2022年3月5日土曜日

マクロン大統領が書面で出馬表明した理由

   

 


 マクロン大統領が次期大統領選に立つことは、公然の事実でした。しかし、マクロン大統領は、ギリギリまで正式な出馬表明をしないまま、本当に公示締切寸前に、ようやく正式に次期大統領選挙に立候補することを表明しました。

 もともと、かなり、遅いタイミングに出馬表明をする予定にはしていたものの、ウクライナ戦争が勃発したことにより、現在の大統領としての任務のために、それは、本当に最後の滑り込みのような発表になりました。

 マクロン大統領は、コロナウィルス感染の状況が、ある程度、落ち着き始めた段階で、立候補を表明し、候補者としてテレビのインタビューや、彼に対する批判の多い地域への遊説行脚を予定していました。

 しかし、これらの予定は、プーチン大統領のウクライナ侵攻により、現職大統領としての職務が予断を許さない状況になったことで、すべてキャンセルされ、自らを候補者と宣言するチャンスを失ってしまいました。

 何よりも、現在の緊迫したロシア・ウクライナをはじめとする世界各国との連携とそれをフランス国民やヨーロッパ全体にメッセージを送る立場にある彼が、ここで大統領選挙への出馬を自分の口から表明することは、この現職の大統領としての戦争危機に対する発信をぼやかしてしまうことになり、敢えて、書面での立候補の表明というかたちを取ったものと思われます。

 現職の大統領である彼にとっては、この世界中を巻き込む危機への対応をこなしていくことが何よりも国民の信頼を得ることになり、また、この戦争危機対応においては、何よりも優先されて報道されていますから、この重大な責務を果たしていくことが何よりもの彼のアピールにもなるのです。

 マクロン大統領は、この立候補表明の書面で、彼が大統領に就任して以来の5年間が、テロ、黄色いベスト運動、パンデミック、そしてヨーロッパでの戦争とフランスがかつてないほどの危機に直面してきた中で、私たちは威厳と友愛をもって、それらの問題ひとつひとつに私たちは決して諦めることなく取り組んできたと綴っています。

 このような数々の危機が襲いかかる中でも、私たちは様々な改革によって、雇用を取り戻し、失業率はこの15年間で最低の水準になり、国民の努力のおかげで病院や研究への投資、軍隊の強化、警察官、憲兵隊員、裁判官、教師の採用、ガス・石油・石炭などの燃料への依存度の低減、農業の近代化の継続が可能になりました。

 おかげで、パンデミックの赤字を減少させ、5年間を通じて、前例のないほど税金を下げることができました。その結果が、私たちの信頼性を高め、主要な隣国に対して、自らを守り、歴史の流れを左右することのできるヨーロッパの大国の建設を始めるよう説得することを可能にしたのです。

 この5年間の功績についての文面は、マクロン大統領にしては、非常に謙虚な感じではありますが、お得意の自画自賛でもあります。

 「しかし、私たちはすべてを達成したわけではなく、今までの経験を生かせば、間違いなく違う選択をするはずです。そして、この2年間に経験した危機への取り組みは、これこそが進むべき道であることを示している」と続けています。

 この書面の中で、興味深いのは、彼が「子供たちのためにフランスを築いていくこと、民主主義への脅威、格差の拡大、気候変動、人口動態の変化、テクノロジーの変革など急速な激変を経験している中、間違えてはいけないのは、私たちは撤退を選択したり、ノスタルジーを抱いたりすることでこれらの課題に対応するのではなく、謙虚に、そして明晰に現在を見つめ、未来への大胆さと強い意志を捨てずに子供たちのフランスを作っていく」という部分です。

 これは、現在のウクライナやロシアの問題を示唆しているとも読み取ることができます。過去を蒸し返すのではなく、現在、そして未来を見つめて決して諦めずに前に向かって進む姿勢を崩さないということです。

 そして、彼は、最後に「私たちは、この危機の時代を、フランスとヨーロッパの新しい時代の出発点にすることができるのです。あなたと一緒に。あなたのために 私たちみんなのために。」と締めくくっています。

 とりあえずは、現在のフランスは、大統領選挙関連のニュース以上に戦争に関するニュースが流される中、通常ほどには、大統領選挙がとりあげられないことから、これまで公式に立候補せずに選挙活動もほとんどしてこなかったマクロン大統領の活躍が逆にクローズアップされ、マクロン大統領の支持率が、他を引き離して上昇する、他の候補者からしたら、皮肉な結果となっています。



