パワハラか? 商談か? 退職してしまったニナリッチのおじさん
私の勤めていたフランスの会社には、色々な業者の人が出入りしていました。
色々なメーカーの営業の人が、新製品が出ると、その売り込みにやってきていました。
それこそ、口八丁手八丁で、口が達者で、いかにも調子の良さそうな、それでいて、なかなか押しの強い人が多いのです。
ただでさえ、口のへらないフランス人ですから、それは、もう、うまいものです。
中には、ハンサムな人や、美女を営業に送り込み、斜めから切り込んでくる会社などもありました。
営業の人は、新商品を携えて、新製品の売り込みをすると同時に、これまでに自分が売った製品の管理や、問題のあったものに関しての処理をも請け負いながら、値段の交渉をして行くので、そのあたりの駆け引きも、通常、お手のものです。
売る方は、出来るだけ高く売りたいし、買う方は、出来るだけ安く、買いたいのは、当然のことです。製品を買う側は、基本、「何なら、買わない・・」となるので、どちらかと言えば、強い立場ではあります。
しかし、フランスのメーカーの場合、強気で、「何なら、おたくには、売らない・・」という態度が通ってしまうメーカーもあります。
こうなってくると、もうどちらがお客かわからない状況にまでなってしまいます。
その中に、きっと、この人は、この仕事、あんまり向いていないかも・・と思われる、いかにも気の弱そうな、フランス人のアラフォーくらいのおじさんがいました。
その人は、ニナリッチの製品を売りに来ていた人でした。
ある日、そのおじさんは、うちの担当者とアポをとって、新製品を持ってきていました。
その時、応対に当たった、うちの担当者は、なかなかのツワモノで、その女性の強烈さは、誰もが知っていましたので、営業に来る人は、誰もが、一応、身構えて、かかっていました。
交渉が進んでいく中、だんだんと声のトーンが上がっていくのがわかりました。
うわっ!と思いながら、段々とエキサイトしていく様子を、私は、遠くから見ていました。詳しい話の内容は、わかりませんでしたが、うちの担当者は、やたらと、カッカして、怒り始め、ニナリッチのおじさんは、みるみるうちに、顔が紅潮して、日汗をかき、手がぶるぶると震え始めたのです。
多分、彼は、「上司と相談します。」とでも、言ったのでしょう、彼女に、この場で、しかも、彼女の目の前で電話するように詰め寄られ、自分の携帯を取り出し、上司に電話を始めました。
それでも、電話で、自分の上司に対しても、言い淀んでいる彼の携帯を取り上げ、直接、彼の上司と話を始めたうちの担当者の彼女の強さに対して、彼の気の毒な様子は、もう見ていられない感じでした。
今のご時勢、世間では、何かあると、すぐに、セクハラだのパワハラだのと、ネット上でも、炎上し、テレビなどでも、大きく取り上げられ、報道されます。
しかし、報道されていることは、決して、特別な出来事ではなく、実は、結構、私たちの、ごく日常にも、あちこちで、似たようなことが起こっていることではないかと思うのです。
このニナリッチのおじさんの場合、営業に来ていたわけですし、彼の方にも、もう少しやり方は、あったであろうとも思うので、必ずしもパワハラとは言えないかもしれません。
けれど、私は、パワハラの報道を目にするたびに、あの、ニナリッチのおじさんのことを思い出すのです。
あれから数ヶ月後、あの事件も忘れかけていた頃に、「そう言えば、あのニナリッチのおじさん、最近、来ないね〜。」と何気で、同僚に、呟いたら、「あの人、ニナリッチのおじさん、会社、辞めてしまったんだって・・」と一言。
なにも、辞めなくても、担当を変えてもらえばよかったのに・・と思いつつ、余程のトラウマになってしまったのか、それとも、彼自身、この仕事が向いていないと踏ん切りがついたのかは、わかりません。
あのおじさんは、今頃、どうしているのだろうか? と、私は、今でも、時々、思い出すのです。
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