パリ、およびパリ近郊は、全般的に治安は良いとは言えないものの、その地域によって、いかにも危険な場所とそうでない場所があります。
その意味では、今回、事件が起こったヌイイ・シュル・セーヌは、どちらかといえば、良い地域、パリ16区のすぐ隣で、比較的富裕層が住んでいたり、名だたる有名な企業が本社を構えていたりする場所でもあるので、ちょっとこんな事件がヌイイで起こるの?と驚いたのも事実です。
ただ、今回の襲撃事件は、単に金銭目的の強盗とか、そういうものではなく、宗教的、人種的な攻撃行為なので、場所は関係なかったのかもしれません。
これは、ヌイイ・シュル・セーヌの広場にあるカフェに座ってふつうに会話していたラビ(ユダヤ教における宗教的指導者)が突然、襲われたもので、座っていたラビの背後から、椅子で頭を殴りつけたという暴力事件です。
ところが、このラビは、1週間のうちに襲われたのが2度目であったということで、一度目は、ドーヴィル(パリから2時間ほどで行ける比較的近いバカンス地(海))の路上で、明らかに酔った3人に襲われ、腹部を殴られ軽傷を負っていました。この1度目の事件の犯人は、未だ追跡中とのことです。
2回目の襲撃は、白昼堂々、カフェで・・ということだったので、この犯人はただちに身柄を拘束されています。身柄拘束された容疑者は、パレスチナ出身のOQTF(フランス領土退去命令)対象者で、ドイツへの渡航を許可する文書を持っているものの、人道的な理由から、追放が不可能な国から来ているということで、追放ができない状態にあったと言われています。
しかし、OQTF(フランス領土退去命令)対象になっていながら、追放できない者が街に紛れているということは、おかしな話だとも思います。
しかし、1週間に2度も襲撃にあい、おまけにいきなり頭を椅子で殴りつけられるという凶行に遭いながら、このラビは、当初は、「頭に煙突が落ちてきたかと思った・・少しトラウマが残るかもしれない・・」と言っていたものの、その後は、極めて落ち着いていて、「外傷はなく、少し頭が腫れているだけ・・神様に感謝です」といいつつも、「もし、相手が私ではなく、子どもやもっと弱い人だったら、どうなっていたかは私には想像もつかない」とも語っています。
この事件に関して、内務大臣は即、反応し、「ユダヤ人の同胞に対して、我々は彼らとともにあると伝えたい」、「信仰を理由に人を攻撃するのは恥ずべき行為だ!」、「反ユダヤ主義はあらゆる憎悪と同様に私たちの社会にとっての致命的な毒です」と発信しています。
また、このような事件が起こる背景として、イスラエルへの憎悪がユダヤ人に汚名を着せてしまっている一般的な状況において、今回の攻撃は、フランスのユダヤ人を有害とする風潮を示しているとも付け加えています。
しかし、このラビは、なかなか強靭は人で、「私はこのことで、これまでの習慣を変えるつもりはなく、キッパー(ユダヤ教の民族衣装の一種の男性がかぶる帽子のようなもの)をかぶり、あごひげをはやしてパリの街を歩き続ける」と語っています。
ヌイイ ラビ襲撃
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