2021年4月2日金曜日

バカロレア(高校修了認証のフランスの国家試験)2年連続中止の影響

  


 フランスの学生、特に高校生にとっては、高校生活の最後に受験するバカロレア(高等学校修了認証のための国家試験)は、なかなかの大きなハードルで、このバカロレアの資格は、その後の進学先を始め、就職の際にも最低限?の資格として、一生ついてまわる重大な試験です。

 バカロレアの試験は、教科数も多く、主要科目に関しては、一科目のテストに要する時間も3時間程度と長時間にわたるために、バカロレアの試験には、一週間もかかり、その準備も大変で、その間の集中力を保つのも、緊張状態の続く一週間だけでも、大変なことです。

 フランスには、日本のような受験戦争はありませんが、娘の通っていた高校では、このバカロレアの長時間の試験に慣れるために、実際のバカロレアの試験の一年前ほどから、3時間テスト、4時間テストが定期的に行われ、バカロレアの試験に備えていました。

 そんなバカロレアの試験がこのパンデミックの影響で、衛生対策から、昨年も中止され、日常の成績を参考にバカロレアの点数がつけられることになり、苦しい試験から解放された受験生からは、発表とともに、「試験なしにバカロレア取得!」と喜ぶ受験生のツイートがフランスのトレンドに急上昇したのも、まだ遠くない記憶に残っています。

 そして今年も奇しくも、昨年と同じ時期にフランスでは、感染が再拡大し、3回目のロックダウンを迎え、2年連続でバカロレアの試験は、哲学や一部の口頭試験を除いて、中止されることになりました。

 最後の最後まで、「学校は閉鎖しない」と、教育現場をかなりの重要な場として、死守し続けようとしていたフランス政府もコロナウィルスのために、ついに陥落、学校を閉鎖する(と言っても、通常のバカンス時期プラス2週間のリモート授業の導入ではありますが・・)ことになってしまいました。

 ただでさえ、ここ数年、フランスの学生の学力低下は問題になっており、昨年末に発表されたTIMMS(Trends in International Mathematics and Science Study)の調査結果によれば、フランスの学生は、以前と比較しても、特に理数系(数学、理科)の科目のレベルが著しく低下していることがわかり、ヨーロッパ諸国の中でも最低ランクに位置しており、フランスの教育関係者に衝撃を与えていました。

 そこへ来て、このパンデミックによる不安定な教育現場と昨年の約2ヶ月にわたる学校閉鎖(1回目のロックダウン)と今回の学校閉鎖。

 そのうえ、バカロレアが2年連続中止されるという現実は、フランスの学力低下問題に拍車をかけそうです。

 日常からの勉強はもちろんのことですが、やる気のある子供は、どんな状況においてもきっちりと積み重ねて勉強をしていきますが、そうではない場合は、試験があるから集中的に勉強するという機会が失われる上にさらに、学校閉鎖というダブルチョップ。

 このパンデミックは、間違いなく歴史上に残る大惨劇であり、コロナウィルスによる影響で、思い描いていた教育が受けられなかったり、就職の場が奪われてしまったりする人は、数え切れず、後世に渡り、「あの時は、・・」と語り継がれる出来事であると思いますが、日本で今もことあるごとに言われる「バブル世代」とか、「ゆとり世代」とかいう言葉のように、フランスでは、のちのち、この試験なしのバカロレアを通過した世代を「コロナ世代」「あ〜試験なしにバック(バカロレアのことをフランスではバックと呼びます)を取れた世代ね・・」などと言われるような気がしています。

 例年であれば、フランスでは、ほぼ、全ての高校生が受験するバカロレアという国家試験。

 一生ついて回るだけでなく、その点数によっては、(トレビアン、ビアン、アッセビアン(秀・優・良)と成績が表示される)思わぬ特典があったりもします。

 例えば、トレビアン(秀)を取った学生には、その年に銀行口座を新しく開く場合にボーナスとして、250ユーロもらえるという、一種の青田買いのようなサービスを提供している銀行もあったりして、広く活用されています。

