2022年3月8日火曜日

言論統制・報道規制の恐怖 プーチン大統領を止められるのは誰か? 

   



 戦時下となった今、世界の動向や報道は見逃せないので、色々な国の報道に目を通しているのですが、どこでも「プーチン大統領を止められるのは誰か?」、「なぜ、このような事態に陥ったのか?」など、現在の状況に加えて、それを検証するようなテーマの記事が並んでいます。

 過去の歴史を引きずっている歴史的な背景やプーチン大統領の軌跡、経歴、人格の変化や彼がここまでの暴挙に及んだタイミングがなぜ、今だったのか?などなど、似たようなテーマがならんでいます。

 中には、パンデミックが彼を孤独にした・・とか、彼の年齢(ロシア人男性の平均寿命に近い年齢であること)までもが語られています。

 海外の政治的な情勢、特にアメリカの大統領がトランプ大統領からバイデン大統領に、ドイツの首相がメルケル氏からショルツ首相に変わったことなども挙げられ、もしかしたら、プーチンを止められるのは、メルケル首相だったかもしれない・・などという人もいます。

 ユーロ危機、クリミア危機での外交をこなしながら、16年間もの長期政権を築き、ヨーロッパの母のような存在でもあり、世界から一目置かれる存在であったうえに、プーチン大統領もメルケル元首相もお互いにドイツ語、ロシア語が堪能で、お互いの母国語で通訳を介することなく、ほぼ母国語と同レベルで話すことができたということなどもその理由に挙げられています。

 このような局面ではないにせよ、また、どんな人にとっても、言語の壁を越えて話ができるということは、すごく大切なことです。

 しかし、彼女が首相を退陣している現在では、対等に話せる立場ではなく、また、プーチン大統領が他人をまるで寄せ付けないようになっている現在では、そんなことも望めません。

 彼の周囲の政府陣営でさえ、誰も彼に物申すことができる人がいない今、彼を止めることができるのは、ロシア国民の大衆の大きな声、うねりだけかもしれません。

 そんなことを本人も察しているのか、ロシア政府は、厳しい言論統制、報道統制を敷き、自分に都合のよいニュースを都合のよいこじつけと嘘にまみれたニュースのみを流し、声をあげようとする国民を拘束したり、報道陣を締め出したり、フェイスブックやツイッターなどをシャットダウンしたり、国民に情報が入らないようにしています。

 この世界中を騒がしている渦の中心にいるロシア人が一番、現状を知ることができないという恐ろしい状況です。他に情報が入らない中、唯一入るニュースが政府に都合のよいニュースだけとは、一種の洗脳のようなものでもあります。

 一昨年のロックダウン中に一時、家のネット環境がダウンした数日がありましたが、それでさえ、とても不安になった覚えがあります。

 テレビの報道というのは、政府や世間への忖度もあり、少なからず偏りもあります。ネットなどのより多くの情報が必要です。しかし、ネットというものは、自分でニュースを選ぶという点から、自分が受け入れやすい内容のものばかりを選んでしまうという危険もあります。

 テレビ自体を持たない、テレビを見ない世代が増え、テレビ業界は、危機に瀕しているとも言われていますが、テレビしか見ないという一定の層が存在します。ロシアの現在は極端な例としても、テレビの情報だけというのは危険でもあります。

 現在のロシアの状況は、異常な報道規制下にありますが、情報が十分に入らなくても、現在のロシアへの経済制裁から、ロシア国内でも反発は広がっているようです。ここは、当のロシア国民が結束して、反発してくれない限り、今こそロシア国民が立ち上がってプーチン大統領を追放しない限り、さらなる戦況の悪化は避けられないような気がしています。

 フランスのニュースでは、「プーチン大統領を止められるのは誰か?」ではなく、「プーチン大統領は制御不能か?」というタイトルに変わりつつあります。


ロシアの報道規制 言論統制


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2022年3月7日月曜日

在ウクライナ フランス大使館250万人分のヨウ素剤の用意とウクライナからの国民退避についての国の対応

   


