2021年3月9日火曜日

フランスの労働者保護の悪循環

   


 私は、長いこと、フランスで働いてきましたが、その間、良い意味でも悪い意味でも、日本にいたら、決して出会うことはなかったであろう人にずいぶん会ってきました。

 厳しい職場で、会社に言いたいこともたくさんありましたし、結構、言ってもきましたが、フランスで会社を良くしていくのは、大変なことで、特にできるスタッフの確保は大変なこと、話し合いをしても、結局、経営者に同情してしまう面も少なくありませんでした。

 というのも、フランスでは、法律で労働者が手厚く守られていて、一度、採用したら最後、社内で働かない人を解雇するのは、容易なことではないからです。

 雇用形態にもよるのですが、CDD(Contrat à Durée Déterminée )有期契約の場合はともかく、CDI(Contrat à Durée Indéterminée)(無期限契約)になると、会社の業績が悪化して、人員整理をしたい場合なども、勤続年数と給料を計算した法律による規定どおりの退職金を払わなければなりません。

 会社にとったら、有期契約を繰り返すのが、一番リスクが少ないのですが、同じ人との有期契約は、数回後の更新の際には無期限契約に切り替えなければなりません。

 ですから、フランスで人を雇うのは、大変なリスクで、たとえ、碌に働かない人がいても、解雇するのは、大変、難しいのです。また、フランス人の場合、その可能性も高いのです。

 だいたい、試用期間の間は、後に問題となる人も、大抵は、おとなしく、勤勉に働いたりしているのですが、その期間が終了し、契約が切り替わった時点で、人が変わったように、正体を表し始めるのです。

 そういう人は、大体、口だけは達者で、平気で嘘をつき、始末の悪いことに本人には、もはや嘘をついている自覚もありません。

「私のせいじゃない」「それは私の仕事ではない」は、フランスでとてもよく聞くセリフです。その上、時間にルーズ、おしゃべり、頑固、横柄、言い訳、責任転嫁・・フランス人にとても、多いタイプです。

 当然、その人のするはずの仕事が周囲の人に回っていくことになり、他の人の手柄を横取りし、周囲は、「やってられない・・」と、普通に仕事をしていた人までもが、士気が失せていきます。

 しかし、明白な背信行為や犯罪、余程の過失がない限り、経営者がその人を解雇するのは、大変、難しいことなのです。ですから、経営者は、試用期間中にその人の本性を見抜かなければなりません。

 それでも、解雇するには、その人の業務上の過失を正式な書面にして、本人に警告する手紙を送り、それが度重なる状態になって、初めて、解雇する話し合いに臨むことができます。

 大変な労力です。

 当然のことですが、勤続年数が長くなればなるほど、退職の際に支払う金額が跳ね上がるわけですから、経営者側は長く働いている人をやめさせることは、余程のことがなければ考えないわけで、逆に、勤続年数が長くなるほど、辞めさせられるリスクは減っていくわけで、長い人ほど、どんどん働かなくなっていき、終いには、会社に来ても、自分の退職後の年金の計算しかしなくなります。

 そうでなくとも、フランスでは、一週間の労働時間は、一週間35時間、バカンスは最低5週間と決められています。その上、税金、雇用保険、交通費補助、食事補助などのもろもろを含めて、経営者は、従業員の手取りの倍近くの金額を支払わなければなりません。

 立派な経歴や資格などが、必ずしもその人が、会社のためになる指標であるとは限りません。

 どこの世界でも、一度雇った人を解雇するのは、簡単なことではないとは思いますが、フランスの場合は、労働者を守る法律や労働者の権利の主張があまりに強く、また、黙って引き下がる人々でもないため、人を雇うということは、大変なリスクであるという気がしてなりません。

 逆に言えば、雇われている立場の方が余程、割り切ってしまえば、働かなくても、大きな顔をしていられるわけです。

 この労働者ファーストの労働者を異常に守るフランスの法律が、企業の足を引っ張る結果にもなっています。

 先日、起こったブリヂストンのべチューン工場閉鎖にまつわる労働組合の反発と国がかりの工場撤退への抵抗には、ここまでするのか?と、空恐ろしい感じさえしたものです。

 業績悪化に伴う工場閉鎖に対して、ブリヂストンは、正規の対応(くにの規定通りの退職金の支払い等)の段取りを踏んでいるにも関わらず、国がかりで、それは認めないなどと言い出すのですから、一度、フランスで工場など作ったら最後、撤退もままならない恐ろしい事態に陥るのです。

 ブリヂストンの話は、少し話が大きすぎる話ですが、しかし、この大きな話が小さな会社でも、基本的には、同じ理屈で作用しています。

 それは、フランスの格差社会とも関係があり、優秀な人が開発する素晴らしい技術などをこの労働者ファーストの制度を逆手にとって働かない人々が、せっかくの技術を使いきれないフランス社会の矛盾のようなものに繋がっているのです。


<関連>

ブリヂストン・フランス・べチューン工場閉鎖 ①」

https://rikakaigaiseikatsu.blogspot.com/2020/09/blog-post_17.html

「ブリヂストン・フランス・べチューン工場閉鎖 ②」

https://rikakaigaiseikatsu.blogspot.com/2020/09/blog-post_22.html

フランスの雇用問題」

https://rikakaigaiseikatsu.blogspot.com/2019/09/blog-post_6.html

 

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