 一部の学生を除いて、受験らしい受験のないフランスで、唯一、集中的に勉強する機会であるバカロレア、来年は、復活できますように・・。


<関連>

「実践よりも、まず、理論のフランスの教育」

「学校選びは人生の岐路 娘の通ったフランスの学校はなかなか厳しい学校だった」

「フランスの教育・学校・バイリンガル教育 ①」

「フランスの教育・学校・バイリンガル教育 ②」



2021年4月1日木曜日

ついに最終手段の学校閉鎖を決行 これでフランスは、危機を脱することができるか? フランスの3回目の全国的なロックダウン

 

  Emmanuel Macron


 昨年の11月末の第2波のロックダウン解除の会見から実に、3ヶ月ぶりのマクロン大統領のスピーチでした。マクロン大統領が夜8時にスピーチをするために登場するということは、それなりに大きな決定の発表です。

 果たして、マクロン大統領の発表は、これまで、「あくまでも学校の閉鎖は最終手段」としてきたフランスにとって、苦渋の決断である4月3日からの学校閉鎖の発表でした。

 フランスでは、4月には、通常バカンスの混雑を避けるために、子供のバカンスは一週間ずつ、地域ごとに、ずらして設定されていますが(2週間)、そのバカンスの2週間を前後した1週間ずつをリモート授業に切り替えることで、約1ヶ月間、学校を閉鎖することを発表しました。

 子供が学校へ行かないことで、リモートワークに切り替えざるを得ない人口も見込まれています。リモートワークができない職種の人に関しては、子供を置き去りにできないために、その間の一時的な失業手当が支給されます。

 4月のイースターのバカンス時期に臨む前のタイミングということで、これに合わせて、これまで特に感染状態の深刻な19の地域で行われていた規制がフランス全土に渡ることになり、一定の種類の店舗の閉鎖に加えて、10㎞以上の移動禁止(特別な理由以外)の制限が敷かれ、地域を超える移動は、不可能になるため、イースターのバカンス中の国内旅行は、事実上、不可能になりました。

 また、この危機を乗り越えるために、現在すでに満床状態の集中治療室を1万床まで増加させる計画です。しかし、元来のフランスの集中治療室は5,000床のところ、現在はコロナウィルス以外の患者も含めて7,700床まで拡張されており、(そのうちコロナウィルスによる患者のために現在5,072床)、これをさらに2,300床拡大するのは、そのための人員確保も含めて、容易なことではありません。

 しかし、昨年の同時期の第1波の感染拡大に比べての、大きな違いは、なんと言っても、ワクチンがあることで、この現在、感染拡大のスピードに間に合っていないワクチン接種も3月末には、70歳以上、4月半ばには、60歳以上、5月半ばには、50歳以上、6月半ばには、全国民対象にワクチン接種が可能になると発表しました。

 とはいえ、「ロックダウンしない」「学校閉鎖はしない」というフランス政府の方針は、ガタガタと崩れ始めました。この方針を変更しなければならない、最終手段を取らなくてはならないのは、苦渋の決断であったに違いありません。

 しかし、今回の学校閉鎖の発表も、「これまで、フランスは、他のヨーロッパの多くの国が学校閉鎖をしても、フランスは閉鎖せずに、また、規制もロックダウンという厳しい形を取らずにできるだけ、自由な生活を続けてきました。しかし、今は、我慢しなければならない時なのです」とマクロン大統領は語っています。

 とはいえ、国民の側は、少しでも自由な生活を続けて来れたとは、おそらくちっとも、思っていないでしょう。むしろ、これまで少しでも自由を与え続けてきたと恩着せがましく言われる筋合いはなく、きっちりとロックダウンせずにズルズルと感染拡大が続き、感染拡大がどうしようもない状態になって、さらに厳しい制限下の生活を余儀なくさせられることに憤りを感じている人は少なくありません。

 また、ワクチン接種に関しても、実際には、現在は、ワクチンの到着を全国の開業医が予約だけ受け付けて待ち続けている状態で、政府の予定どおりにこれが進むとは、信じ難い状態なのです。

 そして、学校は閉鎖されるものの、相変わらず10㎞以内の移動には、制限はなく、学校の授業のない学生も、仕事をリモートに切り替えている大人も週末には、一日中、出かけ放題の状態が続くわけで、6人以上の集まりが禁じられているとはいえ、これが守られるとは、どうにも思えず、今の病院の満床状態が、具体的には、学校閉鎖だけで、充分に減少するものかどうかは、甚だ疑問です。