 戦争の状況が緊迫していることもありますが、マクロン大統領がこの正式な立候補の発表の前日に、敢えて、選挙の話題ではなく、国民に向けて「ウクライナ戦争についての対応」についての演説を行ったことは、この国民世論の結果を踏まえて、彼が評価されている部分を決定づけることでもあり、充分に大統領選挙も考慮されたものであったと思われます。 

 しかし、これは、これまでの彼の戦争への対応が評価されてきたことによるもので、戦争の状況がさらに悪化していくようなことがあれば、いつ、彼に対する国民の評価が一変するかもわからない危険も孕んでいます。

 大統領選挙は、5週間後。それまでに現在の戦争状態がどのようになっているかで、また、彼の運命も変わってくるかもしれません。「この危機を逆にフランスとヨーロッパ全体の転換期とする」と綴っている彼の立候補の書面は、別の候補者とは一線を画し、逆に強いインパクトを与えています。


フランス大統領選挙 マクロン出馬表明


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2022年3月4日金曜日

フランスが3月14日からのワクチンパスポート廃止を発表した理由

   


 昨日行われた国防会議の結果、フランスは、3月14日からワクチンパスポートを撤廃することを決定しました。あれだけ大騒ぎして起用したワクチンパスも、オミクロン株への移行や、それによる感染の急激な減少と、何より「戦争」のために、想像以上に早い撤廃になり、あの騒ぎは一体、なんだったのか?と、なんだか拍子抜けな気もします。

 ここのところ、フランスの報道は、「ウクライナ戦争」でほぼ一色となっており、コロナ関連のニュースはほとんど報道されないようになっていました。それだけコロナ問題はおさまる方向に進んでいたということでもありますが・・。

 年末年始にかけてのフランスは、1日の新規感染者数が30万人超えまでになり、本当に一時はどうなってしまうのか?と思っていましたが、その後、ブースター接種も比較的、順調に進み、感染状況は、どんどん改善してきました。

 2月に入ってテレワークの義務化が撤廃され、2月16日からはディスコ・ナイトクラブの営業が再開され、2月末には、ワクチンパスポートの提示が義務付けられている場所(公共交通機関や医療施設・高齢者施設は除く)でのマスク義務化が解除され、その時点では、ワクチンパスの廃止は、医療状態が平常状態に戻った場合には、3月末か4月に可能になるかもしれないと発表されていました。

 当時、フランス政府はカナダで起こっていた「ワクチン接種義務化に反対する大規模なデモ「自由の車列(Freedom Convoy)」がフランスに飛び火しそうになっていた状況を非常に警戒しており、それまでの予想以上に早い制限の撤廃の予定を発表したのですが、その時点では、まだ、慎重な態度も崩さず、政府報道官のフライング気味の発表に、慌ててオリヴィエ・ヴェラン保健相が「屋内マスク義務化を撤廃するには、集中治療室の患者数が1,500人を切った場合」と具体的な基準を示し、「ワクチンパスポート撤廃はさらにそれ以降、科学的な検証に基づいて慎重に行う」としていたのです。

 一時の状態が酷すぎたこともありますが、現に感染状態が改善しているのは事実、しかし、集中治療室の患者数は、減少したとはいえ、未だ2,400人前後に留まっている現段階では、目標数値には達しておらず、政府の本意ではなかったはずです。

 しかし、今度は、カナダでの大掛かりなデモどころの話ではない、ウクライナとロシアの戦争に、それどころではなくなったというのが正直なところであると思われます。

 「ワクチンパスポートの廃止」は、戦争の影響による緊迫する政情やエネルギー価格をはじめとする、さらなる物価の上昇で、国民の不満、不安が爆発することが考慮されたのだと思います。

 幸いにも感染状態は急激に改善しているために、ワクチンパスによる抑圧から国民を早めに解き放つことで、少しでもストレスを減らそうと予定を前倒しにしたと思われます。

 ただし、ワクチンパスポートは全面的に撤廃されるわけではなく、公共交通機関や医療施設、高齢者施設等では、ワクチンパスポートの提示が義務付けられ、公共交通機関でのマスク着用義務は据え置かれます。

