2024年3月1日金曜日

フランス2030 フランスとカタールの戦略的投資パートナーシップ100億ユーロ

  


 マクロン大統領は、今週、フランスを訪問中のカタール国首長を国賓としてエリゼ宮に招き、「フランス2030」戦略と2030年に向けたカタール国家ビジョンの一環として、フランスとカタールは戦略的投資パートナーシップを締結し、フランスの若い革新的企業と投資ファンドに100億ユーロを投資するカタールとの協定にサインしたことを発表しました。

 両国の相互利益のために、特にエネルギー転換、半導体、航空宇宙、人工知能、デジタル、健康、ホスピタリティ、文化・芸術などの主要分野への投資を増やす意図で、フランス経済と密接に関係している分野にも投資されます。

 両国首脳は、ガザ地区における大規模な人道援助の提供と民間人の保護をはじめ、レバノンに影響を及ぼす政治的・経済的問題の解決、国際法と国連憲章に違反するロシアのウクライナ侵略戦争に対する強い非難を表明しています。

 カタール首長の15年ぶりのフランス訪問、両国首脳会談は、何よりも二国間関係の強化に焦点を当てたものであり、「これはフランスに対する栄誉であり、両国を結ぶ絆の深さを示すものである」とマクロン大統領は、強調しています。

 「両国間の強い絆」という言葉は、マクロン大統領が外交の際にやたらと口に出す(まあ外交なのであたりまえといえばあたりまえなのに、なんか、どうもしっくりこない感じも多い)少々ひっかかるところではありますが、すでにフランスはカタールに対するヨーロッパの主要投資国であり、エネルギー、航空、インフラ、観光に90億ドルを投資しており、 また、カタールからの主要な投資対象国 5 か国の 1 つでもあります。

 また、フランスとカタールは安全保障と防衛における協力、特に両国空軍間の協力の重要性を再確認しており、両国が共通の脅威に対抗するために不可欠なラファール戦闘機を保有しているという事実も確認しています。 また両首脳は、特に歩兵戦闘と両軍の相互運用性の分野において、カタールの軍事能力を強化し近代化するために協力したいという共通の願望を表明しています。

 この政治的な話し合いの後には、フランスサッカーチームPSGのスターストライカーであるキリアン・ムバッペと、パリのクラブ会長である実業家のナセル・アル・ケライフィなど関係者?を招待した晩餐会が行われました。

 ウクライナ支援に関する国際会議でマクロン大統領が欧米諸国の地上部隊をウクライナに派遣する可能性も排除しないという過激な考えを述べたことで、ドイツ、イギリス、イタリア、スペイン、ポーランド、チェコなどの欧州諸国からの大バッシングを受けて、国内でも大論争が起こり、さすがのマクロン大統領もへこんだかと思ったら、全く、そんな様子はなかったのは、これだったのか・・このカタールとの強力なタッグがその背景にはあったのか・・と、思わされたのでした。

 それにしても、先週末には、国際農業見本市で農民たちの大反発を受け、一人で農民たちとの話し合いに臨み、早朝から夜までの一日を見本市会場で過ごし、週明けには、原子力政策審議会、ウクライナ支援の国際会議から、このカタールとの首脳会談と、どこまでも強気でエネルギッシュなマクロン大統領。

 今日は、パリオリンピックのためにセーヌ川を視察し、記者に囲まれた際には、セーヌ川の安全性を保障することを豪語し、、「オリンピックの前には、セーヌ川に泳ぎに行く」と約束。

 テンション上がりっぱなしのマクロン大統領、エネルギッシュで元気だな・・と思うと同時に、ここのところ、ちょっと行き過ぎの発言も多い気がして、少々、心配でもあります。

 おかげさまでフランス、ロシアに超、睨まれてるんですけどね・・オリンピック前だというのに・・。


フランスとカタールのパートナーシップ


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2024年2月29日木曜日

パリオリンピックのセキュリティ情報が盗まれた セキュリティ情報のセキュリティ

  


 一昨日の夜、テレビのニュースを見ていたら、速報が表示され、「パリオリンピックのセキュリティ情報が盗まれた」と書いてあったので、「なんで?ハッキングにでもあったの?」と思いました。