 先日、一時、総理大臣候補とも言われた日本の衆議院議員のツイートで、「ロシアの侵略開始によって、ウクライナ残留を希望しておられた在留邦人約120名の方々は退避を決意して下さったのかと外務省に確認しましたが、ごく少数の方以外の状況はかわっていないそうです。よって、大使はじめ邦人保護に携わっておられる大使館員も退避できず、邦人の安否が心配でなりません。」というツイートを見て、愕然としました。

 戦場となっている惨状の中で退避できない邦人には、余程の事情があるか、余程の覚悟があるはずです。また、ウクライナにいる日本人が「PCR検査で陽性になったために、帰国できない・・」というツイートも目にしています。

 この日本の政治家は、ウクライナの日本大使(大使館員)ではないので、実際に在ウクライナ日本大使館がどのように在留邦人に接しているのかはわかりませんが、日本でも名の知れた政治家のこのような発言の意味は決して小さいものではなく、かなりショッキングなものでした。

 捉えようによっては、「在留邦人のために大使および大使館員が退避できずに迷惑している」ということで、挙句の果てに「邦人の安否が心配でならない」という偽善者めいた言葉が添えられていることに、えも言われぬ不快感を感じました。

 大使館の仕事には、災害や事件などが起こった際に自国民の命を守ることも含まれています。しかし、その命には、その人の人生や生活も含まれています。未だウクライナに残る人は、退避を希望していても、物理的に不可能だという場合は別として、命をかけてでも守りたいものがそこにあるということです。

 非常時ゆえ、退避を勧告するのは、当然としても、残留する人のために大使、大使館員が退去できない・・というのは、あまりの言い方です。これは在ウクライナ大使の発言ではありませんが、この日本の政治家には、ガッカリさせられたのでした。

 一方、昨日、在ウクライナ フランス大使がテレビのニュースのインタビューで、「ウクライナに残留しているフランス人は何人くらいですか?」との問いに、「在留届を出している人ばかりとは限らないので、正確な人数は、把握できていませんが、おそらく300人程度だと思います」と答えています。

 インタビュアーが「その方々の退避の目処はついていますか?」と続けると、「もちろん、退避するフランス人の援助は続けますが、この時点で残留を希望している人々には、それなりの理由もあるので、残留するのも致し方ない」と答えていました。

 一見、見捨てているようにも取られかねない発言でもありますが、大使は、「どちらにしてもウクライナに残って、最後まで国民を守る」と静かに語っていました。個人の生活や人生を尊重して、国民を守ってくれる・・私には、そんなふうに頼もしく感じられました。

 しかし、それよりも、在ウクライナ フランス大使館は、「核の危険のために、250万人分のヨウ素剤を用意」と発表。プーチン大統領がこの戦争で核を使う危険への現実的な対応を開始したのです。

 マクロン大統領は、同日、プーチン大統領と電話会談し、「ロシア軍のウクライナ侵攻がもたらす原子力安全、セキュリティ、保障措置へのリスクについて重大な懸念」を表明し、これに対する具体的な措置が急務であることを伝え、また、国際原子力機関(IAEA)の規則と事務局長の提案に従って、ウクライナの民間原子力施設の安全性とセキュリティが保証されなければならず、その完全性に対するいかなる損害も避けることが絶対的に必要であると強調した」と伝えています。

 また、エリゼ宮は、プーチン大統領が、「IAEAがこの方向で遅滞なく作業を開始することに同意した」と発表していますが、これまでマクロン大統領との会談での同意がプーチン大統領にはことごとく破られていることからか、また、電話会談の感触で危険を感じた結果なのか、この核に対する危険をこれまでよりも切実で具体的な対応を開始したものと思われます。

 250万人分のヨウ素剤の用意など、大使館が独自にできるものではなく、この日のプーチン大統領と会談したマクロン大統領が決断したものであるのは、間違いありません。まさか、そんなことをするはずがない・・そこまではしないであろうという多くの国の予想をことごとく裏切ってきたプーチン大統領、追い詰められて、「窮鼠猫を嚙む」状態になる危険を感じます。


在ウクライナ フランス大使館 ヨウ素剤250万人分手配


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2022年3月6日日曜日

137万人のウクライナからの退避難民の受け入れと海外生活の不安

  


 昨日のウクライナ戦争に反対するデモは、フランス全土で4万人以上動員したと伝えられています。同じ主旨の抗議デモが世界中で起こっていることも同時に伝えられ、なぜか、日本からポルトガルまで・・と日本でのデモの様子もフランスのテレビで報道されていました。

 すでに、世界各国からウクライナ在住の国民に対しての避難勧告が出されていますが、当然、ウクライナ国民もまた、国外を脱出し、ロシアからの侵攻が開始されて以来、約137万人が国外脱出しています。

 ヨーロッパ各国は、ウクライナから避難する人々については、交通機関を無料で提供したり、ポーランドなどの国境では、食糧や生活必需品などを提供したり、車での他のヨーロッパ諸国への交通手段を提供したりして避難民を受け入れています。

 しかし、またこの一方で、「この人々が一体、どこに行くのか? ウクライナの現在の壊滅的な状況から、一時的な避難とはなり得ないであろうことから、この避難民受け入れを長期的なスパンで考えなければならない」という声が上がっています。

 日本の岸田首相もウクライナからの難民を受け入れることを発表し、「まずは、家族が日本にいる人々から・・」と説明していましたが、とりあえず逃げるのに、日本は遠すぎて、あまり現実的でもないかな?と思ったりしました。

 そこは、地続きのヨーロッパ、命からがら逃げてくる人々を一先ず受け入れることは、人道的に当然のことです。事実、案外簡単に難民を受け入れているヨーロッパの人々も少なくないことに、素晴らしいなぁと思う反面、長期化すれば、それはそれで問題が起こるかもしれない・・と、私は、穿った見方もしてしまいます。

 例えば、もしもフランスに逃げてきた人がいたとして、誰かを家に泊めてあげたり、食料を提供したりできるか?と言われれば、それは簡単な話ではありません。なんとか、力になってあげたいという気持ちはあっても、せいぜい食料品や生活必需品の一部を寄付する程度しかできません。

 この長期化しそうな戦争の状態を見ても、そうそう易々とは、本国に帰ることは不可能で、一時的な避難場所を提供したつもりが、家を乗っ取られたりするかもしれない・・などと思ってしまうのです。

 ただでさえ、国を変えて生活するということは、大変なことで、戦時下でなくとも、海外(外国)で生活しているだけでも、常に問題は山積みなのです。よほど懐が大きい人でなければ(経済的、精神的にも)とても、個人が背負い切れるものではありません。国や団体などでの対応が求められる問題です。

 外交と制裁で戦争回避の道を探っているヨーロッパではありますが、マクロン大統領との直近のプーチン大統領との電話会談でも、プーチン大統領は、まるで侵攻をやめる兆しがありません。

 戦争回避の道を探ると同時に、ヨーロッパ諸国は、このウクライナからの避難民の受け入れ後の長期滞在対策を考えなければなりません。

 ロシアは、国民の退避のために、ウクライナでの一部地域での一時停戦を受け入れたと言われていますが、これは、あくまでも一時的な停戦で戦争を止めるということではありません。

 ロシアからの国民の退避のために一時停戦の申し入れなど、これまでの経過を見ると、不気味でしかなく、その後にドカンと核などの兵器を使って猛攻撃を予定しているのではないか?あとになって、「だから、逃げろと言っただろ・・」と言い訳をするような気がしてなりません。

