2019年8月1日木曜日

理系の人間がまともな日常生活を送れない話 娘が理系の道に進んで・・





 私は、以前、日本のある大手メーカーの本社に勤めていたことがありました。
私のいたセクションは、研究所の上のセクションで、今後、会社全体が、どういう研究をしていくか、その研究をどのように進めていくのか、またその進捗状況などを統括していく研究開発の企画をする部署でした。

 当然!?その部署には、各部門から、社内でも有数の、その道の権威であるような優秀な人材が集められており、東大、京大、阪大の院卒、MITなどの博士たちが集結していました。

 それは、いわゆる理系のトップの人たちの集まりで、なかなか、ユニークな人材の集まりでもありました。最初は、ちょっと浮世離れした感じの人が多いなと思ったくらいでした。

 しかし、仕事を始めて、しばらくすると、彼らの言動に、ときに、おかしな点が見受けられることに気がつき始めました。彼らは、ごくごく普通のスーツを着て、ネクタイをして、メガネをかけたおじさんたちなのに、どうも普通ではないところがあるのです。

 ある日、私は、目撃してしまったのです。

 ファックスの前でファックスに付属した電話が鳴るのを、通りかかった博士の一人が、受話器を取っていいものかどうか迷って、前を行ったり来たりした挙句に、ファックスに向かって顔を近づけて、両手をあげて、” ハーイ!” と返事をしているところを・・。

 また、ある時、会社の地下に、とある業者がクリスマスプレゼントになりそうなグッズを売りに来ており、私は、誰にあげるというあてもなく、20センチくらいの大きさの何の動物だかわからないけれど、やけに愛嬌のあるお人形を買いました。

 その人形を部内に持って上がって、” これ!可愛いでしょ!" と周りの女性に見せびらかせて、周りの同僚からは、” なにこれ?カエル?・・でもないし、人間でもないし!また〜変なものを買ってきて!!” とからかわれていました。

 すると、そこに、博士の一人が通りかかったので、” 〇〇さん、これ、何だと思う?” と聞いたのです。すると、彼は、何のためらいもなく、即答したのです。
” うん、これは、ポリウレタンだな・・” と。

 最後の極めつけは、博士の一人が定年退職する際に、みんなでお花をプレゼントしようということになり、隣のパレスホテルの地下にあるお花屋さんに同僚とブーケを作ってもらいに行ったのです。あの人には、こんな色が合うとか、それなりに、苦心して、心を込めて、作ってもらったのです。

 そして、退社時刻になり、" 長い間、お疲れ様でした。・・" と、お花を渡したのです。
 すると、その博士は、”ありがとうございます。” と言って、頭を深々と下げたかと思うと、おもむろに、手にしたブーケをぐしゃぐしゃぐしゃーっと、カバンに押し込んだのでした。
 
 もちろん、彼には、何の悪気もありません。
 しかし、一同、絶句! まさに、大きく息を飲みました。

 私は、その博士たちの間で、しばらく働いていましたが、ある面では、恐ろしく優秀な人たち(特に理系)は、往々にして、ごく普通の日常生活が普通に送れないということがわかりました。ある一つのこと、研究にあまりに没頭して生活していくうちに、周りの普通のことに注意が行きにくくなるのかもしれません。

 そして、最近、娘がフランスで、理系の道を歩み始めました。
 まずまず、良い学校に入れて、ひと安心といったところです。
 当初は、日本での博士たちのことなどは、とうに忘れていました。

 ところが、ここ数年、娘にも、ある変化が訪れ始めたのです。
やたらと転ぶ、物を壊す、失くす、こぼす。

 こんな子では、なかったはずなのに・・!?
そんな時、ふと、私に、あの博士たちのことが頭をよぎったのです。

 まさか・・・!?。
















 

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