2023年6月10日土曜日

一日にして、フランス中のヒーローになったバックパックの男

 


 アヌシーの平和な公園で突如、ナイフで小さい子供4人を含む6人を襲った凶悪事件にフランス中が震撼とした翌日、この凶行の様子は、居合わせた人々が撮影していた動画がテレビやSNSで拡散されました。

 この動画は、犯人の動向とともに、犯人を追いかけまわし、持っていたリュックサックでナイフ男を払いのけ、犯人に立ち向かう若者の姿が映されていて、この「バックパックの男」は、瞬く間に有名人になりました。

 この犯人は、犯行時に「キリストの名のもとに!」と叫びながら、子供にナイフで襲い掛かったと言われており、自らをキリスト教徒であると名乗っていたそうですが、皮肉なことに? この犯人に立ち向かっていった24歳の男性もまた、敬虔なカトリック教徒で、哲学と国際経済学を専攻していた彼は2ヶ月間にわたり、バックパックを背負って、フランスの大聖堂巡りをしている最中でした。




 恐らく事件現場は、異常な緊迫感と恐怖に包まれていたと思われますが、彼は、「自分自身の身の危険は全く思いもせず、飛び散る血を見て、何もせずにはいられなかった・・自分自身の命よりも、危険にさらされている人々の身の危険を恐ろしく感じた・・」とインタビューに答えています。

 ちょっと美談すぎる気もするのですが、動画を見ると、最初、彼は非常に大きなバックパックを背負ったまま、犯人を追いかけていっているので、彼があまり深く考える間もなく、行動を起こしていたことがうかがえます。

 彼は、途中でバックパックをおろしてから、もう一つのリュックサックで犯人を攻撃?回避しながら、彼がベビーカーに近付こうとするのを追い払いながら、闘っています。

 彼自身は、自分のとった行動が自分の身に危険が及ぶことであったと気が付いたのは、犯人が逮捕されて、ストレスから解放された後だったと話しています。

 この男性は、瞬く間にフランス中のヒーロー・英雄となり、事件の翌日に犠牲者の病院を訪れたマクロン大統領にも対面し、直接、称賛の言葉を受けています。大聖堂マニア?の彼は、マクロン大統領に来年行われる予定のパリ・ノートルダム大聖堂の再建祝賀式に招待してほしいと頼み、マクロン大統領は「私が個人的に手配します」と快諾の返事をもらっています。このあたりは、なかなかちゃっかりした面も持ち合わせているようです。

 もしも、自分がこのような現場に遭遇した場合、後になってみれば、犯人は一人であったことがわかりますが、事件が起こっている現場では、はっきりとした状況は把握することは難しかったはずで、自分の身の危険を考えたら、まず逃げることを考えてしまうのが普通で、逃げたところで誰も攻めはしないと思うのですが、そこで、彼のような行動に出ることは、なかなかできないことです。

 また、このような動画が残されているということは、その緊迫した状況で、襲われている子供を助けずに、自分自身も逃げずに動画を撮り続けていた人もいたということでもあります。

 しかし、この動画のおかげで、彼の勇敢な行動はフランス中から称賛の声を受けることになったのです。

 彼がバックパックで犯人と闘っている間に警察が到着した模様ですが、警察とて、ナイフを持った犯人が暴れていれば、パリなら、警察が現れた時点で犯人は射殺されてしまいそうなところですが、彼は撃たれることなく、逮捕されています。犯人が射殺されてしまわなかったのも、ちょっと不思議といえば、不思議でもあります。

 逮捕された犯人は、英語、アラブ語を話すのみで、フランス語が話せないそうで、あまり多くを語らず「kill me」とつぶやいたという話も上がってきているくらい、取り調べも難航しているそうです。

 後から出てくる犯人についての目撃証言では、彼が大人しく、礼儀正しい?ホームレスであったということもあるのでしょうが、けっこう、周囲の人々も彼に食べ物や薬を差し入れようとしていた模様で、結局は、大変なしっぺ返しを受けたとはいえ、そういうところ、困っている?人に対して、フランス人って優しい人が多いな・・などと、妙なところに感心したりもしています。

 バックパックの彼はインタビューの中で、「私はフランス人らしく行動し、最も弱いものを守るという本能に従いました。 襲われた子供を守りたかった。誰でもできることをしただけだ・・」と語っていますが、彼ほどの勇敢さはなくとも、彼が言っている「フランス人らしく行動し、最も弱いものを守る・・」という点については、たとえ、彼ほどの勇気がなくとも、最も弱いものを守ろうとする・・というところは、たしかにフランス人らしいところだ、私も感じます。

 今回、思わぬ事件に遭遇してヒーローとなったこの男性もまた、これを機に人生が変化していくかもしれません。

 とりあえず、彼が大聖堂めぐりをしながらアップしているInstagramのアカウントは、あっという間に、フォロワーが10万人に迫る勢いで増えており、ハッシュタグ#MerciHenri(アンリーありがとう)がネットを駆け巡り、多くの著名人が称賛のメッセージを送り、特に極右活動家の間で人気になっているのも、これはこれで、微妙な気持ちにさせられます。


フランスのヒーロー 英雄 バックパックの男


<関連記事>

「フランス全土が震撼とした のどかなアヌシーの公園で起きた難民による子供を狙った襲撃事件」

「トゥーサンのお墓参り フランスのお墓のこと 夫が亡くなった時のこと」

「宗教に傾倒しすぎる義理の息子 フランス人の宗教」

「リサイクルショップ・エマウスがノエル前に繁盛しているフランスの一面」

「コロナウィルス・ロックダウン下で驚かせられるフランスの変化」



0 コメント: