2019年8月11日日曜日

妻に花束を贈り続けるフランス人の話




 ジャン・ピエールは、私の元、同僚?というか、同じ会社で働いていたフランス人のおじさん(いや、もう、おじいさんになってしまいました。)です。

 社内の壊れ物をなおしてくれたり、外にお届けものをしてくれたり、買い物をして来てくれたり、運転をしてくれたりと、社内の雑用を一手に引き受けてくれるとても優しいおじさんでした。

 彼は、もともとは、前の社長が自分の犬の散歩係として雇ったという人で、難しい仕事は嫌いです。ちょっと、厄介なことを頼まれそうになると、いつの間にかスーッと姿を消していて、ほとぼりが冷めた頃にちゃっかり何気ない顔をして帰って来ます。

 でも、厄介なことが嫌いなだけで、とても気の優しい 、おしゃべり好きで、善良な、" いい人 " なのです。

 彼は、とても若い頃(16歳くらい?)から働き始めたそうで、その分、定年も早く、かなり前にすでに、引退しています。

 たまたま、家がわりと近所だったこともあり、彼が引退後も、私たちが日本など、長期の旅行へ出るときなどは、ジャン・ピエールにアパートの鍵を渡して、ポニョ(猫)の世話(1日一回、家を覗いてもらって、キャットフードを補充し、水を変えて、猫のトイレを綺麗にしてもらう)や、ベランダの植物の水やりをお願いしています。

 ポニョに出来るだけ、寂しい思いをさせないように私が考えた苦肉の策ですが、ジャン・ピエールの動物好きもあって、なんとかうまくいっています。

 結局は、ポニョを頼むときくらいしか、会わないのですが、それでも、ノエルとか、新年の挨拶など、時々、電話をくれます。

 夫婦、家族がとても仲良く、なんでも奥さんかお嬢さんに相談して決めます。まだ、彼が会社にいた頃には、たまに、昼食時に奥さんが、やって来ることもありました。奥さんもパリの中心地にくるという、気合満々で、貴婦人のようにおしゃれをして、帽子までかぶって、犬を連れて現れ、二人連れ添って、食事に出かけたりしていました。

 お嬢さんと息子さんは、もう独立していますが、つい最近まで、夫婦で奥さんのお母さんを引き取って、二人で面倒を見ていました。つい最近、102歳で亡くなりましたが、ずっと、二入でお母さんのお世話をしていました。
 フランス人は、意外と、長生きなのです。

 ジャン・ピエールは、引退後には、市のやっている自転車のクラブに入っていて、気候の良い時は、クラブの仲間と自転車に乗りに行ったりしているようです。

 彼は、私よりは世代がかなり上なのですが、いわゆる底辺のフランス人の生活を送っている人です。しかし、生活自体は質素ではあるものの、至極、真っ当な生き方をしていて、家族でいたわり合って暮らしている様子は、なかなか凄いなあと思って見ています。

 彼が奥さんに頼まれて、買い物に行けば、必ず奥さんのための花のブーケを買って帰ります。結婚したのも早かったようなので、もうずーっと長いこと一緒にいる兄弟のような感じだと言いつつも、お買い物の帰りには、奥さんのための花束を買うのです。

 また、還暦のときだったか、市長さんがその年の還暦の人を集めて招待するバトームーシュのディナークルーズに招待され、ジャン・ピエールは大興奮。パリから、海外に出たことのなかったジャン・ピエールにとっては、初の海外旅行になりました。(バカンスの時は、フランス人ですからそれなりに3週間くらいフレンチアルプスとか山の方に行ったりしていましたが、フランスの土地を離れたことは、なかったのです。)

 セーヌ川を海外旅行と呼ぶかどうかは別として、一度も海外に出たことがなかった彼がセーヌ川とはいえ、フランスの土地を一歩でも離れたのです。
 還暦にして初めての海外、しかもそれがセーヌ川。
なんだか、いいじゃありませんか?

 今年の夏も、ジャン・ピエールの方から電話がかかって来ました。
” 今年は日本に行かないの?” と。去年、あまりに暑かったから、今年の夏は、やめたのよ!” というと、彼は、ちょっとがっかりした様子。
 ポニョの世話で稼げるお小遣い目当てだったのかもしれません。

 ひとしきり、近況などを話したあと、”じゃあ、もっと涼しくなってから、行った方がいいね。” ”じゃあ、また、行くときに電話して!”と言って、電話を切りました。

 娘は、なぜか、ジャン・ピエールが苦手で、” だって、あの人、話が長くてくどいんだもん〜!” などと、ある時、言い出したら、それまで、ゴロゴロいっていた、肝心のポニョまで、ジャン・ピエールを嫌いだしてしまい、ジャン・ピエールが家に来るとどこかに隠れてしまうようになってしまったのです。

 留守の間、毎日、ジャン・ピエールが家にやって来てくれても、ポニョはどこかに隠れてしまって、ジャン・ピエールがいなくなるとどこからか出てくるらしいです。

 それでも、変わらずに、ジャン・ピエールは、ポニョにも優しくしてくれます。

 ある時、会社の中の誰かが言っていました。
ジャン・ピエールってよく見ると、なかなかのハンサムだよね〜って。
でも、なんで、あんなに格好悪いんだろう!?って。

 それでも、私は、ジャンピエールとその家族を見ていて思うのです。

 それは、決して、裕福ではないかもしれない、むしろ質素な生活ですが、夫婦がお互いをいたわりながら、静かに暮らしている。彼とその家族は、余分なものを除いた幸せのエッセンシャルな部分を生きているのではないかと。

 彼に会うたびに思うのであります。
























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