 また、約1ヶ月の予定の学校閉鎖ですが、1ヶ月後、病床占拠率、感染率がどの程度まで下がったら、再開するという目安もなく、現在の集中治療室の44%が65歳以下の年齢層で占められていることを考えれば、一ヶ月後には、まだ、その年齢層のワクチン接種は、5月の段階では、ほとんど行われていない状況で、その年齢層のワクチンの効果を期待することもできないのです。

 そして、今回のマクロン大統領の発表の中には、「5月の中旬から、文化施設やスポーツ、レジャー、イベント、カフェ、レストラン(テラス席から)の段階的な再開のカレンダーを作成する」という内容も含まれていました。

 しかし、今回の学校閉鎖による効果の不確実さに加えて、5月中旬からのあらゆる施設の再開というあまりに楽観的な発表は、ますます、現実味を感じられない腑に落ちないものでした。

 実際に学校での感染は深刻化はしているものの、最終手段としていた学校を閉鎖することで、感染がおさまりきるものでもなく、逆に学校を閉鎖する前に、例えば、学校は閉鎖せずにキャンティーン(学校の食堂)だけを閉めて、週末だけロックダウンするとか、まだ、別の方法があったのではないか?と思ってしまうのでした。

 ちなみにマクロン大統領のこの発表直後、来週からの長距離移動規制の前に逃げ出したい人が殺到し、いつもどおりにTGVなどの列車の予約は、急増しましたが、急増したのは、列車の予約だけではなく、1日の新規感染者数も59,038人と6万人に迫る勢いで急増・・。

 あまりの急増ぶりに絶句です。

  



<関連>

「学校閉鎖に踏み切る基準 フランスの年少者の感染増加」 

「コロナウィルス対策のためのフランスの学校閉鎖」

「ロックダウンの19地域では、クラスに一人でも感染者が出たら、学級閉鎖」

「フランスは完全に第3波の波に乗った」

2021年3月31日水曜日

集中治療室の患者5,000人突破 フランス全体でも100%超え

  



 感染の急激な悪化により、イル・ド・フランス(パリを中心とする地域)を始めとする16の地域でのロックダウン(実際には、ゆるゆるのロックダウンとなりましたが・・)が発表されたのが、3月18日のことでした。

 結果的には、外出許可証が複雑でわかりにくいなどの混乱を生んで、外出許可証は廃止になり、ロックダウン・ライトなどという呼ばれ方をしながら、それでも数種類の店舗が営業停止になり、10㎞以上の外出には、特別な理由がいるなどの規制が敷かれて、はや、2週間が経ちました。

 イギリス変異種が拡大する中、本当にこんなゆるゆるな規制で大丈夫なのだろうか?と心配していましたが、やはり、その心配は杞憂に終わることはなく、感染状況は、日々、確実に悪化し、1日の新規感染者数は、コンスタンスに3万5千人、多い日には、4万5千人を超える日もあり、感染者数の増加とともに、特に集中治療室の占拠状態が深刻になってきました。

 特にイル・ド・フランスの集中治療室の占拠率は、133%にまで達し、フランス全体でも100%超えの状態です。

 これまでは、ニュース番組でコメントしていた医療関係者なども、「政治的な観点から考えると一概に厳しいロックダウンは、適当であるかどうかは、わからないが、科学的、医学的な観点からは、充分に危険な状況で、何らかの手段を取るべきである・・」と、比較的、抑えた言い方をしていたものの、ここ1週間ほどの、日に日に追い詰められている状況には、政治的には・・などという前置きも取っ払われて、「もう、このままの状況が続けば、2週間以内には、取り返しがつかない状況に陥る」とハッキリ発言するようになり、追い詰められている医療現場の危機感がより伝わってくるようになりました。

 特に「クラスに一人でも感染者が出た場合は、学級閉鎖」を決定した直後に、実際に学級閉鎖を余儀なくされたクラスが激増し、学校内での学級閉鎖の割合は広がっています。

 これらの事態を受けて、水曜日には、科学評議会が開催され、今週中には、マクロン大統領は、さらなる規制の強化を決定するであろうと言われていますが、どのような決断をするにしても、選択しなければならないのは、いずれも厳しい選択だけで、まさに、ババだけでババ抜きをするような状況です。