 今のところ、屋外マスク義務化が撤廃されたわりには、マスクをしている人はけっこういるな・・という印象ですが、このワクチンパスポートの撤廃が、今後、どの程度、感染状況に影響するかは、未知数です。

 WHO(世界保健機構)は、パンデミックにより、コロナウィルスによる直接的な罹患だけでなく、メンタルヘルスにも大きく影響をおよぼしており、世界中で不安やうつ病のケースが25%以上跳ね上がったと発表しています。

 ほんとうに、パンデミックも終わらないうちに、毎日毎日、戦争での悲惨なニュースばかりで、ニュースを見るだけでもメンタルがやられそうになる感じです。私自身は、ワクチンパスを持っているし、マスクが撤廃されるよりも依然として感染の危険の方が怖いので、現状での感染対策を全く不満には感じてはいませんが、この戦渦に、少しでも抑圧から解放されるのであれば、今のフランスの感染状況ならば、悪くない決断なのかもしれません。

 実際に、これはフランスでは久々の明るいニュースで、本来ならば、大々的に取り上げられ、「よかった!」とか、「まだ、早すぎる!」などと、喧々囂々となるところなのですが、この朗報?でさえも、ニュースのほんの一部にしかならずに、ほぼほぼ、報道の中心は「ウクライナ戦争」です。

 この「ワクチンパスポート廃止」による感染再拡大・・なんてことになれば、戦争×パンデミックで、とんでもないことにもなりかねません。

 しかし、これは、あくまでも私の見解ですが、今回のウクライナ戦争に関しては、戦争から派生するフランス自国への被害はもちろん少なくはありませんが、フランス人にとって、民主主義の侵害という側面を持ったこの戦争に対しては、身を挺してでも戦うべきことでもあるわけで、その意味ではフランス政府がロシアに対して行う制裁のために起こるインフレよりも、ワクチンパスよりも「民主主義の侵害」「自由の侵害」は、根本的に許せないことであり、国民の怒りの矛先はプーチンに向かい、この敵を糾弾するエネルギーが勝るような気がしています。


フランス ワクチンパスポート廃止

 

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2022年3月3日木曜日

ロシア人でもあり、ウクライナ人でもあった元同僚の話

  

ウクライナ・キエフから退避するための電車を待つ人々


 久しく話をしていなかった友人と電話でおしゃべりをしていて、お互いの近況や家族のことや、少し先の予定の話などをして、話はロシアとウクライナの話になり、そういえば、この間、彼女と話したよ・・という話になったのです。

 彼女とは、ロシア人の元同僚の女性の共通の知人のことでした。私は、その職場を離れて以来、連絡を直接取ってはいなかったのですが、私の友人は時折、彼女と連絡をとりあっていました。

 私は、彼女とはそれほど親しくはなく、彼女はてっきりロシア人だと思っていたのですが、友人によると、彼女は、ウクライナ人で、彼女の家族はまだウクライナに残っているとのことでした。

 一緒に仕事をしている時は、彼女は自分がロシア人であると言っていたし、実際にロシアのパスポートもウクライナのパスポートも持っているということで、つまりロシア人でもあり、ウクライナ人でもあったわけです。

 ロシアは、公式に外国人は、現存の国籍の保持を誓約するか?それを放棄してロシア国籍を取得するかどちらかを選択することになっているようですが、実際には、彼女のように、2つ以上のパスポートを持ち続けている人は少なくないのではないかと思います。

 ウクライナが独立したのは、ソビエト連邦が崩壊した1991年。私と同年代(中年)の彼女は、おそらく、その前からロシアのパスポートを持ち、もともと、ウクライナ出身の彼女は、ロシアのパスポートに加えて、ウクライナのパスポートを取得したのではないかと思われます。

 実際に法律上で厳しく二重国籍を禁じられているのは政府関係者と法執行関係の職員、裁判官などの公職者であり、一般市民に関しては緩い対応がなされているようです。

 なので、彼女はロシア人であると同時にウクライナ人でもあったわけです。彼女は、以前は自分がロシア人であると公言していたし、深く関わることがなければ、彼女のルーツを知る機会もなく、職場ではロシア人として生活していたわけです。

 しかし、今回のウクライナ戦争で、実は彼女はウクライナ人でもあったことがわかり、ウクライナ北部に残されている兄弟の家族がお風呂場に隠れて生活しているという写真を送ってきました。日本でも地震などの災害の際は、トイレかお風呂場に避難するという話は聞いたことがありますが、ウクライナでも、地下室がなければ、相場はトイレかお風呂場なようで、その写真は家族全員がお風呂場で寝ている写真だったそうです。

