2022年1月15日土曜日

前代未聞の歴史的規模の学校の感染対策への教職員組合のデモとストライキ

 

  


  IFOP(L'Institut Francaise d'Opinion Publique・フランスの世論調査会社)の調査によると、66%のフランス人(フランス人の約3分の2)がパンデミック発生当初から学校をできる限り閉鎖しなかった行政の選択は正しかったと支持していると発表しています。

 ところが、現在の感染爆発状態のフランスでは、学校を閉鎖しないことには賛同しているものの、学校を継続するための感染対策としての週数回にわたる検査に次ぐ検査、そして隔離、クラス内で感染者が出るたびに、また検査。

 そして感染した教員の代理要員の手配等々、学校の授業を維持するための感染対策のための業務は煩雑を極め、それを繰り返す学校は、「筆舌に尽くし難い大混乱」と悲鳴をあげ、ストライキ・デモを決行するに至りました。

 この全国の教職員組合のデモには、77,500人が参加し、小学校最大の教職員組合であるSNUipp-FSUは、75%がストライキを行なったと報告しています。

 感染対策に振り回される煩雑すぎる作業の繰り返しに加えて、ワクチン接種があまり進んでいない小学生以下の学校教員には、感染のリスクも大きく、また、この煩雑さは、学校教員だけでなく、子供の検査・隔離の繰り返しには、保護者をも巻き込んでいるために、もはや周知の事実で多くの人がこれを認めるところ。

 「このままの状態を続けることはできない」「昨年のようにクラスに1人でも感染者が出た場合は学級閉鎖にするというルールに戻してほしい」「教員の安全を確保してほしい」などの要求をかかげて、デモ・ストライキを決行したのです。

 日常から、学校のストライキは少なくないフランスですが、今回ばかりは、FCPE(Fédération des Conseil de parents d'élève=フランスの代表的な保護者団体)でさえも、ストライキの呼びかけに署名し、保護者にも教師とともに政府の運営に抗議するよう呼びかけられました。この抗議は、全国自治父兄会連合も支持しています。

 このように、今回の教職員組合のデモやストライキは、日常的な学校のストライキとは、原動力を異にする大きな世論に支えられたデモでもあったのです。

 学校を閉鎖しないためにとっている感染対策のために、ストライキで学校が閉鎖してしまう状況では、元も子もない話。政府がこれを捨て置くことはできないのは、当然の結果でした。

 また、このデモ・ストライキの予定が発表された後に「教師がウィルスに対抗してストライキを起こす」とストライキの決行を非難した、教育相ジャン・ミッシェル・ブランカー氏の発言が炎上し、教育相の辞任を求める声までも叫ばれる大騒ぎに発展しました。

 その日の夜には、ジャン・ミッシェル・ブランカー教育相は、緊急記者会見を行い、教職員組合と政府の会談の結果、「学校(特に幼稚園の先生)に500万枚のFFP2マスクを配布すること」、「今後、教職員労働組合、保健省、教育省との間で2週間に一度は会議を開催し、感染対策についての調整を話し合うこと」を発表しました。

 この発表に対して、FFP2マスクの学校への配布は、良しとしても、検査と隔離、学級閉鎖などについての措置の変更には、触れられていないために、納得がいかないという意見の人も少なくないようではありますが、私は、この一連の動きを見ていて、デモやストライキも時には、必要なものだとフランスに来て以来、初めて思いました。

 デモやストライキは、フランスの文化の一つであるといってもよいほど、日常からフランスでは、デモやストライキが絶えることはありません。パンデミック以前にも、黄色いベスト運動やら、年金問題などなど、毎週土曜日(通常は土曜日)に行われるデモは、途切れることはありません。

 パンデミックが始まってからも、マスク義務化反対だのヘルスパス反対、ワクチンパス反対など、デモは途切れることはなく、いい加減、なにかあれば、すぐにデモ・ストライキに発展するフランスには、正直、うんざりすることも少なくありませんでした。

 しかし、今回は、教職員のデモということで、顔ぶれも印象も違い、この感染爆発の中で、学校を継続するために必死に戦っている人々の叫びは理解できるもので、また、今回のデモによって、すぐに全ての要求が通ったわけではありませんが、FFP2マスクは500万枚も教員向けに配布されることになり、現場の意見を聞き、話し合う機会を持つという政府の歩み寄りを勝ち取ったのです。

 先日、マクロン大統領が、ワクチン未接種者に対して、「彼らを本当に怒らせたい!」といった発言が物議を醸しましたが、彼らを怒らせたいということは、彼らに真剣に考えてほしいということに他ならないと思うのです。マクロン大統領は、まさに彼らを怒らせることによって、彼らに闘いを挑んでいるのです。

 今回の学校の感染対策に関しては、教師を怒らせようと思ってしたことではありませんが、結果的に大きな怒りが爆発し、政府に闘いを挑んだ形になりました。

 政府も国民も常に戦闘体制・・そんな感じです。

 フランス人にとっては、デモやストライキはお家芸のようなもので、お手のもの、声を上げることに躊躇いはなく、彼らは自己主張すること、異議を唱えることに慣れており、子供の頃から、そのような教育を受けていますから、この流れはフランス人にとっては、特別なことではありません。

 あまりに日常化しているデモやストライキはどうかとも思いますが、今回のように、本当に深刻な状況の中、子供の将来を考えている双方が、世論を巻き込みながら、政府が国民の意見に歩み寄る態度をもたらすことは、意味のあることではなかったかと初めてフランスのデモも悪いことばかりではないと思った次第です。

 日本にもデモがないわけではありませんが、フランスのデモを見慣れていると、「これ?本当にデモなの?」と思ってしまうくらいびっくりするくらいお行儀が良いです。

 日本には、デモという形が適しているのかどうかはわかりませんが、今の日本政府の行政には、声を上げることが、たくさんあるのではないか?と思うことがあります。

 海外にいると、「日本人は黙って我慢するからダメなんだ・・」と言われることがありますが、日本人は国内の政治に関しても、黙って我慢ばかりしていてはダメなのではないか? 日本国民はもっと怒ってよいのではないか?と今回のフランスの学校のデモ・ストライキを見ていて思ったのでした。


フランス教職員組合歴史的ストライキ・デモ


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