 そのうち、詳細が報道されると思っていましたが、その日の夜は、そのニュースに関しては、それ以上は、報道されることはありませんでした。

 翌日になって、この「オリンピックのセキュリティ情報盗難」については、それがその情報が入ったパソコンと2本のUSBキー入りのバッグが盗まれたということであったということがわかりました。

 このバッグの持ち主はパリ市役所に勤める56歳のエンジニアで、彼はパリ北駅からクレイユ(オワーズ県パリ北部)行きの電車に乗りましたが、彼の乗っていた電車が遅れたために、電車を乗り換えようとした時に、車内上部の棚においていた彼のバッグが盗まれていることに気付いたと言います。要は彼は置き引きに遭ったのです。

 そもそも、そんな重要な情報が入ったものを電車の棚に置くなど、信じられないことではありますが、人間、ふと気が緩むということはあり得ることではあります。しかし、そのような重要なセキュリティ情報を外部に持ち出せるということ自体が、セキュリティの甘さのような気もします。

 私は、あまり郊外電車に乗る機会がないので、電車の棚というものは、ふつうパリのメトロ内にはないので、荷物を置いてしまう誘惑?はないし、やはり、パリで自分の手から荷物を放すということは、ちょっと怖くて想像がつきません。

 このバッグを盗んだ人が、単なる置き引きで、パソコンが入っている感じのバッグとして盗んだだけであったのか?そのような重要情報が入ったことを狙って盗んだのであるかは不明ですが、この報道がされた時点で、自分が盗んだパソコンとUSBキーには、重要な情報が入ったものであったことは、わかったはずです。

 悪く考えれば、パリオリンピックの安全を脅かそうと企てている輩には、高く売れる情報だと考えるかもしれません。

 パリオリンピックに際しては、パリ市はこのために2,000人の市警察官を動員する予定にしており、オリンピックの交通に関するセキュリティ情報が含まれていると言われています。

 翌朝、パリオリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会​​長は、これらの文書の盗難について慎重な姿勢を示し、「パリ市からの確認は得られていないので、自分の意見を表明する前にこの情報が確認されるのを待ちたい」としながらも、「情報はオリンピック期間中のパリの交通に関する注意事項であり、機密性の高いセキュリティ情報に関するものではない」としていますが、言い訳じみている気もします。

 このオリンピック組織委員会会長の「機密性の高い情報ではない」という発言に対し、サイバーセキュリティの専門家は、そのようなデータの盗難に伴うリスクを説明しています。

 「盗難の被害者になることは誰にでも起こり得ることで、その人を責めるつもりはありませんが、これは非常に深刻なことです。盗難の背後に誰がいるのかはわからないので、標的型攻撃であると言い切ることはできません。しかし、この事態に接し、私たちは、すべての計画の見直しプランを確認する必要があります」

 「このような事態には、最悪のシナリオを想定する必要があり、これを盗んだのが、犯罪ネットワークのメンバーであれば、それを売ろうとするであろうし、現在、戦争を起こしている国がオリンピック期間中に攻撃をしかけよう必死になっていることは、公然の秘密です」

  「この場合の問題は、USBキーだけでなくパソコンも盗まれたことです。 ただし、PC では、起動時から暗号化が行われることは非常にまれです。 その後、ハッカーはコンピュータ上のシステムを再構築し、何が入力されたのか、いつキーが接続されたのかを確認し、記録されたパスワードの履歴を追跡する可能性があります。すべての要素が揃っておらず、誰が誰であるかわからないため、不確実性がありますが、これをすべて入手したら、すべての計画、いずれにしても盗まれた計画を確認する必要があります。 悪意のある誰かがそれらを持っていると考えたほうがよいでしょう」と説明しています。

 この盗難事件がなかったとしても、オリンピック期間中は、常に大規模なサイバー攻撃合戦のイベントのようなもので、ハッカーフォーラムやダークウェブにおいて、この攻撃の成功は、「悪名」という点において、彼らの聖杯となるのです。

 しかし、現段階では、それがハッキングとか、そんなレベルではなく、物理的にパソコンとUSBキーを盗まれるという思いもしないレベルの問題に、なんだか、拍子抜けする気もするのです。

 パリ検察当局は、公共交通機関での盗難の捜査として、この事件は、運輸ネットワーク保安局に委託されたと発表しています。


パリオリンピック セキュリティ情報盗難


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2024年2月28日水曜日

パリのメトロは乗客に病人が出ても停車しない?

