EU・欧州理事会議長は、EU27カ国の首脳会議で、ウクライナとモルドバをEU加盟候補国として承認したと発表しました。かなり興奮気味に、「ロシアによる侵攻が続く中、これは歴史的な瞬間である」と言及しましたが、キエフが待ち望んでいたこの決定は、加盟のための長く複雑なプロセスのほんの始まりです。
このEU加盟申請の承認ということは、加盟の可能性に関する交渉を正式に開始するという意味であり、数十年かかるかもしれないプロセスの始まりです。ウクライナ戦争がもたらした政治的圧力によって、ウクライナのEU加盟申請は記録的な速さで承認されたものの、今後の審査の過程が短縮されるとは限らないのです。
ゼレンスキー大統領は、ロシア連邦による領土侵犯から4日後、自国のEU加盟を可能にする「特別手続き」の恩恵を受けるよう要請、その数週間後の3月、正式に加盟申請書を提出しました。 しかし、現実には、EU加盟のための迅速な手続きは存在しません。
ちなみに、2009年に申請したセルビアは、候補国として認められるまで2012年交渉開始まで待たねばならなりませんでした。バルカン半島のいくつかの国々と同様、セルビアもEUの門を叩いたままです。アルバニア、北マケドニア、モンテネグロと同様に、まだ加盟が有効でなく、交渉中。このEU加盟申請に時間を要する最も象徴的な例は、トルコで、トルコは1987年に申請し、1999年に候補となり、2005年に交渉を開始しましたが、現在は行き詰っている状態です。
これらの前例を鑑みれば、申請から3カ月後の6月に、欧州理事会がウクライナのEU加盟候補国としての地位の付与を承認したことは、異例中の異例です。
しかし、これからウクライナはEUの正式な加盟のために、欧州の法体系を統合するために必要な行政、政治、経済の改革を実施できるためにコミットしていかなければなりません。これに加えて、リスボン条約と政治的・経済的安定を前提としたコペンハーゲン基準を適用する必要があります。また、ウクライナはヨーロッパの基準を既存の国内法に取り入れることができなければなりません。
EU加盟のためには、単にヨーロッパの法律をコピー&ペーストすればいいというものではなく、実際にその法律が機能していくために、汚職システムが根付いているウクライナには、マネーロンダリング防止法などの導入も求められており、EUの一員として、市場経済を動かすことができる自由民主主義国家であることを承認される必要があります。
現在、ロシアの一方的な侵攻と民主的な団結を見せて戦っているウクライナは概ね好意的に受け入れられ、「ウクライナはすでにヨーロッパのルール、規範、基準の約70%を採用している」「非常に強固な大統領制と議会制の民主主義」「非常によく機能する行政、この戦争中に国を機能させている」「分権改革の成功」「完全に機能する市場経済」などと評価する声もありますが、一方では、急速すぎる加盟は、ブルガリアやルーマニアのような汚職が蔓延したままのEU加盟国となる恐れがあるとの指摘も挙げられています。
ヨーロッパ、EUと簡単にひとくちに言っても、似ているところはあっても、実は全然違う国の集まり、新しい加盟国を受け入れていくことで、ヨーロッパ全体の色が変わっていく可能性もあるのです。
要は、「ウクライナが欧州のルールを遵守する能力」、また一方で「EUが制度的バランスを保ちながら新しい国を吸収する能力」を図らなければならないとともに、双方ともにとって、有益であるかどうかということを細部にわたり、検討、審査しなければならない、ちょっと保険の審査にも似た側面があるのかもしれません。
いずれにせよ、EU(欧州連合)加盟というのは、恐ろしく時間がかかるものらしく、これを見越して、マクロン大統領は、5月初旬の欧州の将来に関する会議でEUとは別に、一連の価値観を信奉する民主的な欧州諸国が、政治協力、安全、協力のための新しい「欧州政治共同体」というまた別の組織を提案していましたが、その後、この話は聞こえてきません。
しかし、いくら、これからさらに時間がかかるとはいえ、今回のこの決定は、ゼレンスキー大統領が待ち望んでいたものであり、彼にとってこの決定がヨーロッパの同盟国からの強い支持の証となることに間違いありません。
ウクライナEU加盟申請承認
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