マクロン大統領が次期大統領選に立つことは、公然の事実でした。しかし、マクロン大統領は、ギリギリまで正式な出馬表明をしないまま、本当に公示締切寸前に、ようやく正式に次期大統領選挙に立候補することを表明しました。
もともと、かなり、遅いタイミングに出馬表明をする予定にはしていたものの、ウクライナ戦争が勃発したことにより、現在の大統領としての任務のために、それは、本当に最後の滑り込みのような発表になりました。
マクロン大統領は、コロナウィルス感染の状況が、ある程度、落ち着き始めた段階で、立候補を表明し、候補者としてテレビのインタビューや、彼に対する批判の多い地域への遊説行脚を予定していました。
しかし、これらの予定は、プーチン大統領のウクライナ侵攻により、現職大統領としての職務が予断を許さない状況になったことで、すべてキャンセルされ、自らを候補者と宣言するチャンスを失ってしまいました。
何よりも、現在の緊迫したロシア・ウクライナをはじめとする世界各国との連携とそれをフランス国民やヨーロッパ全体にメッセージを送る立場にある彼が、ここで大統領選挙への出馬を自分の口から表明することは、この現職の大統領としての戦争危機に対する発信をぼやかしてしまうことになり、敢えて、書面での立候補の表明というかたちを取ったものと思われます。
現職の大統領である彼にとっては、この世界中を巻き込む危機への対応をこなしていくことが何よりも国民の信頼を得ることになり、また、この戦争危機対応においては、何よりも優先されて報道されていますから、この重大な責務を果たしていくことが何よりもの彼のアピールにもなるのです。
マクロン大統領は、この立候補表明の書面で、彼が大統領に就任して以来の5年間が、テロ、黄色いベスト運動、パンデミック、そしてヨーロッパでの戦争とフランスがかつてないほどの危機に直面してきた中で、私たちは威厳と友愛をもって、それらの問題ひとつひとつに私たちは決して諦めることなく取り組んできたと綴っています。
このような数々の危機が襲いかかる中でも、私たちは様々な改革によって、雇用を取り戻し、失業率はこの15年間で最低の水準になり、国民の努力のおかげで病院や研究への投資、軍隊の強化、警察官、憲兵隊員、裁判官、教師の採用、ガス・石油・石炭などの燃料への依存度の低減、農業の近代化の継続が可能になりました。
おかげで、パンデミックの赤字を減少させ、5年間を通じて、前例のないほど税金を下げることができました。その結果が、私たちの信頼性を高め、主要な隣国に対して、自らを守り、歴史の流れを左右することのできるヨーロッパの大国の建設を始めるよう説得することを可能にしたのです。
この5年間の功績についての文面は、マクロン大統領にしては、非常に謙虚な感じではありますが、お得意の自画自賛でもあります。
「しかし、私たちはすべてを達成したわけではなく、今までの経験を生かせば、間違いなく違う選択をするはずです。そして、この2年間に経験した危機への取り組みは、これこそが進むべき道であることを示している」と続けています。
この書面の中で、興味深いのは、彼が「子供たちのためにフランスを築いていくこと、民主主義への脅威、格差の拡大、気候変動、人口動態の変化、テクノロジーの変革など急速な激変を経験している中、間違えてはいけないのは、私たちは撤退を選択したり、ノスタルジーを抱いたりすることでこれらの課題に対応するのではなく、謙虚に、そして明晰に現在を見つめ、未来への大胆さと強い意志を捨てずに子供たちのフランスを作っていく」という部分です。
これは、現在のウクライナやロシアの問題を示唆しているとも読み取ることができます。過去を蒸し返すのではなく、現在、そして未来を見つめて決して諦めずに前に向かって進む姿勢を崩さないということです。
そして、彼は、最後に「私たちは、この危機の時代を、フランスとヨーロッパの新しい時代の出発点にすることができるのです。あなたと一緒に。あなたのために 私たちみんなのために。」と締めくくっています。
とりあえずは、現在のフランスは、大統領選挙関連のニュース以上に戦争に関するニュースが流される中、通常ほどには、大統領選挙がとりあげられないことから、これまで公式に立候補せずに選挙活動もほとんどしてこなかったマクロン大統領の活躍が逆にクローズアップされ、マクロン大統領の支持率が、他を引き離して上昇する、他の候補者からしたら、皮肉な結果となっています。
🔴 Macron fait un bond dans les intentions de votes dans ce nouveau sondage
— BFMTV (@BFMTV) March 4, 2022
🔹 29% pour Macron
🔸 16% pour Le Pen
🔹 13% pour Zemmour
🔸 13% pour Pécresse
🔹 11,5% pour Mélenchonhttps://t.co/3v4A1VTNgr pic.twitter.com/BcjBkayXDH
戦争の状況が緊迫していることもありますが、マクロン大統領がこの正式な立候補の発表の前日に、敢えて、選挙の話題ではなく、国民に向けて「ウクライナ戦争についての対応」についての演説を行ったことは、この国民世論の結果を踏まえて、彼が評価されている部分を決定づけることでもあり、充分に大統領選挙も考慮されたものであったと思われます。
しかし、これは、これまでの彼の戦争への対応が評価されてきたことによるもので、戦争の状況がさらに悪化していくようなことがあれば、いつ、彼に対する国民の評価が一変するかもわからない危険も孕んでいます。
大統領選挙は、5週間後。それまでに現在の戦争状態がどのようになっているかで、また、彼の運命も変わってくるかもしれません。「この危機を逆にフランスとヨーロッパ全体の転換期とする」と綴っている彼の立候補の書面は、別の候補者とは一線を画し、逆に強いインパクトを与えています。
フランス大統領選挙 マクロン出馬表明
<関連記事>
「フランス共和国大統領のアジャンダ(議事日程)L'agenda du Président de la République」
「プーチン大統領の演説にフランスの大統領選挙報道が吹っ飛んだ!」
「ロシア・ウクライナ問題 パンデミックの次は、本当の戦争の危機」
「世界中の共通の敵への制裁という団結とフランスの大統領選挙」