隣人のフランス人のおばさん
そういえば、私は、彼女の名前も知りません。
お隣のおばさん。うちでは、彼女のことを、そう呼んでいます。
私たちが、今のアパートに引っ越してきたときには、彼女は、もうすでにそこに住んでいましたが、その時に、初めて見かけた女性は、彼女ではありませんでした。
引っ越してきて、早々に、エレベーターの前で、たまたま鉢合わせした女性は、" ここには、3人の女性が住んでいるのよ!" と言っていましたが、それは、彼女ではありませんでした。
しかし、実際の家主の隣人は、パリ市内の病院に勤務しているという年配の女性でした。彼女は、離婚していて、もうすでに独立している息子さんが、時々訪ねていらっしゃるのですが、ちょっと風変わりな息子さんで、とても、優秀ではあるらしいのですが、メンタルな問題で入院歴があるとかいう話を主人がどこからか、聞きつけてきて、少し、気をつけた方がいいなどと言うので、あまり、近づかずに適当な距離をとっていました。
一方、彼女の方は、そんな様子は、微塵も見せずに、なぜか、私と朝の出勤時間や帰宅時間がかち合うことも多く、世間話をする機会が度々ありました。
彼女は、独特なオリエンタルな感じのファッションに身を包み、部屋着はサテンか何かでできたアジアティックな着物のようなものを着て、不思議な雰囲気を醸し出している人でしたが、これまで彼女に対して、嫌な感じを抱いたことは一度もありません。
人の好き嫌いが激しく、大変、気難しく、家を出たがらない猫のポニョは、お隣だけは、別のようで、まるで、自分のセカンドハウスのように、ベランダ伝いにお隣の家に勝手に上がりこんだりしていて、ポニョだけは、頻繁にお隣に出入りしていました。
おばさんも猫好きで、結構、ポニョのことを可愛がって下さっているようでした。
ある、日曜日に、我が家は、主人と娘と三人で、ヴァンセンヌの森に散歩に出かけて、手漕ぎボートに乗っていた時のことでした。
池にかかった橋の上から、「ヴォアザーン(お隣さ〜ん)!」と大声で誰かが叫んでいるではありませんか?
振り返ると、橋の上から、彼女が友達と一緒に大きく手を振っていました。
改めて、彼女の大らかさに、なんだか、ほっこりとした気持ちになりました。
何年かすると、3人いると言っていたお隣の住民の女性二人はいなくなり、彼女だけになっていましたが、彼女には、頻繁に訪れてくるお友達が何人かおりました。その中には、ボーイフレンドもいたようです。
たまに、私が気が向いて、ピアノを弾いたりしていると、お友達ともども、ベランダに出てきて、弾き終わると、”ブラボー!!” などと、声をかけてくれたりしました。私としては、子供の頃のお稽古事の延長のようなピアノのレベルなので、とても恐縮したものです。
そんな彼女が数ヶ月前に、突然、引っ越すことにしたと言いにきました。もう、リタイアするので、ノルマンディーの方に持っている家の方に移るとのことでした。
長いこと、付かず離れずで、良い関係を保ってきたので、とても残念でしたが、これも仕方ありません。彼女は、私たちがバカンスに出ている間に引っ越して行きました。
そして、夏のバカンスが終わってまもなく、新しい隣人が引っ越してきました。
どうやら三人家族のようですが、顔を合わせれば、たまに挨拶をする程度で、まだ、詳しいことは、わかりません。
初めは、もしかしたら、動物嫌いの人かもしれないし、ポニョが今までのように、図々しくお隣に入り込んだりしては大変と思って気をつけていたのですが、予想に反して、ポニョは、パッタリと隣の家には、行かなくなり、ベランダにさえ、出ないようになってしまいました。
ポニョが何を察知しているかはわかりませんが、ポニョの様子を見て、私まで、なんか少し警戒してしまっています。
隣人は選べないので、ご近所トラブルは、ご免被りたいのです。
こうなってみると、あのヴァンセンヌの橋の上から”ヴォアザーン!(お隣さーん)”と手を振ってくれた大らかなお隣のおばさんが懐かしく思えてくるのです。
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