2023年4月21日金曜日

険しい道を歩むマクロン大統領 それでも彼のハートは折れない

  


 年金改革法案が交付された数日後、国民の前で演説を行ったマクロン大統領はその翌日から、アルザスを皮切りに地方行脚を始めています。意を決して?行われた今回の彼の演説も、「一方的な停戦要求」ととられた感が強く、あまり好意的に受け取られはしませんでした。

 リベラシオン(仏・日刊紙)が最近発表した世論調査によると、質問された人の 4 分の 3 が、主に選出された役人が現実から切り離されていること (74%) と、マクロン大統領の権力行使があまりにも権威主義的であること (54%) のために、民主主義は不健康であるという結果を発表しています。

 これまで3ヶ月以上、ほとんど表舞台には、現れなかったマクロン大統領には、行く先々で、停電をおこされたり、これでもかというブーイングがあがって、国民はお鍋を叩きながら、「マクロン大統領辞めろ!」の大合唱。

 マクロン大統領を迎える地域は大変な警戒ぶりではあるものの、全く一般市民を遮断して護衛するというわけでもなく、集まってきた人が直接、話をできる場面もあるところが、フランスなのだな・・と思うものの、その大部分は、ブーイングでマクロン大統領にとっては、なかなか厳しい状況であることは明白です。

 それでも、マクロン大統領は、「このようなバッシングは初めてのことではない・・黄色いベスト運動のときは、むしろもっと酷かった・・」なと矮小化しようとする発言もみられ、これだけ嫌われても折れないハートは凄いな・・などと妙な感心をしてしまいます。普通の人なら、こんなにたくさんの人に嫌われるのは、耐えられません。

 行く先々でマクロン大統領と一般市民の言い合い・せめぎあいの様子が流されたりしていますが、苦し紛れ?に彼が発言したことを抜粋されて流されているので、そんな会話ばかりではないと思うのですが、鍋を叩きながらブーイングの意を伝える国民に対して「フランスを前進させるのは鍋ではない!・・私がやろうとしていることは、フランス人がより良い生活を送り、子供たちの未来を築くことで、 私にはそれを止める権利はない!」と言ったとか、また「フランスには、憲法があり、それを決めるのは、大統領だ!単純なことだ!」と言ったとか、「大統領選に勝てなかったことを乗り越えられない人がたくさんいる!」とか、彼が国民との対話で言葉にしたことが、一つ一つ取り上げられて、あーでもない、こーでもないと論じられています。

 これだけ嫌われても決して折れることがないマクロン大統領は、逆にあっぱれな気もしますが、彼の周囲はやはり穏やかではないようで、政府のスポークスマンが「今、フランスに起こっているのは民主主義の危機はなく、信頼の危機である!」などと説明してみたり、マクロン大統領夫人のブリジット・マクロンがインタビューに答えて「マクロン大統領は孤立してはいない!」と熱弁したり、どうにも彼の歩く道が険しいことが周囲の言動からも垣間見えます。

 彼が孤立しているかどうかは別として、民主主義の危機ではなく信頼の危機であることは、全くのプラスな状況にはならないことを熱弁しているのも気になります。

 それでも、マクロン大統領は「私たちは、あなたの話を聞かない政府ではなく、人々を納得させることができることを確信している!」という姿勢を崩さずにいます。

 彼は抗議行動を続ける人々に対して、「彼らが話そうとしているとは思えません。 彼らは騒ぎ立てようとしています。 言葉をごまかすために騒ぎ立てようとする人々の話を聞くだけの社会にいるとしたら、そこから抜け出すことはできない!」と話しています。

 しかし、インタビューに答えてのことではあるでしょうが、「辞任するつもりはないし、そんなことは起こらないだろう」と述べたことがニュースになっているので、彼の進退にかかわる騒動になりつつあることも見逃すことはできません。

 そんな中、政府は、毎日、交通違反の罰則を減刑したり、教師の給与を月額100ユーロ~230ユーロ上げることを発表したり、歩み寄り?の政策を公表しています。

 年金改革法案交付の少し前に中国を公式訪問していたマクロン大統領、この際の発言もかなり世界的には非難の対象になっているものの、中国政府や中国の国民からは熱烈歓迎を受けていました。