 避難民受け入れどころか、パンデミックから戦争に突入して、「やっぱり日本にいた方がいいのかも・・」などという考えが時々、頭をよぎる私。実際、海外在住者がこの際、本帰国すると言っている人の話もちらほら聞こえてきます。かといって、生活の基盤である国を変えるというのは、そんな簡単な話ではありません。

 しかし、ヨーロッパにも飛び火しないとも言えないこの戦争にいつ、私自身が避難民になるかわからない、とても他人事ではない問題なのです。


ウクライナ難民問題


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2022年3月5日土曜日

マクロン大統領が書面で出馬表明した理由

   

 


 マクロン大統領が次期大統領選に立つことは、公然の事実でした。しかし、マクロン大統領は、ギリギリまで正式な出馬表明をしないまま、本当に公示締切寸前に、ようやく正式に次期大統領選挙に立候補することを表明しました。

 もともと、かなり、遅いタイミングに出馬表明をする予定にはしていたものの、ウクライナ戦争が勃発したことにより、現在の大統領としての任務のために、それは、本当に最後の滑り込みのような発表になりました。

 マクロン大統領は、コロナウィルス感染の状況が、ある程度、落ち着き始めた段階で、立候補を表明し、候補者としてテレビのインタビューや、彼に対する批判の多い地域への遊説行脚を予定していました。

 しかし、これらの予定は、プーチン大統領のウクライナ侵攻により、現職大統領としての職務が予断を許さない状況になったことで、すべてキャンセルされ、自らを候補者と宣言するチャンスを失ってしまいました。

 何よりも、現在の緊迫したロシア・ウクライナをはじめとする世界各国との連携とそれをフランス国民やヨーロッパ全体にメッセージを送る立場にある彼が、ここで大統領選挙への出馬を自分の口から表明することは、この現職の大統領としての戦争危機に対する発信をぼやかしてしまうことになり、敢えて、書面での立候補の表明というかたちを取ったものと思われます。

 現職の大統領である彼にとっては、この世界中を巻き込む危機への対応をこなしていくことが何よりも国民の信頼を得ることになり、また、この戦争危機対応においては、何よりも優先されて報道されていますから、この重大な責務を果たしていくことが何よりもの彼のアピールにもなるのです。

 マクロン大統領は、この立候補表明の書面で、彼が大統領に就任して以来の5年間が、テロ、黄色いベスト運動、パンデミック、そしてヨーロッパでの戦争とフランスがかつてないほどの危機に直面してきた中で、私たちは威厳と友愛をもって、それらの問題ひとつひとつに私たちは決して諦めることなく取り組んできたと綴っています。

 このような数々の危機が襲いかかる中でも、私たちは様々な改革によって、雇用を取り戻し、失業率はこの15年間で最低の水準になり、国民の努力のおかげで病院や研究への投資、軍隊の強化、警察官、憲兵隊員、裁判官、教師の採用、ガス・石油・石炭などの燃料への依存度の低減、農業の近代化の継続が可能になりました。

 おかげで、パンデミックの赤字を減少させ、5年間を通じて、前例のないほど税金を下げることができました。その結果が、私たちの信頼性を高め、主要な隣国に対して、自らを守り、歴史の流れを左右することのできるヨーロッパの大国の建設を始めるよう説得することを可能にしたのです。

 この5年間の功績についての文面は、マクロン大統領にしては、非常に謙虚な感じではありますが、お得意の自画自賛でもあります。

 「しかし、私たちはすべてを達成したわけではなく、今までの経験を生かせば、間違いなく違う選択をするはずです。そして、この2年間に経験した危機への取り組みは、これこそが進むべき道であることを示している」と続けています。

 この書面の中で、興味深いのは、彼が「子供たちのためにフランスを築いていくこと、民主主義への脅威、格差の拡大、気候変動、人口動態の変化、テクノロジーの変革など急速な激変を経験している中、間違えてはいけないのは、私たちは撤退を選択したり、ノスタルジーを抱いたりすることでこれらの課題に対応するのではなく、謙虚に、そして明晰に現在を見つめ、未来への大胆さと強い意志を捨てずに子供たちのフランスを作っていく」という部分です。