 彼女の両親はすでに他界しており、残るは兄弟姉妹とその家族、その兄弟一家は、退避勧告が出てすぐに退避しなかったために、18歳から60歳の男性は出国できなくなり、家族が離れ離れになるよりは・・とウクライナに残っているのだそうです。

 フランスのテレビなどでも、ウクライナから退避する妻と子供を見送る男性の様子が報道されたりしていますが、彼女の兄弟は、家族とともにウクライナに残る決断をしたようです。

 それにしても、まさに戦争の中心にあるウクライナとロシアの両方のパスポートを持っている彼女の心情はいかばかりかと胸がつまされます。

 彼女自身、現在、パリで生活をしていますが、ウクライナ出身ですが、パリに来る前は、ロシアのウラジオストックで働いていたというロシア人でもあり、ウクライナ人でもあります。

 ソビエト連邦崩壊から約30年、ウクライナ人の中には、彼女のように、ウクライナ人であると同時にロシア人であるという人も少なくないのではないかと、この話を聞いて思ったのでした。

 自分が国籍を持つ2つの国の戦争。危険に怯えながら、祖国のお風呂場で生活する家族。

 ウクライナとロシアの間で苦悩する彼女の気持ちは、当事者でなければわからない、はかりしれない複雑な思いに違いありません。


ウクライナ戦争 ロシア国籍 ウクライナ国籍


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2022年3月2日水曜日

世界中の共通の敵への制裁という団結とフランスの大統領選挙

  

ジュネーブで開かれた国連人権理事会でのロシア外相演説で退席する外交団


 緊迫するロシアのウクライナへの侵攻が続く中、世界中の国々がロシアを避難し、ロシアへの制裁に加わり、その輪が広がっています。

 最初は、ロシア対ウクライナ、アメリカ間でのせめぎ合いに、フランスのマクロン大統領が仲介に入ってロシアへの説得を続け、プーチン大統領とバイデン首相の話し合いの段取りをつけた直後に、ロシアがウクライナへの侵攻を開始したのには、世界中が驚愕しました。

 当初からロシアがウクライナに侵攻した場合の制裁を宣言していたアメリカに続き、イギリス、ドイツ、フランス・・から、その制裁参加国は、いつしかG7(日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ)に広がり、今や32カ国がロシアへの制裁に参加していると言われています。

 これまで、武器供与などに関しては消極的な態度をとっていたドイツもドイツ自身にとっても歴史的な変換と言われる「国防費を昨年の倍以上の1,000億ユーロに大幅に増加させる」という大きな決断を下しました。

 ロシアは、ウクライナへの侵攻により、結果的にウクライナとの間での争点のきっかけとなったNATO(北大西洋条約機構)参加国以外の国までも敵に回し、EU加盟国でありながら、NATOには加盟していないフィンランドやスウェーデンがウクライナに武器を供与する方針を発表しています。

 いずれの国(フィンランド、スェーデン)も、これまで紛争国に武器を送らないという方針を長らく貫いていた国であり、フィンランドやスウェーデンにとっても歴史的な決断とされています。

 また、永世中立国であるはずのスイスでさえも、EU(欧州連合)が課した経済制裁を全面的に適用することを発表。

 英ガーディアン紙によると、スイス国立銀行には、ロシア関係の預金額が112億ドル(約1兆2800億円)に上ると言われています。ロシアの富裕層の隠し資産の最大の拠点であるスイス銀行までもが資産凍結という事態はさすがのプーチン大統領も予想できていなかったのではないかと思います。

 プーチン大統領は、アメリカ、G7、NATOのみならず、世界の多くの国を敵にまわし、ロシア国民でさえも「この戦争をロシアの侵攻とは言わないでほしい(プーチンの侵攻と言ってくれ!)」と叫び、背を向けられ始め、四面楚歌に近づいています。

 まさに共通の敵を持った世界中の国々が一見、結束しているようにも見えますが、一方では、共通の敵で団結したグループの繋がりは脆弱で長続きしないとも言われます。

 現在のまさに戦渦、共通の敵ロシアに制裁を行うことは必要なことであると思われますが、この機に、これまでの掟破りに踏み切った国々が、これまでの蛇口を緩め、今後、どのように変化していってしまうかということも不安なことでもあります。