 しかし、肝心の自国では、当分、彼の行く先々では、鍋によるコンサートが開かれるものと思われます。


マクロン大統領


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2023年4月20日木曜日

派手にぶざまに転んだら、周りの人たちが、とっても優しかった・・

  


 以前、会社で階段から落ちて、数ヶ月も仕事を休むハメになって以来、私には階段が少し怖くなって、特に階段は、気を付けて下りるようになっていました。そうでなくとも、日頃の運動不足のせいもあるのか、はたまた年齢のせいもあるのか、転んだり、怪我をすることが増えています。

 何よりも痛い思いをするのは嫌なので、自分でも、ちょっとカッコ悪いな・・と思うくらい注意深くなっているのです。だからといって、動かないでいると、ますます弱っていくので、できるだけ歩くように、そして少しでも運動をして鍛えるように心がけているのですが、鍛えるつもりでやっていた縄跳びで、転んだわけでも何でもないのにもかかわらず、いつのまにか骨折していたという、目も当てられない結果を招いたこともありました。

 それでも、ロックダウンを機に始めた家の中でもできる簡単なエアロビやストレッチを毎日の日課とし、週1は必ずプールで1キロ泳ぐことにしているのですが、それでも転ぶ時は転ぶのです。

 先日、仕事でパリ近郊の行ったことのない場所に行かなければならず、携帯を頼りに約束の場所を探しながら歩いていた時のことです。パリを少しでも出ると駅の様子もガラッと違って、どこか広々としていて、また、行き交う人もちょっと違った感じで、ちょっとガラの悪い感じの人もいたりして、なんとなく、治安悪いのかも?・・などと、正直、ちょっと腰の引ける思いでいたのです。

 何より土地勘が全くないことから、ちょっと警戒しながら、携帯を見つめて「えっ?こっちでいいのかな?」などと思いながら歩いていた時のことです。

 そんな私は携帯の中の地図と、自分が今、歩いている道に気をとられて、歩道と車道の段差に気付かずに、うっかり転んでしまったのです。そんなに人通りがある道でもなかったのですが、痛~い!と思いながらも、携帯を持ったまま、あまりに無様な転び方をしたために、恥ずかしいのが先にたって、かえって平気な顔をして、立ち上がったのです。

 すると、すぐに近くに止まっていた車に乗っていた男性二人が「大丈夫?」と駆け降りてきてくれて、また、ちょっと離れたところを歩いていた女性までが、「大丈夫ですか?」と走り寄ってきてくれました。

 私自身は、客観的に自分の転び方を見ていないので、どの程度、派手な転び方だったかはわからないのですが、もしもこれがパリだったら、もっと人通りが多くても、わざわざ車から降りてきて声をかけてくれるなんてことはないような気がするし、あったとしても、何か盗られるんじゃないか?などと警戒してしまうような気もします。

 どこかほのぼのとした空間で、ちょっと、おっとりした感じの中年の男性二人が、この会社の中で応急処置ができるから、少し休んで行ったら?などと、言って下さり、痛さと恥ずかしさで口ごもっていた私を見て、フランス語わからなかったら、英語で話そうか?などとまで言ってくれて、駅を降りてから、ちょっとガラが悪いかも・・とか、治安悪いかも・・などと思っていたことが申し訳なかったような気持ちになりました。

 痛いは痛かったのですが、そこまでの怪我ではなかったし、約束の時間があったので、それに遅れてはいけないと思い、彼らに道を尋ねると、私は見当違いの方向へ歩いていたようでした。

 彼らには、丁重にお礼を言って、教わった道を痛い足を引きずりながら、妙にバツの悪い思いと、「やっぱり郊外に住んでいる人って優しいんだな・・」などと思いながら歩き、幸い約束の時間に遅れることはありませんでした。

 それにしても、地図に気を取られて転ぶほど道を見ていたはずなのに、GoogleMapを持ちながらも迷う私の方向音痴にもつくづく嫌になると同時に、階段ばかり気を付けて、歩道と車道の段差もこれからは気を付けなければ・・と心に誓ったのでした。

