週末はいつも、なんらかのデモが行われていることが多いパリで、今回のデモは、クラック(コカインを含んだ違法薬物)の常用者の野営地の立ち退きを要求するデモが行われていました。約500人のデモ隊が、パンタンとオーベルヴィリエ(セーヌ・サン・ドニ県・パリ近郊)の通りを行進し、警察当局にクラック使用者の避難と保護を求めて、1年以上も放置されたまま泥沼化している事態を非難しました。
クラックは特にここ数年で、爆発的にフランス国内で拡大しているコカインの一種(中毒性が高く、喫煙可能なコカインの派生物)で、比較的安価に出回っていることから、貧乏人のドラッグなどとも呼ばれています。
パリ北部(19区近辺)のスターリングラードの広場は、いつの間にか、このクラックの聖地?のような状態に陥り、このクラックの売買や常習者の溜まり場のようになり、スターリンクラックなど皮肉な呼び名をつけられたりしていました。
このスターリンクラックを解体させるかに見えた、この19区の溜まり場から、このクラック常用者が強制的に移動させられた先は、さほど遠くない、歩いて移動できるほどの距離のところ。
結局のところ、問題になる場所を移動させただけで、根本的な解決には、全くなっておらず、移動先のこの近郊地域では、300人から400人の薬物中毒者が暴力を振るい、売春を行い、治安を乱し、地域の商店が衰退し、公道は荒廃し、治安は悪化し、住民が不安な状態に陥っている状態を招いています。
このクラック常用者の野営地の強制移動に関しては、一時、我が家の近所が彼らの移転先に選ばれそうになったことがあり、突然のパリ警視庁からの一方的な決定の発表に地域の住民が猛烈に怒って、反発しはじめ、市議会も大騒ぎで署名運動などが始まり、私も「え〜〜どうなっちゃうの??」と不安になりましたが、どういうわけだか、案外、あっさりと市議会とパリ警視庁の話し合いで解決し、我が家の近所への移転の話はあっという間に立ち消えになりました。
そんなわけで、私にとっても、なんだか今ひとつ、人ごとのような気がしなくなった、このクラック問題ですが、結局、あちこちの候補地をたらい回しになった結果、結局、すでに多くの社会的困難を抱える労働者階級の貧しい人々の居住区におしつけられることになっていたのです。
今回のデモは前回、移転先をおしつけられた地域の人々がおこしているデモで、まことに最もな訴えで、パリ警察庁も「これまで取られてきた措置は十分ではなかった」ことを認め、このクラック常用者の溜まり場を決定的に解体することを目的に、クラック・コカインの売買と消費に対抗するための行動計画をすすめることを確約しました。
「人権の国フランスが、どうしてヨーロッパ最大の麻薬現場を放置しているのか?」とデモ参加者が訴えているとおり、このフランスのドラッグ問題は長く続いている深刻な問題です。
単にドラッグ中毒患者を退去させるだけでなく、彼らには治療が必要ですが、彼らを食い物にしている売人のグループは彼らを逃すことを許さないのです。売人と警察のいたちごっこです。またこの密売人はドラッグだけでなく、銃などの密売にも手を広げているということで、思わぬ発砲事件にまで発展したりもします。
パリ警察は8月に入ってから24人の密売人を逮捕し、5つのクラック「キッチン」(製造所)が解体され、警視庁の計画はすでに成果を上げ始めていると発表していますが、この警視庁と麻薬の密売人のいたちごっこは、とりあえず、溜まり場の中毒患者を専門施設等に保護して、隔離するなどしなければ、永遠に場所を変えて続くことになります。
よく、フランスのクズは限りなくクズだ・・などと言われますが、まさに、このドラッグにハマって野営地で生活する人々などは、まさに最底辺の人々。フランスは弱い人に優しい国だと思いますが、このドラッグ中毒の人に対しては、現状では、救いの手を差し伸べてはくれていないようです。
違法薬物に関しては、販売人に対しては厳しいものの、常用者に対しては、緩いというか冷たいフランスの対応・・しかし、たまごが先かにわとりが先か?のような問答にもなりそうですが、売る人だけでなく、買って使う人も絶たなければ、解決はしないのです。
パリ クラック デモ
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