  


 イルドフランス交通の規制当局であるIDF(イルドフランス)モビリテスの社長ヴァレリー・ペクレス氏は、「今後は、地下鉄の交通を妨げないよう、今後、車内で病人が出た場合に地下鉄を停車しない」と発表し、またRATP労働組合の反発を呼んでいます。

 一瞬、ギョッとする話ではありますが、停車しないというのは、長時間停車しないという意味で、病人を最寄りの駅でおろして、駅で対応するということです。

 これまでは、例えば、車内で気を失ったりする人が出た場合のために、病人を動かすこと自体がリスクになることがあり得るために、基本、病人には、触れずに救急隊の支持を待つ間、電車を停めて、待機するという方法がとられていたそうです。

 これは、オリンピック期間中に予想される大規模な利用者増加により数多く起こると想定され、パリの公共交通機関の危機、特に地下鉄交通の異常事態に対応するためのプロトコールとして発表されています。

 これに対して、RATP労働組合は、「これは、体調が悪くなった乗客の健康に対するリスクが増大し、倫理的に問題がある」とこの決定を非難しています。「そもそも、駅の職員は、救命処置の訓練を受けていないのだ!」と。

 これがオリンピック期間限定の対応なのか?それとも、今後も継続されるものなのかは、不明ですが、病人をとりあえず、車内から降ろすことがそんなに大騒ぎになることなのか?と思わないでもありません。しかし、通常、パリのメトロのホームには、基本、駅の職員はいません。

 さすがに、ホームにはいなくても駅には職員がいるので、緊急事態が起これば、おりてきてくれるでしょうが、大きな駅ならばともかく、ふつうの駅ならば、あまり大勢の駅員はおらず、大勢のRATPの職員を見かけるのは、キセル乗車のチェックの時くらいです。

 しかし、私は、25年以上、パリのメトロを利用させていただいてきましたが、メトロ内での病人に遭遇したことはありません。むしろ、電車が停まってしまうのは、不審物発見の場合やプロブレム・テクニックなどの事情がよくわからない停車(これは決して少なくない)がほとんどです。

 ただし、オリンピック時の100万人は超えると言われている観光客を想定した場合は、病人だけでなく、怪我人、事故なども充分に考えられる事態にどう対応するか?ということへの一つの指針なのだと思いますが、通常でさえも、やたらと停車することが多いパリのメトロにそれだけの耐性があるかどうかは、甚だ疑問に思うところで、これは、メトロだけでなく、至る場面で想定できるキャパオーバーの問題です。

 さすがに、不審物発見の際には、電車は停車させると言っていますが、不審物を見極めるための約20頭の犬隊やAIを利用し、10分~15分以内に不審物の撤去に役立てるとしていますが、そもそも、パリ市内の道路でさえも、かなりの混乱が予想されるなか、この犬たちは、どうやって不審物のある駅にやってくるのでしょうか? 

 パリは小さな街なのです。全ての競技をパリで行うわけではなくとも、オリンピックの中心になるとなれば、それはそれは大変な混乱に陥ることは確実です。

 そして、以前よりはマシにはなりましたが、一般的には、フランス人はキビキビと働くことに慣れていない人々です。混乱には、すぐにパニックを起こしがちでもあります。

 でも、彼らは心優しく、転んだりすると、ちょっと恥ずかしくなるくらい、どこで見ていたのか?とビックリするほど、「大丈夫?」と駆け寄ってきてくれる人が表れたりする面もあります。

 おそらく、この期間、パリ市内は、日常のパリ市民よりも観光客が大半を占める状態になると思います。具体的な一つ一つのことは、今の段階では想像がつきにくいのですが、その一つ一つ、例えばメトロ、例えばバスなどを考えるとどう考えても異常事態に陥ることは必須です。

 パリ市内を走っているバスなどもオリンピックを見据えてのことなのか、新車に切り替わっている車体が増えているのですが、これがまた、以前よりも狭くなっているものも多く、どういう対応を考えてのことなのか?首を傾げるところでもあります。

 これから、オリンピックが終わるまで、ずっとこういう変化が続き、またその変化を素直に受け入れる国民ではないため、そのたびにストライキやデモが起こるかと思うとそれだけでもウンザリするところでもあります。


パリのメトロの病人


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2024年2月27日火曜日

マクロン大統領が農民たちに約束した農産物の「下限価格設定」に立ちはだかるもの

  


