2021年7月24日土曜日

フランスで見ていた東京オリンピックの開会式

   


 東京オリンピックの開会式は、フランス時間で午後1時から生中継されていました。

 これまでフランスでは、ギリギリまで開催中止もあり得るとも言われていたせいか、オリンピックの話題に、あまり盛り上がりはありませんでした。

 とはいえ、当日は、エッフェル塔の目の前の広場には、パブリックビューイング会場が設けられ、多くの人で賑わっていました。

 しかし、この場所もヘルスパスなしには、入場できない制限された状態でしたが、この会場では、アルコールの提供も飲食も許され、日本の開会式の様子を「本当に無観客でやっているんだ・・」と驚いている人も多いようでした。

 でも、「ワクチン接種が進んでいない日本では仕方ないのかもしれない・・」と、日本の事情の一部も理解されている様子でした。

 フランスのテレビでも、その1時間ほど前から特番が組まれ、フランスの選手を紹介する映像が流されたり、開会式に参加するために東京に到着したばかりのマクロン大統領がインタビューに登場したりしていました。

 短いインタビューでしたが、マクロン大統領は、相変わらず饒舌によく喋ること・・視聴者のほとんどはフランス人なので、当然といえば、当然なのでしょうが、東京オリンピックについては、申し訳程度で、ほとんどは、フランスについて話していました。

 考えてみれば、私は、これまでオリンピックの開会式というものをテレビでさえ、ライブで見たことはなく、正直、とても複雑な思いで、初めて、私の祖国である日本で行われているオリンピックの開会式をライブ放送で見ていました。

 オリンピックの公用語がフランス語であったことも今さらのように思い出し、アナウンスがフランス語で始まってから、英語、日本語と続くことに、「あ〜、そうだった・・」と思ったくらいでした。

 多くの日本人が反対する中で開始されたオリンピックも開会式を迎えれば、もう、とうとう後戻りができない・・始まったんだ・・というような、どこかしっくり来ない気持ちや、それでも私は、日本に住んでいるわけではないので、日本人のような行動制限や交通制限を加えられているわけでもなく、きっと、私も日本に住んでいたら、また、さらに違う感情を持っていたんだろうな・・と思ったりもしました。

 また、逆に、衛生環境が世界的にも最も優れた日本だからこそ、こんなパンデミックの状況でオリンピックの開催に踏み切ることもできたのではないか? そんなことを思ったりもしました。

 無観客でありながら、無観客であることが目立たなく映るように工夫された場内の客席も、時折、映る、使われることがないであろう座席に備え付けられた飲み物のホルダーなどに虚しさを感じたり、開会式そのものを楽しむということに集中できずに、ぐるぐると色々なことを考えながら見ていました。

 開催までの流れを振り返るフィルムで、オリンピック招致が決定した時の映像などには、さらに複雑な思いを掻き立てられました。そもそもあれが不幸の始まりだった・・と思いながら見た方も少なくないのではないでしょうか?

 特に開会式に登場する組織委員会の面々の誰にも笑顔が見られないことも不自然なような、当然なような妙な思いでした。

 日本語で挨拶する橋本聖子委員長の挨拶の中の「このオリンピック開催を受け入れて下さった日本国民の皆様、開催実現のために、ともにご尽力をいただいたIOC、日本国政府、東京都、関係者の皆さま、ありがとうございます」が「Merci à tous」(皆さん、ありがとう)とだけ、訳されていたことにも、「まあ、そうだけど・・」となんだか、伝わらない気がしたりもしました。

 個人的には、なんとなく纏まりのない流れの演出のような気がしましたが、まあこの際、ギリギリまで色々な騒動があって仕方ないな・・とも思いました。

 おおよそのプログラムと解説は、報道機関には配布されていたのでしょう、フランスのテレビでも進んでいくプログラムを説明していましたが、その中で、「エモーション」という言葉が多いことも、単なる「感動」とは受け取れない、複雑な感情の動きが表れているようで、ことさら耳に残りました。

 フランス人にとって、この開会式で一番印象的であったのは、その後の報道から見ても、1,824個のドローンが東京の夜空に舞いながら、東京オリンピックのエンブレムを描きながら、地球の形を描いていく様子で、「これが日本のテクノロジーだ!」と大絶賛を送っていました。

 そして、報道陣にも知らされていなかった様子のオリンピック聖火の最終ランナーに大坂なおみ選手が登場したことも、これは、様々な意味で素晴らしい人選だったと評されています。  

 フランスでは、今年の全仏オープンで記者会見を拒否して結果的に途中で棄権してしまった曰く付きの大坂なおみ選手でしたが、フランスでは、自分の意思を通した彼女には、わだかまりは感じられず、多くのメディアのオリンピック開会式の報道には、「大坂なおみが聖火を灯し、オリンピックが開幕した!」と見出しに彼女が登場していました。

 おそらく、東京オリンピック開会式のフランスのイメージは、「夜空に舞うドローンでライトアップされた地球」と「大坂なおみ選手」の聖火の灯火として記憶に残ったと思われます。

 さすがに、各国の選手団が入場し始め、選手たちは、満面の笑顔で救われましたが、中には、マスクを誰も着用していない国の選手団も見られて、恐らくマスク着用が義務付けられているであろうに、誰もマスクをしていない選手団に、スタートからこれでは、どうなるんだろう?と思ったりもしました。

  


 フランスの選手団が登場したのは、次回のオリンピック開催国であるためにかなり終盤、それでも、他の国が登場するのとは、全然、違った嬉しさがあり、フランスは私にとって特別な国になっていることも感じました。

  




 そして、最後に登場した日本の選手団に対しても、やはり自分の祖国が登場する嬉しさを当然のように感じ、まるで私が二つの祖国を持っているような気持ちになりました。

    


 この開会式の中継から、フランスのテレビコマーシャルは、一気にオリンピックバージョンのCMに切り替わりました。日本では、オリンピックバージョンのCMは中止することを発表していたTOYOTAもフランスでは、しっかりオリンピックバージョンのCMが流れています。

 日本では放送できない分、海外ではここぞと巻き返しをするTOYOTAの気持ちもいかばかりかとこれまた妙な気分です。

 しかし、フランスでは、華やかな開会式の様子だけではなく、日本国民が未だオリンピック開催に反対してデモが起こっている様子もしっかりと報道しています。

 長いオリンピックの開会式をテレビで見守っていた私は、ちょうど開会式が終わるタイミングを見計らっていたように、新しいメールの着信に急に現実に戻されたような気がしました。

 それは、在フランス日本大使館からのメールで、翌日の「ヘルスパス反対のデモ」のお知らせでした。フランスは、オリンピックをやっているわけでもないのに、新規感染者は2万3千人を突破する急増ぶりで、第4波の波は確実に上昇中のデモです。


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