 夜になると足の痛みは増してきて、慌てて湿布をしながら、痛みが出てくるのさえも鈍くなっていることが情けなくなりました。

  

パリ郊外


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2023年4月19日水曜日

史上最悪と言われるブイトーニ冷凍ピザ食中毒事件の賠償には守秘義務が課せられている

  


 史上最悪の食品スキャンダルと言われた2名の死亡者を含む75名の犠牲者を出したブイトーニの冷凍ピザ食中毒事件から約1年、事件の被害者家族(63家族)とネスレ・フランス(ブイトーニのピザ工場の親会社)との間でようやく合意に達し、ネスレ・フランスは、被害者に対して相応の賠償金を支払うことで合意に達しています。

 63家族全体の弁護を請け負っている弁護士は、この事件の賠償金として、2億5千万ユーロの支払いをネスレ・フランスに対して要求していました。

 この賠償金の支払いは、医学的評価に従い、公平な方法で、損害の深刻さとそれぞれの状況を考慮に入れ算定されていると言われており、被害に応じて中には数十万ユーロに達するものもあると言われています。

 しかし、この金額については、メディアを含めて絶対的な守秘義務が課せられており、この同意に関しての内容や金額については公表されないということです。

 死亡した子供2人の人生はもとより、重度の溶血性尿毒症症候群(HUS)に感染した数十人が生涯にわたる障害を負ってしまったのですから、とりかえしがつかないこととでもあり、相応の賠償金の金額は生半可なものですまされるものではありません。

 しかし、未だ一部の家族は同意を拒否しているそうで、完全な合意に至ったわけではありません。

 この事件後に、以前に工場で働いていた職員が公開した大腸菌入りピザを生産していた工場の不潔な映像が流出しましたが、ちょっと信じがたいレベルの不潔さで、この工場の生産ラインはストップされ、一旦、再開したものの、長くは続かずに工場は閉鎖に追い込まれています。




 私自身も、たまに冷凍ピザを購入することもありますが、あの映像を見た後は、ブイトーニのピザだけは手がのびることはありません。

 しかし、一応、一段落がついたのは、民事訴訟の部分で、ネスレ・フランスには、まだ刑事訴訟が控えており、パリ検察庁が、「不随意殺人」と「不随意傷害」について司法捜査を継続しているものの、まだ起訴されてはいません。

 当のネスレ・フランスの広報は、「民事訴訟では、友好的な合意が通常であり、刑事訴訟を回避することなく民事訴訟を終わらせる」、今回の事件も「そのプロセスに従っている」「妥当な時間内に犠牲者とその家族の宥和に貢献するために、友好的な補償プロセスをとることを決定した」とかなり事務的な発表をしているあたりは、あまり好印象は持てません。

 これだけの事件を起こしておいて、好印象もないとは思うのですが、当初からネスレ・フランスの対応には、誠意というものが感じられず、食品会社における食中毒という致命的な危機対応は明らかに充分なものではありませんでした。

 あくまで推測ではありますが、一部の家族の同意が得られていないというのは、このあたりも影響しているのではないか? もっとも甚大な被害を被った家族からしてみれば、賠償金の金額だけでなく、このような姿勢もまた納得がいっていなのではないか?と思ってしまいます。

 一般大衆からしてみれば、喉元過ぎれば・・となってしまうかもしれませんが、消費者側からしたら、あのような不潔な食品工場が存在しえたということも恐怖であり、冷凍ピザにかかわらず、食品を扱う場所での衛生検査なども徹底する方向に進んでほしいものです。


ブイトーニ冷凍ピザ食中毒事件 賠償金 守秘義務


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2023年4月18日火曜日

マクロン大統領の演説がどうにも、しっくり響かなかった理由

 


 ここ3ヶ月以上、揉めに揉めている年金改革法案が憲法評議会の審査を通過て、ついに決定した後、マクロン大統領が月曜日の夜8時(20時)に国民に向けての演説を行うことが発表されていました。