 フランス国内でも、国民の目がウクライナ戦争に関する注目が集中し、大統領選挙に関する報道は大幅に削られています。

 大統領選挙の公示期限が迫った現在でも、マクロン大統領は立候補を正式に表明する時間もなく、(昨日も日本の岸田首相をはじめ、アゼルバイジャン、フィンランド、リトアニア、インドの首脳と電話会談)、ましてや選挙活動なども全くできていないのですが、大統領選挙に関する世論調査では、マクロン大統領の支持率は、これまでの最高となっています。

 マクロン大統領は2月にモスクワでプーチン大統領と会談したほか、ウクライナのゼレンスキー首相、プーチン大統領、バイデン大統領の他、世界の首脳と長時間電話対談を行い続けており、削られている大統領選挙の報道のかわりにマクロン大統領の活躍が逆にクローズアップされ、ウクライナを応援するフランス国民心情が、マクロン大統領への評価に繋がっているとも言えます。

 現在、プーチン大統領はフランスの国民心情としても敵であり、その共通の敵と世界の首脳をリードして戦うマクロン大統領は、共通の敵を持つ頼もしい同士・リーダーと見られている感じがあります。

 実際に今回のマクロン大統領の活躍はめざましいものではありますが、この「共通の敵」への盛り上がりは、世界にしても、フランス国内にしても、そして、ごくごく身近な私たちの人間関係におきかえても、考えさせられる面を孕んでいるような気がするのです。


共通の敵 ウクライナ戦争 フランス大統領選挙


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2022年3月1日火曜日

現在のウクライナ戦争へのフランスの対応とマクロン大統領のウクライナ・ロシア首脳との電話会談

  


 日々、状況が深刻化しているウクライナ戦争に接し、フランスも国をあげての対応に追われています。

 昨日は、ウクライナ情勢に特化した国防会議が開催され、ジャン・イヴ・ルドリアン欧州外務大臣とブルーノ・ル・メール経済・財政・復興大臣がその内容について報告しています。

 キエフにいるフランス国民については、キエフの南から出る道は、完全に安全とはいえないものの、街を脱出するチャンスはまだあり、ロシア側はキエフ・ワシルキウ拘束道路経由でキエフを離れることができると示唆していることを伝えています。

 また、キエフからリヴィウに向けて列車で出発する機会があること、在ウクライナ大使館は、縮小され、リヴィウに移転することになったことも外務大臣は付け加えています。

 フランスは道中の支援を提供することはできませんし、旅の安全を完全に保証することもできませんが、陸路横断地点に関する定期的な情報を提供し、領事支援や国境の反対側での幅広い支援を受けることができます。 

 このように、なんとかウクライナにいる国民が退避できるような情報を発信しつづけてくれることは、国民に対する優しさが感じられ、今をもってしても、ウクライナからでさえも、「陰性証明書」をはじめとする様々な書類を要求する日本の非情さと、どうしても比べてしまいます。

 ウクライナへの支援については、EUの市民保護メカニズムを通して、最初のパッケージがウクライナ国境に届けられ、現在ウクライナ当局によって宿泊施設と健康面の両方がケアされていることに留意し、人道支援に注力しています。

 また、国内に残るウクライナ人への人道的支援をすべて再分配・調整し、現在数万人の難民を受け入れているすべての国での難民支援を調整できるよう、ポーランドを拠点とする人道的ハブを設けることに合意した欧州連合の国々との連携しています。

 財務大臣からは、欧米パートナーとの合意により、ロシアの多くの銀行をSWIFT決済回路からの撤退させ、ロシア中央銀行の全資産が凍結された旨が報告され、「これは数百億ユーロという非常に大きな金額であり、ロシア中央銀行の外貨準備高とロシアの外貨建て貿易の資金調達能力を大きく低下させている」と説明しています。

 ロシア中央銀行凍結の直接的な影響は、ルーブルの水準、金利、ロシアの金融市場など、すでにロシアで目に見える形で現れており、マクロン大統領の要請により、欧州制裁下にあるロシアの著名人が所有する金融資産、不動産、ヨット、高級車などの完全な目録作成を引き続き行い、また、ロシア当局に近いという理由で欧州の制裁リストに加えられる可能性のある人物をすべて特定し、これらの資産をすべて差し押さえるための法的手段を取ることを発表しました。