 これは、現在のウクライナやロシアの問題を示唆しているとも読み取ることができます。過去を蒸し返すのではなく、現在、そして未来を見つめて決して諦めずに前に向かって進む姿勢を崩さないということです。

 そして、彼は、最後に「私たちは、この危機の時代を、フランスとヨーロッパの新しい時代の出発点にすることができるのです。あなたと一緒に。あなたのために 私たちみんなのために。」と締めくくっています。

 とりあえずは、現在のフランスは、大統領選挙関連のニュース以上に戦争に関するニュースが流される中、通常ほどには、大統領選挙がとりあげられないことから、これまで公式に立候補せずに選挙活動もほとんどしてこなかったマクロン大統領の活躍が逆にクローズアップされ、マクロン大統領の支持率が、他を引き離して上昇する、他の候補者からしたら、皮肉な結果となっています。



 戦争の状況が緊迫していることもありますが、マクロン大統領がこの正式な立候補の発表の前日に、敢えて、選挙の話題ではなく、国民に向けて「ウクライナ戦争についての対応」についての演説を行ったことは、この国民世論の結果を踏まえて、彼が評価されている部分を決定づけることでもあり、充分に大統領選挙も考慮されたものであったと思われます。 

 しかし、これは、これまでの彼の戦争への対応が評価されてきたことによるもので、戦争の状況がさらに悪化していくようなことがあれば、いつ、彼に対する国民の評価が一変するかもわからない危険も孕んでいます。

 大統領選挙は、5週間後。それまでに現在の戦争状態がどのようになっているかで、また、彼の運命も変わってくるかもしれません。「この危機を逆にフランスとヨーロッパ全体の転換期とする」と綴っている彼の立候補の書面は、別の候補者とは一線を画し、逆に強いインパクトを与えています。


フランス大統領選挙 マクロン出馬表明


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2022年3月4日金曜日

フランスが3月14日からのワクチンパスポート廃止を発表した理由

   


 昨日行われた国防会議の結果、フランスは、3月14日からワクチンパスポートを撤廃することを決定しました。あれだけ大騒ぎして起用したワクチンパスも、オミクロン株への移行や、それによる感染の急激な減少と、何より「戦争」のために、想像以上に早い撤廃になり、あの騒ぎは一体、なんだったのか?と、なんだか拍子抜けな気もします。

 ここのところ、フランスの報道は、「ウクライナ戦争」でほぼ一色となっており、コロナ関連のニュースはほとんど報道されないようになっていました。それだけコロナ問題はおさまる方向に進んでいたということでもありますが・・。

 年末年始にかけてのフランスは、1日の新規感染者数が30万人超えまでになり、本当に一時はどうなってしまうのか?と思っていましたが、その後、ブースター接種も比較的、順調に進み、感染状況は、どんどん改善してきました。

 2月に入ってテレワークの義務化が撤廃され、2月16日からはディスコ・ナイトクラブの営業が再開され、2月末には、ワクチンパスポートの提示が義務付けられている場所(公共交通機関や医療施設・高齢者施設は除く)でのマスク義務化が解除され、その時点では、ワクチンパスの廃止は、医療状態が平常状態に戻った場合には、3月末か4月に可能になるかもしれないと発表されていました。

 当時、フランス政府はカナダで起こっていた「ワクチン接種義務化に反対する大規模なデモ「自由の車列(Freedom Convoy)」がフランスに飛び火しそうになっていた状況を非常に警戒しており、それまでの予想以上に早い制限の撤廃の予定を発表したのですが、その時点では、まだ、慎重な態度も崩さず、政府報道官のフライング気味の発表に、慌ててオリヴィエ・ヴェラン保健相が「屋内マスク義務化を撤廃するには、集中治療室の患者数が1,500人を切った場合」と具体的な基準を示し、「ワクチンパスポート撤廃はさらにそれ以降、科学的な検証に基づいて慎重に行う」としていたのです。