 彼の演説は、パンデミックや戦争問題の時などは、比較的頻繁に行われていましたが、こと年金改革問題に関しては、これだけ国中が混乱しているにもかかわらず、長い間、彼はこのような演説の機会を持つことはありませんでした。

 3月に一度、ジャーナリストをエリゼ宮に招いてインタビューに答えるという形で話をしたことがありましたが、時間帯も午後1時(13時)と多くの人がオンタイムで見られる時間帯ではなく、また、インタビューに答えるとしながらも、ジャーナリストの質問を遮って自分が言いたいことだけを言うという・・「だったら、何でインタビュー形式をとったの?」と言いたくなるような不快な気分になりました。

 このインタビューの放送でマクロン大統領は国民の怒りの火に油を注ぎ、この直後のデモを一段と盛り上げてしまった感じになりました。

 今回の演説に関しては、もうすでに法案が決定してしまった今、前日から、「マクロン大統領は一体、何を話すのだろうか?」という話でもちきりでしたが、「今にいたって彼が言えることはないだろう・・これ以上に国民の怒りを増長させることを言いかねないのではないか?」と期待というよりも心配されていました。

 果たして、彼は演説の中で、「今回の年金改革が国民に受け入れられていないことは、招致していますが、この改革は国民全体の退職後の生活を守るためにはどうしても必要なことでした」と述べました。

 「何カ月にもわたる協議にもかかわらず、組合との合意を見つけることができなかったことに関しては後悔している、これらの教訓から学ばなければならない」と話し、「あまりにも多くのフランス人にとって、物価の上昇に直面して、もはや十分な生活を送ることができない仕事に直面した怒りや、特に若者によって表明された社会正義と民主的な生活の刷新に対する要求に耳を傾けないままでいることはできない」と語りました。

 このへんまでは、まだ、なんとなく聞けていたのですが、この先、「なので、フランス人がよりよい生活を送ることができるためのプロジェクトを立ち上げたい・・」と話し始めてからは、「協和秩序の改革」、「不法移民の取り締まり強化」、「公共サービスの改善(病院の救急サービスなど)」などについての取り組みを始めるとし、話し合いのための扉は開かれているとし、7月14日(革命記念日・パリ祭)を目途に最初の評価を下してほしいと話しはじめ、途中からは、なんだか煙に巻かれた感じでわけがわからない感じになりました。

 言っていること、ひとつひとつは、間違っている話ではないとはいえ、どうにも腑に落ちない、今、国民が聞きたかった話ではなかっただろうに・・と思いました。

 実際には、すでに、この演説を聞く耳も持たずにパリの街には火があがりはじめていたことには、この暴力行為に走る人々は、火をつけたり、破壊行動そのものが目的なのではないか?と思ってしまう側面もありますが、同時に彼らは「もう、今さら何を言おうとおまえのことは信用していない」と考えていると見ることもできます。

 つまり、全てが決まった後になって、「扉は開かれている」などと言われても、それは順序が違う話で、これまでマクロン大統領自身は直接、話し合いの場に応じることはなく、国民議会も通すことなく、強引に法案を決定して、圧倒的に優位な立場にたってから、ようやく話し合いを始める・・(しかも年金問題そのものではない)というのは、簡単に言えば、ずるいやり方という印象をもってしまいます。

 挙句の果てに年金問題以外のプロジェクトを掲げて、とりあえずの評価の期限を7月14日に設定するというのは、時間稼ぎをしていると思う見方もされています。

 どちらにしても、マクロン大統領にとっては、年金改革法案はすでに決まったものであり、それ以外の問題について滔々と話すあたりは、どうにも国民との認識のズレを感じてしまいます。

 年金改革をしなければ成り立たないので、その代わりのところで国民の生活が少しでも改善されていくように取り組むという点では、なんらおかしな話ではないのに、どうにもスッキリしないのは、なぜなんだろうか?と思ってしまいます。

 マクロン大統領の側からしたら、どうしても年金改革が譲れないとしたら、他のことを改善することくらいしか言いようがないのに、ストレートに説得力をもって伝わってこないのは、言うべき肝心な何かを言っていないという気がします。