 そして、このロシアに対する制裁が貿易や部品・重要金属の供給に与える影響を正確に把握することも継続して行っていくそうです。

 また、マクロン大統領は、同日、ウクライナのゼレンスキー大統領と数回にわたる電話会談をしており、ウクライナの情勢把握とともに、ウクライナがロシアに攻撃されながらも果敢に応戦し続け、またその最中にロシアとの交渉に臨む、ウクライナ大統領の責任感の強さを称えたと伝えられています。

 同時にマクロン大統領は、プーチン大統領とも電話会談を行い、即時停戦を要求。

 1時間半にもわたる電話会談の結果、一般市民への攻撃停止、生活インフラの保全、幹線道路の安全確保の3点に関してはプーチン大統領も同意したと発表しています。

 直接会談も含め、電話会談を続けてきたマクロン大統領、ウクライナ侵攻が始まってからは、2度目の電話会談となりました。

 これまでもマクロン大統領との会談でプーチン大統領が同意したとされていたことも、裏切られ続けてきたために、今回のプーチン大統領が同意したとされる内容も遵守されるとは信じ難いものの、たとえそれが電話にせよ、対話を続けることができるということは、暴走を少しでも抑制できることに繋がるのではないか?と僅かな期待を抱きます。

 二人は、今後も連絡を取り合うことで一致したと伝えられています。

 フランスはウクライナ戦争のための対応に国全体で取り組んでいます。フランスにしたら、本来ならば、目前に控えた大統領選の話題で沸騰しているはずの時期。この戦争が世界中にどんなに多くの影響を与えているのかをまざまざと見せつけられています。


マクロン大統領とプーチン大統領の電話会談 国防会議


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2022年2月28日月曜日

国連(国際連合)は何のためにあるのか?

   

   

 基本的に普段、テレビはニュース番組くらいしか見ないのですが、そのニュースは、戦争のことばかりになってきて、ずっと戦争が日に日に緊迫状態になっていく様子を伝えています。

 かといって、現在、起こっていることを知らないのも不安なので、避けて通るわけにもいきませんが、あまりに悲惨な映像に心が疲弊していくのを感じます。

 映画やドラマは別として、以前にテレビから流れてくる映像を見て、涙を流してしまったのは東日本大震災の被害の映像で、とんでもない被害に遭っている被災地の人々が懸命に周囲の人々を思いやりながら、避難所での生活を送っている映像でした。

 あの時もフランスのテレビでも、延々と津波や震災の様子が流されていく映像や東北の人々が被災しながらも懸命に生きる姿が繰り返し報道されていました。

 パンデミックでロックダウンになった時は、1日中家に閉じ込められているものの、コロナウィルスのニュースばかりで、やはり精神的に参ってきてしまうので、テレビのニュースを見るのは、夜だけと決めていました。今もその習慣は続いています。

 そして、そのパンデミックも終わらないうちに、今度はまさかの戦争で、今回は、ウクライナで家が爆撃されて泣いている子供の映像を見て思わず涙し、パリに来て、はじめて、反戦デモ集会を覗きに行って、涙が止まらなくなって自分でも驚いてしまいました。

 ウクライナにいる人のことを考えれば、外から見ているだけで精神的疲弊してきた・・などと言っているのは申し訳ないのですが、どうしても回避できなかった戦争という事態に腹立たしさと悔しさとやるせなさを感じずにはいられないのです。

 現在、私が生きているこの世界の動向を知らずにはいられず、ひととおりニュースは目を通すようにしているのですが、そのニュースを見ながら、心を傷めているだけでなく、ちょっと思うこともあります。

 子供のようなことを言わせてもらえば、世界には、今回の戦争のきっかけともなったNATO(北大西洋条約機構)とか、国連(国際連合)とか、EU(欧州連合)とか、G7とか色々な組織があるにもかかわらず、戦争を防ぐことができないのは、なぜなのか?

