2021年8月31日火曜日

ヘルスパス 職場でのヘルスパス提示義務化に伴う職場内の摩擦

   


  フランスでは、今週から、ヘルスパスの提示義務が職域にまで求められるようになりました。つまり、同じ職場内で、従業員のヘルスパスをチェック・管理することが必要になったわけです。職務上以外のことで、人をチェックし合うというのは、あまり気持ちの良いものではありません。

 現在の段階では、全ての職場でというわけではなく、レストラン・カフェ、映画館、美術館などの文化・娯楽施設、スポーツ施設、一部のコマーシャルセンター・デパートなどの顧客に対してヘルスパスの提示が求められる場所においての人と接する部門で働く従業員に対してのものであり、フランスでは、約180万人がこれに該当します。

 現在、フランスのワクチン接種率は74.3%までに上昇していますから、そこまでの大問題には、発展しにくいとは思いますが、とはいえ、頑なにワクチン接種を拒否、ヘルスパスに反対する従業員を抱える企業では、少なからず、摩擦が生じています。

 元来、フランスは、労働者の権利が強く守られている国で、一旦、正規採用した場合の従業員の扱い、特に解雇に関しては、法律で強く守られており、今回のような、ヘルスパスが提示できない場合(=ワクチン接種拒否)は、給与が支払われない=解雇同然、というような図式のケースは、元来のフランスの労働者保護の観点から考えれば、かなり異例なことです。

 現在のところは、まだスタートしたばかりなので、たとえ、ヘルスパスの提示ができなかったとしても、他の部署への異動や、説得などの話し合いが持たれることが先決なので、そこまで深刻な事態は、浮上してきていません。

 しかし、国の決定とはいえ、顧客に対して行うヘルスパスのチェックと職場の中でお互いのヘルスパスをチェックし合うという図式は、職場全体の意志統一ができていない限り、職場内で不穏な空気を生み出します。

 と言っても、今回の場合は、経営者側もこれを遂行しない場合には、企業全体が営業停止になる恐れがあるため、これを回避することはできません。

 このような強制的な管理体制を敷くというのは、まことにフランスらしくない、フランス人には受け入れにくいことであるに違いありませんが、(それ故、7週間連続で反対デモも起こっている)すでに1年半以上も続いているパンデミックという異常事態ゆえ、フランス人とて、多くの人が受け入れざるを得ず、このヘルスパスに追い立てられるようにして、ここまでワクチン接種率も上がってきたのです。

 しかし、このワクチン接種の有無による不穏な対人関係は、企業内だけでなく、家族の中でも生まれ始めています。家族の集まりに際して、(誰かの誕生日パーティーや冠婚葬祭など)ワクチン接種をしていない者は参加してほしくないとか、それでも参加したい、家族に会いたいという摩擦で、家族関係にヒビが入ってしまった・・などというケースも少なくありません。

 もともと、コロナウィルスという病気は、人との接触を避けなければならないという残酷な側面を持つウィルスではありますが、ワクチンが誕生したことで、それが回避できると思いきや、そのことで、一層、凝縮した人間関係のいざこざが、また別の形で生じてしまうことに、やるせない気持ちになります。

 しかし、そこで、ちゃっかりした人もしっかり現れるのがフランスで、ワクチン接種を拒否している人が早々に医者に頼み込んで、ドクターストップ(Arrêt Maladie)の書類を書いてもらい、3ヶ月間の病気のための休職手続きをとってしまう人まで登場しています。

 医師の書いたドクターストップによる休職の場合、企業側は当人の病気についての詳しい事情について追求することはできず、この期間、少なくとも給与の半額は保障されます。つまり、ヘルスパスを提示できない場合に、無給になってしまうことを避けて、とりあえず、給与の半額が保障される方法をとるわけです。

 しかしながら、このヘルスパス提示義務の終わりが見えているわけではなく、永遠にドクターストップの書類をもらい続けて生活を続けることは不可能で、問題を先延ばしにしているに過ぎません。

 もっとも、この期間にヘルスパスの提示が必要のない転職先を探すという道もあるにはありますが・・。

 あくまでもワクチン接種は義務化したわけではないと言いながら、事実上の義務化のような状態に、「強制はできない・・しかし・・」といった曖昧な、どうにもおさまりが付きにくいモヤモヤした状況が生じています。

 そんな状況をよそに、政府側は、「フランスはヘルスパスの成功を収めた!」「他国の多くの国がフランスのヘルスパスに追随している!」と得意の自画自賛を始めています。

 たしかに、このヘルスパスがなければ、いつまでも、レストランやバー、その他の文化施設なども、閉鎖状態が続き、人々が現在のような、ほぼ日常に近いような生活を取り戻すことはできなかったかもしれないし、ここまでワクチン接種率が上がることもなかったかもしれません。

 とりあえずは、3日に1回、PCR検査を受け続ければ、ヘルスパスとして、使えるので、どうしてもヘルスパスを受け入れられない人々は、PCR検査をし続ける意外、他に道はありません。しかし、10月半ばにPCR検査が有料化すれば、それさえもあまり現実的な話ではなくなります。

 そして、実際に、経営者とヘルスパスを拒否する人々との間の話し合いが決裂し、解雇同然の状況になり始めた時、ヘルスパス反対、ワクチン接種をする人々がおとなしくそれを受け入れるのかどうかはわかりません。

 9月の半ばには、医療施設・高齢者施設勤務の従業員(医療従事者及び医療施設の職員)に対しては、ヘルスパスではなく、ワクチン接種の義務化の期限を迎えます。これは、PCR検査で乗り切ることはできません。

 フランスの感染状況は、少しずつとはいえ、減少傾向に向かい始め、概ね、フランスのヘルスパス政策は成功したかに見えていますが、万人が両手をあげてそれを歓迎しているわけではないのです。


職域によるヘルスパス提示の義務 フランス


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