 ここ数ヶ月、国内外を問わず、言うべきことを言わず、言わざるべきことばかりを言っている気がするマクロン大統領ですが、時間稼ぎをしているとすれば、まず、国民が話を聞いてくれるようになるまで、なんとか別のきっかけをみつけるしかないような気がしてしまうくらい、マクロン大統領の話からは説得力がなくなっているような気がしています。


マクロン大統領演説


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2023年4月17日月曜日

パリのメトロの中は日本よりも携帯を眺めている人が少ない気がする

  


 日本に一時帰国して、地下鉄など電車に乗ってびっくりするのは、まず電車自体がピカピカできれいで清潔なことです。パリのメトロも最近、オリンピックに向けてお色直しをしているのか、ずいぶんきれいになったり、新車になったりして、かなり近代化された車両を使っている線もあるのですが、清掃の仕方が雑なのか、それを清潔に保てないので、新車でも、すぐにピカピカな感じは失せてしまうような気がします。

 そんなメトロに慣れてしまっていると、日本の電車は眩しく感じられるほどです。

 そして、もうひとつ、日本で驚くのは、電車に乗っている、ほぼ全ての人が携帯電話を見ていることです。日本に行く時には、通勤時間帯は避けて移動するので、あまり混雑している電車に乗ることがないせいもあるのかもしれませんが、概して、みんながお行儀がよく、おとなしく、人の迷惑にならないように同じように下を向いて携帯を眺めているので、視線をあげていると、ちょっと戸惑いを感じる気がしないでもありません。

 正直なところ、最近、私は少々、携帯に疲れており、無ければ不便だし、なんとなく不安な気にさえなるのですが、四六時中、Twitterを覗いたり、ニュースを見たり、LINEをしたりして、画面を眺めていることに疲れてきたのです。

 自分が携帯を眺めているときには、気が付かなかったのですが、いざ携帯を眺めるのをやめてみると、パリのメトロの中は、日本の電車の中ほど携帯を覗いている人が多くはないことに気が付いたのです。

 そうやって周りを見回していると、色々な人が色々なことをしていて、それを観察しているのは、なんだか楽しいのです。バスなどになれば、窓の外の景色を見ている方がなんだかずっと楽しくて、携帯なんか覗いているのがもったいない気さえしてきて、精神衛生上も良いような気がするのです。

 そもそも、パリ市内でメトロやバスに乗っても、そんなに長距離を移動するわけではないので(郊外線だとまた違うのかもしれませんが・・)、すぐに乗り降りするのに、携帯を覗いている間もないこともあるかもしれませんし、パリのメトロの車内は、日本の電車よりも狭く、座席の配置の仕方なども違って、効率よく人を詰め込めるようにはなっていないので、ちょっと混んでくると携帯を見ているのも邪魔になりそうな気もします。

 そもそも、数年前(といっても7~8年前くらい?)までは、携帯をメトロやバスなどで取り出すのは危険だと言われていた時期もあり、「車内での携帯の扱いには盗難事件を引き起こす原因となるので注意しましょう」などと張り紙がしてあったくらいです。

 実際に、会社の同僚などには、メトロの中で携帯を見ていたら、下車していく人にいきなりひったくられたり、道を歩いていて殴られて携帯を取られたなんてこともあったくらいで、もしかしたら、なんとなく、そのころの名残りもあるのかもしれません。

 私自身は、危険だというより、ただ、なんとなく携帯を持っていれば、つい覗いてしまうような、携帯に縛られている感じに疲れて、周囲の人や景色をあらためて眺めてみたら、意外に楽しいという発見をして、なんだか感受性を生に刺激してくれるシンプルなことをこれまで携帯によって、失っていたような気がしているのです。

 それでも、この間、メトロの中に携帯の充電用のプラグがついている車両をみつけて、「すごい!便利になってる!」と感激したものの、そんなに長い線でもないのに、どれだけ充電できるのかな? これ本当に役にたつのかな?とも思うのです。

