もはや、今のフランスの大混乱状態でマクロン大統領が何かを話して解決できるとは、あまり期待してはいませんでしたが、ともかくも、49.3条(首相の責任のもと、採択せずに法案を通してしまう法律)発令以来、初めてテレビで公に向けてマクロン大統領が口を開くということで、このインタビューはかなりの注目を集めていました。
これまでも、ワクチンパスポートを導入した際なども、(ワクチンパスポートを持たない人は飲食店に入れないとか、長距離の交通機関を利用できないとか)かなり強引なやり方を押し通してきたマクロン大統領でしたが、あの時は、当初は相当な反発を生み、大規模なデモなども組織されたりもしましたが、かなりの割合で賛同する人々も多く、また自分達の健康が人質で、タイミング的にも夏のバカンスの直前のタイミングということで、騒ぎは少しずつおさまっていきました。
結果的には、あの時のワクチンパスポートの導入は、かなり強引な手段であったとはいえ、結果オーライで、後々、評価されており、マクロン大統領にとっては、ある意味、強行突破の成功体験だったかもしれません。
しかし、今回の年金改革問題、49.3条問題は、どうやら雲行きが違います。正直、私の印象では、2期目になってからのマクロン大統領、マクロン政権はどうにも人が変わったような、暖かみが消え失せたように感じるのです。
今期の閣僚のメンバー構成のためでもあるとも思うのですが、それを選んだのは、マクロン大統領本人なのです。
今回のインタビューに関しては、やはり、どうにも、その設定自体からしても、不自然な感じが拭えず(放送時間帯(13時からの生放送)、このインタビューがマスコミが申し込んだものだとしても、エリゼ宮にジャーナリストを招くというカタチをとっており、あくまでこのインタビューの主導権は自分にあるという印象のうえ、質問に答えるという形式をとりつつ、時にはインタビュアーの質問を遮り、自分の言いたいことだけを言っている感じで、途中で聞いているのが苦痛な感じになってきました。
質問をすりかえ、言いたいことだけを言って、国民を説得しようとするのであれば、いっそのこと、インタビュー形式などとらずに、何かとことあるごとに大統領の演説として夜20時から流すいつものやり方をすれば、まだマシだったかもしれないと思ったくらいです。
このインタビューの中で彼は「正当性」という言葉を多く使っていますが、そもそもこのような国民の怒りに対しては、ここまで悪化してしまった状況で、国民のデモの在り方の「正当性」を疑問視したり、自分の法案の「正当性」を語ったりしても、もはや、何の解決にもなりません。
かと思うと、根拠も理由も異なり、ましてや同じ政治的方針をもたない、アメリカ大統領選挙でのドナルド・トランプの敗北を拒否したアメリカの極右による国会議事堂への侵略デモなどを例に挙げたりして、やはり、通常のマクロン大統領なら考えられないおかしな話の展開があったりもしました。
彼は一貫して、この年金改革の必要性を貫いているし、それこそ、それは正当性があることであるとは思うのですが、どうにも彼の言動は、反発を生むもので、この49.3条発令に際して、辞任か?などと騒がれてもいたボルヌ首相は完全に自分の信頼をおいている人物であるとか、国民の怒りに耳を傾けるとしながらも、現実とは全く正反対の方向へ進んでいるように見えます。
この場で国民が聞きたかったことは、彼の言う正当性のある「年金改革」を怒り狂っている国民をどう説得するかであり、ただ、これは正しいこと、必要なことというだけでは、もはや、何の解決にもならないことを彼は理解していない印象で、「マクロン大統領からは 19 世紀のブルジョア的で不平等な人間関係の中で築かれた想像力がにじみ出ている・・」などと言われています。
このインタビューを聞いて、決意を新たに反抗の意思を固めた国民は多そうな感じで、直後の世論調査によると、フランス人の70%は、インタビューで大統領が説得力があるとは思わなかった、また、44%はまったく説得力がないと答え、回答者の 67% は、改革に反対する抗議運動を支持すると答えています。
概ね、彼のこのインタビューは火に油を注いでしまったという印象で、大統領候補の対抗馬であったマリーヌ・ル・ペンなどは、「現実と、外の世界との接触をすべて失ったように見える孤独な男」と酷評しています。
年金改革問題 49.3条 マクロン大統領インタビュー
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