 すったもんだの挙句に開催されたパリのサロン・ド・アグリカルチャー(国際農業見本市)の初日、大反発する農民たちに一人で立ち向かって話し合いの場を設けたマクロン大統領がその場で農民たちに約束した内容の一つに「農産物の下限価格設定」があります。

 この模様は、全国放送で生中継されていたため、これは、全国民に向けて大統領が約束、公言したことになります。

 この下限価格設定の概念は、もう長い間、農業団体が要求していることで、13年間にわたり、俎上(そじょう)に上っては、却下され続けているものであるようです。

 この下限価格の設定は、農業収入を保護し、農民たちに不利益を与えずに保護するためのものであり、農業生産コストの指標に基づいてその下限価格を設定することは、当然のことだと思うのですが、それがなぜこんなに長い間、却下され続けてきたのかは、大きな社会の仕組みの問題でもあります。

 農業組合によれば、これらの指標は、ある程度、存在はしているものの、実際の生産物の商業交渉ではこれが尊重されていないのが現状であると言います。これらの下限価格は、「農民たちの収入を保証するものであり、彼らが平均生産コストを下回って販売する義務はない」とされていますが、販売する義務はないといったところで、生産物は、販売できなければ、無駄になるだけで、買い叩かれても販売せざるを得ないのが現状なのです。

 この問題に一番に名前が挙がるのは酪農農家とラクタリス(乳製品を主に扱うフランスの巨大食品メーカー)の問題です。ラクタリスは、フランスの食品メーカーとしては、首位の座を勝ち取っている大企業でありながら、非上場企業であり、また社名は製品には表示されていないため、業績や規模のわりには、一般消費者の間での認知度は比較的低い会社でもあります。

 しかし、実のところは、プレジデント(バターやチーズ、クリームなどなど)、ラクテル(ミルク)、ブリデルを始め、この会社の多岐にわたる製品を見ると、誰もが知っている、どれもあたりまえのようにフランス人の食卓に上っているものばかりです。

 ラクタリスは、この下限価格設定に最も否定的な会社の一つであると言われており、彼らの言い分によれば、「下限価格が上がれば、フランス製品は、競争力を失い、国際市場を失うことになる」と述べており、また、経済学者の見立てによれば、「大手流通業者などは、下限価格の設定があれば、それ以下の価格での海外からの物資の調達を躊躇いはしないため、意味のないことになるであろう」という見方もしています。

 しかし、ラクタリスの繁栄は、ひとえにフランスの酪農家の犠牲のうえに成り立っていると思うと、苦々しい思いしかありません。

 また、欧州委員会の一部のメンバーによれば、「この下限価格の設定は、欧州の法律や単一市場の概念とは全く相容れない、他の加盟国は望まないことだろう」との見方をしている者もいます。

 そもそも生産コストは地域、国によって大きく異なることは現実であり、ユーロという同じ通貨とはいえ、その通貨の価値(物価)は、国によって全く異なることからもその問題は明白でもあります。

 マクロン大統領があの国際農業見本市開催を盾にとられたカタチで農民たちに約束した「下限価格設定」の約束が、早くも空約束になるのではないか?との声も上がっています。


農産物の下限価格設定


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2024年2月26日月曜日

いじめを苦に自殺した娘の両親 いじめに加担した教師と2人のクラスメイトを告訴

   


 いじめの犠牲者となった少女が自らの命を絶ったのは、2019年のことで、彼女は当時11歳でした。前年から始まっていた学校での彼女への嫌がらせに彼女の両親は、何ヶ月もの間、学校とも掛け合い、救いの手を差し延べようとしていました。

 しかし、この状態は改善されることなく、両親は娘を転校させましたが、彼女は再び、嫌がらせの標的となり、ついに彼女の心は折れて、最悪の事態に至ってしまいました。

 学校でのいじめや嫌がらせの被害者が陥る、「いじめを両親が学校に相談する」→「学校は、満足な対応をしない」→「子供を転校させる」→「転校先でも嫌がらせを受ける」→「心が折れる」→「最悪の選択をしてしまう」という最悪のシナリオは、このような話でお決まりのようなストーリーである気がします。

 今回の話がよくあるシナリオとは違っているのは、その嫌がらせ行為を行っていた主犯が2人のクラスメートであったと同時にこの行為の引き金を引いたのは、彼女のクラスを担当するフランス語教師だったという点です。