 もしかしたら、一見、便利そうでも、そうでもないかな?などと思いながら、ちゃんと充電できるかどうか、試してみたりしたのです。(ちゃんと充電できました)

 考えてみれば、以前は電車の中ではずっと本ばかり読んでいた私ですが、そのころは、そんなに疲れると感じることはなかったので、どうやら私はあのスクリーン、そもそも携帯というものが苦手なのかもしれません。


携帯中毒 メトロ 地下鉄


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2023年4月16日日曜日

年金改革交付後 ストライキ・デモの次はオリンピックを盾にする動き

  


 嵐のような国民の反対をよそに憲法評議会が年金改革を承認(一部を除いて)したその日の夜のうちに、マクロン大統領は年金改革を正式に交付しています。

 もちろん国民の怒りが鎮まるはずもなく、当日は無許可のデモがフランス中で起こり、次なるデモの予定やストライキの予定が次々と予告、発表され続けています。

 この国民の怒りをどのように鎮めるつもりなのか? 現段階では鎮めるというより、沈めるという印象が強いのですが、マクロン大統領は月曜日の夜に、久しぶりに夜8時(20時)にテレビで国民に向けて、今一度、この年金改革の必要性について演説する予定になっています。

 そもそも憲法49.3条に則り、国民議会の採決なしに首相の権限で通した年金改革に加えて、たった9名のメンバーによって構成されている憲法評議会で決定されてしまった憤りと怒りは、法律に則っているから・・ということでは、国民を納得させられるものではありません。

 一つの節目を迎えると思われていた、この憲法評議会の決定は、ストライキやデモや暴動を鎮めるものとはならずに、これまでの抗議運動だけでは立ち行かなくなっていると見たのか、今度は、SNS上で、ハッシュタグ「#PasDeRetraitePasDeJO」(引退なしオリンピックなし)が拡散しはじめ、トレンドの上位に上がってきています。

 つまり、今度は日常生活だけでなく、約1年後に迫ってきた2024年のパリオリンピックの妨害を企て始めたのです。

 数年前からパリは、オリンピックに向けて、あちこち工事が続いていて、その工事も、これからの1年で工事も大詰めを迎えようとしていますが、この工事の建設現場などにも大規模な封鎖とストライキを呼び掛けています。



 また、年金改革反対者に対して、4万5千人と言われるオリンピックボランティアに登録することを促し、結局はボランティアには行かない選択をさせ、すべてを混乱させることを呼び掛けています。まことに悪質ですが、今度はいわば、パリオリンピックを盾にする(人質にする)動きのようです。

 1年後まで待てないと急いている人々は、その前にローランギャロス(全仏オープンテニス)、ツールドフランス、ラグビーワールドカップなどを妨害することを提案している人々もいるそうです。

 しかし、現在、高まっている動きは、オリンピック妨害で、この妨害の企てが高まれば、オリンピックの準備に支障がでてくることも十分に考えられ、フランスとしては、世界に向けて恥をさらすことになりかねない事態となっています。


こんなブラックジョークも・・


 どうにもこじれてしまった年金改革問題、一時、首相の口からは「宥和」という言葉が出ていたものの、結果としては、全く宥和しておらず、事態は全く収束がついてはいません。

 パンデミックの時も、一体、いつになったら、終息するのかと思いましたが、今回もまた、まったく先の見通しが立たない状況になっています。


ハッシュタグ 引退なしオリンピックなし #PasDeRetraitPasDeJO


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2023年4月15日土曜日

年金改革法案が憲法評議会通過 パリだけでも1万人の警察・憲兵隊配備 パリの街の警戒ぶりが凄かった・・

  


 49.3条により、国会で採決をとらずに採択された年金改革について、憲法評議会の決定が4月14日に下されることになっていたので、もしも、これが正式に決定されれば、また大変なことになるだろうと思っていました。