 今や「もうすぐ、ワクチンが大量に届く」とか、「ワクチン接種を拡大する」などと、いくら力説しても、感染のスピードには、間に合わないのは、明白で、病院でのトリアージュ(患者の選別)が、もうすでに始まってしまっている状態で、これ以上、何もしないわけにはいきません。

 かといって、規制が続く生活にウンザリしている国民にこれ以上の規制を強いることや、学校閉鎖にしても、これまで、「学校の閉鎖は、最終手段」と言い続けてきた政府にとって、学校の閉鎖を決定することは、「もう最悪の危機的な状況である」と宣言するのと同じことです。

 そして、一度、厳しいロックダウンに突入すれば、容易にロックダウンを解除することも難しく、また、イースターのバカンスを目前にして、また家族で集まる機会を迎えるタイミング。かといって、現在の状況を続ければ、感染拡大は止まることはありません。

 この深刻な状況をよそに、マルセイユで大規模なカーニバルが行われたり、昨日は、リヨンで、マスクもしないで、300人以上の屋外パーティーが行われたりしているフランスです。

 「あくまでロックダウンは最終手段」という方針をとり続けてきた政府にとって、ワクチンが予定どおりに届かなくなってしまったことは、予想外の大きな誤算の一つでもありましたが、感染のスピードの速さ、重症化の多さ、そして、重症患者の治療の長期化も予想以上であったはずです。

 まったく、マクロン大統領が就任して以来、マクロン大統領の政策に対する反発から起こった大規模な黄色いベスト運動のデモに始まり、大惨事を生んだテロの発生、そして一年以上にもわたるコロナウィルスとの戦いで、次から次へとフランスには、これでもかというくらい、困難が続きます。

 以前、日本で、村山首相の政権の時に、阪神大震災に続いて、オウム真理教の地下鉄サリン事件などが続いた時に、なんと災難ばかりが起こる政権なんだろうと思ったことを思い出しました。

 しかしながら、今回のコロナウィルスは、フランスだけに起こっていることではなく、世界的なパンデミックで、それぞれの国の対応によって、大きく、その結果に差が出ています。

 今週、マクロン大統領が下す決断は、フランスの今後を左右する重大なものになることは、確実です。


<関連>

「ロックダウンは最終手段という姿勢は崩さないフランス カステックス首相の記者会見」

「ロックダウンの19地域では、クラスに一人でも感染者が出たら、学級閉鎖」

「フランスは完全に第3波の波に乗った」

「フランスの深刻な医療従事者へのワクチン接種の遅れ」

「ロックダウンがロックダウンではなくなった 外出証明書もいらなくなったロックダウン」



2021年3月30日火曜日

ティーンエイジャーの暴力事件が急増しているのは、ロックダウンが影響している

    


 私が初めて出産した時(最初で最後だったけど・・)、私は正直、嬉しいというよりも、「これは、大変なことをしてしまった・・」と思いました。もちろん、子供は欲しかったし、可愛かったし、嬉しかったのですが、それ以上に、私の意志で、これまで存在しなかった命を誕生させ、一人の人間が育っていくということは、大変な責任を負うことだと、あらためて、感じたのです。

 娘が生まれたのは、もう20年以上も前のことになりますが、当時は、日本でも子供・若者の犯罪(金属バット事件などの家庭内暴力や小さい子供を誘拐して殺してしまったりした犯罪など)が起こっており、もしも、自分の子供がそのような犯罪を起こす人間になってしまったら、取り返しがつかないことだ・・子供を健全に育てるのは、親である私の責任だ・・と、その責任をとても重く考えてきました。

 そうした青少年の犯罪についての本もずいぶん読みましたし、周囲の人にも、ことあるごとに話題にして、聞き回りました。

 その中で、「とにかく、小さい頃から、身体を動かすことを習慣にして、エネルギーを発散させることが大事」という話を聞きました。

 なるほど、身体を動かして、クタクタになれば、余計なことを気に病むこともありません。これは、単純ではあるけれど、なかなか必要なことなのかもしれません。

 娘は、小さい頃からエネルギーに満ち溢れ、昼寝ということをしたことがないほど、疲れを知らない子供で、保育園でも、「おたくのお嬢さんは、もう一人の女の子と一緒に、お昼寝をしないで、周りの子を起こして歩くので、お昼寝の時間は、他の部屋にいてもらいます!」とお叱りを受けたこともあったほどでした。