 現在の国連(国際連合)は、第二次世界大戦を防ぐことができなかった国際連盟の反省を踏まえて発足されたものではなかったのか? NATOに至っては、戦争のきっかけにまでなっています。

 プーチン大統領が法外なことを起こしているのは、もちろんのこと、それを止められるはずの国際的な組織が機能していないのはおかしいのではないか?ということです。

 昔、日本で私が子供の頃に「こども電話相談室」というラジオ番組がありました。とてもシンプルで、時にはバカバカしいような質問に大人が真面目に答えてくれる番組でした。最近、こんな番組があったら、聞いてみたいな・・と思うことがあります。

 「人を殺してはいけないのに、戦争なら人を殺してもいいんですか?」と。

 先日、応戦しているウクライナの兵士が誇らしげに「今日は、これだけ、応戦できた!相手を倒した!」と取材に答えている様子を見て、国民を守るために戦っているのだから、当然といえば、当然なのですが、とても複雑な気持ちになりました。


国連、国際連合、NATO、EU、 G7


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2022年2月27日日曜日

3月からの日本への入国措置の緩和とウクライナからの日本帰国



 3月1日から日本の水際対策が緩和されるらしいという話は、以前から漠然とした形で伝わってきていましたが、正直、あまり期待していませんでした。

 海外からの入国をこれまでの1日あたり3,500人から5,000人に拡大すると漠然と言われても、それは、あまり具体的な話ではなかったからです。

 しかも、この数字には、日本人の帰国者も含まれており、依然として、外国人の訪日は、ほぼ不可能なまま、これが段階的な緩和の1ステップならば、一般的に外国人が日本に入国できる日は、まだまだ遠い話です。

 ちなみに2019年の訪日外国人数は3,188万人強、単純に日割り計算すると1日91万人が日本を訪れていたのですから、3,500人が5,000人になったところで、あまり変化がある感じは受けません。

 とりあえず、フランスから日本へ入国する日本人というカテゴリーの私の場合は、ワクチン接種が3回済んでいる場合には、強制隔離施設での隔離が撤廃され(ワクチン未接種の場合は、強制隔離施設3日間隔離+4日間自主隔離)、7日間隔離。到着から3日後に自主的に検査をして陰性の場合は、3日間で隔離終了。

 到着日に陰性の場合は24時間以内の移動に関しては、公共交通機関使用が可能ということになりました。日本到着後、24時間以内なら公共交通機関が使えるようになっただけでも、だいぶハードルが下がります。

 なお、ワクチン接種が不可能な年齢の子供に関しては、帯同する保護者のワクチン接種状況に準ずる措置が求められます。

 とはいえ、今となっては、フランスよりも感染者数も死亡者数も多くなってしまっている日本に入国するのに、検査して陰性となっている人の入国にここまでする意味がわかりません。

 日本入国後の隔離以前に、日本入国のために必要な様々な書類を揃えるのは、なかなかな作業ですが、これは、まあ仕方がないかもしれません。

 しかし、ふと、戦争が始まったウクライナにいる日本人は、どうするのだろうか?と思い、在ウクライナ日本大使館のサイトを見ると、「ウクライナに滞在中の方は直ちに安全な方法で退避してください」とあるにもかかわらず、「ウクライナから日本に帰国する際に取っていただく主な措置(日本の水際対策)」とあります。

「新型コロナウィルスの有効な検査証明書の提示」とあり、ウクライナ出国前72時間以内に受検し、所定のフォーマット(日本語版・英語版・ウクライナ語版)記入の検査証明書を受領し、携行してください」となっています。

 注意書きとして、ウクライナのワクチン接種証明書も一定の条件を満たしていれば有効としながらも(一定の条件の詳細はこちら)というサイトは「ファイルが削除されているか、存在しないサイトです」と表示されます。

 世界中が見守っている戦場と化した現在のウクライナで、情報も得られずに、検査を受け、このような書類が揃えられるとは思えません。

 だいたい、もし検査が受けられたとしても、陽性だった場合は、戦争している国にとどまれということなのでしょうか?

 現在のウクライナの戦渦にこのようなことを求める非情さ、もしも、この在ウクライナ日本大使館のサイトが間違いでないのなら、戦争が起こっている国にいる邦人を見捨てているも同然です。

 この非常時に、四角四面というか、融通が効かないというか、温かみがないというか、日本入国のための書類が揃うまででも、なんなら、ウクライナ在住邦人に関しては、大使館内に一先ず避難させてくれても良いのではないか?とも思うのです。

 戦争が1日も早く終わってくれることを祈るとともに、日本の対応も、もう少し柔軟であってほしいと願っています。


日本入国措置緩和 ウクライナから日本への入国


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