 この憲法評議会の決定次第とはいえ、後になって考えれば、憲法評議会を通過することは、ほぼ確実なことではあったのです。

 結果はこの日の夕方に発表されることになっていたので、夕方から夜にかけては、また大変なデモが起こることは容易に想像できることでした。

 私はその日、日本食材の買い物に出かけて、ランチをしてから、また別の場所に行くつもりでいました。日本食材店の多くは、問題の憲法評議会の近辺にあるのですが、まだお昼すぎくらいの時間帯であったし、まさかそんなに人が集まっているとも思えず、ついでに昨夜は、ものものしく警察や憲兵隊が立ちはだかっていたので、その変貌ぶりをちょっと横目で見ていこうかな・・とも思っていたのです。



 憲法評議会の門の前には、頑丈なバリケードができていて、それを取り囲むように、午後の早い時間から、報道陣が取り囲んでいました。憲法評議会の建物は間口もそんなに広くもなく、通常だとあまり目立たない建物でうっかりすると見過ごしてしまうような感じでもあるし、そもそも日常的には、憲法評議会など、そんなに注目される場所でもありません。

 しかし、その日の主役級に注目されていた憲法評議会以上に驚いたのは、もう、すごい人数の警察や憲兵隊がうろうろしていて、紺色の警察車両があちこちに縦列駐車してあり、そして、それは車だけではなく、車をのぞき込むと中にはぎっしり警察官が待機しているのでした。



 また、すぐ近くに消防署があるにも関わらず、消防車までが通りに出て待機しているのには、まさか!何かが燃やされる前から出動しているとは・・と、その警戒ぶりの凄さを見せつけられた感じでした。

 私は、そのまま次の用事を済ませるためにの移動で、メトロの入口まで行ったところ、パレ・ロワイヤルの駅は閉鎖されており呆然。「駅が閉鎖とは・・これは迂闊だった・・」と、天気も悪く、そのまま迂回して行くのも、大変だ・・と、あっさり断念して帰宅しました。

メトロの駅・パレ・ロワイヤルは閉鎖・・


 その後、別の場所で買い物をして帰ると、なんだか疲れて、少し休んでいたら、外から警察車両のサイレンの音が聞こえてきて、年金改革が決定したことを知りました。

 テレビをつけると、その時はすでにもう、パリの街を練り歩く大勢の人の姿が映し出されており、この日の最初の集結場所は、パリ市庁舎であったようです。

 公式発表では、この日、パリだけでも1万人の警察官が出動していたそうで、だいたい警察官だけで1万人とは、驚きです。

 この警察・憲兵隊は、パリ市庁舎、バスティーユ広場と次々にすごい人数のデモ隊が移動する場所を次々と閉鎖していったようで、ゴミ箱を燃やしたり、Velib(パリの貸し出し自転車)を燃やしたり、場所によっては、溜まっているゴミを道路にばら撒いてトラムウェイを止めたとか、最近では珍しくなくなっている光景に、テレビの解説でも、今のところは「セ・パ・トレ・グラーブ(そんなに深刻でもない)」などと言っているのには、「一体、どうなったら、深刻なんだ??」と突っ込みを入れたくなりました。

 しかし、こんな状態はパリだけではなく、フランス全土で多くの国民が大声をあげているのですから、やはり穏やかではありません。この日はレンヌで警察署や教会の扉に火がつけられ、火災が起こっています。

 一方、この日、マクロン大統領は火災から4周年を迎える前日ということで、工事中のパリ・ノートルダム大聖堂を視察し、建設工事に携わっている人々と対面し、「何があっても引き下がらず自分の選択を突き進む大統領である」と自己紹介したとか・・。また、「不人気を受け入れる準備はできている」などと話したとか・・。

 また、ボルヌ首相は、この日は「インフレによる消費低迷のための視察」として、スーパーマーケットを訪れていたというのですから、どうやら憲法評議会が年金改革を決定することは、事前に承知しており、この結果による対応は、警察や憲兵隊に任せて、日常の仕事にまい進している様子は、余計に国民の怒りを増すだけでなく、その距離を痛切に感じさせられる気もしてなりません。

 CGT(全国組合連合)は、次回のデモを5月1日と発表していますが、そもそも5月1日(メーデー)は、フランスでは特別な日。その特別な日は、今年はさらに、「特に特別な日」になりそうです。


年金改革決定 憲法評議会 パリ特別警戒


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