 もちろん、私がお休みで家にいる日などは、お稽古事や日本語の勉強、買い物などの用事などやらなければならないことが山積みで忙しかったこともありますが、昼間は、何とか身体を動かして、夜はおとなしく寝てもらうのに必死で、主人が休みの日には、グランドに連れて行って、走らせたり、私もプールに連れて行って泳がせたり、彼女を疲れさせることに一生懸命でした。

 しかし、結果的には、彼女をどんどん鍛えていくことになり、彼女は生半可なことでは疲れない強靭な体力の持ち主になりましたが、体力的だけではなく、精神的にも強い子供になり、幸いにも彼女は、横道にそれることもなく、犯罪者の仲間入りをすることもなく育ちました。

 ここのところ、フランスでは、ティーンエイジャーの事件の話題を聞かない日はないほど、未成年者の犯罪が続出しています。

 「とにかく、身体を動かして、エネルギーを発散させることが大事」と心して子供を育ててきた私は、やはり、一年以上も続いているパンデミックによる、ロックダウンや行動制限、スポーツ施設などの閉鎖などが影響している気がしてなりません。

 完全なロックダウンは、最初の2ヶ月ほどでしたが、その他の期間もジムやスポーツ施設が閉鎖されたり、思うようにバカンスに出られなかったり、今シーズンは、結局、スキー場も閉鎖のままでした。

 発散できないエネルギーが不健康に籠り、ストレスから、要らぬ方向へ向かってしまうことも大いにあり得るのです。ある程度の年齢になれば、ほどほどに感情がコントロールできるようになるのでしょうが、(そうでない人も多いけど・・)、ここのところの10代の若者の荒れ様を見ていると、長引いているロックダウンなどの制限下での生活の影響があるのだろうなと気の毒に思ったりもするのです。

 もちろん、同じ状況の中、大多数の人は、このような犯罪を犯すことはないわけで、家庭環境などの他の要因も積み重なって、この様な犯罪を犯すに至ってしまったのでしょうが、少なくとも、これだけ、事件が増加しているのを見ると、パンデミックによる影響がきっとある!と思ってしまうのです。

 犯罪は、その社会の弱者に現れ、問題を映し出すと言いますが、まさに、立て続けに起こっているティーンエイジャーの暴力事件がその一つかもしれません。

 ただでさえ、日本人と比べて血の気が多いと感じることの多いフランス人、パンデミックの中、エネルギーをいかに発散させるかは、差し迫った課題なのかもしれません。


<関連>

「フランスの保育園で・・・」

「子育ての不安」

2021年3月29日月曜日

すでにトリアージュ(命の選別)の準備はできているパリ公立病院連合(AP-HP)

            Des personnels soignants s'occupent d'un patient en soins intensifs à l'hôpital AP-HP Ambroise Pare de Boulogne-Billancourt, près de Paris, le 8 mars 2021


 先週25日の夜遅くに行われたマクロン大統領の会見は、主にヨーロッパのコロナウィルスワクチン確保対策に関するものでしたが、その会見の中で、フランスの感染対策・対応について、「1月末の段階(1月29日)でロックダウンしなかった決断は正しかった!」「なぜなら、感染爆発は起きていないのだから・・」と、自信満々の発言に、私は、大いに引っかかり、首を捻ったのでした。

 EU間の話し合い、取り決めにより、滞っていたワクチンがこれからスムーズに届くようになるから、これで私たちは乗り切れる・・ワクチン接種が拡大するまで、できるだけロックダウンを回避して、時間稼ぎをしてきた自分たちの選択は正しかったと言っているのです。

 しかし、何を持って、感染爆発が起こっていないと言っているのかが、私には、甚だ疑問です。

 すでに、現在のイル・ド・フランス(パリを中心とする地域)の集中治療室の占拠率は、127.7%(3月28日現在)(フランス全体でも96.3%)と、毎日毎日、増加を続け、とっくの昔に100%を超えているのです。

 これって爆発状態ではないのだろうか???そして、この数字でさえ、すでに、行われるはずの手術の予定などを40%以上組み直し、可能な限り、他の地域に患者を移送してもなお127.7%という数字なのです。フランス全体でも96.3%ということは、もう他の地域に移送することさえできなくなるのです。