 いや、少なからず、クラス内でいじめ問題が発生していた場合、教師が加担しないまでも、その事実を意図的に見過ごしたり、見てみないふりをしたりすることは、珍しいことではないかもしれません。

 しかし、この教師は、単に見てみないふりをしたどころではありませんでした。

 このフランス語教師に関しては、すでに2020年9月に「15歳未満の未成年者に対する嫌がらせ」の罪で起訴され、訴訟の続行まで、未成年者への指導禁止と注意義務を課せられ司法監督下に置かれていました。

 今回、再び、話題に上がっているのは、この件に関して、両親が再び訴訟の声をあげたことによるものです。

 不幸な事件から5年経って、被害者の両親は苦しみ続けた挙句、「再び、このようなことが教育界に起こってはいけない!」と立ち上がったのです。

 すると、このクラス内でのいじめが、なんと「いじめに関する授業」をきっかけにアクセルがかかったことが明らかになりました。「いじめに関する授業」がさらにいじめを悪化させるとは、皮肉の一言では片付けられない重いものがあります。

 この「いじめに関する授業」において、この教師は、クラスの全員の前で、いじめられている少女に対して、いじめられる原因などを問い詰め、彼女がみんなの前で泣き出してしまうと、さらに「泣くな!」と叱責するという出来事があり、それ以来、彼女は、その教師の繰り返しの標的となり、怒鳴りつけられたり、席を孤立させられたりしていたことから、周囲の生徒が「こいつに対してはやってもいいんだモード」(いじめ行為に対して先生のお墨付きをもらったような雰囲気になった)に突入してしまったと、インタビューを受けた生徒の大半が証言していたことが明らかになりました。

 この教師の彼女に対する叱責や、ふるまいを機に、周囲の子供たちの嫌がらせ行為はか加速していったと見られていますが、そこは、11歳の子供です。彼女が最悪の悲劇的な選択をした直後に、このことを告白していたようです。

 しかし、おかしなことに、この教師の管理ファイルには、彼女は「経験豊富で真面目で行動的な教師」であると示されており、この事件の調査とは全く異なる人物像が描かれているというのです。

 事件が起こってから、再度、訴訟を起こすまでの5年の間、彼女の両親はどれだけ苦しんできたかと思うと胸が潰れそうな思いですが、この教師は、「告発されている事実には断固として異議を唱える」と述べています。つまり、認めていないということは、反省もしていないといいうことです。

 5年後の今、検察庁は、問題の教師と生徒2人に対する裁判を請求したと発表しています。裁判が行われる場合、教師は刑事裁判所に、青少年2人は児童裁判所に送られます。

 検察庁は2月12日、未成年者に対するモラルハラスメントの疑いで、61歳のフランス語教師に懲戒解雇を求めている・・と同時に発表していましたが、逆に、「その先生、まだ、辞めてなかったの?」とビックリ。しかし、学校というもの、当事者だった生徒は次々に卒業していってしまうわけで、問題は風化しやすい場所であるのかもしれません。

 一緒になっていじめに加担していた子供たちもあまりに衝撃的な結末に、事実は、子供たちによっても明らかになっていたというのに、問題の教師が「経験豊富で真面目で行動的な教師」として居すわり続けていたというその後の事実には、学校や教育アカデミーが構造的におかしいと思わざるを得ないのです。


いじめ問題


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2024年2月25日日曜日

サロン・ド・アグリカルチャー(国際農業見本市)の開催初日は大混乱 歴史的見本市

  


 普段は、日中はテレビはつけないことにしているのですが、前日のパリの街中でのトラクターの行進がなんとなく気になっていて、テレビをつけてみると、なんと、マクロン大統領が農民たちに囲まれるカタチで、議論をしているところでした。

 日本語で言う「膝と膝を突き合わせて・・」という表現には、ちょっと甘い感じ・・皆、立っているので、図式だけ見たら、大統領を農民たちが取り囲んで吊るし上げているように見えなくもありません。

 マクロン大統領が当初、この日に予定していた農民たちとの大討論会は、環境保護団体や大量流通団体をも巻き込んだことから、農民たちの大反発をくらい、大討論会は、立ち消えになっていたところ、結果的にこのような農民たちとだけの討論になったのには、当日、朝からの見本市会場での一般公開前の会場での農民たちの抗議デモ行動が起こったことも大きく影響しています。

