくいために、一体、どの程度、悪化しているのか、それこそ開けてみなければ、わからなかったわけですが、解剖の結果、母の心臓は、正常な状態の数倍にもなっていて、おそらく、健康な状態から、急にこの状態になったらば、窒息するような苦しみだっただろうとのことで、お母さまは、10年かけて、少しずつ悪化(心臓が肥大)していったので、苦しさにも少しずつ慣れておられたのだろう・・と聞いて、母の苦しさを理解できていなかったことを本当に心苦しく思ったものでした。

 今、失われた30年などと言われている日本も、まさに日本に住み、日本で生活していれば、それこそ、悪く言えば、苦しさに慣れてしまって、本当は窒息しそうな苦しみなのではないか?とも思うのです。

 しかし、実際には日本は依然として、フランスよりもはるかに優れている面もたくさんあるわけで、フランスでの日本のイメージは、決して悪くはないどころか、他のアジアの国とは一線を画している上質なイメージが根付いていることも事実で、特に歴史に根付いた日本の自然や文化には、憧憬の念があることは、日本にとっての大変な財産であり続けています。

 日本の文化遺産や、食文化、そして近代的な清潔な街、礼儀正しさ、そして、若者に人気のマンガやアニメなどは、少なくとも、日本がこの30年間に失わずにいたものには、しっかり注目していてくれることは、ありがたいことです。


失われた30年


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