 この医療現場の状況から、AP-HP(L'Assistance Publique -Hopitaux de Paris ・パリ公立病院連合)のディレクター40人以上は、すでに患者をトリアージュする準備ができており、今後、2週間以内に医療崩壊がおこり、トリアージュを余儀なくされる状況になると発表しています。

 つまり、患者を選別するということであり、助かる可能性のある患者が助からなくなるということです。デプログラミングとよばれる、行われるはずの手術が延期され始めた時点で、緩やかな、一種のトリアージュが始まっているとも言えますが、より具体的で結果がすぐに現れる形での患者の選別を行わなければならない状況になるということです。

 昨年の第1波の際には、その状況が短期間のうちに起こり、患者の選別をしなければならない状況をイカつい感じの医者が涙ながらに語っていたのを今でも強烈に覚えています。

 しかも、現在は、昨年の今頃の厳格なロックダウンとは違い、数々の制限下にあるとはいえ、街には人が溢れかえっている状況で、交通事故も凶暴な暴力事件も起こる状況です。コロナ以外の患者の搬送も決して少なくないのです。

 彼ら(AP-HP)が用意しているトリアージュの条件は、コロナウィルス、それ以外の全ての患者、特に成人患者の救命救急へのアクセスに関するものであり、昨年の最悪な状態を迎えた時以上の深刻なものであると言います。

 マクロン大統領が今なお、自信満々に、1月末にロックダウンしなかったことは、正しかったと言っている反面、多くの人がロックダウンのタイミングであったと主張し続けている今年の1月29日からこれまで(3月28日まで)のフランスのコロナウィルスによる死亡者数は、19,796人、ほぼ2万人近くの人が命を落としています。(当初からの死亡者数は、94,596人)

 どんな時にも、フランス国民はよく努力している・・経済的、精神的な負担を軽減するためにと、厳しいロックダウンをせずに甘々な対応に見えていたフランス政府ですが、実のところは、犠牲者を出すことも厭わない冷酷さが見え隠れし始めた気がしているのです。


<関連>

「ロックダウンがロックダウンではなくなった 外出証明書もいらなくなったロックダウン」

「フランス・「新型コロナウィルス変異株流行国・地域」に指定」

「新規感染者1万人突破・フランス人のコロナウィルスへの危機意識が低いのはなぜか?」

2021年3月28日日曜日

パンデミック開始以来、保護者20名が死亡している高校が閉鎖を求める悲鳴

   



 現在、最も感染状況が案じられているイル・ド・フランス(パリを中心とする地域)のセーヌ・サン・ドニのドランシーにあるユージーン・デラクロワ高校の教師の一人が同校の深刻な状況を訴え、対策改善までの学校の一時閉鎖を求める手紙を大統領宛に送ったことから、この高校の深刻な状況が浮き彫りになってきています。

 この高校では、この一ヶ月間で、約60人の学生、20人の教師、3人のスタッフが感染し、パンデミック開始以来、学生の保護者20人がコロナウィルスのために死亡しています。

 経済的にも恵まれない家庭の子供が多く通うこの高校は、2,000人以上が校内で行き交い、両親も感染の危険に晒されている仕事を持っているケースが多いため、校内でも狭いアパートの家庭内でも、感染の危険が高い悪循環です。

 また、高校内の感染状況も伏せられたまま、授業が続けられており、長い間、校内でウィルスが流行していることを知らされていなかった教師もおり、また、現在の感染状況が明らかになってからは、身の危険を感じて、教師が教鞭に立つことをボイコットしたり、校内の清掃のスタッフ不足から、満足な清掃が行われていないというコロナ以前の日常レベル以前の衛生環境であったことがわかっています。

 本来ならば、現在、フランスの高校では、教室の学生の人数を半分にすることが決められていますが、その半分にする規定が明解に示されていないために、ボイコットしたり、実際に感染している教師の欠員のために、少ない教員で、多くの学生を一学級に抱える悪循環が止まりません。

 先週、発表になったとおりに、1クラスに1人でも感染者がいれば、学級閉鎖になるはずではあるのですが、この高校のように、学校全体の指揮系統が崩壊している状況では、もっと明解で、強制力のある決定を求めているのです。

 結局、弱い者たち、貧しい人たちが明らかに悲鳴をあげて、途中にあるはずのあらゆる機関をすっ飛ばして、大統領への手紙。キツい生活規制に堪えられないはずなのに、さらに具体的で強力な規制なしには、廻らなくなっている高校に悲しい現実を思い知らされます。

