2019年10月20日日曜日

お金は、人を幸せにできるのか? ナタリーの話

 


 私の勤めていた会社のフランス人の社長は、とても、女癖の悪いことで有名な人で、結婚は、しているものの、常に複数の女性がいて、家庭は、崩壊状態のようでした。

 彼には、私とほぼ、同じくらいの年齢のナタリーという娘がいました。

 ナタリーのお母さんは、そんな旦那との日常の生活のストレスからか、アル中で、身体を壊して、亡くなってしまい、ナタリーは、軽い障害を抱えていることもあり、仕事には、付いていませんでした。

 しかし、金銭的には、何の不自由もなく、パリにアパートを持ち、一人で暮らしていましたが、彼女には、友人らしい友人もなく、孤独で、自殺未遂騒ぎを起こしたこともありました。

 そんな、彼女の孤独を紛らわせていたのは、買い物でした。

 羽振り良く買い物をすれば、店員は、機嫌をとって、その時だけは、優しくしてくれるからです。彼女の部屋には、買い物をして、持て余して、部屋に収まり切らなくなり、封さえ切られていない、山のような洋服や、バッグや小物類などが、あったのです。

 近づいてくる男の人も、明らかにお金が目当てで、たまに、ナタリーは、ここが私のお父さんの会社だと、妙な男性を会社に連れてくることもありました。

 それでも、男性とは、長続きするわけはなく、結局は、一人になってしまうのでした。

 そうなると、相手にしてくれるのは、父親の会社の人くらいで、彼女が会社に来れば、ある程度、皆、挨拶くらいはするし、会社に電話をしてきたりもするので、たまたま、電話を取ってしまえば、私も時々は、世間話の相手になったりもしていました。

 もう、とっくに成人している彼女ですから、父親が彼女に積極的に関わらないのも、わからないではありませんが、お金だけ無尽蔵に与えて、彼女に向き合おうとしない親子というのも、理解できません。

 現在は、もう社長も引退し、アメリカで別の女性と暮らしているそうで、パリにも滅多に現れることはありません。ナタリーが自殺未遂を起こしてからは、彼女の相手をしてくれる彼女より少し年下の女性を父親が雇い、それからは、少し彼女も落ち着いたようです。

 しかし、彼女は、このまま、一生をそんな風に送って行くのでしょうか?

 彼女にお金をかけるなら、彼女自身にお金を与えたり、その場しのぎの、退屈を紛らわす世話係のような人を雇うのではなく、まずは、彼女の精神的なケアーをしてくれる病院や専門家を探すことだったろうに・・と思うのです。

 社長は、先見の明も商才もあり、経営者としては、莫大な財産を築きましたが、幸せな家庭は、築くことができませんでした。彼は、お金に頼り、人任せにして、自分で家族と向き合わないことで、家族を傷つけ続けてきたのです。

 いくら、お金があっても、そのお金を上手に使えなければ、幸せにはなれません。
むしろ、お金がありすぎるから、不幸になることもあるのです。

 お金があるからこそ、不幸になることもあるのだというような話を聞くたびに、私は、ナタリーのことを思い出すのです。

 

 

 

  











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