 一時の状態が酷すぎたこともありますが、現に感染状態が改善しているのは事実、しかし、集中治療室の患者数は、減少したとはいえ、未だ2,400人前後に留まっている現段階では、目標数値には達しておらず、政府の本意ではなかったはずです。

 しかし、今度は、カナダでの大掛かりなデモどころの話ではない、ウクライナとロシアの戦争に、それどころではなくなったというのが正直なところであると思われます。

 「ワクチンパスポートの廃止」は、戦争の影響による緊迫する政情やエネルギー価格をはじめとする、さらなる物価の上昇で、国民の不満、不安が爆発することが考慮されたのだと思います。

 幸いにも感染状態は急激に改善しているために、ワクチンパスによる抑圧から国民を早めに解き放つことで、少しでもストレスを減らそうと予定を前倒しにしたと思われます。

 ただし、ワクチンパスポートは全面的に撤廃されるわけではなく、公共交通機関や医療施設、高齢者施設等では、ワクチンパスポートの提示が義務付けられ、公共交通機関でのマスク着用義務は据え置かれます。

 今のところ、屋外マスク義務化が撤廃されたわりには、マスクをしている人はけっこういるな・・という印象ですが、このワクチンパスポートの撤廃が、今後、どの程度、感染状況に影響するかは、未知数です。

 WHO(世界保健機構)は、パンデミックにより、コロナウィルスによる直接的な罹患だけでなく、メンタルヘルスにも大きく影響をおよぼしており、世界中で不安やうつ病のケースが25%以上跳ね上がったと発表しています。

 ほんとうに、パンデミックも終わらないうちに、毎日毎日、戦争での悲惨なニュースばかりで、ニュースを見るだけでもメンタルがやられそうになる感じです。私自身は、ワクチンパスを持っているし、マスクが撤廃されるよりも依然として感染の危険の方が怖いので、現状での感染対策を全く不満には感じてはいませんが、この戦渦に、少しでも抑圧から解放されるのであれば、今のフランスの感染状況ならば、悪くない決断なのかもしれません。

 実際に、これはフランスでは久々の明るいニュースで、本来ならば、大々的に取り上げられ、「よかった!」とか、「まだ、早すぎる!」などと、喧々囂々となるところなのですが、この朗報?でさえも、ニュースのほんの一部にしかならずに、ほぼほぼ、報道の中心は「ウクライナ戦争」です。

 この「ワクチンパスポート廃止」による感染再拡大・・なんてことになれば、戦争×パンデミックで、とんでもないことにもなりかねません。

 しかし、これは、あくまでも私の見解ですが、今回のウクライナ戦争に関しては、戦争から派生するフランス自国への被害はもちろん少なくはありませんが、フランス人にとって、民主主義の侵害という側面を持ったこの戦争に対しては、身を挺してでも戦うべきことでもあるわけで、その意味ではフランス政府がロシアに対して行う制裁のために起こるインフレよりも、ワクチンパスよりも「民主主義の侵害」「自由の侵害」は、根本的に許せないことであり、国民の怒りの矛先はプーチンに向かい、この敵を糾弾するエネルギーが勝るような気がしています。


フランス ワクチンパスポート廃止

 

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2022年3月3日木曜日

ロシア人でもあり、ウクライナ人でもあった元同僚の話

  

ウクライナ・キエフから退避するための電車を待つ人々


 久しく話をしていなかった友人と電話でおしゃべりをしていて、お互いの近況や家族のことや、少し先の予定の話などをして、話はロシアとウクライナの話になり、そういえば、この間、彼女と話したよ・・という話になったのです。