 今年初めに、高等教育機関の学校に通う学生がマクロン大統領に手紙を宛て、それに回答したマクロン大統領の手紙が話題になりましたが、今後、フランスでは、コロナウィルスの流行とともに、さらにマクロン大統領への手紙を書くことが流行するかもしれません。


<関連>

「フランスの高等教育機関の授業体制への抗議に対するマクロン大統領の手紙」

2021年3月27日土曜日

ロックダウンの19地域では、クラスに一人でも感染者が出たら、学級閉鎖 

 

 


 ジャン・ミシェル・ブランケル教育相は3月26日金曜日に、ロックダウン?されている19の地域では、来週から、幼稚園から高校までの「すべての学校レベル」において、1クラスに一人でも陽性者が発見された場合は、学級閉鎖にすること(これまでは3名以上発見された場合だった)を発表しました。

 これは、フランスの現在の感染状況からも、今後、数日で、あっという間に学級を閉鎖せざるを得なくなるケースが続出することを意味しています。

 教育省によると、先週一週間で、新型コロナウィルスに感染した学生は、1,240万人中、21,183人、0.17%(一週間前は0.13%)にのぼり、学校スタッフの感染者数も、1,809人から2,515人へと増加しており、0.22%となっています。

 あくまでも、学校は閉鎖しない政府の方針は、変わらず、あくまでも学校閉鎖は最終手段であるとしているものの、すでに、3,256学級(一週間前は2,018学級)、148校が閉鎖されています。

 SPF(Santé publique France)(フランスの公衆衛生情報機関)は、ここ一週間の間に、15歳以下の感染が31%と急速に増加したことを発表しています。

 年少者の感染拡大の対策として、一人でも感染者が発見された場合に、学級閉鎖をすることは、有効なことであるには違いありませんが、あくまでも学校閉鎖をしない方法を考えるならば、まず、キャンティーン(給食・食堂)を閉鎖することをなぜ、考えないのか?と思います。

 フランスの学校の給食は、それぞれの教室で食事をとるわけではなく、ある程度、学年ごと等に時間をずらしてはいるものの、キャンティーン(食堂)(一つの場所)に大勢の生徒が集まって食事をするのです。

 かなり混雑する、しかも食事の場、マスクをしない空間です。

 そもそも、一般社会では、感染拡大が始まって以来、目の敵のように、ずっと閉鎖されているのがレストラン、食事をする場所なのです。

 たとえ、学校であるとはいえ、一番、感染の危険が高いとされている食事の場を閉めないのは、おかしなことです。その上、ただただ、学校は閉鎖しないと言っているのは、このまま感染者を増やして、学級閉鎖が積み重なり、結局は、学校全体が閉鎖になるのは、目に見えています。

 学校での感染対策がいくら取られても、キャンティーン(食堂)がそのままでは、対策は、ザルに等しいのです。

 多くのレストラン経営者が生活をかけて営業停止を守っていることが、学校で行われないのは、本当に理屈に合いません。

 街のレストランがダメなら、学校や職場の食事の場もダメでしょう!

 せめて、それぞれの教室で食事を取れるようにメニューを工夫するとか、サンドイッチにするとか、お弁当にするとか、人が集まらないで食事をする工夫が考えられるべきです。

 学校を閉鎖したくないならば、ただ学級を閉鎖することだけでなく、どうしたら、感染者を増やさないで済むのか? そのためには、何をしたらいいのか?を考えるべきです。

 フランスには、ごくごく普通の日常の中でも、こうしたら、もっと便利になるのに・・とか、こうしたら、もっと快適に過ごせるようになるのに・・とか、感じることが山ほどありますが、このような感染対策にも、少しでも工夫をして、改善していくということが欠けています。

 感染拡大=すぐに閉鎖、ロックダウン・・ではなく、感染を回避する工夫や方法がどんどん進んで行かないところが、フランスの日常で見られることの延長線であるようで、結局は、フランスの感染拡大が止まらない原因であると思うのです。


<関連>

「幸せの感受性 海外生活でみつけた幸せを感じる方法」

「夜間外出禁止に対応する営業時間変更から日曜営業するフランス」

「フランスの銀行と日本の銀行」