 当然のことながら、この見本市の行われている会場は、民間のセキュリティ会社の警備に加えて、警察や憲兵隊によって、厳重に警備されていましたが、それにもかかわらず、この警備の隙をついて、農民たちが警備を突破して、会場に押し入り、「マクロン辞めろ!」の大合唱。

 午前8時には、会場に到着していたマクロン大統領も大混乱の中、平穏にこの見本市を開催するために彼らとの対話の場を設けたのです。

 怒って興奮気味のこれだけの人々相手に議論をするという勇気だけでも、相当なもの、「私はいかなる質問もはぐらかさない!」(この言葉、日本の政治家にも言ってほしい)と断言して、マクロン大統領はこの農民たちとの議論に臨みました。

 この農民たちの抗議運動当初から、彼らが要求している内容は数えきれないくらいありますが、この時も彼らの言っていることの大枠は同じ。しかし、中には、「あなたは、ウクライナには、大金をはたいて援助しているのに、私たちには、パンくずだけだ!」と怒りをぶつける人もいました。

 農民たちが、それぞれにマクロン大統領に訴えかけ、時には、興奮状態になり、逆にマクロン大統領自身がキレかかるような場面もあり、この討論は、2時間以上も続き、いったい、どうやって収拾がつくのだろうか? 農民たちの中には、「1日中でも話し続ける!」などと言いだす人もいました。

 マクロン大統領は、「すでに、政府は動き始めている・・」と説明するのですが、彼らは納得せず、「私たちはもう限界なんだ!時間がかかり過ぎだ!早くしろ!」と訴えます。

 マクロン大統領は、「農業は国家にとって不可欠な要素であり、とても誇りに思っている産業である」と述べたうえで、「しかしながら、その構造には、問題があり、改革の必要がある」ことを認め、「欧州レベルで生産の責任を負うために、私は資本削減と闘いたい」と語り、「最低価格、下限価格、加工業者がそれ以下では購入できない価格を設定すること」を約束。

 話しの合間合間に「私を信じてください!」と訴えるマクロン大統領に、これまで30年間虐げられ続けてきた農民たちがあっさりと信じられないのも当然のことです。

 ついには、マクロン大統領は期限を区切り、「3週間以内に、私はすべての労働組合とすべての組織を集めて、何が行われたのか、あるいは行われていないのかを評価し、農業保護計画を立てること」を約束し、月曜日から突貫でそれに取り組むと宣言しました。

 このあたりで、ようやく農民たちがマクロン大統領を解放してくれる感じになっていたのですが、この農民たちとの討論は2時間以上も続いていたのです。

 SPや警備がついていたとはいえ、大統領がこの至近距離で彼らと直に話すということも、ちょっとなかなかないことで、「ヤレヤレ・・すごいな・・」と思いましたが、同時に「日本の首相にはできないんだろうな・・」と思うのでした。

 長時間にわたるこの討論会に見入って、見ているだけでもようやく終わってヤレヤレ・・というところで、テレビを消して、外出したのですが、それから夕方になって帰宅して、夜、テレビをつけたら、まだ、この見本市のニュースをやっていて、マクロン大統領が映っていました。

 「今日は、一日、この話題で持ち切りだったんだな・・」と思って、よく見てみると、画面の左上には、「DIRECT(生中継)」の文字が・・!「えっ??マクロン大統領、まだいるの?」とびっくり!

 なんと、この日、マクロン大統領は、あの討論会の直後に予定よりも4時間遅れの開会式でテープカットをした後、13時間以上もこの見本市の会場で、ブースを廻り、多くの団体と話し合い、また、それぞれのブースに控える農民たちと話し、時には動物と触れ合い、時には試食しながら、長い一日を過ごしたのでした。

 事の成り行きとはいえ、忙しいスケジュールの中、13時間をこの見本市に費やしていたことには驚きだし、今、ここをおろそかにはできないということだったのでしょう。

 とにもかくにも、毎年、何かしらの衝突や問題があるこの見本市も今年は記念すべき60周年。こんなに混乱している農業見本市は、初めてのことで、「歴史的な国際農業見本市」と評されています。