 彼女とは、ロシア人の元同僚の女性の共通の知人のことでした。私は、その職場を離れて以来、連絡を直接取ってはいなかったのですが、私の友人は時折、彼女と連絡をとりあっていました。

 私は、彼女とはそれほど親しくはなく、彼女はてっきりロシア人だと思っていたのですが、友人によると、彼女は、ウクライナ人で、彼女の家族はまだウクライナに残っているとのことでした。

 一緒に仕事をしている時は、彼女は自分がロシア人であると言っていたし、実際にロシアのパスポートもウクライナのパスポートも持っているということで、つまりロシア人でもあり、ウクライナ人でもあったわけです。

 ロシアは、公式に外国人は、現存の国籍の保持を誓約するか?それを放棄してロシア国籍を取得するかどちらかを選択することになっているようですが、実際には、彼女のように、2つ以上のパスポートを持ち続けている人は少なくないのではないかと思います。

 ウクライナが独立したのは、ソビエト連邦が崩壊した1991年。私と同年代(中年)の彼女は、おそらく、その前からロシアのパスポートを持ち、もともと、ウクライナ出身の彼女は、ロシアのパスポートに加えて、ウクライナのパスポートを取得したのではないかと思われます。

 実際に法律上で厳しく二重国籍を禁じられているのは政府関係者と法執行関係の職員、裁判官などの公職者であり、一般市民に関しては緩い対応がなされているようです。

 なので、彼女はロシア人であると同時にウクライナ人でもあったわけです。彼女は、以前は自分がロシア人であると公言していたし、深く関わることがなければ、彼女のルーツを知る機会もなく、職場ではロシア人として生活していたわけです。

 しかし、今回のウクライナ戦争で、実は彼女はウクライナ人でもあったことがわかり、ウクライナ北部に残されている兄弟の家族がお風呂場に隠れて生活しているという写真を送ってきました。日本でも地震などの災害の際は、トイレかお風呂場に避難するという話は聞いたことがありますが、ウクライナでも、地下室がなければ、相場はトイレかお風呂場なようで、その写真は家族全員がお風呂場で寝ている写真だったそうです。

 彼女の両親はすでに他界しており、残るは兄弟姉妹とその家族、その兄弟一家は、退避勧告が出てすぐに退避しなかったために、18歳から60歳の男性は出国できなくなり、家族が離れ離れになるよりは・・とウクライナに残っているのだそうです。

 フランスのテレビなどでも、ウクライナから退避する妻と子供を見送る男性の様子が報道されたりしていますが、彼女の兄弟は、家族とともにウクライナに残る決断をしたようです。

 それにしても、まさに戦争の中心にあるウクライナとロシアの両方のパスポートを持っている彼女の心情はいかばかりかと胸がつまされます。

 彼女自身、現在、パリで生活をしていますが、ウクライナ出身ですが、パリに来る前は、ロシアのウラジオストックで働いていたというロシア人でもあり、ウクライナ人でもあります。

 ソビエト連邦崩壊から約30年、ウクライナ人の中には、彼女のように、ウクライナ人であると同時にロシア人であるという人も少なくないのではないかと、この話を聞いて思ったのでした。

 自分が国籍を持つ2つの国の戦争。危険に怯えながら、祖国のお風呂場で生活する家族。

 ウクライナとロシアの間で苦悩する彼女の気持ちは、当事者でなければわからない、はかりしれない複雑な思いに違いありません。


ウクライナ戦争 ロシア国籍 ウクライナ国籍


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2022年3月2日水曜日

世界中の共通の敵への制裁という団結とフランスの大統領選挙

  

ジュネーブで開かれた国連人権理事会でのロシア外相演説で退席する外交団


 緊迫するロシアのウクライナへの侵攻が続く中、世界中の国々がロシアを避難し、ロシアへの制裁に加わり、その輪が広がっています。

 最初は、ロシア対ウクライナ、アメリカ間でのせめぎ合いに、フランスのマクロン大統領が仲介に入ってロシアへの説得を続け、プーチン大統領とバイデン首相の話し合いの段取りをつけた直後に、ロシアがウクライナへの侵攻を開始したのには、世界中が驚愕しました。

