2022年5月17日火曜日

フランスに女性新首相エリザべス・ボルヌ現労働相が就任

  


 マクロン大統領の再選が4月24日に決定して以来、新内閣の組閣について、長いこと発表されないままでしたが、特に首相の選出については、注目されてさまざまな憶測が流れていました。

 しかし、大統領選直後にJDD(Le Journal du Dimanche)が行った世論調査によれば、国民の74%が次期首相には女性を任命してほしいと思っているという結果が発表されていたので、もしかしたら、次期首相は女性なのかも?と思っていました。

 74%といえば、マクロン大統領の支持率よりも多い数字、この世論を無視するわけはないと思っていましたが、数日前から新首相予想に上がっていた数名も女性ばかりでした。

 昨日までのカステックス首相が首相に就任したのは、2年前の7月のこと、エリゼ宮での首相交代のセレモニーの記憶もそんなに遠いものではありません。パンデミックの第一波を乗り切ったばかりの頃で、前フィリップ首相の辞任により、突然、登場した感じでした。

 彼が最初に現れた時は、その経歴からも、かなりのエリートであることは歴然としていたものの、彼の南仏訛りのきついアクセントやどこか冴えないスーツ姿に、フランスの首相としてどうなの?みっともない・・などという声もあがっていました。

 しかし、結果的に首相に就任してからの彼の言動は、アクセントはそのままでしたが、暖かい人間味あふれる感じや誠実さ、そしてどこかコミカルな印象を与える人柄(決してウケを狙っているわけではないし、本人大真面目なのに、どこかコミカルという感じ・・)が、常に論理的で、口が立ち過ぎて、どこか反感を持たれるところのあるマクロン大統領のマイナス面を見事にカバーする役割を果たしていたように思います。

 首相退任後にまず何をしますか?という記者からの問いに、「家でペンキ塗りをする所がある」と答えたとかで、家でのペンキ塗りもしっくりきそうなほんわかした人柄です。

 実際に、パンデミックの感染悪化、テロ、暴力事件などの問題が起こるたびに、現地に出向き現地の人々声に耳を傾け、誠実に応対する姿勢をこの2年間、度々、報道で目にしてきましたが、これまでの首相の出張記録回数の新記録を樹立していたそうです。

 新旧首相の挨拶では、お互いに向ける言葉の中でそれぞれを"Tu" (フランス語では親しい間柄で使うYouにあたる言葉)で呼び掛け合い、同じ内閣で長く働いてきた親しい間柄を窺わせるものでした。

 この挨拶の中で二人、それぞれ、ちょっと面白いことを言っていました。

 カステックス首相の話の中でおもしろかったのは、「フランス人は要求の多い国民で、額面通りには受け取らない。しかし、彼らはそれに対処する方法を知っている。彼らは偉大な人々であり、政治的な人々だ」「また、マティニョン(首相官邸)の住人に批判が集まるのは必至だ」と彼女に警告したことです。

 「フランス人は要求の多い国民で額面通りに受け取らない・・」まさにそのとおりです。

 また、国民に向けて、エリザベスについて、「この2年間、一緒に仕事をしてきた中で、彼女の高潔さ、誠実さ、有能さ、自発性という計り知れない資質を確認している」、「彼女は信頼できる人物であると伝えたい」と語っています。

 そして、彼女もまた、彼のフランスという国に対する揺るぎなき献身と、人間性、誠実さ、仲間への共感力を讃えました。

 また、彼女の挨拶の中で最も印象的だったのは、最後に彼女が語った一言でした。

「ご想像のとおり、私は今晩明らかに非常に感動しています。そして、この地位にあった最初の女性、エディット・クレッソンに思いを馳せずにはいられません(フランス史上初の女性首相)。そして、おそらく、この私の首相就任をすべての少女たちに捧げ、「夢に向かって頑張れ」と言いたいです。社会における女性の地位のための闘いを減速させてはならない」という言葉でした。

 見渡してみれば、ヨーロッパでは、すでに女性の首相がすでに、数名登場し始めています。民主主義を叫びながら、フランスとてこの世界の潮流から遅れるわけには、いかないというマクロン大統領の思いがあったのかもしれません。

 この首相就任という事実をすべての少女たちに捧げると語った彼女ではありますが、彼女の経歴は、並大抵のものではありません。

 1961年パリ15区生まれ。父親は彼女の父親はフランスに避難したロシア系ユダヤ人で、第二次世界大戦中にレジスタンスの一員として活動し、強制送還させられており、決して容易いものではなかったであろうに、1981年エコール・ポリテクニック(フランスの理工科公立高等教育機関のグランゼコールの一つで超エリート校)卒業、その後も数校において学業を続け、MBAを取得したエンジニアでもあります。

 彼女自身も「自分は小さい時に父親を失い、国の奨学金で教育を受けてきた」と語っています。

 ここまでの時点で、もう普通の少女とは違っていたと思われますが、彼女自身が苦労してきたからこそ、全ての少女たちに向けて、チャンスはあるとエールを送ったのかもしれません。

 公共事業省に入省したのが彼女のキャリアの始まりで、その後、国民教育省の顧問、運輸担当テクニカルアドバイザー、SNCF(フランス国鉄)の戦略担当ディレクターを経て、ポワトゥー・シャラント県知事とヴィエンヌ県知事に就任、その後RATP(パリ交通公団)社長を経て、運輸大臣、エコロジー連帯移行担当大臣を経て、昨日まで労働大臣を務めていました。

 マクロン大統領は、次期首相について「社会問題、環境問題や生産性の問題に長けている誰かであろう」とだけ語っていましたが、彼女の経歴を見る限り、まさに彼女であったと思わされます。

 華やかな感じはありませんが、カステックス首相が語ったように、高潔さ、誠実さ、有能さ、自発性が感じられる印象で、真面目そうで、どこか、厳しい学校の先生のような感じがする彼女が今後、フランス二人目の首相として、着実に活躍していってくれることを祈っています。

 ちなみに、全然、関係ありませんが、エリザベットという名前はエリザベスのフランス語読み。昔、娘が英語の授業で「エリザベットに手紙を書いたの!」と言うので、「誰?エリザベットって誰?」と聞き返したら、エリザベス女王のことで、後日、バッキンガム宮殿から返事がきたのに驚いたことを思い出しました。


フランス女性新首相誕生 エリザベス・ボルヌ


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