 問題は、未だ山積みのうえ、フランス国内だけの問題ではないため、ハードルも高いと思われますが、決して、マクロン大統領は最高!というわけではありませんが、こうして、大統領が面と向かって話しをしてくれるだけでも、日本人としては、羨ましい気持ちがあり、少なくとも、国の長として、日本のそれと比べて、全く同じ職業とは思えないことに、複雑な思いがあるのです。

 

国際農業見本市 歴史的な見本市


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2024年2月24日土曜日

農民たちの怒りにマクロン大統領が再び火をつけた

  


 毎年、年に一度、パリで行われるサロン・ド・アグリカルチャー(国際農業見本市)の開催が近付いてきて、農民たちの怒りの火がまだくすぶり続けているどころか、あちこちで、未だ火が燃え続けているというのに、今年のサロン・ド・アグリカルチャーは、どんな顔をして開催するのだろうか?とずっと思っていました。

 この見本市は、サロン・ド・ショコラなどが開催されるのと同じポルト・ド・ヴェルサイユ・エクスポ(パリ15区)で行われ、フランス各地から、牛や豚などから、多くの野菜やチーズ、ワインなど数多くの農業製品が集結するフランス人なら知らない人はいないほどの有名な催し物です。

 当然、数々の展示物(動物も含めて)と、それらを展示販売するために多くの農業、農業製品・そしてその製造に携わる人もやってきているわけです。

 毎年、この催事中、そこそこの問題は起こっているのですが、今年は、数ヶ月前から農民たちの怒りの激しい抗議運動が起こっており、そして、それが収束していないなか、無事に済むはずはありませんでした。

 そもそも、農民たちが抗議運動の動きを一時、弱めていたのも、このサロン・ド・アグリカルチャーを再抗議のタイミング、きっかけと考えてタイミングを定めていたことも想像に難くありません。

 そんな農民たちの動きを考えてのことなのか? 政府は、この農業見本市の開催当日の朝に、FNSEA(全国農業経営者組合連合会)との討論会の場を設けることを発表していました。

 しかし、政府は、この討論会に、環境保護団体「レ・スールヴェモン・ドゥ・ラ・テール」や大量流通団体を招待したことが、農民たちをさらに怒らせる結果となり、肝心のFNSEA(全国農業経営者組合連合会)は、「政府は農民たちを挑発した!」とこの討論会への参加を拒否。

 農民たちをなだめるつもりが、逆に丸め込もうとしていると受け取られてしまったのです。実際に、今回の問題の図式を考える限り、農民たちが訴える問題は、環境問題対応のために農民たちに課せられている厳しい規制や、その規制を守らない海外からの輸入品を大量流通団体が販売することで、価格破壊が起こり、フランスの農家が生産しているものが正当な値段で売られていないことが問題なわけで、政府は、農家が反発を感じている人々(つまりは、農家にとって敵のような人々)で取り囲み、まさに丸め込もうとしている感じが透けて見えるメンバーの集め方でもあります。


 この農業見本市の前日には、いつの間にやってきたのやら、パリの街なみを農業用のトラクターなどが行進する異様な光景が広がり、農民たちは、この見本市の会場に集結しています。

 FNSEA(全国農業経営者組合連合会)の討論会不参加とさらなる怒りを前にして、マクロン大統領は、環境保護団体のこの討論会への招待を取り下げましたが、時すでに遅しで、農民たちの怒りには火がついてしまいました。

 環境問題に配慮しなければならないことは、必要なことではあるものの、農民ばかりにその対応を押し付けている現実に政府は、やっぱりわかっていなかった・・ということが表面化してしまったカタチになりました。

 昔、日本でヒットした映画のせりふのように「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!」というのがありましたが、まさに、そんな感じがします。

 マクロン大統領は、こうして時々、反発を買うであろうことをやらかして、地雷を踏むことがあり、これまでも、「よくも、こんなに国民に嫌われて平気なんだな・・よっぽどハートが強い人なんだな・・」と感心するのですが、どんなに嫌われても、やっぱり平静な顔をして、見本市にやってくるのです。

 農民たちの怒りはもっともで、彼らの現状には、心が痛むところではありますが、それでも、一縷の光というか、なぐさめられることは、こうした抗議行動の間も、ただただ怒っているだけではなく、音楽をかけたり、ダンスをしたり、楽しんでもいるようなところも垣間見える場面があることで、そんな場面では、彼らの中のラテンの血を感じます。


FNSEA(全国農業経営者組合連合会)と環境保護団体と政府の討論会


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