 当初からロシアがウクライナに侵攻した場合の制裁を宣言していたアメリカに続き、イギリス、ドイツ、フランス・・から、その制裁参加国は、いつしかG7(日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ)に広がり、今や32カ国がロシアへの制裁に参加していると言われています。

 これまで、武器供与などに関しては消極的な態度をとっていたドイツもドイツ自身にとっても歴史的な変換と言われる「国防費を昨年の倍以上の1,000億ユーロに大幅に増加させる」という大きな決断を下しました。

 ロシアは、ウクライナへの侵攻により、結果的にウクライナとの間での争点のきっかけとなったNATO(北大西洋条約機構)参加国以外の国までも敵に回し、EU加盟国でありながら、NATOには加盟していないフィンランドやスウェーデンがウクライナに武器を供与する方針を発表しています。

 いずれの国(フィンランド、スェーデン)も、これまで紛争国に武器を送らないという方針を長らく貫いていた国であり、フィンランドやスウェーデンにとっても歴史的な決断とされています。

 また、永世中立国であるはずのスイスでさえも、EU(欧州連合)が課した経済制裁を全面的に適用することを発表。

 英ガーディアン紙によると、スイス国立銀行には、ロシア関係の預金額が112億ドル(約1兆2800億円)に上ると言われています。ロシアの富裕層の隠し資産の最大の拠点であるスイス銀行までもが資産凍結という事態はさすがのプーチン大統領も予想できていなかったのではないかと思います。

 プーチン大統領は、アメリカ、G7、NATOのみならず、世界の多くの国を敵にまわし、ロシア国民でさえも「この戦争をロシアの侵攻とは言わないでほしい(プーチンの侵攻と言ってくれ!)」と叫び、背を向けられ始め、四面楚歌に近づいています。

 まさに共通の敵を持った世界中の国々が一見、結束しているようにも見えますが、一方では、共通の敵で団結したグループの繋がりは脆弱で長続きしないとも言われます。

 現在のまさに戦渦、共通の敵ロシアに制裁を行うことは必要なことであると思われますが、この機に、これまでの掟破りに踏み切った国々が、これまでの蛇口を緩め、今後、どのように変化していってしまうかということも不安なことでもあります。

 フランス国内でも、国民の目がウクライナ戦争に関する注目が集中し、大統領選挙に関する報道は大幅に削られています。

 大統領選挙の公示期限が迫った現在でも、マクロン大統領は立候補を正式に表明する時間もなく、(昨日も日本の岸田首相をはじめ、アゼルバイジャン、フィンランド、リトアニア、インドの首脳と電話会談)、ましてや選挙活動なども全くできていないのですが、大統領選挙に関する世論調査では、マクロン大統領の支持率は、これまでの最高となっています。

 マクロン大統領は2月にモスクワでプーチン大統領と会談したほか、ウクライナのゼレンスキー首相、プーチン大統領、バイデン大統領の他、世界の首脳と長時間電話対談を行い続けており、削られている大統領選挙の報道のかわりにマクロン大統領の活躍が逆にクローズアップされ、ウクライナを応援するフランス国民心情が、マクロン大統領への評価に繋がっているとも言えます。

 現在、プーチン大統領はフランスの国民心情としても敵であり、その共通の敵と世界の首脳をリードして戦うマクロン大統領は、共通の敵を持つ頼もしい同士・リーダーと見られている感じがあります。

 実際に今回のマクロン大統領の活躍はめざましいものではありますが、この「共通の敵」への盛り上がりは、世界にしても、フランス国内にしても、そして、ごくごく身近な私たちの人間関係におきかえても、考えさせられる面を孕んでいるような気がするのです。


共通の敵 ウクライナ戦争 フランス大統領選挙


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